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春の風夏の桜  作者: かずや


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22/27

二人の関係性


「優馬君、勉強できてる?」


 桜は三日振りに会ってまず聞いてくる。

「ちゃんとしてますよ」

 優馬は答えたが、内心桜を想って途切れ途切れになっているのは認めていた。

「本当に〜?」

 見透かすように顔を覗き込まれる。

 そんなに近くに来られると、口付けを交わした時の事や感触が蘇ってくる。

「……ふふっじゃあ明日から終わるまで一緒に勉強しよっか」

「……はい、一緒に居たいです」

 どう足掻いても最後の一週間、週が明ける頃に桜はもう居なくなる。

 受け入れているかと言われたら、全てでは無い。

 納得いかない部分は事実ある。

 大人になりきれないが子供でもない、それが堪らなく悔しかった。

 桜を家まで送る、その時間が楽しくて寂しくて。

 桜もボソッと「寂しいね」と漏らす。

 二人の間ではしっかり受け入れているように振る舞いながら、時間と共に心は寂しさに向かうのだ。

「桜さん、荷物とか準備はしてるんですか」

「まだ……手がつけられないんだよね、そろそろ始めないと」

「今日が月曜……忙しいかもですけど金曜学校終わりに買い物に行きませんか」

「買い物?」

「桜さんに……贈り物がしたいんです」

 用意するだけの時間はもう無い、出来る限り一緒に居たい気持ちで提案した。

「優馬君……ええ、金曜日……最後のデートだね」

「……はい」

 最後の、その言葉が重い。

 だけどその先を見て夢を追っている、乗り越えなければならない壁だった。

 もう自然と手を繋いで歩いている。

 これも今週一杯までだ。

 桜の家が近くなる、どちらともなく歩幅が狭まる。

「ゆっくり……歩いたね」

「ええ……」

 桜にぎゅっと抱きしめられる。

 優馬も抱きしめ返す、そんなに長い時間は無かったが落ち着いた時間は長く感じた。

 スッと桜は離れ「また明日、図書室でね」と寂しさを隠すような笑顔を見せて帰宅して行った。


 優馬は一人帰りながら思い出す。

 楽しかった事ばかりの夏休みだった、その夏休みも終わって今日から二学期の始まり。

 桜との別れのカウントダウンと同時に、優馬の二年進路相談やテストが迫ってくる。

 ここからは選択の連続、ただ寂しがって時間を無駄には出来ない。

 大切な好きな人を迎えに行く為の準備期間なのだから。

 人生で本気になれた人を捕まえに行く、この先の別れの後にどう動けるかが大事だ。

 頭では理解している、心がまだ追いつかないだけ。

 陽が落ちるのが少し早くなった八月の最終週、優馬は夕陽に目を細め未来を想っていた。


 ——翌日、クラスメイトからついに直接の質問が届いた。

「なあ春風、昨日始業式の帰りさ……その三年の先輩と手を繋いで帰ってたの見たんだけど……やっぱりそう言う事?」

 男女問わず何人かが休み時間に押し掛ける。

 夏祭りの後のクラスチャットで皆想像はしていただろうが、優馬本人は何も答えていなかった。

 単純にそこを弁明する気も時間を費やす気も無く、ただ桜との時間を優先していたら忘れていただけだ。

 (そういえば夏祭りで会ったきりだったもんな、気にはなるよな)

 友人達の興味はお付き合いしている仲なのか?どこでどうやっていつの間に。

 そんな言葉は無くとも、皆の目が語っている。

 しかし、どう説明していいものか。

 桜とは好き同士だが付き合ってはいないのだ。

 この週でお別れになるし、そこを説明し出すと恐らく長くなる。

「うーん、好きな人だよ。先輩に迷惑かかるから騒がないで欲しいかな?」

 あくまで静かに見守ってくれれば、そんなスタンスで友人達にはお願いをした。

 皆は一般的な「実はお付き合いしちゃいました!」と言うノリをイメージしていたようだが、優馬の言葉選びに困惑している。

「な、なんか訳ありなのか?」

「あの、何かあったら相談してね?」

 友人達は妙に気を遣うモードになってしまった。

 (あちゃあ、そんな腫れ物みたいになるつもりじゃ無かったが……もう、仕方ないか)

 優馬はとりあえず予想とは違ったが、皆が落ち着いてくれた事に感謝する。

「まあ、皆にはまた……来週以降にでもお話するよ」

 しかし、同級生に目撃され噂されていると言う事は桜の方も似た事が起きてるかもしれない。

 特に問題は無いが、最後の一週間は静かに時間を共有したい思いだ。


 ——図書室

「あはは、そっちもか〜」

「桜さんも?」

 今日教室であった事を話すれば、桜も同じ様にクラスメイトから質問があったらしい。

「私浮いた存在なんだけどね、特に女子はそう言ったお話が好きだから……久しぶりにクラスメイトとお話したわ」

 優馬の想像より嬉しそうに語る桜は、優馬の事を何と答えているのだろうかと気になった。

「……何て伝えてるんですか?」

「ふふ、私の王子様」

「え?そんなこと言ったんですか?」

「あはは冗談よ、でも……大切な人だって皆には言ったわ」

 別に見られたく無い隠したい訳じゃ無かった関係だ、オープンになっても構わない。

「……でも、お付き合いしてない事は不思議に思われちゃうね」

 桜は呟く。

「そこも説明したんですか?」

「私はクラスの皆、今週居なくなるのを知ってはいるからね、深く仲良い子は居ないけど敵対してる訳じゃ無いよ?」

「いや、そりゃ分かりますけど」

 あくまで桜は少し浮いた存在、だがいじめがある訳じゃ無いし伝統工芸の後継者と言うのは担任から初めに周知されていたらしい。

「この三年の二学期だからね、皆進路でピリピリしてるから黙っておきたかったけど担任がバラしちゃった」

「まあ……いきなり居なくなるよりは、良いんじゃないでしょうか?」

「私ね、今日嬉しかったの」

「嬉しい?」

「うん、こんな私にも興味持ってくれた同級生居てくれたんだなって」

 桜は昔から同級生とは違う道で生きていた、だから友達は出来なかったと以前言ってはいたが、案外簡単に崩れる壁だったのかもしれない。

 

「少し反省ね、私の臆病さと諦めの良さに」

 桜はしっかり受け止めて前を向いている、もう大丈夫だろう。

 時間は戻せないが、先々に影を落とす事は無さそうだ。

「俺、安心して迎えに行けます」

「その前に試験受からなきゃね」

 痛い所を突かれ、優馬は笑い桜は微笑んだ。

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