花火と過去
祭り会場を離れ、住宅街を歩く。
「優馬君?こっち花火会場じゃないよ?」
「……大丈夫です、合ってます」
優馬は記憶を頼りに住宅街を抜け、桜と共に小さな公園に辿り着いた。
「良かった……まだあった」
優馬は息を吐く。
「……優馬君もしかして」
「さあ、あそこ登れます?」
優馬が指指したのは滑り台だった、そんなに大きくはないが浴衣の桜は気を付けないといけない。
手を支えながら一番上に二人で登る。
「……どうしてここなの?」
桜が聞いてくる。
もう察しているようだ。
優馬は深呼吸をして話し出した。
「気になったのは桜さんに言われた時からです、昔から好き同士だったって」
「そうね、じゃあ繋がったんだね」
「はい、確信した……いや、思い出したのは海の翌日でした」
「……どうして思い出してすぐじゃなかったの?」
「俺に夢がまだ無かったからです、力も無い。だから約束を守れないから」
「……優馬君」
「でもやっとこの夏で見つけれた、後は力を付けるだけ」
優馬の眼は自信に満ちていた、桜もそんな優馬を見て微笑んだ。
「本当はあのおもちゃの指輪で思い出すべきでした、すいません。あれは……俺が初めて贈った物」
「……うん、貴方から貰ったんだよ」
「小学校の時、俺と貴女はここに居た」
「そう、こんな風に座ってね……あははちょっと私達大きくなっちゃったね」
あの時はまだ二人で並んでも余裕ある滑り台の上だったのに、今はピッタリ密着している。
「あの時の約束思い出した?」
「……はい」
子供の頃の話だ、よく遊んでいた女の子が引越しすると聞いて、居ても立っても居られずおもちゃの指輪を渡して優馬は言ったのだ。
「大人になったら迎えに行くから」
拙い記憶でも思い出せばその時の風や匂い、感情までもリアルに映し出す。
あの時の少年は確かにそう言って、好きだった女の子を送り出したのだ。
「……まさか、二回も言われちゃうなんてね。絶対迎えに来てくれるんでしょ?」
「はい……まだ大人じゃ無いけど、二回約束しました」
「うふふ、本当に君は変わらないまま。真っ直ぐで優しくて」
「桜さん……すいませんでした、一度貴女を忘れていた事」
「子供だったもの……でも、階段でぶつかるなんてびっくりしたわ……運命かしら?」
ニヤリといつものイタズラ顔を見せながら言ってくる。
「あの時に俺だって気付いてたんですね……」
「私、記憶力が良いのと……ずっと嬉しかったからかな」
「あんなおもちゃの指輪で……?」
「あれはきっかけになる物だけど、私にそんな約束してくれる人が世界に居るなんてと思ったのよ」
「なんですぐに言ってくれなかったんですか?」
「それは……だって、恥ずかしいじゃない、初恋相手なんだから」
思えば優馬自身もそうだった、初めて恋した少年の頃と二度目の恋は同じ相手。
逆の立場なら恥ずかしいだろう。
桜はギュッと腕を組み肩に頭を乗せる、この時を刻むかの様に……
ドン ドン
遠くに花火が見え出した、距離的にそんなに遠くは無かった。
「ちゃんと見えるね」
「はい」
「最後の夏が君と一緒で嬉しい」
「はい」
「ね、こっち向いて」
「はい」
元々近かった二人の距離は更に近づいて、距離を無くした。
お互いの壁を更に無くす様に唇同士が触れ合う。
「……しちゃったね」
「……はい」
花火の明かりはあるが、公園は薄っすら暗いままで良かった。
今は顔を見れない。
お互いがそのままで身体を預けあって座るだけだった。
あの日約束した女の子はまだ迎えにはいけない。
だけど、もう約束は忘れる事は無い。
時を経て、この場所は忘れられない場所と時間に変わったのだと優馬は、滑り台から見える花火と横の桜を交互に見て微笑んだ。
「ん〜!花火終わったね」
花火は打ち上がり切って公園の側も祭り帰りの人がちらほら見えてきた。
「皆、思い出になるんでしょうね」
「私達もね」
「……はい、忘れません」
「宜しい、では帰りましょうか」
「あ、送ります」
「ありがとう、じゃあ最後まで面倒見てね?」
「あはは、喜んで」
優馬と桜は手を繋ぎ帰宅の途に着く。
今日あった事は夢では無い、お付き合いもしてないけど現実だ。
この夏も終盤になってきた。
せめてこの時だけはずっと一緒に……優馬は強く願い手を握る力を強め、「同じ想いだよ」と答えるように桜は握り返してくれた。




