↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
103/118

103 幕間⑥

土日は3話公開です。

「振りきられた……だと?」


執務室で報告を受けたヴァラン・デ・ホーセズは、片眉を僅かに上げて不快感を露わにした。

報告した男の背筋に冷たいものが伝う。


「申し訳ございません……」


ヴァランは下げられた男の頭を感情のこもらない目で眺め、作業の手を止めた。

処理していた書類を脇に寄せると、ゆっくり手を組み顎を乗せる。


そして、もう一度男を見つめた。


「謝罪は不要だ。報告をしろ」


「……はっ」


ヴァランはじっと目を閉じて、報告に耳を傾ける。そして聞き終えると苦い息を吐いた。


「公爵家の精鋭がなんたる失態だ」


「面目ございません」


「まあ、いい。ニコラの情報にも曖昧な点があったことは事実だ。ゼラックで聞き込みを続けて、行き先を探れ」


ヴァランはそう命じると、部下を退室させた。


部屋に静寂が落ちる。


「若造とはいえ、ニコラでは荷が重かったか……」


ヴァランの脳裏に浮かぶのは、若き国王オルディス・ベルノ・ライヴィスキだ。


「マーヴァルドが死んだときは、あんな若造など取るに足らぬと思ったが……」


亡くなった先王マーヴァルド・ベルノ・ライヴィスキを思い出してさらに眉間のしわを深くする。


ヴァランはその才能を遺憾なく発揮し、王の片腕としてマーヴァルドを支えた。世間からは名実ともに忠臣であると評された男だ。


「死んでくれて清々したと言うのに……」


だが、執務室で1人呟くその言葉はとても忠義の厚い家臣とは思えない発言だった。


「誰が、あんな男を好き好んで支えるものか……」


誰1人いない部屋は、ヴァランのうっ積した感情の受け皿だ。

拳を握りしめ、誰にも聞かれていないことを知った上で悪態をつく。


太陽のようなあの男が心底嫌いだった。散り際すら鮮やかだったことが余計に癇に障った。


「あの男が愛したこの国を丸ごと私のものにしてやる……」


それは誰にも明かしたことのない本心だ。誰よりも鬱陶しく面倒だったマーヴァルドはことあるごとにヴァランに告げていた。


『俺はこの国を愛している。もし、俺のやりようで国が傷つくようなことがあると判断したなら、おまえの意思で止めてくれ』


(……勝手なことばかり言いおって)


そんな馬鹿な命令があってたまるか、と強く反発した。同時に、ならば望み通りにしてやるという気持ちが胸にのし掛かり、何度葛藤したか数えきれない。


マーヴァルドの妹を娶ったとき。


娘が生まれたとき。


娘を王太子だったオルディスの婚約者に据えたとき。


――マーヴァルドが……死んだとき。


「ニコラが跡継ぎを産めば、その子どもは次の王だ。孫であればオルディス殿下を傀儡にするより遥かにやりやすい」


トントンとリズムを取るように、指先でデスクを叩いた。


国を混乱させるのは本意ではない。

静かに確実に実権を手にする方法を練っていたのだ。


「それなのに……竜騎士だと?」


降って湧いた御伽話をオルディスもヴァランも信じていなかった。


オルディスはもっともらしく加護をでっち上げようとしていたし、ヴァランはその無理筋を咎めて引きずり落とそうと考えていた。


「ラスティ殿下のやり方は無茶苦茶だ」


真偽の怪しい伝承に賭けて体を張るなど馬鹿げている。本当に御伽話であれば愚か者として切り捨て、オルディスにも汚点をつけられたものを。


「ああいう不確かなチャンスをものにするあたりも、ヤツに似て忌々しいやつらだ」


大嫌いだった男とその息子たちを同時に思い浮かべて、グッと眉を寄せた。

1人で考え込んでいる間、苦り切った顔が緩むことは一度もなかった。



――


「今頃、お父様はわたくしの不甲斐なさを嘆いている頃だわ」


「そうかな? そんなことないんじゃない?」


ニコラはオルディスの執務室でゆったりとティーカップに口をつけた。

微笑みながら相槌を打つオルディスは、ニコラを優しく見つめている。


その目を正面から見返して、ニコラは眉を寄せて首を振った。


「どうせ、お父様は『女のやることだ、こんなもんか』とか思って失望していらっしゃるわ」


「手厳しいな、ニコラは」


「自分の娘と自分が似てるなんて、これっぽっちも考えてないのだもの」


カップを片手に、唇を尖らせる様子は年相応の若い娘らしさがある。


「王妃殿下、オルディスの執務中に押し掛けて来て、お父様の愚痴をこぼすのはやめて頂戴?」


言っても無駄だと思いつつ、控えていたギュバンスは苦言を呈した。

そして案の定、黙殺される。


「お父様がわたくしたちを若造と侮ってる以上、必ず手落ちがあるわ」


「そんなに簡単な方ではないと思うけど?」


「いいえ! 根本的には簡単な方なのですわ!!」


力強くニコラが宣言した。

オルディスは既に何度も聞いた妻の言い分を苦笑して見守る。

ギュバンスはそっと聞かなかったことにする準備をした。


「先王マーヴァルド陛下を好きすぎて拗らせているだけなんですもの!」


もしもここにエルディアがいたなら、その独特すぎる相関図にうへぇと顔をしかめただろう。


だが、生憎ここには高貴な方しか揃っていなかったので、話はそのまま別の話題に移っていったのだった。



6章はこれで完結です。いよいよ竜とのご対面が始まりますよ。

あと、もちろんラブも進んでいきますよ。(遅!!)


ーー


「王家の運び屋」メモ:

マーヴァルド・ベルノ・ライヴィスキ(ライヴィスキ国の先王)

・カクテルは「マンハッタン」

・ライ・ウイスキー、スイートベルモット、アンゴスチュラ・ビターズ

・オルディスとラスティの父親

・楽天家で人たらしで太陽のような人だった

・病死

・カクテル言葉は「敬愛」


ルイージア・デ・ホーセズ(ルイージア・ベルノ・ライヴィスキ)(先王の妹)

・カクテルは「ルイジアナ」

・ライ・ウイスキー、スイートベルモット、ベネディクティン、アブサン、ペショー・ビターズ、レモンピール

・ヴァランの妻

・儚くて美しい人

・病死

・カクテル言葉 特になし


※カクテルのレシピ・カクテル言葉には諸説あります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。