第097話 魔女
(…………なるほど。そういう狙いが……)
月夜見という切り札の情報をムメイが明かしたと聞いた時、ルルワには当然驚きがあった。いや、驚愕といってもいい。混沌術の開示はそれほどに重い。保有の有無ですら、隠すのが基本とされるほどだ。
しかしムメイのことだ。ルルワには分からない何らかの狙いがそこにはあるのだと一定の信頼はあった。ただやはり、信頼と安心は必ずしもイコールとはならない。早々に矛盾するようだが、ムメイであればなおさら。
よっぽど馬鹿なことはしでかさないだろうという最低限の信頼こそあれ、安心はできない――そういう男だからだ。ムメイの突拍子もない、常識に当てはまらない行動に不安を感じないかと言われれば、それはまた別問題だった。
しかし今回ばかりは、それは当てはまるようで、当てはまらない。やはり矛盾するようだが、ムメイという男はそういう男だった。
なにより今回のことが、彼という存在をそのまま体現している。
(確かに……月夜見は能力の仕様性質上、存在を知られても全くデメリットにならない。見方によっては……むしろ今が絶好の売り時)
仮に情報漏洩があったとしても、敵の立場に立って考えてみればどうか。
命懸けの試練を行い、それに見合った恩恵が術者へと与えられる月夜見。この混沌術に対し対応策を準備することは容易ではない。
なぜなら、リスクは既に天井圏。ゲームへ備えようとしても、術者当人でさえその内容は知らない。敵からすれば月夜見を発動させるだけで勝ちの目が拾いやすくなるが、それは火中の栗を拾うことと同義。いや、拾わせることになるのか。業火の中でも原型を保てられる栗は、ムメイにとっては砂漠の中のダイヤ、敵にとっては導火線への火種と化す。
発動を未然に塞ぐ手段があるとすれば、相対しないことくらい。術を誘発するメリットがあるとすれば、ルルワの血と魔力を消費させることくらい。
無論死の可能性が0、100の二択にまで絞られる月夜見発動は、敵にとって優位としか言えないだろう。だがそれは、最初からだ。ムメイはそもそもそれらリスクを踏まえた上で発動に踏み切るのだから、やはり有効打とはならない。
辛うじてデメリットを見出すとすれば、完全初見による相手の動揺を誘えないこと。その心理面の優位によってゲームの勝敗に響くかもしれない点くらいだろう。
ムメイがそれに気づいていないわけはないので、その程度では揺るがない絶対の自信があるのだと思われる。まあどんな状況であれ勝つ自信がなければ、そもそもこんな能力は創らない。
だがそれら少ないデメリットに引換、メリットは計り知れない。
まずルルワの父ダソス王が言うように、ムメイの標的がくっきりと明らかとなった。
己が命を代価に強大なる力を得る一風変わった混沌術。もしも人間を標的にする化け物ならば、こんな術は生み出さない。
リスクと対価があまりに釣り合っていないからだ。人類が仮想敵なのであれば、現状の強さだけでも十分事足りる。峠越の存在すら知らなかったムメイでは、もっと舐めてかかってもいいはずだ。
現にルルワであれば、もっと補助的な能力で堅実に強化を目指すだろう。間違ってもこんな一か八か、いや0か1かの能力は創らない。
そしてムメイの月夜見の能力創造プロセスにまで想いを馳せれば、この能力をこれから何度も使用するつもりであるという未来までもが見えてくる。ならばそこまでして力を得る理由はなぜか。現状では力足らずなほどに強大な敵を見据えているからだ。
すなわち――
(7人の魔王……本当に凄い。こんな方法、思いつきもしなかった……)
冷静に思考を巡らせれば、他にも様々なメリットが見えてくる。
ムメイの戦力は人類にとって、もはやかけがえのないものであるだろう。それが分からないような者はここにはいない。故に、ムメイの能力に関する情報を漏らすような愚か者もいない。それはすなわち、自分たちの首をも絞めることになるのだから。
むしろ必死に隠そうとするだろう。
一つの目的のために同じ行動をする。そして秘密を守るという行為は、当人らの自覚関係なく仲間意識を自然と誘発する。
つまり心からではなく、行動から統一して団結感を高めようという作戦。彼らは不意に超重大な秘密を投げ渡された立場でもある。手に余る情報が、逆に結束を強める適度な心理的プレッシャーとして作用するのだ。
