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春の風夏の桜  作者: かずや


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11/27

好きの自覚


 ——好きだと自覚したら。


 優馬はもう以前のようには戻れなかった。

 心に浮き出る「好き」が色んな形で、色んな色で夏乃にフィルターをかけていく。

 ファンタジー世界の魔法だと言われても、いまの優馬なら信じる。

 それだけ世界が変わって見えた。

「取られたく無かった」とヤキモチしてくれたと理解した時から、綺麗だった夏乃が更に綺麗に見える。

 もっと見たい、もっと触れたい、もっと居たいと焦がれてくる。

 ずっと夏乃を見てしまう優馬の手に、夏乃は手を重ねた。

「君はかっこいいよ」

 そう言って、静かに手を重ね続けてくれた。


 日が傾いて夕日に染まる海へと姿を変える。

 人も少なくなってきた。

 そろそろ帰らなければならない。

 だが身体と心は動こうとしない。

 何も話していなくとも良かった、こんなにも満たされる事があるのかと優馬は今を感じていた。

 ようやく動きだせたのは、太陽が半分しか姿を見せられない時間だった。


 優馬は夏乃と出会って惹かれていた事は感じていた、だけどハッキリとした言葉には出さなかった。

 それはどこかで線を引いていたし、その線を越えようとしなかった。

 怖さがあったのだろう。

 そして優馬は人生で一番大きく線を越えた。


「先輩……好きです」


 自分でもあっさりと、線を越えた。

 それ程に「好き」が上回った。


「……うん、私も」


 夏乃は沈む夕陽に目を細めた後、優馬を優しく見て答えてくれた。

 ギュッと優馬の手が握られる。

 そして……


「でも、お付き合いは出来ない……」


 夏乃はそう呟いた、少し涙が見える。

 優馬は理由を聞かなかった。


「良いんです、俺は先輩……桜さんが好き、それだけで」

「……本当に優しいね、優馬君は」


 重ねられた手が肩に伸び、優馬は引き寄せられる。

 夏乃に抱きしめられた。

 

「私はこの夏が終われば京都に行くわ……」

「……そうですか」

「優馬君は優馬君の道を必ず見つけてね」

「俺の道……」

「ふふっ、変な話よね。道が最初から定められた人からそんな事言われてもね……」

「桜さんは逃げないんですか」

「……逃げたくなる事もあるけど、伝統工芸を守り続けた一族も想ってるの」

「……凄い尊敬します」

「ありがとう……優馬君には一つ教えてあげる」


 桜は抱き寄せた優馬を離して少し距離を取りだす、夕陽に向かってゆっくり歩くように。

 そして振り向き夕陽と重なり言った。


「私達は昔から好き同士なんだよ」


 その言葉の意味はすぐに理解出来なかった。

 ()()()と言う時系列がピンとこなかった。

 ただ、今その答えを出すべきじゃないと優馬は桜に返した。


「じゃあ……この夏で辿り着きます、まだ花火も夏祭りもあるんだから」


 優馬の率直な感想と想いだった。

 桜と居れる夏がどんな形で、どんな関係であれ、離れる事は頭に無かった。


「君は……本当に優しいね」


 一筋涙を流して桜は夕陽を眺めた。


 好きを溢れさせ謎を残して、海から帰った二人はいつものようにお喋りをしていた。

 ただ、互いの手を重ねていたり少し距離が近くなった。

「お付き合いは出来ない」

 桜の進む、伝統工芸後継者としての道で会えるのも夏で終わりになる。

 優馬は横で笑う桜を見て想いを馳せる。

 きっと昔から孤独だったのだろう、高校に入る前から進路は決められており、世間一般的な「高校卒業までは」と言ったところか。

 とても同年代では考えにくい状況だし、桜本人から勉強しなくていい子として浮いた存在になっている事を吐露されている。

 本人に選択できる道は無く、この先も決められている。

 そんな時に出会う男は一学年下の後輩。

 図書室で時間を過ごしていく内に「好き」が溢れた。

 しかし、もう時間は残り少ない。

 優馬は考える内に「自分には何も変えられない」と気付いた。

 夏の終わりまで寄り添う事しか出来ないと。

 せめて、もう一年。

 せめて、同学年だったなら。

 変えられない現実を憂い、桜に好きだと言う笑顔を見せるしか無かった。


 ——海の日の翌日

 スマホがメッセージを受信した。

「昨日は楽しかったよ!今日はさすがに身体が痛いから図書室は明日ね!」

 日焼け止めを塗っていたとは言え丸一日太陽の下で遊び倒した、優馬も身体がバキバキで動くのが辛い。

「桜さんもしっかり休んで、また明日」

 と、返し今日は休養に充てる。

 思えば大胆な事をした。

 勢い任せだったが「好きだ」と伝えた。

 確かに桜からも「好きだ」と返事は貰えた。

 恋人と呼べるのかは分からないが、関係は進んだと思える。

 そうやって思い返す内に、ぼんやりと何かが浮かんでくる。

 (……俺、初めてじゃない?)

 いつだったか忘れている、だが好きを伝えた記憶がある。

「……!」

 優馬は痛む身体を動かして昔のアルバムを漁り出す。

 生まれた頃から幼稚園、小学校と写真を見ながらその時の記憶を辿りつつ。

 一枚の写真に手が止まる。

 小学校の三、四年時だろうか。

 どうしてもこの時が気になり思い出す。

「……まさか」

 優馬はリビングへ走り母に詰め寄った。


 ——翌日

 図書室に向かった優馬は、いつもの場所で本を読む「好きな人」の下へ。

 彼女は変わらない姿でいつも通りに過ごしていた。

「おはよう優馬君」

「おはようございます桜さん」

 互いの呼び名が変わり初めての図書室、少し照れくさい。

 いつものようにいつもの場所に座り、桜を見る。

「勉強しないの?」

「します、その前に……」

 優馬は鞄から一枚のポスターを取り出した。

「ここに、行きませんか」

「どれ?……これって……」

 見せたポスターは隣町の夏祭り花火の案内ポスターだった。

「再来週になりますけど、夏祭りご一緒に行きませんか」

「ふふっ喜んで」


 桜は大輪の花を咲かせたように笑ってくれた。

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