知ること知りたい事
再来週に夏祭り花火大会のお誘いはしたが、優馬にはその間でやるべき事があった。
「ふぅ……進まない……」
「あらあら、優馬君ここから全部間違ってるわ」
「うえぇ……」
夏休みの課題を片付けなければ動けないのだ。
ただ、成績優秀な桜に見てもらえるのはありがたかった。
「桜さんはどうしてそんなに頭良いんですか?」
「どうしてって言われても、授業をちゃんと聞いてれば分かるはずなんだけどね……」
ごもっともな事だ。
何も返せない。
「優馬君は得意な科目は?」
「体育です」
「……うん、だろうね」
さすがに桜も苦笑しているが、優馬は至って真面目だ。
「じゃあさ、一旦課題を止めて優馬君の得意から見て行きましょう」
「得意……体育っす」
「さらに広げてみるの」
桜は紙に体育→と線を幾つか書いた。
「これを広げて参考にしてみましょう、私ならバレーかな」
バレーと書き足し次の矢印に移る。
「バレーと来たら背が高い」
「背が高いときたらモデル」
「モデルならカッコいい」
こんな感じで連想ゲームのように繋がっていく。
やり出すと面白い。
少しずつ桜は変化をつけてきた。
バレーの先に「怪我」と入れた。
「……怪我、なら治す」
「治すなら……お医者さん?スポーツドクターかしら?」
「確かにそんな道もあります……もしかして誘導を?」
「誘導まではいかないけど、こうしたら得意じゃ無くとも気付いて繋がる道ってあるのよ」
なるほどと優馬は思う。
漠然と身体を動かすのが好きだったが、それを活かす進路の参考にはなる。
「夢まではいかなくとも指標が見えてるとやりやすいでしょ?そしたらやっておいた方が良い課題の内容が出てくるの」
「先々の為に……」
桜は頷く。
「私は決められた道かもだけど、優馬君は選択肢がある。それは見つけにくいようで繋がるモノ、探してみてね?先輩からのアドバイスよ」
「少し探してみます」
優馬は闇雲に消化する夏休みの課題を見直してみる。
好き嫌いではなく得意とする分野から伸びる先の道、関係する道。
探していけばなんでも出てくるし、それだけ社会は複雑に数多くの物が絡み合って形を成している。
運動は得意な優馬だがプロスポーツが特別好きな訳じゃない、まして選手になるのは考えてなかった。
だからそこで途切れる、その先に絡む糸を見ていけば選手を補助する様々な職種、使われている道具を手掛けるメーカーや職人が居る。
更にそこからも糸は伸び……落ち着いて見ていくと語学が必要になったり科学知識や人体工学が必要だったり。
優馬ももう高二の夏、ぼんやりでしかなかった進路も形作らなければならない中で桜から気付かされた道は大きかった。
「少しは参考になるかしら?」
「ええ……勉強の仕方も変わります」
「うふふ良かった、でも出された課題は全部やった上でだからね?」
「……う」
現実は甘くはない、必要な物も必要で無い物もひっくるめてミッション化されているのが高校生だ。
「……それが、私には羨ましい」
「桜さん……」
桜はその理から早々に外れている、それが幸せな事かは別だが選ぶ行為は出来ない事に思う事はあるだろう。
「ううん……ごめんね、さ!夏祭りまでに終わらせよ」
「……はい、じゃないと行けなくなっちゃいますから」
図書室開放の時間は昼まで、僅かな時間を桜と一緒に居たいのだ。
桜に教わりながら先を見つける為、目の前の課題をこなす毎日が始まった。
五日間程集中してやれば規定の課題はクリア出来た。
過去最速ではないだろうか。
目標があればここまで力が出る物かと感心してしまう。
「お疲れ様、凄いね一気に終わらせちゃった」
「桜さんのおかげです」
「私はちょっと教えただけよ」
照れを見せてはにかむ桜に優馬も笑みが浮かぶ。
「でも優馬君良いの?友達と遊んでないでしょう?」
「……俺は今は桜さんだけで良いから」
「……そう、嬉しいな」
好きを溢れさせ自覚し、表に出すのも気恥ずかしいが躊躇う事は無い。
恋人とは呼ぶことが出来なくても両想い人ではある。
時間限定の、この夏だけの……
「明日、街に買い物行きませんか」
優馬は桜を買い物デートに誘った。
「良いよ、でも何か買うの?」
「夏祭りの服を……桜さんに見繕って欲しいなって」
「うふふ、優馬君乙女みたいね〜」
「な!……」
まさか乙女扱いされるとは思わなかった。
だがまあ言ってる事は、あまり男らしくは無いかもしれない。
優馬は桜から何かを選んで欲しかった気持ちなだけだった。
「あ、それじゃあ明日じゃなくて明後日でも良い?」
「え?それは構いませんけど何かあるんですか?」
「私は夏祭りに浴衣着るからチェックして調べたいの、なるべく二人の雰囲気が合うようにね?」
桜は自分の浴衣に合わせた優馬の服を探したいのだろう、出来れば優馬も浴衣が良いのだがお値段が張ってくるのがネックだ。
「大丈夫、私が良い価格で手に入る所探すから!ちなみに予算は……」
何かのスイッチが入った桜は優馬から予算や好きな色なんかを聞きつつ「パーソナルカラーは……」と優馬を眺めたり体型を診断したりして細部までチェックしている。
若干恥ずかしいがウキウキな桜を見たら、恥ずかしさは吹き飛び愛おしく思えていた。
様々な情報を控えられて図書室で解散をした。
どんな事になるかが楽しみな優馬であった。