一人では持てない。だからみんなで協力して持とう。死ぬときはみんな一緒だ。管理法も調べてね。頑張ろうね。
ムメイは己という爆弾を投げ込むことで、その状況を意図して生み出した。そして質が悪いことに、この爆弾は誰も放棄することができない。ムメイはそれも分かっていたのだ。
と同時に、術者共通の認識たる切り札――混沌術の開示により、誠意と覚悟を示す。どんなに頭の固い人間でも、これは譲歩、もしくは積極的歩み寄りの証と見做すだろう。
実際はそこまでのマイナスはなく、賢い者はその事実にも気が付くだろうが、やはり混沌術の開示という行為はその中身に関係なく重い。
仮にここにいる者達に平等を盾に共有を求めたとしても、絶対に断るはずだ。それほど正気では行えない。
つまり実態は、強迫観念の押し付け。
尋常ならざる覚悟によって生み出された、運命共同戦線の確立だった。
(たった一手で、ここまでの影響力。しかも、顔すら見せずに……)
――天才。否、天災。
ムメイの頭が良いと思うのは、こういうところだ。
そしてムメイが異常――異質だと思うのも、こういうところだ。
当然のように、一手に複数の意味が含まれている。常人であれば、混沌術の開示はその後の能力指南を円滑に進めるための情報共有と思うだろう。これを伝る伝えないで教育、そのパフォーマンスが底から変わって来る。人間理解が深くなければ決して行えない配慮。そこを汲み取るだけでも、一定の知力が要求される。
実際カロスやアクレミアはそれで納得していたようだった。ルルワもそうだ。
本来それだけでも一般人では中々できないこと。
積極的にリスクを背負うことで、信頼を買おうとした。と同時に、鍛錬に本気で向き合う姿勢を示した。ここまでされて応えないような人間はいない。
むしろカロスのような人間には、ムメイの姿勢は一際高潔に映ったに違いない。それだけでも一定以上の成果は出ている。現にカロスは、ムメイの強化に積極的賛成の立場を示していた。たった一日で他国の重役を落としたと考えれば、その異質さがよく分かる。
しかしここまでですら、ムメイの知略の一端に過ぎない。
真の目的は、その情報をカロスに持ち帰らせ、王へと届けること。
ムメイは王であれば、これら狙いに気が付くと踏んでいたわけだ。
そして実際に、ここに両者の企みは繋がった。
ムメイもムメイだが、王も王だ。着眼点と、それに気が付くまでの早さが尋常ではない。
互いに顔すら合わせずに、互いの思惑を全て読み切って見せた。この解釈の一致、共有感は早々拭えるものではないだろう。確実にダソス王のムメイへの心証はいい方向に舵を切ったはず。
現にこの方向で間違っていないと、この場の誰もが思い知らされた。たった一日で、盤面は変わってしまった。
(本当に凄いわ。まさか初日で……)
ルルワの見積もりでも難航すると思われていた、ムメイという吸血鬼の本国受け入れ。
それがたった一日で最高の状態へと着地した。どちらかに馬鹿がいるだけでも、失敗していただろう。少なくとも、カロスの進言がなくては――。
(いえ……)
それすらムメイの誘導。強大な吸血鬼とはいえ、監視という雑務に駆り出された異質な人選から、その狙いを正確に読み切ったムメイの勝利と言える。
彼らはいざという時ムメイに対処するための処刑人たち。能力や弱点などの話に対しては、役割上一際神経質にならざるを得ない。そこにムメイは食いつかせた。最大級の餌を与えることで。
カロスには悪いが、ルルワの率直な感覚だと、若者4人は完全に力不足だ。二人の足を引っ張らなかったことが奇跡と言える。
それほど、今日一日を頭から振り返ると、王とムメイとの間でのみで高度な情報戦は完結していた。ルルワらは役割的には、伝書鳩の真似事をしていたに過ぎない。
「…………」
ほぼ同時、カロスもルルワと同じ思考に至ったのか、悔し気に表情を歪ませる。そこまで思い至ることができなかった己を責めているのだろう。もしくはいい様に使いっ走りをさせられた屈辱に震えているのかもしれない。
そういう意図のあるなしに関わらず、実際カロスは利用されている。憤りを感じるのは当然のことだった。
