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吸血鬼転生~最強なのに太陽の光で死ぬ俺は、唯一の希望”処女の血”を吸わせてもらうため、お姫様勇者のペットへと成り下がる~  作者: 兄貴
第二章

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第098話 兄弟


「――よ! 兄弟!」


 重厚とまでは過剰だが、決して安物ではない扉を開いて侵入したのは、男だ。それも、美しすぎる男。

 印象をそのまま言語化するなら、吸血鬼風男。これしかない。アクレミアが間違えるのも無理はないと思うほどに、その男は紛らわしかった。

 容姿端麗は勿論、ミステリアスな眼光、妖しげな色気――身にまとう空気感は貴族というより遊び人という感じだが、そのいい意味で軽い空気感が人の警戒度を下げるのに一躍買っている。現に俺も、気付けば仲良くなっていた。


 そう、この男こそが、何を隠そう生き別れた俺の実の兄。

 物語は遥か300年まで遡り、女神に騙された被害者は実は俺だけではなかったのだ。

 太陽の脅威へ立ち向かい、還らずの森から先に出て行った勇敢な兄と、300年引きこもっていた臆病な弟。両者は300年ぶりに外の世界で相まみえ、こうしてまた因果は巡り合う。


 だが、俺たちは吸血鬼。

 血を求める欲深き種族の再会は、血で血を洗うような戦いの序章。

 勝者は、この世に一人だけでいい。

 真の吸血鬼、そして世界の頂点を決める因縁の戦いが――


 今、始まる。


「すみません、うちテレビないです」


 ――わけもなく、俺は自称兄弟を部屋から追い出した。


「え?」


 人外の腕力にものを言わせ、友人のように部屋に入ってきた男を無理やり押し出す。

 こんなシンプルな撃退法で誰にも文句を言われないのだから、異世界は最高だ。大学生の時は一時間くらい玄関に居座られた記憶がある。


「は? ちょっ、俺だって! 兄弟! 俺だよ、俺!」


 怪しい怪しいとは思っていたが、今確信した。

 間違いなく詐欺師だ。少なくとも、グレーであることは間違いない。 

 だって兄弟とか言ってるし、オレオレとか言ってるし。怪しいことこの上ない。


(やっぱり犯罪者か……牢屋確定じゃん)


 高価な金属の内装で目をくらませられるところだった。

 壁を削ってちょっとくらい盗んでもバレないとか思っていた。危なかった。


 俺は両手で扉を抑え、何があっても開かないと心に決める。

 ルルワにも友達は選びなさいと言われたばかりだ。俺はご主人様の命令には絶対服従だ。


「お~い……きょうだ~い……」


「ほんとにテレビないんで。それに、俺Hがつくものとは極力関わらないようにしてて。まだ15歳なんで」


「またまた~今どきテレビ持ってない家庭なんてどこにもないよ? ほんとはあるんでしょ?」


「心の中にはあります」


 マイクロLDE液晶100インチ越え3D対応テレビがある。

 あくまで心の中にだが。現物はないので適用外のはずだ。


「受信はできる?」


「くだらないニュースばっかり流れてきます」


「じゃあ契約対象だ」


 そんなことはなかった。

 どうやら心のテレビにも集金してくるらしい。それとも何か、俺には電気信号があるから受信料が発生するとでも言いたいのか。


 扉越しの攻防。

 やはり、結局はこうなる運命さだめ。消費者と被消費者の悲しき戦い。

 だが、俺に怒りなどない。悲しみもない。

 彼も仕事でやっているのだ。どちらもその日を食っていくため、必死なだけだ。誰も悪くない。

 むしろ食う必要の無い俺の立場こそ危ういのではなかろうか。吸血鬼化のデメリットがこんなところにあるとは思ってもいなかった。


 だが、隙を見せれば骨の髄までしゃぶりつくされる。

 甘さは捨てるべきだ。心を鬼にして、俺は自分の幸せを勝ち取る。


「ムメイ、私よ」


「!」


 その時、彼女の声は聞こえた。

 瞬間、心の鬼は遥か彼方へと霧散する。


「ドアを開けて。受信料払えるよね?」


「キィ!」


 彼女に言われたら、俺に選択の是非はない。

 ドアは当然のように開けるし、一緒に外で遊ぶし、何なら雪だるまだって作る。

 受信料だって、どれだけ高額でも用意するだろう。全額貢いで、その結果身を滅ぼしたって構わない。


 ルルワは、俺の全て。

 俺は、彼女のためなら――

 

