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春の風夏の桜  作者: かずや


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3/27

きっかけ


 思わぬ誘いだった。

 最初はただ話相手としてだったのか、次は勉強が目的に。

 夏乃はどんどんと優馬の心を掴んで離さなかった。

 学年も違い最初の出会いは階段でぶつかり、情け無い事だが優馬が庇われて助けられた。

 その後で図書室での静かなお話をした時間、不意に見せた諦めを感じる夏乃の表情。

 優馬は夏乃桜の事をまだ何も知らないままだった。

 なのになぜ惹かれているのか、夏乃の動き一つ一つが何故だか暖かく包まれる気がする。

 優馬を見る夏乃の目は、イタズラも慈愛も羨望も混じる目のようだった。

 だからこそ、より分からなくなった。

 普通ならぶつかり謝り、それっきりの縁のはず。

 何故夏乃は優馬を掴んだのか?

 優馬は夏乃の何に掴まれたのか?

 考えれば考えるほど糸は絡んでいった。


 ——HR中

「……という訳で学期末テストが近くなりました、皆さんは特に進路が絡むテストになりますからね」

 担任の注意がクラスに響いていく、二年となり本格的な進路を定めないといけない。

 その為の大きな判断材料が来週に迫る学期末テスト……

 今までなら、そこを抜ければ夏休みでテンションも上がっていたのだが、さすがに高二となるとそうもいかなくなる。

 (夏乃先輩は決まってるって言ってたな……)

 高一から進路が決まっている、京都老舗の織物屋。

 イメージしかないが、厳しい職人の世界じゃないだろうか?

 自分にはとても想像つかない道だなと、優馬は天井を見る。数ある職の中から一つを選び、面接を通して選ばれなければならない。

 その選択とチャンスを増やす為に、勉強をする訳だ。

 先の事は正直考えたくないところだが、もし決められているとすればどんな気持ちなのだろう。

 

 それはやはり納得しているか否か……

 (好き嫌いで決められない事もあるのよ)

 夏乃が言った言葉だ。


 ハッキリとではないが、受け取り方としては納得してないと思える。だが夏乃は受け入れているように見えた。

 それで本当に良いのかと優馬は夏乃を想った。


 ——放課後、図書室一番奥の席

 夏乃と優馬の指定席になっていた。

「はい、じゃあ英語からね」

 いつも通りの先輩の姿、いつも通りの夏乃の顔。

 ジッと見てしまう。

「どうしたの?」

 変に思われたか、夏乃に覗き込まれる。

「いえ……でも、いいんですか?勉強教わるなんて」

「良いのよ、私は進路も決まっているから卒業まで時間あるもの」

 卒業、一つ上の夏乃はすぐに卒業してしまう。

 こればかりはどうしようもない。

「……先輩、よろしくお願いします」

 優馬は短い時間を逃さないようにノートを広げた。

「ふふ……ありがとう」

 お礼を言うのはこっちなのだが、言われてしまった。

「勉強前に、私の事一つ教えてあげる」

「先輩の事を……?」

「こうやって後輩君に勉強を教えてあげれるのは嬉しいの、青春みたいでしょ?」

 優しい眼差しで夏乃が見てくる、眩く後光が差してくるような優しい顔をしている。

「先輩は……」

 優馬は言おうとした言葉を飲み込んだ。

「ん?」

「いえ、ここがよくわかんなくて……」

 今回は勢い任せに言えなかった、「青春に憧れてたんですか」とは。

 聞いてはいけない気がしたのだ。

「もう……いつまでも誤魔化すの下手なんだから」

 夏乃は優馬の横に座ってペンを置いた。


「変わらず優しい子」

 コソッと囁かれゾクゾクしてしまう。

「気を遣ってくれたでしょ?聞きたい事は分かるよ、でもそれは後ね?勉強終えてから」

 ちゃめっ気を含ました言い方で勉強が再開される。

 成り行きに真横へ座られているのだが、良い匂いがする……

 (勉強にならないかもしれない……)