カロスは能力が高い分、プライドも高い。しかしプライドからなる怒りを他者ではなくまず自身へと向ける――ある種の生真面目さも併せ持つ。
そういった面は、ルルワとよく似ていた。ルルワも似通った部分があると自覚しているカロスの想いに関しては、ことさらよく分かった。
そんなカロスのことを、アクレミアはいつものように心配げなまなざしで見ている。二人はルルワから見ても非常に仲が良いので、よく見られる光景だった。
口にしたことはないが、アクレミアはカロスに対し特別な感情を抱いているのではとルルワが思ったことは、一度や二度ではない。それほど彼女は、よくカロスを気にかけている。
そしてカロスも、憎からず思っているだろう。彼は昔からアクレミアと行動を共にすることが多かった。ルルワは避けられているのかと思っていたが、両者にそういう感情があったのだとしたら頷ける。
(二人は結ばれる可能性もあるかしら……もしかしたら、もうそういう話になってるのかも……)
カロスならば、家柄的にも能力的にも申し分ないだろう。
勇者の血を繋ぐパートナーとして、誰も文句を言わないと思われる。
愛し合う男女が結ばれることは、祝福すべきこと。
そんなことをルルワが呑気に考えていた頃、現実は机上へと戻る。
「――故に、即座の危険はないと考えるのが妥当だろう。脅威はさほど変わらず、利が多いとなれば、選択は決まった。師を惜しいと思わせることができれば、さらに敵対の可能性を下げることも見込める」
アクレミアが先ほど口にしていた、現状と脅威は大差ないという理屈だろう。確かに今敵対されても教育後の未来で敵対されても、ダソスからしてみればほどんど大差ない。12使徒だろうが魔王だろうが変わらず国存亡の危機だ。
ただムメイの戦力面を厚くすることは、人類の大きな利に繋がる。その過程で技術や知識を惜しいと思わせることができれば、必然的にダソスを始めとした人間の国々の価値も上がるというわけだ。
つまりは――
「君の働きにかかっている。任せたぞ」
「はっ!」
カロスに与えられた勅命は、国にとっても人類にとっても重要だ。無論、ムメイにとっても。
だがムメイの飼い主たるルルワに、文句は一切なかった。むしろこちら頭を下げてお願いしたいほどだ。
(カロスがここまで前のめりなことから見ても、ムメイはこの件に関しては全面的に受け入れている。彼が納得したのなら間違いない)
僅かでも不足と思えば、友好関係など無視して頑として受け入れないだろう。
そういうところは誰よりも素直で気を遣わない男だ。彼は本当に任せられると思った相手にしか背中を預けないタイプ。だからこそルルワもカロスに任していいと心から思えた。
「座れ。議題はまだある」
この時間でもう何度彼は着席しただろうか――椅子に座るカロスを見ながら、やはりルルワはそんな呑気なことを考えてしまう。
ムメイの圧巻の策謀の余韻に浸っていた――それだけではない。
ルルワはこの国では、考えることが多すぎた。一人で仕事を抱え過ぎていたのだ。それに比例する不安も。
だからこそ、抜けていた。
心構えが全くできていなかった。
彼女の余裕が万全であれば、あるいはこの状況も予期できたのかもしれない。
いややはり、この世に偶然などなく――
全ては、必然なのだろう。
「差し当たって定めておくべきは、まずムメイ・ヤレーアハの処遇。これについては喜ばしいことに、双方納得の形で方針が定まった」
それは、必然だった。
なぜこの時、この瞬間まで忘れていたのかと思うほどに――
「もう一つは、勇者の伴侶に関してだ。時期が時期、そろそろ見繕わねばなるまい?」
必然。
***
「――子をもうける期間については、西部の侵攻を食い止めた辺りを考えている。というより、もはや一段落をおける時間はそこしかないだろう。故に、今から相手を探しておく必要がある」
王の言葉が、右から左へと通り過ぎていく――わけではなかった。
むしろこれ以上になく頭に響く。耳に残り、脳に残り、猛威を振るう。ガンガンと、痛いほどに。
その間、ルルワは微動だにしなかった。できなかったのだ。呼吸すら忘れ、ただその場に座して尽くす。
なぜ失念していたのか――そんな自責すら、今はできなかった。