「よ! 兄弟!」


 扉を開けて、外の世界へと飛び出す。

 そこにいたのは、やはり詐欺師だった。




***




「――こいつは戦士のリサ、おっぱいがデカいで覚えてくれ。んでこいつは回復役のエリナ。おっぱいが超デカいで覚えると楽だ」


 男はトバルと名乗った。

 まるで自分の部屋のように入りびたり、ベッドに腰掛けて寛ぐ姿は、およそ来客とは思えない。俺が友達なら即刻縁を切っていることだろう。少なくとも二度と自室に招くことはない。

 風呂に入らずに他人のベッドに上がるのは、他人の冷蔵庫を勝手に開けるに等しい大罪。吸血鬼でも部屋に入っていいかくらいの確認はするだろう。つまりこいつは吸血鬼以下だ。


 ならばなぜそんな不届き者を室内に招き入れたのかと言えば、勿論ルルワのカワイイ声で篭絡されたから――というわけではない。

 その答えは――


「んで、最後が副リーダーのナアマ。元素魔術師だ。おっぱいもお尻もデカいで覚えるといいぜ。こいつら三人が俺の仲間だ、よろしくな」


「…………」


 商品の押し売りのように紹介された3人の女たちを、一人一人見るわけでもなく、俺はボケっと眺め続ける。

 3人が3人、滅多にお目にかかれないような美女たち。俺なんかではきっとお近づきにさえなれないだろう。

 つまり俺が彼らを部屋へと招き入れたのは、彼女たちの色仕掛けの賜物――というわけでもない。答えは単純、彼らは許可を貰ってここに来ているからだ。


 話を聞けば、彼らはこの国の王から直々に依頼を受け、ここにいるらしい。

 依頼内容は、吸血鬼の護衛。

 そんな重要任務がなぜ彼――トバルに出されたのか。そしてなぜそんな立場の男が牢屋に入っていたのか。色々と気になるところではあるが、ひとまずそれらは後回しだ。今は――


「ってなわけで、夜間の見張りは俺たち<赤き月>に任された。仲良くやろうや、兄弟」


「…………」


 俺は差し出された手を一瞥すると、その視線をトバルの背後に立つ女たちへとやり、一人一人を確認した後、元の場所へと戻す。

 そこからの一連は、いつも通りだ。ベッドの中央で丸くなり、両膝を抱え、ボーと正面を眺め続ける。空気なんか読まない。勝手にやってくれと全身で無関心を示す。


「おい、全然喋んねえじゃん。あんた嫌われてんじゃないの?」


「んなわけねえだろ。俺たちの仲を聞いてなかったのか?」


「椅子にしてたって話でしょ? あんたよく友達みたいな顔できるわね」


「こいつはそんな小せえこと気にするタマじゃねえよ。それに、ちょっとじゃれ合ってただけだよな? 俺たち友達だもんな?」


「イジメっ子かよ」

 

 いじめ加害者の手本のような言い訳をする男と、それが原因で怒らせているのではと当然の懸念を抱く女。

 トバルのすぐ後ろに立つその女性は、長身の美女だ。ナアマと紹介されていた。

 金髪に碧眼。俺が外国人で真っ先にイメージするような容姿。実際は中々いないそうだが、この世界では違う。

 トバルと髪色も目の色も同じため、もしかしたら同郷なのかもしれない。それとも、血の繋がりがあるのだろうか。

 

「紹介がスベったんじゃない?」


「男はああいう風に言った方が覚えやすいんだよ」


「ゴミを見るような目してるけど?」


「こいつは最初に会った時からこんな目だった」


「じゃああんたずっとゴミじゃん」


 一歩後ろで様子を見守っていた女たちも、男を責めるようにその周囲へとやって来る。

 華やかな美女たち3人がイケメンを取り囲む構図。どこかで見たような景色だ。俺の心のテレビにも映っていたことがある気がする。すぐにチャンネルを切り替えたが。

 そう、つまりは――


「おいどうしたんだよ。今朝は普通に喋ってたじゃねえか。まさか本当に忘れたわけじゃないよな?」

 

 ハーレム。

 それは、男の永遠の憧れにして、理想の極地。

 この男は、地球の男たちが願っても決して手に出来なかった大いなる夢を、この若さで手にしているのだ。


(…………出会った時から、なんか好きになれない男だと思ってたんだ。俺はずっと思ってた)


