表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春の風夏の桜  作者: かずや


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/27

貴方のために


 夏休みが終わるのは八月の最終週、その時までもう十日も無かった。

 

 夏祭りから盆を越えて桜とはメッセージや通話のやり取りはしていたが、会えてはいない。

 不思議なもので夏の始まりからほぼ毎日会っていたのが途切れると、反動からか会いたい気持ちは強くなる。

 優馬は振り切る様に勉強に没頭した。

 だが、その勉強も「ほらここ違うよ」と言った声がどこか聞こえてくる。

 完全に桜ロスだ。

「桜さん、寂しいです」

 そんなメッセージを送ってしまう程だった。

「私もよ……だけどこんなんで夏終わって離れられるのかしら」

 若干呆れ気味な返信、ごもっともな懸念だ。

 勢い任せなので芯からのものでは無いが、気持ちは寂しいのだ。


「明日、待ってるからね」

 明日には図書室がまた開放される、夏祭りぶりに会える日だ。

 そう、気持ちが抑えられずに盛り上がり……キスをし合ったあの時ぶりに……

 そう浮かんできた優馬は、堪らなく恥ずかしさが込み上げてきた。

 あの時は祭りの雰囲気に過去の独白、お互いが一番好きである事を確認出来た勢いだったが、日が空き冷静な今やどんな顔して会えば良いのかだった。

「参ったなぁ……」

 嬉しいのにどうしようと悶え転がる優馬であった。


 ——翌日

 胸が高鳴る、これまでもあった事だが関係が深まった今は少し違った高鳴りになる。

 久しぶりに会う嬉しさと緊張が混じり合って情緒がおかしい自覚がある、いつものように迎えてくれるのだろうか。

 そんな事をぐるぐる考えていれば図書室前だ。

 早く会いたい、その気持ちが先走り図書室の戸を勢いよく開けて中の図書委員を驚かせてしまった。

「す、すいません……」

「お静かに」と注意を受けてから中に入る、いつもの一番奥の死角になる一席。

 優馬の想い人は今日も変わらない眩しさのまま、本を広げて待っていた。

「ふふ、おはよう優馬君」

 普通に挨拶をされて拍子抜けしてしまう、しかし耳が赤いのは見逃さなかった。

「桜さん、おはようございます……もしかして」

「……もしかして?」

「平静を装ってます?」

「……バカ」

 どうやら桜は桜で抑えているようだ、その事が知れて自分だけが舞い上がっていた訳じゃないと安心をする。

「ほら、図書室は勉強しに来たんでしょ」

「……桜さんに会いにも」

「……バカ、早くしないとお昼までよ」

 クールに見えて結構意識しているようだ。

「可愛い……」

「本当にもう……サッサと準備する」

 ひとしきり恥ずかしさを共有したところで、優馬はいつもと違う参考書を出した。

「あら?……警察官の道?こんなのもあるのね」

「一年間勉強をして迎えに行く為です」

「うふふ、じゃあ期待しておこうっと」

「必ず合格します……必ず」

 気合いを入れて参考書を読み解く、夏休みの課題は終わっているが、今後は一人で問題と付き合っていかなければならない。

 もうすぐ桜から貰えるアドバイスが無くなるのだから……

 図書室の静かな空間、人も少ないし会話も大きくは出来ない。

 だけど同じ空間に居られる幸せを噛み締めていた。

 桜はジッと優馬の参考書を見つめている、勉強しようと思わなければ見る機会が無いタイプの本だ、興味があるのだろうか。

 桜は静かにペンを持つ優馬の手に自身の手を重ねた。

「優馬君は凄いね、こんな専門的な事に自分から飛び込んでいけるようになったんだもん」

 すりすりと手を擦られる、くすぐったいが心が落ち着いていく。

「……桜さんのおかげですよ、警察官は約束を守りますので」

「うふふ、そうだね、皆を守るヒーローだもんね」

「……昔そんな事言ってましたか?」

「さあ?どうでしょうね」

 思い出したとは言え細かい事は覚えてない、もしかしたら幼い優馬は桜にそう言っていた可能性がある。

「どうして指輪をくれたの?」

 予想外の質問に固まる。

「それは……好きな子に泣いてて欲しくなかったからです……」

「そっか……だから私は泣かずに済んだんだ」

 ペンケースからおもちゃの指輪を取り出し眺める桜。

 優馬が贈った物ではあるが、まじまじ目の前で見られると恥ずかしい。

「私には最初から王子様が居たのね〜」

 わざと恥ずかしい事を言って反応を楽しんでいる。

「……勉強中です」

「あら、失礼」

 イタズラな笑顔で指輪をしまい、今度は何も言わないで優馬を眺める。

 桜のイタズラに顔を赤くしながら、参考書を読み進めるのであった。


 気付けば昼前、図書室も時間だ。

 午前中しか会えないのが惜しく感じる。

「ね、明日はお昼一緒に食べよ」

「はい、喜んで」

「私が……作ってくるから」

 作る……?一瞬考えが飛んだがすぐに弁当を作ってくれると理解した。

「え?桜さんが?」

「ええ、頑張って作るから」

 手料理を食べれる機会があるなんて思ってもなかった。

 優馬はガッツポーズが抑えれなかった。

「あまり期待しないでよ?普通のしか作れないから」

「俺にとっては何よりのご馳走ですよ」

「それで明日はここじゃなくて図書館に行きましょう、食事スペースもあるし、一日居られるから」

「はい、楽しみだなぁ……」

 

 思わぬイベントに優馬は笑い、桜も微笑む。

 二人の間には甘い空気しか漂っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