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薬草が広がる平原に立つと、エルディアの胸元からペンダントがふわりと浮き上がった。
「まさか、毎回場所が変わるの!?」
「さぁ、どうだろうな?」
2人は顔を見合わせて首をかしげ、ペンダントの示す方向に踏み出した。
「それにしても、地面が草だらけで、進みにくいったらないわ……」
ドラコニスが進むには足場が悪い。
エルディアはペンダントをラスティに手渡した。
そして、エルディアの体から離れてもペンダントが方向を示して浮いたままなのを確認すると、愚痴をこぼしながら慎重にドラコニスを押して進んだ。
しばらくすると、くるくると回転してペンダントの動きが止まった。
「んー、似たような景色だから、昨日と同じとこかどうかも分からないね?」
「そうだな。……でも、まあ、どうでもいいことだろ、そんなことは」
「そりゃ、そうだけどさ」
エルディアはドラコニスから手を離すと、右手からグローブを外してその場で翳す。
ぽうっ……
痛みを伴うような熱はなかった。
昨日とは打って変わった暖かい光。
ふっ……っと、古い門が出現した。
「あれ? 今日は熱くない……」
「温度設定も雑に作ってあるんだろうよ」
「適当にもほどがあるわ……」
「竜騎士の試練」などというご立派なイベントを企画しているのだから、もう少し細部にもこだわってほしい。スケジュール管理は几帳面なくせに、そうでないところとの差が激しすぎる。
(どうせ言ったって無駄なんだろうけどさ……)
エルディアは、思わず常識とは無縁であろう占い師を思い浮かべてしまう。
その隣のラスティは、とっくにそんな気遣いを求めることは諦めているようで、出現した門の向こう側を窺っていた。
「外から見ても、どこに続いているのか分からねぇな」
「一応、道みたいなものは見えてるけどね?」
とはいえ、門の裏側に回り込むとやはりなにもない。
一日経ってもそれは変わらなかった。
「まぁ、一回、門を通してみようか?」
エルディアはグローブをはめ直した手で、ドラコニスの車体を前半分だけ門の中へグッと押し込んでみた。
「お、おい!」
「ん?」
無造作な動きに、ラスティがつい声を上げてしまう。
「大丈夫なのか?」
「だから、それを確かめてるんじゃない」
「いや、そうなんだろうけど」
その魔導二輪は大事なものなのではないのか。
ラスティがなんと言葉にしたらいいのか分からず、迷っているとエルディアは首をかしげた。
「人が通るより、先にこいつに通ってもらった方が安心じゃない?」
「いや、それは……まぁ、そうなんだが」
「あんた、昨日さっさとここを通ろうとしたでしょ。そっちの方がどうかと思うけど?」
エルディアの目が細められて、ラスティは言葉につまった。
確かに、見るからに怪しい空間だ。無防備に足を踏み入れるのは危険すぎる。
自分がやってしまっているので、今さらと言われたらそれまでだ。
「だからって、壊れたらどうすんだよ?」
「こいつは直せるもん」
普段、あきれるほど擬人化するくせに、しっかりそこは区別してるらしい。
憮然とするラスティを気にもせず、エルディアは押し込んだドラコニスを引き戻した。
そして、その車体を確認する。
目立つ傷も付かなかったし、押し込んだ先で変な衝撃もなかった。
「大丈夫そうだね、ただの門だわ」
「絶対、ただの門じゃねぇけどな……」
ジーンのことを雑だなんだと言ってるが、エルディアだって相当だ。
「おまえ、本当にそいつが大事なんだったら、ちゃんと大切に扱ってやれよ?」
「失礼ね。大事にしてるわよ」
「それでかよ、よく言うな……」
安全確認をするにしても、他にやり方があるだろう。
思い切りの良さというか、大事なものに対する価値観というか。
とにかくまったく理解できない感性にラスティの目が半開きになる。
「もう。問題ないんだからいいじゃん、過保護だね」
「……おまえが言うなよ」
これ以上は分かり合える気がしなかったので、ラスティは小さく呟いてこの話を打ち切った。
「とにかく、大丈夫そうだし行ってみましょ」
「そうだな……」
――ジジッ
門を通り抜けた瞬間、短いノイズが走る。
2人が勢いよく振り返ると、そびえ立っていた大きな門は、一瞬大きく歪んで掻き消えた。
「怖っ!!!!」
「雑すぎるだろ!!」
エルディアとラスティの叫び声が、重なって響いた。




