夏祭り
——夏祭りの日。
隣町開催の夏祭り、屋台も出るし花火も規模が小さいながら上がる予定だ。
優馬は桜に選んで貰った甚平を着て待ち合わせの場所まで向かっていた。
「懐かしいな……」
祭りに湧く街並みを眺めながら呟いた。
元々住んでいた街だ、中学生になる頃今の家に引越したが、然程離れてもおらず子供の頃の思い出はこっちの方が濃い。
記憶を頼りに道を進み、会場になっている神社が見えてくる。
地域的に見れば大きな神社で近くに川もある、花火はそこから打ち上げるようだ。
まだ夕方に差し掛かる時間、それでも人は多い。
優馬は想い人はどこか探す。
待ち合わせに指定した場所、そこに手鏡で化粧をチェックする桜が見えた。
「桜さん」
「……!」
チェック中に声が掛かったからか露骨に慌てている。
(可愛いな)
「もう、タイミング見てよ〜」
「あははすいません」
ぽこぽこ叩かれてから、改めて桜を見る。
白の浴衣と思っていたが実物は薄っすらピンクが入っていて優しげな雰囲気を醸し出す、髪は纏めて髪飾りにプレゼントした桜の花びらモチーフの髪飾りを着けてくれている。
全体が「桜」と言う感じで夏の時期には外れているかもだが非常に似合っていた。
「桜さん、凄く似合っていて綺麗です……生地少しピンクなんですね」
「うふふ、ありがとう。髪飾りも桜だし嬉しいよ」
くるっと一回転して全体を見せてくれた動きが可愛らしい。
(綺麗だし可愛いし……)
少し惚けてしまう。
桜はそんな優馬を見て言う。
「大丈夫よ、優馬君も似合ってるし私と雰囲気ぴったりだよ」
そっと寄り添われ呟かれれば、流石に照れてしまう。
「あれ〜赤くなってない?」
イタズラっぽく頬を突かれる。
「良いじゃないですか……さあ、いきましょ」
「うふふ、行こうか」
こうして二人の夏祭りが始まった。
思っているより屋台の数は多い。
価格はもちろんお祭り価格ではあるが、それは仕方がない。
「何か食べます?」
「うーん、迷っちゃうね……あ、凄いペンライトなんか売ってる」
昨今の祭りも色々と進化しているようで、結構ピカピカ光り物になっている物が多い。
食べ物も聞いた事の無い、どこか海外の片手で持てるタイプの物もある。
割としっかり二人で目移りしてしまう。
それがまた楽しかった。
「じゃあまずこれで」
「やっぱり定番が良いよね」
そんな二人で選んだかき氷を持ち、飲食スペースに確保された広場へと着いた。
道中色々あったが、広場に来て櫓に気付いた
「あれって盆踊りの櫓かな?思ってた以上に大きいんだね」
桜はかき氷を食べ祭りの雰囲気に身を任せている。
(この時間が続いたらな……)
自分ではどうしようもないが、やはり惜しくなってくる。
「さ!次はどれ見ようか?」
桜は楽しそうに笑い手を引く、今が本当に楽しいと思わせてくれる。
桜もきっと本心から楽しんでくれているだろう。
「ちょっとお腹空きましたし、イカ焼きとか食べたいです」
「良いね〜じゃあ私はお好み焼きにしようかな、シェアしちゃお!」
「はい!」
二人で屋台目掛けて歩いて行った。
時間が進むにつれ人の多さも増えてきた。
花火はここからも見えるし、川の方にも観覧スペースがある。
花火が始まるまではこちらの屋台があるエリアがメインだろう。
そして、人が集まる場所と言う事は偶然か必然かクラスメイトにも出会う事となる。
「春風!春風じゃないか!」
優馬を呼ぶ声がして振り向けば同じクラスの面々が見えた。
「お前今日予定がって……あれ?そちらの方は……」
横にいる桜の存在に気付いたようだ。
クラスメイト達からも祭りに誘われていたし、夏の遊び予定もクラスチャットで日々計画もあった。
だが優馬は全てを桜優先にしていたので、夏休みに入って後半にクラスメイトの顔を見る。
そんなクラスメイトは優馬と桜の組み合わせに驚き、先輩である三年生と気付いてより驚く。
「皆、悪いな俺今日はこの人と一緒に周るから」
桜は皆にニコリと笑って会釈して……手を絡めた。
そして、皆に「そっちも楽しんでな」と言い人混みに紛れていく。
「桜さん?」
手を握ったまま少し俯いた桜は、名前を呼ばれて顔を上げる。
「お友達には申し訳ないけど……嬉しくなっちゃった」
「え?」
「私を皆よりも優先してくれてた事……」
「……はい、だって一緒に居たいから」
「……ありがとう」
恐らくクラスメイト達は桜を「彼女」だと認識しただろう。
厳密には違うが、関係性はどうでも良かった。
隠すつもりも無ければ公にする必要も無い。
優馬にとって桜が好きで焦がれているのであり、桜もまた優馬を想っている。
その事実だけで良かった。
日は落ちきり時間は花火の時間まで少しとなった。
「桜さん……ちょっとこっちへ」
「え?」
優馬は桜の手を握り祭りの会場を離れた。