 もはや語るまでもないが、俺はハーレムが世界で二番目に嫌いだ。

 理由は普通に羨ましいからだ。ぶっちゃけモテない男の僻みではあるが、この歪みを隠すほど恥知らずではない。

 自分がしたいと思うかどうかと羨ましいかは全くの別問題。嫉妬に至ってはごく当たり前の感情だと、若干開き直りぎみに俺は受け入れている。


 だから女にキャーキャー言われている男を見ると普通にムカツクし、顔だけでモテてる男を見ると凄く腹立たしい。俺はそう思う男を情けないとは思わない。自分磨きにはそういう感情も絶対に必要だ。

 そんな俺が世界で一番嫌いなのが、キャーキャー言われている男を見て実際は気にしているくせに、表面上何のダメージも無いかのようにふるまう見栄っ張り男だ。そういう奴に限って裏でめっちゃ陰口言っている。男に対しても女に対しても。

 つまりは――


(女を不幸にする害虫め。俺が駆除しなければ……)


 これ以上、この世から不幸な女を生み出さないために。

 つまり、これは正義の行いなのだ。

 誰かが手を汚さねば、誰かを救う事などできないのだから。


「女がいるから緊張してんじゃね? 童貞っぽいし」


 ナアマと呼ばれる女がトバルの肩に腕をおき、頬杖をつくような姿勢でもたれ掛かる。それを、トバルはすぐに振り払った。


「男を馬鹿にする時、童貞くらいしか言うことない女って情けねえよな」


「そうね。童貞よりはやっぱりマシだけどな」


 なぜ童貞は確定で話が進んでいるのか。俺はまだ否定も肯定もしていないというのに。

 いや、まごうことなき童貞なのだが。俺はそんなに童貞っぽいのだろうか。


(反論するか? 「今は」は通用するのか?)


 「今は」で、昔は童貞じゃなかった――みたいな空気感は果たして演出できるのか。初めてのことだけに見通しが立たない。せめて彼女の有無に関して聞いてくれれば、まだ反論の余地があったものの。


(いや……駄目じゃん)


