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春の風夏の桜  作者: かずや


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日曜日の喫茶店


 ——日曜日

 

「こっちよ〜」

 昨日の図書館で勉強から、今日は喫茶店でやるとの事だった。

「日曜日は図書館閉館してるから仕方ないわね、でもここも落ち着くのよ」

 そう言って連れてきてもらった喫茶店は、よく見る街中の一階に看板を掲げた店ではない。

 ビル内にある隠れ家的な個人喫茶店だろう。

「オーナーが優しい人で勉強しても良いよと言ってくれてるからね」

 入るのに躊躇うと言うか、知らなければ店がある事も分からないような場所。

 入ってみれば窓が無い木目の落ち着いた空間が広がり、コーヒーの良い香りが漂っている。

「よく……知ってますね」

「ふふ、結構探すの好きなの」

 夏乃は大人びた笑みを浮かべてオーナーに挨拶をしている。

「いらっしゃい、ごゆっくりどうぞ」

 渋い老紳士、喫茶店のオーナーに相応しい見た目だ。

 壁際の席に促され座る、ふわっと腰が沈み座り心地から良い。

「後で軽食頼むから、コーヒーで良い?」

「あ、はい大丈夫です」

 夏乃は慣れた様子で注文を済ませ、顔を見てきた。

 今日は席の都合上対面に座っている。

 久しぶりの対面と言うのも変だが、それ程隣に居る時間が長かったのだろう。

「なんだか久しぶりだね」

 考えていた事を見透かされていたようだ。

「ええ……先輩は昔からここに?」

「……そうね、来始めは高一途中からよ。それまで県外だったから」

「え?」

「私生まれはこの地域だけど一度離れて帰ってきたのよ」

「そうだったんですか……いつから離れたんですか?」

「……」

「先輩?」

「あ、ううんなんでも無い。離れたのは小学生の時だったからあまり覚えてないよね」

「ああ、そんなに前ですか……じゃあ高校でまた一から」

「そうね、どうしても途中から入ってくるとクラスメイトは馴染みにくいわよね〜」

 夏乃がいつも一人で居る理由が、優馬には一つ分かった気がした。

 ただそれだけでは無い気もするが。

「ほら、明日から本番なんだからノート出しなさい」

 切り替えて勉強の時間が始まる。

「……覚えてないよね」

「ん?先輩?」

「うふふ、今日は全教科仕上げなきゃね」

 何かを誤魔化された気がした。


 コーヒーの香りが鼻腔をくすぐりリラックスさせる、そのおかげもあって順調にペンが動く。

 優馬は過去一番集中出来ていた。

 ピピッとタイマーが鳴る。

「ハイ、お終い。さあどうかな?」

 今は夏乃の提案で模擬テストを行っていた、わざわざ問題まで作ってくれていて頭が上がらない。

 赤ペンで正誤をチェックしていく夏乃は、先輩と言うより先生のようだった。

 (先輩、一段も二段も大人だ……)

 少し惚けていると、答え合わせが終わったようだ。

「うんうん、八割以上取れてるね。これなら平均越えて上位目指せるよ」

「ほんとですか?」

 優馬に取っては考えられない言葉だった、得意科目は体育でそれ以外は並で来たのだから。

「でも、凡ミス多いからね?本番でそこをしっかりカバーしたらの話だよ」

「うぐ、気を付けます……」

 答え合わせをチェックしていると、確かに計算違いや漢字の間違い等が目立つ。

 勿体無い状態だが、ここまで引き上げてくれた事に驚いてしまう。

「先輩……教えるのが凄く上手くて助かります」

 本音だった、ドキドキして集中切れる事はあるが、それ以上に教え方が上手くカバーされていた。

「あら、ありがとうね」

「いや、こちらがありがとうございますです」

 互いに礼を言い合い笑ってしまう。

 この時間が続けばな、そう優馬は思っていた。

「ふぅ、何か頼もうか!美味しいよここのお料理も」

「先輩が言うなら間違いない、メニュー見ましょう」

 こうやって何気なく、一緒に何かを選ぶ時間でさえ楽しかった。


 互いに軽食を頼んで、後半の勉強をと用意した時だった。

 カラン

 何かが夏乃のペンケースから落ち、優馬が拾った。

 (なんだ、指輪?オモチャだこれ)

 小さな女の子が持つような指輪のオモチャだった、何故こんな物が夏乃のペンケースから?

「先輩、コレ……」

「あ、わっわっ、ごめん!……コレは恥ずかしいよね?」

「えっ、いや……可愛いなと」

 夏乃からペシペシ叩かれる

「これはね、小学校転校する時に貰った宝物なの、ずっと一人だった私のお守りね……」

「……それが先輩を守ってたんですね」

「そう、どうしても新しい友達作りが苦手でね。でもコレがあったから頑張ってこれたの」

 えへへと笑う夏乃に見惚れてしまう。

 決して強いわけでは無い「夏乃先輩」の姿が、その笑顔から垣間見えた。

「ほら、ラスト追い込むわよ、準備準備」

 少し逸れた勉強熱を無理やり引き戻して、最後の勉強タイムだ。

 (優しくて厳しい可愛い夏乃先輩か)

 優馬は夏乃に隠れてこっそりと笑った。


 勉強する時間が終わってほしく無いと思ったのは初めてだ。

 優馬はそんな自分に心底驚く。

 それは夏乃が居たからで、出会わなければ知らなかった事ばかりだ。

「こんな勉強したのは初めてだな……」

「……ふふ、まだまだこれからもあるのよ」

「うーん……でも嫌では無いですかね」

「あら?どうしたの?」

「先輩が教えてくれたから」

「春風君……」

 お替わりのコーヒーが湯気を立て、また良い香りが漂いだす。

 夏乃と二人でまったり力を抜いている。

「やりきれたね……」

「はい……明日からのテスト頑張ります」

「ふふふ、私もやれるだけやろうかな、春風君のおかげね」

「俺教わっただけで何も出来てませんよ?」

「そんなことないよ、あなたはちゃんと応えてくれる。信じてるもの。」

 ハッキリと言われたら照れてしまうが、夏乃は真剣な眼差しをしている。

 

「……もし」

「もし……?」

 

「テスト上手く行ったら……デートしてください」


 優馬は真剣だった。

 抑えきれないまま口にしたが後悔は無い。


「じゃあ……テスト返ってきたら、図書室に来てね」


 これから一週間、テスト返却期間含めて十日程は一緒に居れる場所は無い。

 しばらくは試練の時、優馬は覚悟をした。

 その姿を見て夏乃は穏やかに笑い「待ってるよ」と呟いてくれた。

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