甚平
——約束から二日後
「桜さん!」
待ち合わせの駅で見つけた恋する人に声をかける。
だが少し疲れているように見える。
「あ……優馬君!おはよう!」
「おはようございます……何か疲れてませんか?」
「え?……あはは、色々何が優馬君に合うか探していたら夜更かししちゃって」
まさかの自分の為に労力を割いてくれた事での疲れだった。
有り難くも申し訳ない気持ちで一杯になってしまう、自分の服は軽く考えてくれたら良いのに。
「悩んだ分良いのがピックアップ出来たから楽しみにしててね」
微笑みかける桜は優馬の手を引いてホームに歩き出した。
自然と手を繋ぎ、そっと横に立つ。
優馬にとっていつまでも胸が高鳴り、落ち着くスタイルだった。
電車に揺られ三十分程、優馬は初めての街に来た。
てっきり水着を選んだ時の商業駅辺りに行くものと思っていたが、着いたのは寂れても無いが栄えてるとも言い難い静かな場所だった。
「桜さん、ここに店が……?」
「そうよ、古着屋さんが何店舗かあって知る人ぞ知る地域なの」
やはり織物の道に進む桜だから詳しいのだろうか?
とりあえず二人で歩いていく。
進む程に住宅街になって店等あるのかと心配になってしまうが、「ここだね」と一軒の店に辿り着いた。
少し古い建物に見えるその場所は小さな看板しか無く、入るのに戸惑う空気感だ。
「こういう所に掘り出し物があるんだよ」
そう言って桜は、お構いなしに手を引き店に入る。
中に入ってみれば割と綺麗な内装、そして目を引いたのは一面和服が陳列しているエリアだろう。
様々な柄の浴衣や着物、甚平なんかもある。
「おぉ、すご……あれ?でも和服だけ?」
「ふふふ、そうよ。私が浴衣なんだから優馬君にも和装してもらいます」
楽しそうに選ぶ桜を見れば断る事は出来まい。
ただ、着れるかどうかが問題だ。
「本当は浴衣が良いんだけど予算オーバーしちゃうから甚平にしようか」
しっかり考えられていて有り難い限りだ。
しかし、甚平もまた種類がある。
意外とカラフルな仕立てされている今時の柄だったり、誰が着るんだと言ったゴールド仕様のパーティグッズみたいな物まで。
店は小さいがバラエティに富んだ品揃えだ。
(桜さんとじゃなきゃ、間違いなく知らない店だったろうな)
よくこんな所を知っているなと感心してしまう。
「はい、コレ羽織ってみて」
一つ選ばれた甚平は基本の形に一本真っ赤な刺繍で、ワンポイントに蝶が刺繍されたものだった。
とりあえず羽織鏡を見る。
甚平姿の自分に普段と違う雰囲気は感じる、だが似合ってるかどうかはよくわからない。
「あはは、似合ってるよ!」
桜は笑っているが、これは笑われているのでは無いだろうか?
「桜さん笑ってません?」
「いや、だってサイズが合ってなくてパツパツなんだもん」
確かに着にくいとは思ったが一回り小さいようだ。
「デザインは良いけど古着だからサイズだけが問題ね〜」
カチャカチャと次の服をピックアップしだしている桜、そこからスイッチが入ったみたいだ。
次から次に着ては桜のチェックが入り、スマホと見比べたりして優馬は着せ替え人形のようになる。
五着程着たところで候補を絞る。
「私の浴衣がコレだから、お互いに合うのが良いんだけど優馬君の好みは?」
「え、ここで僕に振ってきますか……?」
なかなかの難問である。
サイズは合わせた物なのでそこは心配要らないが、デザインと桜に合わせた立ち方が出来る一着を選りすぐらなければならない。
優馬の頭はフル回転するが、「合わせる」のセンスが無い事を恨めしく思ってしまう。
「お悩みね〜じゃあせーので指しましょうか?」
「違っても怒らないで下さいね」
「怒らないわよ〜ほら、せーの……」
桜と優馬、共に一着の甚平を指した。
「あ、一緒」
柄の名前はわからないがよく見ると大きく格子状に浮き上がって見える模様、鮮やかな青を基調に濃淡が出来て大人っぽく見える。
これなら白を基調に、花をあしらった模様の桜の浴衣に合うだろうと選んだのだ。
「ふふ、じゃあ決まりね!」
「はい!……ん?」
死角で見えなかったコーナーが目に入る。
「あれは……」
「どうしたの?」
「桜さん、こっちへ」
桜の手を引きそのコーナーへ向かった。
キラキラとどれも輝く髪飾りがそこには有った。
「髪飾りだね……優馬君がするの?」
「いや、まさか!」
茶化されながら一つ手に取り、桜の頭に合わせる。
「……俺が選んだ物着けてくれますか」
「……良いの?」
「着けて欲しいんです」
「……ありがとう」
色々ある中だったが、優馬は一つに強く惹かれた。
桜の花びらを模した髪飾り、これしかなかった。
「名前のままだね〜……でも、嬉しい」
こうして無事に甚平と髪飾りを手に入れた。
時間はまだあるし、どこかで休もうと駅に向かう最中に桜は呟いた。
「また、貰っちゃった」
「……」
優馬はその言葉を静かに聞いていた。




