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宿のベッドの中でラスティは寝返りを打った。
食事も風呂も済ませたところで、エルディアに明日に備えて早く寝ろと言われたのだ。
もう一度寝返りを打つと、薄手のカーテンの向こうから月明かりが漏れているのが目に入る。
(今日の月は、かなり欠けてたな……)
寝る前に見上げた月は、あと少しで半月になろうかというところだった。
(あの占い師の言い方は、いつも思わせぶりだからな……)
ジーンが満月をやたら気にしていたので、なんとなく影響されてしまったのかもしれない。
ふと、夜空を見上げる癖がついていた。
「どうしたの、眠れない?」
どうでもいいことをつらつらと考えていると、エルディアが声をかけてきた。ラスティが眠っていないことに、気配で気がついたのだろう。
ほんの少し心配そうな色が混ざっている。
「……いや。もう寝る」
「そう?」
静かに答えたラスティに、エルディアも静かに返した。
「いよいよだもんね……」
「……」
漠然とした気持ちに名前をつけるのは難しい。
黙りこくったラスティの気持ちをどう解釈したのかは分からないが、エルディアが呟く。
ラスティはそのままエルディアの声を聞いていた。
「ねぇ……子守唄、歌ってあげようか?」
「いらねぇよ」
「えー、落ち着くのに……」
エルディアは不満そうに呟いたが、エルディアの声だけでもう十分落ち着いた。
(絶対こいつには言わねぇけど……)
ラスティはブランケットを被り直し、エルディアにくるりと背を向ける。
「おまえが落ち着きたいだけだろ?」
「かわいくないな」
「……うるせぇな。歌いたいなら、歌えば?」
ラスティがぶっきらぼうに小さく告げると、エルディアが小さく息を漏らして、笑う気配がした。
聞こえないふりをして目を閉じると、エルディアの歌声が耳に流れ込む。
――竜に会うなら……
旅の間に刷り込まれた優しい声が部屋に響く。ラスティの意識は柔らかい闇に沈んでいった。
ーーーー
カーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさにラスティは身じろいだ。
もぞもぞとブランケットを頭から被ろうとして、勢いよく剥ぎ取られる。
「起きて、朝だよ!!」
「……うるせぇな。分かってるよ」
エルディアの大声に、ラスティはのろのろと上半身を起こした。眩しそうにエルディアを見上げると、面倒くさそうに悪態をつく。
「ニワトリめ」
「なんか、言った!?」
「べつに……」
いつも通りに始まった朝は、いよいよ試練に向かうための始まりの朝でもあった。
(なんか、締まらねぇな)
腰に手を当て不機嫌な顔をするエルディアの顔に、ラスティは思わず苦笑する。
思えば、カシスウェルの運び屋を訪ねた旅の始まりの時、ラスティは酷く焦っていて、全く余裕がなかった。
あの時から取り巻く状況が好転したわけでもない。
それでも、不思議と追い詰められるような焦燥感はなくなっていた。
(別に、こいつがいるからとかじゃない……)
その変化がなにに起因するのかは、今は考えないことにする。
いよいよ、竜騎士への試練の扉が開かれようとしていた。
ラスティの気持ちを察したわけでもないだろうが、エルディアはその背中をバシバシと叩く。
「よし! じゃあ、例の場所に行ってみようか!」
「痛ぇよ、馬鹿力」
「なあに! 失礼ね!!」
気負いのないやり取りを交わしながら支度を済ませて、2人は宿を出た。
「まぁ、何はともあれ朝ごはん! 美味しいものを食べてから出掛けよう」
「のんきなやつだな」
「試験が始まるかもしれないんだよ? 腹が減ってはなんとやらよ!」
そう言って、駐車場に止めてあるドラコニスに向かう前に屋台で朝食を取る。
そうして、準備が整うと2人はドラコニスにまたがった。
「心の準備はいい?」
「誰に言ってんだ」
エルディアの軽い問いかけに、ラスティは不敵に笑って答えた。
「上等!」
エルディアがグリップを捻ると、乾いた音と共に、ドラコニスが唸る。
爪先でペダルを掻きあげると、風を切るようにドラコニスが走り出した。




