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春の風夏の桜  作者: かずや


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4/27

図書館の時間


 学期末テストが週明けに迫る金曜。

 クラス内も少しピリついた空気、自主的に勉強する者や全てを諦めて帰る者に別れていく。


 優馬は図書室へ向かおうとしてクラスメイトに捕まった。

「春風最近一人でどこ行ってるんだ?」

 優馬は返答に詰まった。

 夏乃に図書室で勉強を教わっている、なんて知れたら静かな空間を壊されかねない。なにより二人の時間に邪推されるような空気を生みたくなかった。

「……ちょっと、勉強する為に早く帰ってるんだよ」

「早く?でも下校時間まで学校居るよな?」

 しまった、と優馬は浅はかに答えすぎた事を後悔する。

「なんか怪しいな……春風よ?」

「……勉強してるんだよ」

 どこで誰とは言っていないが、嘘は吐いてない。

「ふぅん……まあ追い込みだからな、俺も一緒にやっていいか?」

 更に身体が跳ねる、断りづらいが受け入れられない。

「いや、俺……そう、今回真剣なんだ、すまんが一人にさせてくれないか?」

 半分は状況を隠しているが、半分は本音。

 夏乃と一対一で教わる図書室のひとときに浸りたい、その中で得た成果もちゃんと出したい気持ち。

「お、おう……頑張れよ」

 クラスメイトは訝しげにしながらも去った。

 (ふぅ……でもバレるのは時間の問題か)

 毎日放課後になれば嬉々として図書室に向かうし、帰りは夏乃と出てくる。

 この間駅まで送ってから、毎日そうしている。

 別にお付き合いしてる訳じゃない、美人だし明るいし先輩だし……

 (付き合いたい……?いや、そんな恐れ多い……)

 好意は芽生えてる、優馬だって年頃の身。

 先輩女子に密着され続ければ意識はしてしまう。

 対して夏乃には想いは伝わってないだろう。

 どこか、後輩や弟みたいな線が引かれている気はするのだ。

 接し方がそんな感じで「可愛がり」に近いような雰囲気ではある。

「わかってるし、変える気は……」

 優馬は現状のまま、とにかくテストだと振り払い図書室に向かった。


 ——図書室

 流石にこのテスト前時期は利用者が多くなる。

 本を読むよりもテスト勉強の場として。

 優馬と夏乃もそうだ、最もテスト前から関係無く入り浸る常連となっているが。

「春風君、テストの見通しは?」

 夏乃がコソコソと聞いてくる、相変わらず顔が近いし慣れる事が無い。

「……正直わかりません」

 優馬の正直な見立て、それはこれまでに夏乃に教わったような、質の高い勉強を詰め込んだ経験が無かった。

 これがどんな結果を生むのか予想が付かなかった。

「ふふ、大丈夫」

 柔らかく微笑む夏乃、先輩としての安心感を感じる。

「ここまでやれてるなら悪い事にはならないよ、でも……追い込みたいよね」

「追い込み?」

 充分夏乃が追い込んでくれているのだが、まだ足りないのか?

「明日明後日は土日……月曜日からスタート……」

 ブツブツと何かを考えだした夏乃はまとまったのか、パッと顔を上げた。

「ね、明日明後日勉強しない?」

「へ?いやそりゃするつもりですよ?」

「違う違う、外で私とよ」

 優馬は夏乃が何を言ったのか理解が出来なかった、休日……学校外で……先輩と……二人で……

「……ぅ!??」

 叫びそうになった優馬の口を夏乃が先回りでブロックした。

「ダメ?」

 軽い上目遣いをされて、そんな聞き方をされたら断れない。

 口を塞がれたまま首を縦に振る。

 ニコッと夏乃は笑って口から塞いだ手をゆっくり離す。

 小さく柔らかな感触が消えて名残惜しさを感じてしまう。

「……先輩、でもどこで?」

「アテがあるよ」

「アテ?」


 ——翌日、駅のホーム内にて。

 思わぬ流れになったなと思い返して、優馬は時計を見る。

 朝十時。

 夏乃は一通り勉強して、昨日の帰り際に駅を集合場所とした。少し移動するとの事だ。

「どこ行くんだろ……ってか、これってデー」

 全てを呟く前に優馬は頭を振る、勉強の追い込みの為に提案してくれた先輩らしい考えの事だ。

 (浮かれた目的等無い!)