「…………その話ですが、なぜ今回の遠征前に踏み切らなかったのでしょうか? 準備期間も十分だったはず」
王の言葉に続いたのは、カロス。
自然な会話を徹底しようというその姿勢は、逆に不自然。腫物を避けるように取り繕う姿は、だからこそその人間に注目している何よりの証明だった。
それは、彼だけではない。この室内にいる誰もが、彼女を見ていないようで、彼女だけを見ていた。
当人だけが、その事実に気づかない。
「…………実に2000年ぶり、史上二人目の女性勇者。選択は慎重に駆られるという判断だ。男とはやはり勝手が違う」
ダソス王の中身の無い答えは、ルルワの顕著な気配の変化に当てられて――という面も確かにあったが、それだけではない。
カロスの問いがあまりに的確に弱点を突いてきたからだ。このタイミングで甲冑の隙間を槍で射抜いてきたカロスの思惑――それは、王にも分からない。
ただ分かるのは、誤魔化しは逆効果にしかならないということ。
「アクレミアという保険も…………いや、よそう。アベルだ」
その発言には、それぞれ別のことで意識が定まらなかった姉妹の注目も集まる。
王は逆に注目してほしくないようだったが、だからこそ腹を括ったのも分かった。
「彼の影響力は宮廷内でも無視できなかった。私は多少無茶でも押し進めるべきと考えたが……奴は安全策を強行した」
安全策、強行。
並んだ矛盾する言葉が、逆にアベルの頑なさとその影響力をアピールする。
彼の発言力は、王にも比肩したのだと。
「らしくないとは思っていたが、今となってみれば分かるな。勇者の抹消を確約していたのなら、ケチをつけられるような要素は残したくなかったのだろう」
「「「…………」」」
それは、酷く含みのある言い方だった。言い訳のようにも。
少なくとも、ルルワには多大な感情を押し殺しているように見えた。
頭が痛いとばかりに額に手をやる姿など、中々見られるものではない。それほどアベルには手を焼かされたということか。
もしくは、自分の思い通りにいかなかった怒りか、身内から反逆者を出した憤りか、それとも――
この頃には、良い意味でも悪い意味でもルルワは正気に戻る。
だからこそ、この現実に向き合わざるを得なかった。
「つまりは、今代の勇者の血はまだ託されていないと、あちらに知られている可能性も大いにあるということ。ならばなおのこと、急がねばなるまい」
意図的に切り替えるような語り口は、本質を突きながらも、どこか空々しかった。
ただ言っていることは間違っていないため、ルルワは気づかない。
現に、アベルが魔王の一人と繋がっていたという事実は、こちらの状況が漏れているという懸念に当然のごとく繋がる。ならば勇者の血と力がまだ受け継がれていないことも、知られていると考えた方が自然だ。
王の言う通り、男と女では勝手も違ってくる。その最も大きな弊害はやはり――
「戦いは早ければ一か月後。それまでには相手を見つけておきたいものだ。少なくとも一年は動けないことが確定しているのだからな」
身重となることだろう。
神聖な行為を弊害などとは言いたくはないが、勇者にとっては確かな痛手。
生涯に渡り表舞台にいなければならないルルワが、一年もの間何もできない。それも、最低でもだ。下手すれば半年はそこに上乗せされる。
時期を見誤ることはできないが、あまりに遅くては役目を果たせない。歴史の勇者たちは、勇者として名乗りを上げる前に少なくとも一つは命を繋いできたのだから、ルルワは現時点で既に乗り遅れていることになる。
「時間は稼げるでしょうか?」
ルルワとは立場は違うが、確かな当事者の一人である少女が、決して他人事ではない表情で話に加わる。
その問いは偶然か、ルルワの思っていたことと同じだった。
「峠越の合流が叶えば、不可能ではあるまい。むしろここしかないだろう。12使徒が二人落とされた歴史的大事。伝説の吸血鬼に峠越。このタイミングで大きな動きを見せるとは思えん」
確かに、そう言われれば絶好の好機だ。好が重複するほどに。
ムメイの行動がルルワの首を絞めることになるとは思わなかったが、責めるのはお門違いだろう。ルルワには遠からず差し迫る問題。むしろアベルがいたことにより、運よく話が後回しになっていたに過ぎない。
