貴女のために
待ち合わせた図書館、来るのは二回目か。
夏休みともあり中は静かに、でも人は多く感じる。
「席空いててよかったね」
確かに十分な席数はあるがテーブル付きの勉強できるタイプは、そんなに多くは無い。
優馬は折角だからと参考書は持っていたが、警察官になる道の本がないかを探していた。
ネットも活用しながらの情報収集は欲しい情報の探し方で成果が大きく変わる。
AIと言う手もあるが優馬はある程度の地力を付けた上で、補助活用するのが筋だろうと言う考えだった。
優馬は様々な情報を集めていくうちに「希望する自治体の試験を受けれる」と知った。
「どこでも希望の場所で受けに行けれます、京都でも」
「へぇ、警察官って地元でしかなれないとか、少ないとこに配属とかじゃ無いんだ」
「もしかしたら地域の転勤はあるかもですが、概ね受けた自治体みたいですね」
これで一つ懸念は解消された、優馬の目指すは桜が住む場所の地域自治体の試験に定まる。
「……なんだか、ストーカーみたいじゃない?」
「……そんな事言わないで下さいよ」
そこからは必要な学力を伸ばすのだが、体力試験もある。
部活動をしていない分自主トレにも励まなければならない、身体を動かすのは好きな優馬だが専門的な知識は無いので、そちらも学び実践する必要がある。
こうして見ると一年で足りるのかが心配になる。
試験に通っても卒業後は警察学校もあるので、勉強からは逃れられない。
「不安?」
「……不安はありますが、逃げるつもりはないですよ」
「ふふ、カッコいい」
「桜さんを迎えに行く為ですから」
「その時は何歳になってるかな……」
「二十歳までには……」
「待ってるよ、でもお婆ちゃんになるまでには来てね?」
「そんなに待たせません!」
軽口を叩き合って勉強を進めていく。
桜は何を見ているのかと覗けば、英文で書かれた何かの本を見ている。
「桜さんはそれ……?」
「ああ、これは海外の本よ。あっちから見た日本の伝統文化についての解釈と評価をしているわね」
スラスラと英文を読んでいるところを見れば、知的美人にしか見えない。
元々の頭の良さが羨ましい。
「なんだか羨ましいって顔してるわね」
「いや、だって桜さん頭が良いから……」
「……皮肉な物で、勉強はしなくていいって言われ続けたからかもね」
「え?」
「やるなと言われた事こそやりたくなるでしょ?逆に勉強しろしろって言われたらやる気なくなるでしょ?」
「ああ……」
「自然とそうなっちゃったのね、気付いたら本ばかり読んでたもの」
桜は幼い頃から伝統工芸についての矢印を向けさせられている。
高校も形式上の卒業を得る為らしい。
「夏が終わってすぐなんですよね……」
「そうね……縁故就職の関係で出席日数も考慮されるから卒業式も出ないわね……」
「そうですか……見たかったな……」
「私も君に見て欲しかったけどね……転入時の条件が高校三年の夏迄ってね」
「こっちに顔出しも無いんですか?」
「うん……この夏が終わったら継承研修で何年も動けないと思う」
「そうですか……」
想像以上に桜は縛られてしまう、優馬もスムーズにいったとして警察学校を卒業するのまでを考えれば、今から更に二年先ぐらいは見ないといけない。
二年、会えない時間が見えてくる。
「……時折、通話するから」
「はい……俺も一杯画像送ります、頑張ってるとことか」
「あはは、それ良いね〜じゃあ私も頑張った作品とか送るよ」
先に見えた寂しさを埋めておくように、桜と優馬は約束をする。
毎日会える日も僅かになり、一日共に過ごせる図書館で時を過ごす事にした。
「……期待しないでよ?」
「期待しちゃいますよ」
約束通り、桜はお弁当を用意して来てくれた。
飲食スペースに移りお披露目となる。
おずおずと開けられた蓋の先に、彩り良く配置された定番おかずとふりかけが掛かったご飯。
至ってシンプルだ、だがそれが良い。
「うわぁ、美味しそう」
「どうぞ召し上がれ、緊張しちゃうね」
綺麗な卵焼きが気になり一口、甘い味付けでふんわりと沁みる。
「あ、美味い……」
優馬の漏れた声と表情に、桜はホッとする。
そしてベーコンを巻いたアスパラを取り……優馬に近づけてきた。
「はい、あーん」
こんな飲食スペースながら図書館という公共の場で、それは良いのだろうか?
だが辞める気配は無い、覚悟を決めて頂いた。
「……美味しいです」
「うふふ、良かった〜……やってみたかったの」
ならばと優馬はプチトマトを取り同じようにやり返した。
「あーん」
「え?……ん」
まさかし返されるとは思ってなかった桜は、驚きながらも受け入れる。
「……ふふ、恥ずかしい」
「ここじゃやっぱりダメですよ……」
「じゃあ二人きりなら良いの?」
「……それはまあ」
少し周りの視線を感じる、側から見れば付き合い立てのカップルにしか見えないだろう。
お付き合いはしてないのだが……
気恥ずかしさはあるが、それ以上に桜と居れるあと僅かな時の方が大切だ。
ゆっくりゆっくりと作ってくれたお弁当を味わいながら、あと少ししか無い事を考えていた。