 力強く否定してホームを見渡す、土曜の十時は空きすぎず混みすぎず。

 利用するにはしやすいくらいだ、スーッと人の塊を目でなぞると浮き出た一人に目が留まる。

 ひらりとした白いスカート、これからの夏を感じさせるようなワンピースと帽子、そこには夏乃が居た。

「おはよう春風君、さっきから頭振ってどうしたの?」

 (そこから見られていたのか……)

「いえ、おはようございます」

 私服の夏乃を初めて見た……はずだが、上手く感想が出てこない。

 何か一言言うのが良いはずなのだが、ありきたりな言葉しか浮かばない。

 頭をフル回転させて導いた言葉は……

「夏っぽいですね」

 よくわからない感想になってしまった。

 夏乃はプッと吹き出し「褒め方も勉強しなきゃね」と言われてしまった。

 合流して指定の駅まで二駅程、そんなに距離は無い。

 電車を降りてから、少し歩くみたいだ。

 七月に入って夏が加速している、暑さはもう激しい。

 だが、夏乃の姿はそんな暑さの中で清涼感感じる存在に見えた。

 たわいない話をしながら進み、目の前に大きな施設が見えてくる。

「ここここ、市立図書館〜」

 然程遠く無い範囲で大きめな図書館があるとは知らなかった、興味が無かったのだろう。

 外装は古い目だが中に入ると空調が効いていて涼しい、ワークスペースも広く設置されている。

「こんなとこあったんだ……」

「図書室より良いでしょう?」

 適当な場所を見繕って荷物を置く、周りを見れば同じように勉強をしている人もチラホラ。

「ファミレスとかでも勉強は出来るけど誘惑と人が多いからね〜私は図書館派なんだ」

 確かにガチ勉強なら図書館だろう、参考書コーナーもあるようで詰まったら違う勉強が出来る。

「さて、早速追い込もうか?今日明日しか時間ないよー」

 夏乃はスパルタな部分が少しある、それも優馬に取ってはご褒美だったりはする。


「そこは数式が違ってるから全部ズレちゃうね」

 今、優馬の横に夏乃が座り教えている。

 学校図書室の時から、最近はこの方が教えやすいとの事なのだが……外の公共の場でもとは思わなかった。

 腕が触れる、近い顔。

 慣れたつもりが環境の違いでウブさが前面に出てくる。

 (これは……カップルに見られてないか……?)

 皆集中している中で申し訳ないと、勝手に謝る優馬。

 その想い知ってか知らずか、いつもの明るい笑顔の夏乃。

「先輩は自分の勉強は大丈夫なんですか?」

「私は……ほら、もうテストの点はね……?それでもトップ層は目指すよ?」

 就職決まっているから卒業できる単位だけで良いらしい。

 それでもトップ層を狙える頭の良さに勿体無い気持ちを感じる。

 その時間を割いて優馬に使ってくれている事を無駄には出来ない、気合いを入れ直し追い込んだ。

 区切りが付いて時間を見れば十三時を過ぎていた。

「ん〜流石に……集中力が……」

「うふふ、お昼食べに行かない?近くに美味しいパスタがあるのよ」

 夏乃はこの付近の店を説明してくれる、この辺りはテリトリーみたいなものだろう。

 最初に提案されたパスタの店に移動する事にした。


 ——再び図書館

「美味しかった〜……」

「確かにおすすめされる程ですね……」

 二人して満足し後半戦だ。

 だが、お腹が一杯になると眠気が来るのも人間なのだ。

「ふぁ……やだ、見ないでよ」

「いや、先輩もあくびしちゃうんだなって」

「もう、でも集中力戻るまで少し本読もっか」

 そう言って夏乃は本棚に向かい行ってしまった。

 数分で帰ってきたその手に一冊の本、綺麗な表紙に見えた「西陣織」の文字。

「先輩、それは?」

「ふふ、少し読んどこうかなって」

「……俺も見て良いですか?」

「え?面白くは無いよ?」

「先輩の見る世界を見たい」

「春風君……はい、横座って」

 夏乃は席を近づけて一緒に見る体勢を作った。

 恥ずかしさはあるが、今は些細な事だった。


 糸をこんなにまで色とりどりの織物に仕立て上げていけるのかと、目を奪われる。

 現代でもカラフルな見た目は沢山あるが、遥か昔に確立された伝統工芸品には心が宿っているように見えた。

 (この世界に先輩は飛び込むのか……)


 ふと見えた夏乃の横顔は、笑顔でも諦めでも無くただただ本から見える想いを吸収するような、何か触れ難い神聖さを感じられて、優馬はただただ見惚れていた。

 

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