「だからこそ、逆に機を狙いやすいのでは? 波状攻撃で釘付けにされれば、こちらも安易に踏み切るわけにはまいりません」
「然り。だが出てくるとすれば、十中八九西部への進撃に合わせてだろう。そこで動きが無ければ、まず問題ない」
「…………なるほど」
実行期間に関しては既に見積もられている。
ダソス王の中では、既に規定ルートということだろう。その考え自体は、何らおかしいものではない。
勇者の力は、受け継がれる。無論全てではないが、常人とは一線を画す力が与えられるのは確かだ。
そんな勇者の血を引く存在は、アワンやアクレミアを含めても、実はそれなりに多い。それはどの時代の勇者たちも、未来のために必死に命を引き継いできたからに他ならない。
そしてその相手は、力持つ強者が選抜される。その方がより強い子が生まれるからだ。直近の例ではエバ・ラーヘルとアダ・コロノス。この二人はコイラスだけでなく、世界的に祝福される政略結婚だった。当人らの認識は大きく異なるが。
だからルルワも、少しでも強い子を産むため、強い男と交わる必要がある。そして正当なる勇者であるルルワは、アワンやアクレミアとは価値が違った。
これは義務というより、責務だ。勇者として生まれたからには、避けては通れない道。ルルワもずっとそれを自覚し、そして当然のものと受け入れていた。
しかし――
『女だぁ!!』
「私の本命としては、西のセト・コハヴ。壁を乗り越えた英雄であれば誰も文句は言うまい。対抗はケイン・ブーノスか、同じ理由だな。大穴で峠越……デメリットを容易く上回るメリットが見込めるが、およそ現実的ではないだろう。あとは――」
「待って……ください」
ひねり出した言葉は、およそルルワとは思えないほどにか細いものだった。
ただ遅いスタートに関しては、彼女に落ち度はない。これは己の心と向き合い、そして自身の精神を落ち着かせるための時間だったから。
ならばなぜルルワの態度にいつもの自信がないのかと言えば、それを口にしていいのか分からなかったからだ。
むしろ、明らかにすべきではないとの直感が優勢だった。そしてそれは、まごう事なき事実だった。
しかし望む名前が出なかったこと、そして峠越の名前が出たことで、良くも悪くもルルワの踏ん切りがつく。
彼女が口を開いた瞬間、室内の注目が一挙に集まったのを感じた。それは、痛いほどの視線。物理的圧迫を感じるほどに、重いものだ。
「待つ……とは?」
「…………」
ルルワは答えられない。
その真実を明らかにしていいものか、未だに悩み続けていた。ムメイがいればすぐに助言を乞うところだが、彼はここにはいない。
こんなことなら、予め聞いておくべきだった。いや、この話題に関して忘れていたルルワの落ち度。もしくは忘れたかったのか。いずれにしろ、身から出た錆に過ぎない。
「君は積極的賛同とまでは言わずとも……納得はしてくれていたと思ったが?」
その通りだ。
別にこの話は寝耳に水なんかではなく、かなり前から話は通っていた。「いつかこれはしなければならないからね。心の準備はしておいてね」と、そこにはルルワへの配慮すらあったほどだ。
現にルルワは、仕方の無いことと受け入れていた。というより、あまり興味がなかった。誰と結婚しても同じだと思っていたからだ。
しかし、事情が変わった。
国を出てから帰って来るまでのたった一か月で、全ては変わってしまったのだ。
「先ほどの例は、あくまで条件的に良い者達に過ぎない。相手に関しては君の意見をできるだけ尊重するつもりだ。無論全てをというわけにはいかないが、できる限り善処しよう」
「…………」
これは、異例の配慮だ。
身内とはいえ、一国の王としては明らかに行き過ぎている。それが一人の女性の尊厳と人生への敬意であることは、言うまでもなかった。
ただ、それら最高の配慮は、ここでは的外れとなる。なぜなら、王が考える条件に、ルルワの望む男はおそらく合致しない。
「…………彼女は帰国したばかりです。こう唐突では実感できないのも致し方ないでしょう。日をおかれては?」
「君らしくないな。吸血鬼の強化を押し進める方針は、君の中では唐突ではなかったのかな?」
「…………」
ルルワを庇うようなカロスの発言は、綺麗に丸め込まれる。
