小さな青春
——最後の日が近い
金曜日までは学校があり、大きな動きは出来ない。
だから図書室で、静かに二人で下校の時間まで一緒に居る。
たまに手を握ったり、目が合い優しく笑いあったり。
特別な事はしていない。
夏前から二人を見て来た図書委員はいつしか見守り隊として、静かに二人を見守ってくれていた。
「……委員の人、気遣ってますよね」
「……うん、さすがに恥ずかしいもんだね」
図書委員の内輪でどんな話がされているのか、考えると怖いものだ。
「でも、悪くは見られてないようで良かったね」
「そうですね、この死角の席も確保してくれてる勢いだし……」
夏休みも図書室は頻繁に利用していた、一番の常連と言って差し支えないだろう。
気付いたら桜と優馬のどちらかが来るまでは、何かが置かれて席取りされており、二人が見えたら流れるように回収していってくれるのだ。
意外と図書委員の方々から応援された恋だったのかもしれない。
桜と二人で笑い合う、図書室だから小さく抑えて、それも一つの思い出で。
「優馬君……悪い事しちゃおっか?」
桜がコソコソと告げてくる。
「……悪い事?」
こっちこっちと手招きをされる、静かに来いと言う事か。
桜の横に密着するよう近づいた。
次は屈ませるように肩を押される、そうすれば机の裏が見える。
「うふふ」
桜は笑って赤ペンのキャップを外した。
少し想像がついて来たが、まさか……
「名前書こう」
ベタな想い人同士の名前を、机裏に書いてしまおうと言う事だ。
バレたら間違いなく怒られる。
しかし、いけない事をしているテンションか桜は止まらない。
スッと手早く「夏乃桜」と書いてしまった。
「おお……躊躇が無い……」
止める間も無くしっかり名前が見える、勿論裏からなので見ようとしないと見れない。
こんなにスムーズにされてしまったら拒否権は無い。
優馬も机下に潜り込み「夏乃桜」の横に「春風優馬」の名を入れた。
少し緊張感を感じたイケナイ事だ、そして今二人は密着して屈んで机で遮られている。
「……」
「……」
チュッ
互いに思った事は同じだったようだ、優馬達は更にイケナイ事を唇に重ねて、顔を赤くして席に戻った。
「うふふ」
「あはは」
二人で熱くなった顔を見て笑い合う。
「あ、そうだ」
桜はまた机下に潜り何かを書き足した。
何だと優馬がまた潜り確認する。
そこには、名前が相合傘で並んでいた。
「やってみたかったんだ……」
照れながら言う桜を否定なんか出来なかった。
遊んでる様にイチャイチャしてるようにも見える二人だが、やるべきはやる。
一区切り付いたら空気を変え、勉強モードとなり私語は無くなる。
優馬は警察官の試験の為の問題集を何度もなぞる、そして桜は会社経営についての参考書に手を出している。
なんでも今最新の経営管理をしていかないと、古い体質のままで潰れていった同業が数多く出ているらしい。
古くから伝わる伝統工芸だからこそ、時代の先端で管理する人が必要らしい。
ただ凄いだけじゃ成り立たない時代なんだと。
「守る手段は沢山あるんですね」
「そうね、優馬君は警察官として市民を守るように、私は西陣織を作りながら経営で守るのよ」
やはり桜は凄い、覚悟が決まってるとはいえ、やるからには全力を尽くす姿勢が見える。
「……負けてらんないな」
「うふふ、勝ち負けじゃないよ」
モチベーションが上がったところで、下校のチャイムだ。
「上手く時間とも付き合わないとね」
イタズラ顔で机下に潜り「カシャ」と何かを撮ったようだ。
さっき書いたアレだろう。
ならばと優馬も一枚撮り、待ち受けにしておいた。
「え〜そこはツーショットじゃないの〜」
桜はご不満だが、ちょっとそれは勘弁願いたい。
「えっと……金曜日に撮りましょう!」
「はぐらかされた気がするけど……覚えてるからね」
「……はい」
カシャ
「え?今撮りました?」
「うふふ、隙あり」
「じゃあ、俺も……」
「ダメだよ髪崩れてるし化粧薄いもん!」
何で優馬は良くて桜はダメなのか、優馬は理解出来なかった……
帰りは手を繋ぎ帰る、桜の家が近くなる程にゆっくりと。
「学校でキスしちゃったね」
「……何で言うんですか」
優馬の顔と耳が赤くなる。
「いっぱい思い出が増えていくのが幸せなの」
桜は繋いだ手を離し、代わりに腕を絡めてきた。
「大きな思い出も素敵だけど、小さな幸せも沢山あって君を感じられるから」
優馬は堪らなく愛おしくなる。
桜の幸せを感じる要因になれている事が、優馬は幸せを感じている。
お互いが見つめ合って今日二度目のキスをした。
もっと欲しくなる、だがそれはまだ先の話。
だから今はこれが精一杯の愛情表現だった。
「……優馬君、嬉しい」
ギュッと抱きしめあってまた今日が終わりを告げる。
「また、明日ね」
この言葉ももうすぐ聞けなくなる。
平静を装ってはいるが内心では泣いている。
桜もきっとそうだろう。
また明日と言ったのに、手を離せない。
迫るタイムリミット、優馬は静かに受け入れ始めていた……




