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「やれやれ、ずいぶんと嫌われてしまったようだね?」
「嫌いじゃないわよ、信用できないだけで」
エルディアの好戦的な態度に、ジーンは口先だけは残念そうに振る舞った。
エルディアは鼻を鳴らして応じる。
殊勝な態度のようでいて、エルディアたちに向けられたジーンの目は三日月のような形のままだ。エルディアたちの警戒心など、これっぽっちも気にしてないことが分かる。
(やっぱり、遊んでるみたいに見えるわ。バカにされてるわけじゃないみたいだけど……)
ジーンからにじみ出る好奇心を感じ取ったエルディアは、そこに敵意がないことは理解していた。だからといって不信感が消えるわけでもない。じりっと背後のラスティを庇うように立ち位置をずらした。
そんなことはお構いなしにジーンはふっと姿を消したかと思うと、エルディアの目の前にすっと現れた。
「心外だな。君たちには特別にたくさんヒントを出してあげたのに」
「ヒント!! あんた、満月の夜にこいつが元の体に戻るって分かってて黙ってたでしょう!?」
なにかを隠している素振りはずっとあった。タイミングから見ても間違いない。
空間移動に驚きはしたものの、エルディアはジーンを怒鳴りつけた。
「そのうち分かると伝えただろう?」
「先に言いなさいよ!! えらい驚いたわっ!」
「なかなか面白かっただろう?」
柳に風もいいところだ。
なにを言ってもふらふらと躱すジーンに、これ以上文句を言ったところで何一つ伝わらないだろう。
「いつまでやってんだよ。もういいだろう?」
こうやってわざわざ出てきたからには、なにか目的があるに違いない。
いつまでも進まない話に焦れたラスティが、エルディアの背後から口をはさんだ。
「良くない! こっちは大変な目に遭ったんだから!!」
「大した目にはあってねぇだろ。おまえの日頃の行いのせいだ」
「なんで、あたしのせいなのよ!!」
子どもだとなめてかかってた反動でラスティにやり込められただけだ。
ラスティは満月の夜の出来事について、ジーンに対して思うところなどない。
「うるせぇな、後にしろ」
「きーっ! かわいくなーい!!!!」
騒ぐエルディアを押し退けて、ラスティが一歩前に出た。
ジーンは面白そうな顔を崩すこともなくラスティに視線を移した。
「なんか用があるんじゃないのか?」
「用……というか、届け物かな?」
「届け物……?」
ラスティが訝し気に首をかしげると、ジーンはその指をぱちりと鳴らした。
すると円形広場の中心につむじ風が起こり、花びらをまき散らす。
「何でもかんでも花びらだな……。あの演出は必要なのか?」
「空間を操る条件みたいなものでねぇ。後片付けが面倒だから私も困ってはいるんだがね?」
「後片付けがあるの!?」
3人の緊張感のないやり取りの間に、つむじ風は納まっていく。
その中心に浮かび上がるのは――
「剣……か?」
ラスティとエルディアの目が、ばちばちと放電するその剣に釘付けになる。
ラスティが思わず小さな声を零した。
その言葉にジーンはゆっくりと頷く。
「あの『竜剣』が、君のものになるかどうかは君次第だよ?」
「どういう意味だ?」
ラスティが見上げるとジーンは意味深に目を細めた。
エルディアの体に緊張が走った。
(なに?……あの目は……)
エルディアが言葉を発するより早くジーンはラスティに語りかけた。
「あれに触れられるかどうか、まずはそこからだね?」
「触れれば良いのか?」
「ちょ、ま、待ちなさい!!」
エルディアが慌てて、踏み出そうとするラスティの肩を掴んで止めた。
ラスティは少し眉を上げて、エルディアを見上げた。
「おまえの言いたいことも分かるけど、ここから先はもう試練が始まってるってことだろう?」
「だからって……」
ラスティは体をエルディアの正面に向けて、真っ直ぐに向き合った。
エルディアの目をじっと見て静かに問いかける。
「おまえの仕事は俺を試練を受けるための場所に届けることだ、そうだな?」
「……そうだよ」
エルディアはラスティが何を言おうとしているのか気が付いて視線を逸らす。
ラスティはそのエルディアの指先に触れた。
「こっちを向け」
「……聞きたくないことを言おうとしてる」
「聞け」
これまでラスティがエルディアに対して「命令」のようなことをしたことはない。
初めの約束通り、対等な取引相手として扱っていた。
そこに明確に線を引き始めている。
「ここはどこだ」
「……たぶん、試練を受けるための場所」
「だとしたら、おまえの仕事はここで終わりだな?」
運び屋としての仕事と考えるならその通りだった。
ラスティの言葉にエルディアは唇をきゅっと噛んだ。