実際話の通っていた婚約話と吸血鬼ムメイの鍛錬の話では、どう考えても後者の方が唐突だ。それを王に頷かせたのだから、カロスにこれを口にする資格はない。
「それに、君も当事者の一人だ。アベルがいなくなってしまった今、正当な勇者の血を受け継ぐことは、ことさら重大な意味を持つ。今話しておかなければならないことだ」
「…………」
反論の余地がない正論に、カロスから言葉が消えた。
そのフォローのように口を開くのは、やはりアクレミアだ。彼女はルルワに向き直ると、同性、そして同じ立場として優しく語り掛ける。
「お姉さまには、何か憂慮がおありですか? わたくしで力になれる事であれば、承りますよ?」
「…………」
アクレミアには、ルルワのごねる姿が子供の駄々のように映ったのかもしれない。今は気が乗らないから、結婚したくないのだと。
ならばそれを肩代わりできるのは、アクレミアしかいなくなる。とりあえず彼女が子を産むことで、ある程度時間は稼げるだろうという提案だろう。
妹の覚悟の決まり具合に、姉として恥ずかしささえ抱く。何をやっているのかと。
それは、ルルワがずっと悩み続けていたことでもあった。
世界の人々の幸せと、自分の幸せ。ルルワはどちらを選ぶのか。
これまでは、世界と、人々のために戦ってきた。それが正しいことだと信じて疑わなかった。今もそうだ。いや、もしかしたら今の方がたちが悪いかもしれない。
間違っていると知りながら、正しくあろうとした。
それこそが大きな間違いであるという事実から、目を逸らしながら。
ずっと迷っていた。
真宵の中にいた。だから――
『どこ住み? 彼氏いる?』
ここから、始めよう。
「彼氏がいます」
「「「っ!?」」」
明らかに、揺れ動いた。
感情が音として鳴り響いた――そう錯覚するほどの気配の変化を、ルルワも感じ取る。
王の表情は明らかに険しくなり、若き二人の動揺は想像を絶する。そんな中、ルルワは落ち着いて言葉を続けた。
一つ言葉にさえすれば、ようやく覚悟が決まった。
「世界で一番好きな男性です。彼しかあり得ません」
「…………それは?」
ルルワは胸を張る。
もう、迷いはなかった。
「ムメイ・ヤレーアハ」
世界で一番好きな男性。
世界で一番好きな名前。
息を飲み、同時に情報を飲み、咀嚼される。
腹に下すまで、脳へと巡らすまで、かなりの時間を要したことは間違いない。ここにいる者達にとっては、それほどの衝撃だった。
吸血鬼に心を奪われた――勇者。
歴史はここに、繰り返す。
「…………吸血鬼に、子は成せるのか?」
「…………」
率直な問い。王はアクレミアへと視線を向ける。
この場では最も吸血鬼に詳しいとの信頼を預けているからだろう。しかしアクレミアは、その信頼に応えられない。
答えが分からなかったからではない。未だ動揺から立ち直れなかったからだ。それほどの事態。カロスも同じく、それが現実であるのかすらまだ疑っているようだった。
だからここでは、王が問い、ルルワが答えるしかない。まともに口を開ける者は、もう二人しかいなかった。
「分かりません。ただ分かっていることもあります。結果がどうであろうと、私の想いは変わらないということです」
「それはつまり――」
銀の瞳は鋭さを増し、ルルワを射抜く。
だがルルワも瞳に意志を込め、睨み返すように彼を見た。
「勇者の役目よりも、己が心を優先する……ということで、間違いないか?」
「…………はい」
ルルワが次世代に力を引き継がない。
アワンとはわけが違う。国への、世界への裏切り。
裏切り者。
その烙印をようやく、ルルワは受け入れた。
「……………………そうか」
瞳が、伏せられる。
ひっくり返された盤面は、再びひっくり返る。
ただ、駒に過ぎない彼女たちとは異なり、王の動揺は長くは続かなかった。早々に覚悟が固まったのは、彼が駒の一つでもあり、指し手の一人でもあったからだろうか。それとも――
「そういえば、まだ君の意見を聞いていなかったな」
王が目を見開き、視線を切ると、再び室内に温度が戻る。
ルルワはその作為的な切り替えを無視し、内容の方へとすぐに意識を向けた。
「我々も全くの考えなしではないことは当然として、確かな勝算と覚悟あってのことだったが……未知の相手、それも確固たる脅威に対して少々刺激的な手であったことも自覚している」