 彼女がいると聞かれても、答えは変わらなかった。

 いないと答えるしかない。この国では特に。だから精々、「今は」と付け加えるくらいしか俺にできる抵抗はないだろう。結局同じだった。


 そんなくだらないことを考えていると、ナアマは徐に隣の女の腰を抱き寄せる。非常に慣れた手つきは、凡そ違和感というものを抱かせなかった。

 遅れて何をしているのかと思えば、顔を歪めるトバルの気配で、薄々の事情を察する。正直信じられなかったが、もしかして――


「今に愛想尽かされるぜ? あと仕事中にイチャつくな」


「なら早く仕事ができるようにしてくれ」


「馬鹿が悪いな……どうした?」


 再び振り返ったトバルと、今回ばかりは意識的に目を合わす。そして、視線は背後の女たちへと。


「いや……彼女たちは?」


 声を潜めるようなことはしなかったが、言葉は極力包んだ。

 抽象的な問いにも、トバルはすぐに意味を察する。


「ああ……身内の恥を晒すようで恥ずかしいが、二人はあいつの女だよ。パーティ内でハーレムなんて勘弁してほしいぜ。いい年こいて恥ずかしいよな?」


 まさかの、あっちのハーレム。

 しかも百合ハーレムだ。こうなるとトバルの立場には一気に親近感が湧く。同情はもちろん、ぐっと距離が近づいた感じだ。


「いい年こいて恥ずかしい? あんまり童貞を馬鹿にしてやるなよ」


「うるせえ! ったくよお、童貞の何がいけねえんだかな。俺だって生まれた時は童貞だったぜ」


 仲間の軽口を跳ね返し、どこまでも同じ男に寄り添う姿勢。

 同じくハーレムを敵視し、童貞に誇りを持つ真の男。

 そう、彼こそが――


「…………兄弟」


 俺は、トバルの手を取る。

 出会った時から、こいつとは仲良くなれそうだと思っていた。本当はずっと、そう思っていた。




***




 冒険者。

 各種ファンタジーでお馴染みのその職業は、どうやらこの世界にも存在するらしい。

 といっても俺の知るものとは少し違った。いや、よりリアルと言った方がいいのか。


「――冒険者っていうのは、要は野良の術師たちをひとまとめにした総称だ。実態は大きく四つに区分される」


 この世界で術師の道へと入った者は、そこから二つのルートに別れる。

 簡単に言えば、国に仕えるか、自由にやるかの二択。働かなければ飯は食えず、飯を食わなければ生きてはいけない。それが人の世界。

 働かなくても飯を食わなくても生きていけるのは吸血鬼だけだ。超常の力を手にしたところで、人間社会の歯車であることに変わりはない。


 安定を望むなら国に仕える道へ。

 自由にやりたいなら冒険者へ。

 要は国家公務員と民間のようなものだろう。世界が変わっても人の働き方はやはり変わらない。

 ただ、こんな世界だ。命のリスクはどちらにも高く付きまとう。

 ならば自由度の高い冒険者を選ぶ者が多いのも必然だろう。上手くやれば一攫千金も夢ではないらしい。

 そんなわけで、俺がたまたま縁がなかったというだけで、この世は冒険者で溢れているそうだ。そんな彼らは、大きく四つのカテゴリーに分類される。


 モンスター、魔物討伐を生業とする――討伐者。

 ダンジョン、遺跡探索を生業とする――探索者。

 護衛、対人戦闘を生業とする――護衛者。

 貴重アイテムの収集、採集を生業とする――採集者。


 簡単に説明すればこうなる。

 これら四つを総じて――冒険者と呼称するらしい。


「一般人には一緒と思われてるが、実際は要求される技術もやることも全然違うんだ。ギルドもちゃんと分けられてるしな」


 医療関係者が医者と一括りにされる感じに近いのだろうか。

 確かに内科医と外科医ではやることは全く違う。代わりにやっといてくれとか言われても絶対に無理だ。


「討伐者は当然、モンスター討伐の腕が要求される。環境や標的に合わせた戦闘、モンスターに関する知識。純粋な強さを追い求める者達は、今やどこでも引く手あまた。時代のニーズってやつだな」

 

 トバルが言うには、討伐者の数が最も多いらしい。 

 まあ当然だろう。現在の世界情勢で、仮に薬草採集なんかをする者達が一番多いのなら、人類が滅ぼされる理由は馬鹿だったから――となること請け合いだ。

 死者復活の薬草がそこらへんに生えているのなら話は別だが、ならばルルワがあんなに必死扱いて戦うこともないだろう。ルルワが馬鹿だった、という可能性はないはずだ。

 

 そんなことを思いながら、突然始まったトバルの知識講座を受講する。

 自己紹介の延長、というより自己保身の類だが、全く興味がないわけではないので黙って流れに従った。


 続くのは、他三つの特色。

 探索者は地形把握、罠解除、サバイバル能力などが必須の技術として要求されるらしい。

 モンスターを相手に戦うことは討伐者と変わりないが、場所は遺跡内などに限定される。索敵能力は必死だろう。戦闘というより生存力。未知の領域への対応力が常に求められる。


 護衛者は対人戦闘、警護能力に特化。

 これは素人でも分野が全く異なると分かる。モンスターや魔物を相手にするのと、人を相手にするのとではやはり勝手が違うはずだ。

 倒すよりも守るが最優先。瞬時の状況対応力が要求される。


 最後に採集者だが、植物、鉱物などへの幅広い知識はマスト。

 戦闘は回避が基本。依頼されたアイテムを調達してくるのも仕事の一つだそうだ。薬学、その他専門分野の知識に精通している者も多いのだという。


 確かにザッと聞いただけでも、4つの分野全てを学ぶのは難しいだろう。当然専門家としてのプロの仕事が依頼されるのだから、浅い知識や未熟な技量では生き残れない。ならば、一つの道に絞ったほうが賢い。


 先ほどの例だが、前世では医師はまず医師免許を一つ取得する。そのうえで各分野の専門医資格を追加で取得できるが、両立は凡そ現実的ではない。

 技術を習得するまでの期間の長さ、技術の方向性の違い、技術の維持、知識の更新――二刀流は己が身を傷つけるリスクも二倍にする。


 話を聞いた率直な感想としては、感心した。

 この世界にも人が生き、社会があるのだから当然だが、よく考えられている。

 

「なら……赤き月の皆さんは、警護者ということですよね?」


 王の依頼によってここへとやってきた冒険者チーム――赤き月。

 順当に考えれば、彼らは警護者に当てはまるだろう。


「おいよせって。俺たちの仲だろ?」


 気安く肩を叩かれるが、うっとおしいとはもう思わなかった。

 媚びの感情が見えないからだろう。しきりに仲の良さをアピールしてくるが、ゴマをすってる感じはあまりない。何なら檻の中で会った時から、この男はこんな感じだった気がする。なによりトバルは俺の童貞を守ってくれた恩人だ。


