終業式
一学期終業式の日、全校生徒が講堂に集まり退屈な校長の話に船を漕ぐ。
(いかん、寝そうだ……)
気持ちは開放なのに最後の壁「校長の話」が永遠にすら思えてくる。
バレないように視線を三年クラスに向ける。
人が多くてわからないかと思えば、夏乃とバッチリ目が合った。
眠気が飛んで笑みが出てくる。
夏乃もこっそり微笑みまた前を向き直した。
この一瞬だけで幸せな気持ちになれるなんて、コスパの良い性格だなと笑ってしまう。
どすっ!
不自然な動きを察知されたのか担任に小突かれた。
式も終わり教室に戻る途中「春風何でニヤけてたんだよ」とクラスメイトからも突っ込まれた。
「い、いや普通だし」
「普通な訳あるか、先生怒ってたじゃん」
何も言い返せない。
教室に戻り夏休み中の注意事項伝達と、気が抜けてるぞとやんわり注意をされて夏休みの始まりとなる。
「春風今から皆と遊びに行こうぜ!」
「おう……あ、すまん今日は用事あるんだ」
「えーテスト終わりもそうだったけど、何か忙しいのか?」
「ああ……休み中にまたクラスラインで誘ってくれ」
「残念だな……まあ仕方ない、次は来いよ〜」
優馬の中で申し訳ないと思いながら、優先順位は変えれなかった。
その優先順位一番に会いに図書室へ向かう。
今日は開いてないが、居る気がしていた。
約束もしていない。
階段を登り角を曲がる。
そこには焦がれる女性が笑顔で待っていた。
「来ると思ってたよ」
しっかり見透かされている、叶わない。
夏乃はイタズラっぽい笑顔で「式の時目が合ったね?」と囁いてきた。
「……はい」
それしか答えれなかった、事実なのだから。
「ふふっ、さあ帰りましょう、図書室は明日から平日しか開いてないからね」
待ち合わせをしている訳じゃない、ただお互いがここに来ている。
様々な思惑の下に集っているだけ。
帰るとなると寂しさはある。
夏乃もそう感じてくれているのだろうか?
「先輩……」
「そうだ、連絡先交換しよ?」
急な提案に優馬は固まる。
「え、良いんですか……?」
「良いも何も夏休み中……デートするんでしょ」
「……はい」
付き合っても無ければ想いすら伝えてない、だけどデートをしてくれる気持ちでいる夏乃に嬉しくなった。
「これ、俺のコードです」
「こっち私の……よし!っと」
互いのスマホに互いのプロフィールが表示された。
夏乃のアイコンは麦わら帽子を被った後ろ姿の女性……本人だろうか。
「あはは春風君アイコン初期のままなんだね〜今度一緒にアイコン用写真撮ろう」
今度一緒に、その言葉に胸が高鳴る。
「先輩は明日から図書室に通うんですか?」
「うん、特に予定が無かったらね……全部合わさなくて良いからね?友達ともしっかり遊ぶんだよ?」
優馬の中では友達は二の次になっているが、自分が消えたら夏乃は一人になるのだろうか。
それは嫌だった。
「先輩は……友達と遊びに行かないんですか?」
「……ん〜、友達居ないから仕方ないよね」
少し困った顔で返された。
夏乃にとって当たり前の事だが、隠す訳にもいかず言えば気を遣う。
そんな葛藤が見えた。
「俺が……」
「ん?」
「俺が、この夏できる限り一緒に居ます」
優馬の意思を伝えた。
「……ありがとうね」
夏乃は窓からグラウンドを見て下校中の生徒達を見下ろす。
そして、静かに口を開いた。
「私だけ一年の時から進路も就職も決まっていてて、勉強なんかしなくていい、遊んで卒業まで待ってれば良い奴なんて思われたみたいでさ……やっぱり皆と違うと難しいよね」
どこか寂しげな顔を見せた夏乃に優馬は感じた。
やはり三年間一人で過ごしてきたんだと。
心の中では友達と交流を持ちたかったんだろう、勉強も遊びも。
青春と呼ばれる高校生の時間を一人境遇が違う、それだけで皆のように過ごせなかったんだと。
優馬は唇を噛む。
「先輩、最後の夏だけど俺は一緒に居ます」
「春風君……あれ?なんで?」
夏乃は大粒の涙が止まらなかった。
本人も気付かない内に流れていた。
「やだぁ、情けないねグスッ、見ないでよあはは!」
泣きながらも笑おうとする夏乃に、彼女の最後の夏の思い出になれるよう優馬は固く想いを強くした。
「海、行きましょう。花火、しましょう。夏祭りも行きましょう」
思い付くものを挙げていく、挙げていく程に夏乃が笑顔になってくれる。
「全部したら一杯になっちゃうね」
「一杯にしましょう、先輩の高校最後の夏なんだから……」
「……ありがとう」
しばらく話をしていれば最終下校のチャイムが鳴る。
名残惜しいが今日はここまでだ。
「明日は中で待ってるよ」
「はい、必ず行きます」
会って何をする訳じゃない、ただ会いたいだけ。
それだけの事。
そうして二人の夏休みが始まった……