ムメイへの手荒な歓迎のことを言っているのだろう。
すぐに飲み込めたので、ルルワは頷くことで同意を示しつつ、先を促した。
「ムメイ・ヤレーアハは、これをどう受け止めていると思う?」
「特に、何も」
「…………なに?」
打てば響くように答えを返せたのは、質問が簡単だったからだ。それこそ一足す一。少なくとも先ほどまでの問答よりは遥かに答えやすかった。間違える気がしない。
「私も彼の全てを知っているわけではなく、漠然とした感覚によるものと前置きください」
そんな思いが、前置きに矛盾した流暢さを演出する。
まるで予め渡されていた原稿を読み上げるかのような、そんな答えを。
「彼は基本的に、あらゆる物事に関心がありません」
「関心がない?」
この話題にはカロス、アクレミア両名も興味を引かれたのか、動揺から立ち直り、明らかに食いつく様子を見せる。
彼らも若いとはいえ、百戦錬磨の精鋭たち。いつまでも狼狽えるような無様は見せなかった。
「いえ、あらゆる物事が些事、と言った方が近いでしょうか。どちらでも構わないというような基本スタンスがその行動からは汲み取れます」
「基本は受け身、ということか?」
カロスが要領を得ないという顔を隠しもせず問いかける。
これは彼の察しが悪いとは言えないだろう。それほどルルワも漠然としたことを言っている自覚はある。
なぜならルルワですら、言語化できるほど正確に、ムメイという男の本質を捉えているわけではないからだ。
「もっと露骨かもしれません。興味がない人間には絶対に自分からは近づかない頑なさもあります。嫌いな人間に対してはむしろ、強硬に関与を避けます」
「ふむ……」
王が顎髭を摩り、吟味する様子を見せる。
やはり抽象的すぎて、正確な理解にはほど遠い。
「例えばですが、自分が馬鹿にされたり挑発されたりしたとしても、その相手に何らかの興味がなければまともに相手をしません。それが仮に己の尊厳や身体にまで影響を及ぼす類のものだったとしても、対応はなんら変わりません」
「なるほど……檻の中だな。確かに頑なだった」
直近の例をあげれば分かりやすいと思い、ルルワもこういう言い方をした。
だからこそどんな反論が来るかも予想しやすい。
「だがあれは、己の立場を見抜いた洞察と、そこからなる慎重な判断からでは?」
この国での吸血鬼という不安定な立場。
それを自覚したからこその慎重な対応。下手なことをすればルルワに迷惑がかかるかもしれない。そういう考えも確かにあっただろう。しかし、ムメイを知るルルワの見方は少し違う。
「それもありますが、やはりそこに彼の本質があります」
要は、どうでもよかったのだ。
檻の中で居合わせた犯罪者たちのことなど興味がなかったから、好きにさせた。うっとおしいコバエとさえ思っていない。なぜなら人間であれば、手で払ったり叩き殺すなりするだろう。だが彼は、それさえしない。本当に興味関心がないのだ。
「つまり人間に椅子にされることも犯罪者に小便をかけられることも、果ては便器に顔を突っ込まれることまで全て些事。相手に全く興味がないから自分からは何もしなかった、ということか? 意味が分からん」
「…………」
ルルワでさえ、それは逆に相手を意識していることになるのでは――と思ってしまうが、ムメイという男はそういう男なのだ。
たぶん街中でいきなり集団暴行をされたとしても、戦う理由が無ければ相手が飽きるまでジッとしていることが想像できる。おそらくは、殺しや暴力に関しても何らかの美学、もしくはルールのようなものがあるのだろう。
実際ムメイは、命懸けの死闘を経て自らの手で殺した者たちの話に関しては、よくしている。それも楽しそうに。
ルルワに対しアベルのことを友達と言うくらいだ。彼の友達であるアガトスを殺したはずのアベルを。恋人であるルルワを自分のものにしようとしたアベルを。
過去は水に流すどころの話ではない。他者に関しても自身に関しても、善悪という区分を全く適用していないことがよく分かる。
そこまでいくと、こだわりというよりもはや掟だ。大物ではあるのだろうが、感心より恐ろしさの方が勝る。
その異常性も心から仲良くなってみないと分からないという罠。一見常識的、むしろ模範的であるという点がややこしさに拍車をかける。