「あたしには敬語な」


 そんな男の友情に水を差すのは、女だ。

 彼女は扉に背を預けて俺たちのやり取りを眺めている。他二人は壁を調べたりして室内の様子を確認していたが、彼女だけは先ほどから不動だ。


(…………なんか体調悪そうだな)


 機嫌もあまり良くなさそうだし、表情も若干険しい。

 俺が言うのもなんだが、護衛として大丈夫なのだろうか。


「お前仕事って分かってる?」


「依頼人はそいつじゃないだろ」


「確かに」


 確かに俺は依頼人じゃない。

 雇用関係はないのだから、別に失礼されても文句は言えない。だが、事はもっと単純だった。


「あー……実は俺たちは、警護者じゃないんだ」


「! なるほど……討伐者か」


 言い難そうなトバルの気配で、すぐに察する。考えてみれば当然のことを。

 俺は人間世界では人ではなく、魔物に分類される。ならば要求されるプロは魔物、モンスターに精通した者達。となれば駆り出されるのは討伐者だ。本当に当たり前のことだった。

 つまりは――


(いざという時俺を始末できるようにか……結構強いのかな?)


 檻の中で数人の男たちをノックアウトしているところは見たが、あれくらいのことは出会ったばかりの頃のアワンにだってできる。物差しにすらならないだろう。

 ならば当人らを見てはどうか。全く分からなかった。装備や衣服は高価そうに見えるが、やはりルルワやアワンが着ている服との違いが分からない。


(俺はこういうのはほんと駄目だなぁ……いつか身につくんだろうか)


 気配や動きを一瞥しただけで、「こいつ……できる」とか言ってみたいものだ。達人っぽい。

 

「それで……なんでお前に白羽の矢が立ったんだ? 売り込んだのか?」


「いや、向こうからだ。偶然とはいえ、吸血鬼の存在を知ってしまった俺は都合が良かったのか、お前と普通に会話していた点を見留められたのか……」


「…………」


 それは、言い訳のように聞こえた。

 用意された答えをそのまま口にしたような。

 俺が違和感を覚えたタイミングで、フォローのようにナアマの声は飛んでくる。


「腕がいいからだろ?」


「そうなの?」


 その情報を、そのままトバルへ。

 彼はありがたい話が来たとばかりに、表情を和らげた。


「ああ。自慢じゃないが、中央じゃ名が知れていた。といっても探索者としてだけどな」


「転身したのか?」


「最近な。流石にこの状況じゃあなぁ……呑気に遺跡巡りなんかしてられねえよ」


 トバルの話では、北領域ローラシア南に位置する国々では、討伐者の権力が強いのだという。当たり前だろう。南からやってくるモンスターや魔物に対処できるのは、討伐者しかいないのだから。

 そして彼ら赤き月は、情勢の変化を見て職を変えたのだ。だから討伐者が盛んなダソスへと仕事を求めてやってきた。矛盾はない。


「何か優秀さを証明できる資格とかある?」


 探索者から討伐者。全く別の分野に鞍替えして成功しているのだから、それだけでもかなり優秀なことが分かる。

 でなければ王直々の依頼は叶わない。身元はしっかり調査、保証されているはずだ。

 ならばなぜこんな質問をしたかと言えば、推論を後押しするため。少しでも情報が必要だったからに他ならない。


「討伐者では金級、探索者の時は英雄級だった。パーティ名だけなら、勇者の耳にも入ってるはずだ」


「ん? 英雄級?」


 勇士学園と同じ呼称だ。

 俺はまさかと思い、そのあたりの共通点を説明してみる。

 

「――なるほど。それは冒険者のシステムを参考にしたんだろうな。というより、ほぼ一緒だ」


 トバルが言うには、非常に似通っているらしい。ならば勇士学園は、いずれ冒険者として送り出すことを目標に教育していたということなのだろう。

 

(英雄級はレベル50近く。金級はレベル34以上……だったな)


 冒険者はもっと大雑把らしいが、そう大きくかけ離れてはいないだろう。

 ならば彼らのレベルは最低でもレベル34。

 いや、転身前の探索者で英雄級だったのだ。レベル40台は固いかもしれない。


(もし仮に、平均レベル50のパーティだとしたら……ちょっとまずいか?)


