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春の風夏の桜  作者: かずや


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21/27

最後の一週間


 夏休みも残り三日となっていた。

 週末を過ぎれば登校日がある。

 それから八月の終わる一週間が過ぎたら、桜とまた離れ離れになる。


 桜の話では八月三十一日には京都に発つ事になるので、実質三十日までが会えるリミットだ。

 迫る日にどうしても気分が上がらない。

 散々離れる事になるのは話してきたのに、現実感が無い。

 思えば初めての別れは突然だった。

 近所の公園で遊んでいた女の子が滑り台で泣いていた。

 訳を聞くと「明日君と離れなきゃいけない」

 その時は子供だったから深刻に考えていなかった、ただ一つ上のお姉さんが居なくなる事自体は悲しかった。

 だから「迎えに行く」と言った。

 子供だった、いつどのように?を考えない感情のままをぶつけたのだから。

 その時に何かの景品で貰っていたおもちゃの指輪、それをあげた。

 笑える話だ、おもちゃの指輪って。

 子供だったから純粋だったのか……

 それが彼女の支えになっていたのは思いもしなかった。

 子供時代の日々は新しいものに流れ、学年が上がる程人付き合いも蓄積されていく。

 だから桜を忘れてしまっていたのだ。

 逆に桜は人付き合いがしにくい環境で、あの頃の記憶のままを保っていた。

 皮肉なもので、友達付き合いに憧れた桜になかなか友達が出来にくい状況だったから、また巡り会えた。

 桜が稀な人生でなければ、お互いに気付かず階段で接触しただけの事として終わっていたのかも知れない。

「掴んでくれたんだな」

 桜を想う、あの日あの時滅多に行かない図書室に向かってなければ、ぶつかってなければ、助けてくれてなければ、思い出してくれなければ……

 一つでもズレたり欠けたりしてれば再会してなかったし、想い合う今が無かった。


 今度は自分の番だ、優馬は勉強を始めた。

 自分の為に桜の為に、大人になる為に約束を守る為に。

 警察官になる、この夏決めた目標そして夢。

 人々を守るなんて大層な事は言えない。

 桜の為にその道を選んだ私利私欲に塗れた動機だ。

「とても、ヒーローとは思えんな」

 優馬は笑ってしまう。


 スマホがメッセージを受信した。

「優馬君、勉強頑張って」

 それだけのメッセージが桜から送られて、やる気を出す。

 単純なもので好きな人から頑張ってと言われただけで、嬉しくなる。

 会えなくなる時が分かっているから、今が惜しくまた会いたくなる。

 だが、どこかで区切りを付けないと永遠に進めない。

 桜と話し合って残り三日の夏休みは会わない約束をしたのだった。


 ひたすらに机に向かい、体力強化の為のランニングも日課に入れている。

 試験自体は一年後、周りの友達からしたら少し早い準備じゃないかと思われるだろう。

 だが周りがどうこうはどうでもよく、優馬が掴み取りたい人の為に出来る事をやりだしただけだ。

 そして夏休みは静かに終わりを迎えた……


 ——始業式

 全校生徒が講堂に集う。

 優馬はキョロキョロと落ち着かない。

「おい春風〜噂の彼女探してんのか〜?」

 クラスメイトが茶化してくる。

 優馬は自然に答えた。

「ああ、一番大切だからな」

 あまりにもあっさり言い退けたので、クラスメイトは「お、おうそうか……」とそれ以上は深掘りしなかった。

 夏休み明けだからか妙に全体的に明るい。

 皆夏を満喫したのか、見た目が少し変化してる者や明らかに夏休みの終わりに落胆している者も居るが、一番は久しぶりに会う友達の存在なんだろう。

 優馬はたった三日の離れた時間だが、やはり焦がれた。

 三年のエリアを目で追う、三年二学期となると進学や就職で追い込みになるだろう。

 少しピリついた空気はある。

 そんな中、静かに佇む一人の女性。

「見つけた」

 優馬が呟いた先に、桜は居る。

 パチリと目が合う。

 優馬の心臓が跳ねる、桜は優しい笑みを遠くからくれた。


 始業式も終わり、翌日から通常授業が待っている。

 その事実に辟易はしてしまうが、今の優馬には必要な事として覚悟は決まっている。

 ホームルームが終わってすぐに動く、今日は図書室は開いてない。桜と待ち合わせもしていない。

 だから「図書室」に向かった。

 確証は無かったが確信に近い何かはあった。

 階段を登り切り開いてない図書室の前。


「ふふ、やっぱり来てくれた」


 桜が笑顔で迎えてくれる、互いに会いたい気持ちを抑えた三日間、そして最後の一週間が始まったのだ……

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