桜の木の下で
「……朝か」
昨日は体力消耗から早めに寝たせいか、いつもより早く起きた。
優馬は伸びをしてカレンダーを見る。
「今日、そして明日か……」
桜との学校での時間はもう二日しか無い。
いざ迫ると寂しい。
それでも今日は来る、時間だけは気持ちとは関係無く全てにおいて平等だ。
少し早いが準備をして、いつもより早い登校をする。
まだ早練の部活動生ぐらいしか居ない学校、あんなにも静かに建っているものかと、普段見ない時間の姿が新鮮だ。
主に図書室、しかも夏前からの約二ヶ月が濃かった。
自身の通学範囲で選んだ高校、なんとなくの選択肢。
その選択が無ければ桜に会えなかった。
お互いに気付けたのは二ヶ月前。
一年以上同じ場所に居たのに気付かなかったのが、今となっては笑える。
一つ上のお姉さん、イタズラで明るくて美人で愛おしくて。
人生を変えた女性に人生を懸ける約束をした。
優馬の心はただ一人しか見てなかった。
誰もまだ居ない下駄箱を開ける。
カタン
「なんだ?」
何かが入っている、手紙の様で封筒に「春風優馬君へ」と書かれていた。
中を確認する。
「放課後、校舎裏で待ってます」
これは、昨日のメッセージと同じ。
「……桜さん」
差出人の名は無いが誰かは分かった。
昨日一緒に帰ってるので朝入れられたのだろう、とするともう登校しているのだろうか。
「随分早いな……俺もだけど」
流石に三年のクラスには見に行けない、会いたい気持ちを抑えて自分の二年のクラスに向かう。
何故こんな手紙を入れたのだろう?
疑問はあるが何か意味があるはず、たぶん桜がやりたかった事に関係してくる。
「……結構、乙女だもんな」
優馬はフッと笑って手紙をしまった。
時間が進むにつれて教室が騒がしくなる、友達と喋りながら朝のホームルームが始まり、授業が始まる。
学ぶ事はこれからの警察官を目指す上で必要な知識であり単位である、心持ちが変わると授業の気怠さも晴れてくる。
午前が終わり、また友達と集まって昼食を摂る。
夏休みの話題も抜けて次の文化祭の話題になってきた。
(そうか……この先のイベントには居ないのか)
桜はその時にはもう居ない、それは惜しかった。
写真を撮ろう、送るようにと優馬は考えながら友達と話題に花咲かす。
あっという間に一日は終わる。
今日のメインが優馬には残る。
靴を履き、普段人気の無い後者の裏へと向かう。
確かそこには一本の大きな桜の木があった記憶だ。
校舎の角を曲がり視界に収める。
一本の木、その下に佇む桜。
「……」
「優馬君……ありがとう来てくれて」
花が咲く様な笑顔で桜は見つめる。
そして、桜は語り出した。
「君に会えて幸せだった、君だから良かった、沢山の偶然でまた会えた事、神様に感謝したいぐらい」
「桜さん……」
「私はもうすぐ居なくなる、だけど君が追いかけてくれるって約束したから待ってる……でも」
「……でも?」
「私はもう一つだけ我儘になりたくなったの、時間が迫る程に抑えられなくなって、ここに君を呼び出した」
桜は姿勢を整え深呼吸をした。
若干の震えが見えた、ゆっくり目を閉じて自身の中を整理している。
そして閉じた目を開き優馬の目をしっかり捉える。
「春風優馬君、私は貴方が大好きです」
「……俺も夏乃桜さんが好きです」
「……私とお付き合いしてくれますか?」
「……喜んで!」
恋焦がれる相手から告白をされた。
純粋な気持ちのままに返事をした。
この日、この時に春風優馬と夏乃桜は「お付き合い」をした。
すぐに別れは来てしまう、だけど自身の環境から心に蓋をしていた桜は蓋を取り外し、一度は諦めていた「付き合う」事を選んでくれた。
既にキスをして将来の約束までしている仲だと言うのに、付き合っていなかった関係は正式に恋人へと昇華した。
二人はゆっくりと我慢できず抱き合った。
胸元で桜が囁く。
「こんな青春をさせてくれる優馬君が好きだよ」
桜はそう囁いて優馬の胸元に顔を埋めた。
そんな桜を優しく撫でる、恋人になった。
優馬の胸に湧き上がる喜びは言葉に出来ず、ただただ桜を捕まえておくしかできなかった。
しばらくして、顔を見合わせて二人笑う。
どこかにあった恋人のようで恋人じゃなかった線が消え、本当の意味で二人一緒になれた気がしている。
優馬も桜も、何も気にせず今は一緒に笑い合った。