 4人ということは、単純に手数は4倍ということ。そして未知の能力も4つだ。

 アベルのように弱点を突かれれば、苦戦は十分あり得る領域だろう。あれは流石に極端な例だろうが、俺は肉体能力の差があれば人数なんか関係ないと思うほど頭が弱いわけではない。

 俺がこれまで勝利を収めて来れたのは、一対一の状況を作り出せていたからだ。ここを勘違いすると絶対に痛い目を見る。


「それで、なんでそんな有名人が牢屋なんかにいたんだよ? おかしいだろ?」


「今世界で一番噂されている吸血鬼も、同じ檻にいたけどな」


「それはおかしいな」


 言われてみれば、なんで俺は捕まっていたのか。

 何も悪いことはしていないというのに。本当におかしな話だ。


「言ったろ? この国は討伐者の力が強くて、俺たちはまだ討伐者としては新参。名が知れてなかったんだろうよ。別の国ならそういうこともあるさ」


「…………」


 一見、理屈として通っているように思える。

 他国の超有名人でも別の国では気づかれないなんてことはよくある話だ。ただ俺に言わせれば、その答えは少々逸り過ぎていた。

 もしくは俺の推測がそう思わせているだけかもしれないが、果たして。


(王が予め依頼を出していたのだとしたら、この人選も頷ける)


 つまり牢屋に入るところから、依頼だ。

 吸血鬼と同室で過ごし、様子を観察。他の者達には知らされておらず、王だけがそれを知っていた。

 他国で名が売れている冒険者がたまたま吸血鬼と同じ檻に入れられた――そちらよりはまだ現実的だ。

 本当に罪を犯しているのなら、果たして俺の要望と名声だけですぐに現場復帰できるものか。

 トバルの表情から読み取れないか挑んでみるが、そこには良い面があるだけ。いくら美しいとはいえ男の顔を見るのなんか楽しくはないため、諦めることにした。別にそこまで気にすることでもない。


「ってなわけで、これから短いようで長い付き合いだ。よろしくな。お近づきの印ってわけじゃないが、俺たちにできることなら何でも言ってくれよ。お前には借りもあるしな」


「…………」


 いつもなら社交辞令として受け取るところだが、珍しく俺は考え込む。

 というのも、先ほど考えていた複数人との戦闘を見据えた対策だ。対モンスター相手の戦闘のプロたち。こんな機会は早々ないのではと思った。

 やれるときにやっておくに越したことはない。多少無茶でも、後から後悔するよりはマシだ。


「対魔物を想定したパーティ戦について指南できるか?」


「専門分野だ。ただ夜間は難しいだろう。狭い部屋だしな」


 もちろんここで指導を乞うわけがない。

 ただそうなると――


「王からギルドを通し、正式に依頼させる。護衛との並行は組織のルール的には問題ないのか?」


 俺の常識であれば、本来護衛役が別の仕事を並行して受け持つのは許されることではない。ただその護衛対象に関する仕事となると、グレー判定だ。俺の感覚ではやや黒寄りだが。


「…………たぶん大丈夫だろう。依頼人が依頼人だ」


 なるほど。権力によっては多少の融通が利くというのも世界共通らしい。

 別にそんな話を聞いて大人の世界は汚いと思うほど俺も若くはない。有権者が一般人よりも贔屓されるのは当然だ。


「後は……俺には先生がいる。俺に合わせた訓練プログラムも汲んでくれているはずだから、調整が間に合わないようなら悪いが白紙にさせてくれ」


「当然の筋だな。その時はまた日を改めて依頼してくれればいいよ。他にはないか?」


「そうだな……」


 俺は魔術師の女性――ナアマに目をやる。

 こればかりは、運頼みだった。そもそも答えてくれるかすら分からない。


「彼女は元素系って言ってたけど、属性って教えて貰えたりする?」


「…………」


 元素魔術師――ナアマは、助けを求めるようにリーダーへと視線をやった。

 この常識外れを黙らせろという意味だろう。気持ちはよく分かった。俺の発言は、初対面の女性にカップ数を訪ねているのに近い。

 だが、俺もふざけ半分ではない。

 この情報如何で、それをお願いするかどうかが変わって来るのだから。


「サービスだぞ?」


 トバルが顎をしゃくり、答えてやれと示す。

 彼はリーダーとしては信頼されているようで、ナアマはそう間を置くことなく答えを口にした。


「風」

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