夢の話
夏祭り用の甚平も用意できた翌日、夏祭りまではまだ一週間程ある。
いつものように図書室で二人勉強と読書をしていたが、妙に気分が乗らない優馬。
そして、どうも集中が続かない桜。
そんな二人は同じタイミングで声を掛ける。
「ね」
「あの」
被った事にどうぞどうぞと譲り合いをするが、ここは先輩の桜からにしてもらった。
「あのさ……外に出ない?」
「……俺も同じ事言うつもりでした」
どうやら互いに今日は集中が出来ない日だと感じていたようだ。
クスリと笑い合って荷物を纏める。
特に当てもないが校舎を出て駅に向かう、駅前なら何かしらの店が集まるものだ。
「しかし……今日も暑いわねぇ」
8月の盆前、暑さもピークか容赦無いアスファルト熱と太陽の照り付けだ。
「海より暑いかもしれないですね……」
あの日行った海も暑かったが、質が違う街の暑さに参ってしまう。
「あ……」
桜が足を止める。
「ここは……桜さん、少し寄っていきましょうよ」
桜の手を引き中に入る。
そこは少し大きな市の公園、遊具もあるが日陰のベンチが有り難い。
ベンチに桜を座らせ、優馬は見えていた自販機で飲み物を買う。
「はい、桜さん」
「え?良いの?」
「ええ、ちょっと休憩しましょうよ。熱中症になっちゃう」
「ふふ、ありがと……じゃ遠慮なく」
スポーツドリンクのフタを開け、飲んでいく動作。
それだけなのに目を奪われる。
(綺麗だな)
じっと見つめすぎたのか、桜は顔を隠して照れている。
「もう、そんなに見ないでよ〜」
「あはは、すいません……綺麗だったから」
「……もう」
最近になって更にストレートに感情を言葉に表すようになった優馬。
心の中では別れの時間が迫ってきている事を感じている。
この夏だけの思い出、桜への想い。
桜も優馬に対しての言葉やボディタッチがストレートになっている。
お互いに好きを隠せなくなってるし、隠すつもりはもう無かった。
ただ、お付き合いは出来ない。
互いに想い合う事を知って、この夏だけだと理解している。
(それで、良いんだ……)
優馬は胸が痛い程に理解している。
本当ならば桜を奪い去りたかった。
だが、そこまで非現実な事は出来ないし、現実的な力も無かった。
トンっと額を小突かれた。
「難しい顔しちゃってる」
桜が覗き込む。
無意識に考え込んでしまったのか、変な心配をさせた事に優馬は反省をする。
「優馬君は優しいから背負い過ぎちゃうの、自分の力量以上でも構わずに……だから力を付けて多くの人を救ってね?」
「背負わなくて良い」、でなく「背負うなら力を付けろ」と言われ優馬は笑ってしまった。
「桜さん、俺はいつか貴女を救えますか?」
自然と出た言葉だった。
別に桜自身は囚われたり、不幸だなんて自分からは言った事は無い。
もしかしたら、そんな事は思ってないのかもしれないが優馬には囚われの姫として映っていた。
「もう救われてるよ」
桜はそう言って優馬を抱き寄せ、頬にキスをした。
「桜さん……今……」
次の言葉を紡ごうとしたら桜の指が優馬の口を塞ぐ。
「ふふ、今は恥ずかしいから何も言わないで」
顔は赤いが目を逸らさず見てくる桜に何も言えなかった。
「私ね、この夏で人生の青春全部取り返せたんだ」
桜は語り出す。
「昔から家の都合で引越しばかりで友達も作れず、将来何になるかも生まれた時から全部決められてて……」
木々の葉から漏れる木漏れ日に手をかざし、桜は空を見上げる。
「でもね、君が約束をくれたの。君が救い続けてくれたの」
「約束……」
「そう、私でいられた約束。そして優馬君は夏に全部を守ってくれた。君は私の大切な人」
「……俺にはまだ力が無いです、だからこの夏桜さんから教わった事ずっと考えてました」
優馬は夏休みの公園で遊ぶ小さな子達を眺めながら言った。
「俺、昔の夢思い出したんですよ」
「あら?何かしら?」
「……警察官になりたいって小学生の頃描いてました」
「……ふふっ優馬君らしいよね」
「あの頃は漠然とした夢だったけど、今は違う。なる為の方法や試験なんかが分かる歳になりました」
子供の頃は憧れで、時が経てば忘れていく。
そんなものだろうし、それが大半の人だと思う。
優馬はその憧れと憧れになる為の方法が分かりリンクした時、道を見出していた。
「優馬君の得意分野から現実に繋がったんだね」
「教えてくれたのは桜さんです」
「お役に立てて嬉しいよ」
「桜さん」
優馬は姿勢を正し、桜を見据えた。
「俺が成人を迎えて警察官になったら迎えに行きます、それまで待ってて下さい」
桜は目を見開き涙を一筋流した。
「うん……待ってるからね」
優馬の夢は警察官となり「桜を迎えに行く」
それが人生の夢として見出した道だった。
「救いに行きます」
「……うん」
重ね合わせた手は夏の暑さとは違い、熱いもので出来ているようだった。




