春風優馬
——先輩の事も隠した感情も全部知りたい
優馬は思わず言ってしまった事に後悔はしていなかったが、少し反省はしていた。
「勢いに任せすぎた……」
今思えば何言い出したのだろうと、夜ベッドで悶えている。
遠回しに好意が有りますと言ったようなものだ。
確かに夏乃は美人で明るく惹かれはするが、内面的な部分なんてチラッと見えたにしか過ぎない。
そもそも出会ってまともに話したのなんて、あの日ぐらいだった。
優馬は自分でもわからない衝動に突き動かされた。
あの貼り付けられた夏乃の顔を放って置けない、そう思ったのは事実だが、もっと順番とやりようがあったはず。
優馬が悶えるほどに勢い任せで言った言葉に夏乃は「明日も放課後、ここで待ってる」
と告げて帰ってしまった。
待っている、と言う事は受け入れられたで良いのだろうか?
夏乃の顔が暗闇の天井に浮かぶ。
優馬はぐるぐる巡る想いを抱きながら眠りに着いた。
翌日、学校に着いて息を吐く。
(放課後だな……)
今日何か分かるのか、ただ話すだけなのか夏乃との関係性がよく分からない。
「春風ー!……?おいどうした?」
「おはよう春風……何だこいつ呆けて?」
クラスメイト達がマジマジと見てきて優馬は我に返った。
「あ、ごめんごめん考え事してたら……」
「おいおい、次体育なんだから怪我すっぞ?」
「今日から隣と合同サッカーだろ?春風頼むぞ?」
バンバン背中を叩かれて行く。
優馬は学力はそこそこだが、スポーツは出来た。
運動系部活の勧誘も多いぐらいに身体を動かすのは好きだ、それが評価を得ているのかクラスメイトからは「吹き荒ぶ春風」なんて異名も付けられている。
部活に入ってまで打ち込む気は無いが、授業や休み時間で運動するのが楽しい。
身体を動かしていると色々忘れてしまえるからだ。
隣クラスとの合同サッカーが始まった。
ここではやはりサッカー部が強い、だが他の運動部も専門外だが体力勝負に遅れは取れない。
きゃー!◯◯くーん!!
女子の歓声が聞こえる、そうこれが運動部の原動力だった。
ボールを持てば、運動部でも無い優馬にも黄色い歓声は飛ぶ。
一人交わし、二人交わし……足を振り抜いてゴールポスト隅にボールを叩き込む。
春風くーん!カッコいいー!
綺麗に決まった流れに歓喜と歓声が優馬に注がれる。
「ったく何でお前は帰宅部なんだよ!ウチに来いよ!」
「ダメダメバスケ部だって!二年からでもコイツなら絶対レギュラー取れる!」
「春風、水泳したくないか?」
優馬はもみくちゃにされながら、部活勧誘を受けながらなんとか輪を抜け出す。
(ふぅ、えらい目にあった……?)
ふと見上げた校舎の二階、三年クラスのエリア……ジッと見つめてくる女性と目が合った。
——放課後、優馬は荷物を持ち図書室へ向かう。
「お、じゃあな春風〜」
「お疲れ〜今日も大活躍だったな!」
帰宅する者や部活に行く者でクラス内や廊下はざわついている、何人かは道すがら別れの挨拶をしてくれて優馬も返していく。
そんなざわついた教室エリアから離れて図書室に向かう、こちらは対照的に静まっていて世界が違って見えてくる。
図書室に入り見渡す、今日は二〜三人利用者が見える。だが場所のルール上静かにしている。
一番奥を目指し、待ってくれていた人を見つける。
フリフリと手を振り、言葉を発さず「待ってたよ」と口の動きだけで言われた。
鼓動が早くなった。
とりあえず夏乃の前に座り息を吐いた。
なんだかニコニコされている。
「お疲れ様です」
「ふふ、お疲れ様」
静寂な空間の妨げにならないよう小声で挨拶を交わす。
「カッコよかったよ」
不意に言われた言葉に優馬はカバンを落とした。
バサっと音が響いて優馬は「すみません」と周囲に謝る。
「な、な、なんですかいきなり」
声が上擦りながら夏乃に問う。
「あれ〜?目が合ったでしょ?」
サッカーの歓喜の輪から抜け出て見えた校舎、そこから見ていた夏乃。
わかってはいた、だがいきなりカッコいいと言われたら照れる。
(照れる?クラスの女子にキャーキャー言われるよりずっと……)
優馬はふと照れる度合いに考えだした。
今夏乃からの一言が一番嬉しく恥ずかしく感じていた、何人からもまとめて沢山黄色い歓声受けるよりも。
「おーい春風くーん?」
ハッと意識が戻る、目の前に可愛くてかっこいい綺麗なお姉さん、夏乃先輩としての顔が迫っていた。
「大丈夫?熱中症?ぼーっとしてたよ」
「大丈夫です、すいません」
まさか褒められて照れましたとも言えず、至近距離のお顔が綺麗過ぎて見惚れてたとは言えない。
「うふふ、今日は君の事一つ知れたな」
「え?」
「運動が好きだってとこ」
ニコッと笑いかけられ、また意識が遠くに行きそうだった。
別に女性免疫が無い訳ではない、スポーツやイベントを通じて客観的に見れば、それなりにモテてるんだとは理解していた。
だが、目の前の女性には胸の鼓動を抑えられない。
一つ一つの動作に目がいく、胸が跳ねる。
夏乃桜と言う女性にだけは心を乱された。
「学年一緒だったらもっと見れたかもにね」
「……はい、頑張ります」
「ぷっ、どういう事」
自分でもわからない返答に夏乃を笑わせてしまい、図書委員が目で圧を掛けてきた。
すいませんすいませんと何度目かの謝罪をして、落ち着く。
「うふふ、春風君は可愛いね」
また心が乱される……
キーンコーン
ベルの音が学校施設のタイムリミットを知らせる、図書室も時間だ。
「残念、また明日ね……あ、明日は勉強道具持ってきてね?」
「勉強……道具……?」
「何言ってるの、期末前だよ?見てあげる」
夏乃と居られる時間に気を取られて完全に失念していた。
しかし、勉強を教えてくれるとは……
正統な会える口実が出来て内心飛び上がっていた。
優馬は「よろしくお願いします」と頭を下げて夏乃と共に下校した。
季節が夏に向かっていく夕日が眩しかった。