 優馬は意識が遠くに行きそうだ、良い香りと先輩の包容力のコンボが強い。

「おーい、春風くーん」

 ハッと戻って来た、このままでは延々と意識の行き帰りしてるだけになる。

「うーん、じゃあご褒美を設定しようか。次テスト全部平均以上で私の秘密話してあげる」

 秘密?と優馬は気になる。

 知ってるようであまり知らない夏乃先輩の姿、そして秘密。

 もしかしたら何かがわかるかもしれない。

「……頑張ります」

「うん、じゃあ続きから……」


 そこからは邪念も無く集中していた。

 夏乃は教え方が凄く上手い、そして雰囲気から勉強が出来るタイプだった。

「あの、先輩はテストいつもどのぐらい……?」

「大体学年五位辺りをウロウロしてるわね」

「えっ、学年……五位?」

 頭は良さそうと感じていたが、まさかそのレベルとは。教え方の上手さも納得できる。

 優馬の詰まる問題は導かれて解かれていき、先輩に教わるシチュエーションが脳細胞を活性化させていた。

「……うん、もっと基礎を固めたら良いね」

「ありがとうございます」

 図書室なので小声で評価を貰う。

 時計を見れば閉館ベルまではまだ時間があった、少し荷物を整理しておく。

「ね?早いけど帰ろっか……一緒に」

 ポトン

 優馬はシャーペンを落として呆然とした。

 (ん?帰る?……一緒に?)

 胸がドキドキと止まらない、だけどこのチャンスは逃せない。

「お供させて頂きます」

 優馬は少しおかしくなったせいか、執事みたいな言葉遣いで了承した。

「ぷっ、なんでそんな言い方」

 夏乃が子供のように笑う、その時に優馬は気付いた。

 純粋に笑った顔が何よりも俺好きなんだな……。

 これまで様々な表情を見せて来た夏乃だが、優馬はその中で一番「夏乃桜」が見える純粋に笑う顔に惹かれていた事を強く実感した。

 出会いのきっかけは些細な事だが、その中で見せてくれた夏乃の笑顔が心掴まれる原因だった。


 図書室を出て校門に向かう、人が減った校内とはいえ二人並んで歩くのは少し恥ずかしい。

 クラスメイトに見られたら明日以降質問の嵐、クラス裁判が行われるだろう。

 だが、離れる事はしなかった。優馬にとって幸せな時間だった。

 しかし、逆に夏乃は困らないのだろうか?こんな時期に一学年下の子と仲良く帰ってるなんて噂が立てば……

 そこで優馬は気付く、何故自分は二年もの間「夏乃桜」を認識出来なかったのか。

 贔屓目無しに目を惹く美人であり、告白の一つや二つされてておかしくなさそうである。

 そして学年トップ五に入ると言う事は上位者貼り出しもあったはず。

 名前はともかくも存在は認知してておかしくないぐらいだが。

「ぐるぐるしてるね後輩君」

 パッと目の前に顔を寄せられる、驚きだが単純な驚きでなく「綺麗すぎて」驚くのだ。

「うーん、やっぱ謎だ……」

「何言ってんの?」


 そうこうすれば下駄箱に着いた、夏乃とは一旦別れ二年のスペースへ向かう。

「あら春風珍しいなこんな時間に」

 まだ残っていたクラスメイトが肩を叩く。

「ああ、勉強しててな……」

「お?次上を狙ってるのか?進路絡むもんな……お互い頑張ろうや……じゃあな!」

 言うだけ言って走り去ってしまった。

 優馬も靴に履き玄関に向かう。

 夏乃はすぐに見つかった。

 少し寂しい雰囲気が包んでいたからだ。

 (どうしたんだろう……)

 見てても待たすだけだと歩み寄る。

「お待たせしました!」

 優馬を見てパァっと花が咲く夏乃、やはり何かあるのか?

「うん!かーえろ!」

 流石に手は繋がないが、くっ付くくらいに近い。

 これが女子の距離感なのか?

「あら?そう言えば春風君駅に向かうの?」

「いえ?俺家は徒歩圏内なんで……」

「あっそうだったね、じゃあ駅まで送って貰おうかな」

「ハイ、送りますよ……ん?」

「どうしたの?行こう〜」

 (今、先輩俺の家を知っているような感じだった?)


「いくよー」

「あ、ハイ待ってください」

 僅かに引っ掛かる夏乃の反応を置いて、優馬は駅までお供した。

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