桜の手紙
——夏乃桜は手紙を書く。
僅かとなった優馬との時間。
始まりは友達が居なかった子供の頃、彼はいつも気に掛けてくれた。
一つ年下だったけど優しくて堂々としてて、一人だった自分を見つけてくれた。
小さな公園でブランコを漕いで時間を潰すだけだったあの頃を、彼が引っ張ってくれた。
ジャングルジムに登り、ボール当てをしたり。
そんな事が新鮮で楽しかった。
一回目の別れは祖父母からの「京都に来て」の一言だった、両親は「勉強の為だから」と決定事項で異論は認められない。
折角自分を見つけてくれた彼と離れる、そう思うと涙が止まらなかった。
引越しの前日に公園で泣いた、思い出が詰まった場所の最後の景色になる。
滑り台の上から全体を見てまた泣く。
そんな時だった。
「泣かないで」
優しい声がした、振り返ればヒーローのように立つ優馬が居た。
隣に座りお話をする、引越しちゃう事からもう会えないかもと言う事。
「そんな事ない!」
彼は力強く否定した。
「俺が迎えに行くから!」
そう言って手に何かを持たせた。
プラスチックで出来たおもちゃの指輪。
「それが俺の代わりに守ってくれるから、だから泣かないで」
今思えば泣き止ませる為の行動だったのだろう、だけど心の底から救われて励まされた。
「また会いたいな」
「だから言ってるじゃん、迎えに行くから」
「うん、待ってるよ」
こうして、初恋の彼とは離れ離れになった。
京都に移って祖父母と暮らす日々にも慣れた頃、祖父に工房へと連れて行かれた。
機織り機で綺麗な糸を紡ぐ、まるで宝物みたいに輝く西陣織。
「桜、これからはお前が守ってくれ……すまんな」
謝りながら祖父は仕事を見せ、教えてくれた。
中学生活をやりながら三年間じっくり教え込まれた。
工房で働く人は皆、お爺ちゃんやお婆ちゃんばかりだ。
だが誇りを感じた、絶やすことは出来ない受け継がれた伝統文化。
学生生活で見れば暗い時期だろう、県外から来た身で友達は出来ず、学校が終われば仕事を教え込まれるだけの時間。
中学三年になり高校をどうするかの時期だった。
祖父は倒れ……程なく亡くなった。
最後の言葉は「桜、すまんな」だった。
何に謝っていたのかはわからない。
自身の時期も高校選びの時期、祖母と両親と話し合って一度帰る事を決めた。
両親の「せめて高校生活は、これからの人生を犠牲にするなら……」そんな願いも祖母に訴えていたらしい。
祖母も頷き、元の地元の高校へ編入が出来た。
しかし、人付き合いが下手だった自分は友達が作れず、特殊な家庭環境も相まって独りでいる事が多かった。
全く喋らない訳ではないが、同世代と話がうまく合わない事から壁を感じてしまう毎日。
そこに追い討ちの様に「桜、高三の夏の終わりには単位が取れている……そこでまた京都で生活してもらう」
両親から苦痛の表情と共に知らされる。
正直言えば、青春は出来ないと諦めていた。
友達が出来ない中で卒業まで独りだと、そう考えたらすぐに高校も辞めたかった。
だけど、ペンケースを開けると見えるおもちゃの指輪。これだけは変わらずに自分を守り見てくれている。
指輪が自分の心を折らずにいてくれた。
高校三年生、周りの評価は「夏乃は家業継ぐから勉強しなくていい、羨ましい」との評価で一律されていた。
皆は進学や就職の為に勉強が必須となるなか、自分だけがその輪からも外れている。
夏休み前には精神的に参っていた。
好きで生きてる訳じゃない、選択肢を選べない学生生活しかできなかった、どうして羨ましいなんて言われるのか。
様々な思いが渦巻いた。
「疲れちゃった」
自分ではどうする事も出来ない事に、精神をすり減らしなるべく一人になれる図書室へ向かう階段を上がる最中だった。
ドン
腰に何か当たり振り返れば、スローモーションのように男の子が階段から落ちそうになっていた。
「危ない!」
咄嗟に男の子を掴んだが完全には間に合わなかった。
まだ階段が浅い所だったのが救いで、お互いに軽く転んだ程度で済んだ。
「すいません!大丈夫ですか!?」
その声に記憶がフラッシュバックする。
男の子の顔を見た時は全身雷に打たれたようだった。
(嘘……そんな……)
そこからは正直あまり覚えていないがテンションが上がっていたような、高揚感に舞い上がっていたと思う。
そこから一緒に図書室へ行き、名前を聞いた。
「春風優馬です」
(優馬……確かにそう、間違いない……)
「私は夏乃桜、よろしくね?」
運命はあるものだと短い人生で思った。
暗いところに居た自分を確かに迎えに来てくれた。
忘れられてても良い、私が覚えているから。
初恋の人、春風優馬。
また会えた時から青春が動き出したの。
ありがとう、迎えに来てくれて。