吸血鬼でありながら人間的、人間的でありながら確かな怪物性も秘めている。総じてそれこそが吸血鬼なのかもしれないが、およそ凡人の域にはなかった。
「つまり我々の歓迎に関しても、本当に特に何も思ってはいないと。その程度は総じて些事か」
国家的意志からなる対応を些事と吐いて捨てる傲慢。
だが事実なのだから仕方がない。見方を変えれば確かに、心が広いというより不遜だ。
「はい。加えて今後彼から何もなければ、特に興味も持たれていない――ということになります」
「なるほど。興味を持ってもらえるように、そしてその興味を失わないように精進しろ――というわけだな」
ルルワから言えることは、その程度だ。
嘘偽りなく、正直に話した。それは彼女なりの誠意だったのかもしれない。
だから――
「君から見て、ムメイ・ヤレーアハとはどういう男だ?」
「ムメイは――」
***
「――では私はさっそく、ムメイ・ヤレーアハの強化に移ります」
話が全て終わり、まず立ち上がったのはやはりカロスだった。
まるで自身の身をずっと押さえつけていたかのように、椅子から弾かれる。
「寝所を共にするつもりですか?」
そんなカロスに問いかけるのも、やはりアクレミアだ。
彼女は純粋に疑問を投げかけただけだったが、カロスは先ほどのアクレミアからの軽口が尾を引き、皮肉として受け取ってしまう。
同じ人間から男色の弄りがあったのだから、穿ち過ぎとも言えないだろう。
「無論だ。アンデッドに睡眠はない。見張りも同時に行えるのだから、効率を考えれば選択は一つだろう」
「…………」
下種な勘繰りをしたくば勝手に思え。そんな強い口調での反論に、アクレミアは押し黙る。そんな彼女に助け舟を出したのは、意外な人物だった。
「いや、今夜は帰ってくれ」
「なぜでしょう?」
王の退出を臣下が見送る。そんな礼儀も煩わしいとばかりに部下と同時に立ち上がるのは、ダソス王。彼は疲労の色を隠しもせず、だがこの瞬間ばかりは、瞳に力を込めた。
「君の口から伝えてくれ」
瞬間、ルルワとアクレミアは同時に顔を伏せる。
その内容に想いを馳せて。
濃い一日であったため失念していたが、アベルの死もアガトスの死も、国に持ち帰られたのはまだ今日のことだ。
「…………分かりました」
身内が死んでも、休みはない。
まだ20歳そこそこの男にはあまりに酷い仕打ち。だが、ルルワに心配するような資格はなかった。だから口を開くのは、資格を持つ者。
「では見張りは誰に? 緊急時です。わたくしであれば構いませんが?」
だがアクレミアのその言葉には、ルルワも口を開かざるを得ない。
決して嫉妬からではなく、何を言い出すのかと純粋に思ってのことだ。
「構うでしょ。駄目な理由が多すぎるわ」
「ああ……これ以上頭痛の種を増やさないでくれ……」
小首を傾げるアクレミアに対し、王は額を指で摘まむ。
それはパフォーマンスではあったが、確かな実態を伴っていた。
「手配してある。どうしても誰かを見張りたいなら、ルルワにしなさい」
最後のそれは、王というより父としての言葉だった。
部屋を出ると、足早に進み出したのは、やはりカロスだった。
それは帰路を急ぐと言うより、誰かから逃げるように。
その後ろに続くのが、ルルワとアクレミア。
二人は並んでカロスを追いかける。逃げられている自覚があるから、追いかけたのだろう。
「カロス」
「…………」
流石に王族から声をかかられたとなれば、立ち止まらざるを得ない。
背を向けて歩いている時点で気にすることかとは思うが、カロスにも一定の敬意と誇りはあった。何より、自分が逃げていることを認めたくないのだろう。それもルルワには、分かっていた。
「さっきはありがとう。助けてくれて」
「…………」
振り返る気配がないため、ルルワはその背中に語り掛ける。
感謝の言葉は、カロスが結婚の話を流そうとしてくれた件に関してだ。そこから優しさを汲み取れないほど、ルルワは察しは悪くなかった。
あれは確かに、ルルワを助けようとしてくれていた。
「ごめんなさい」
「「…………」」
一転、ルルワが謝罪の言葉を紡いだ瞬間、二人の気配が変わる。
巨大な感情がうねりをあげたことが、ルルワには分かった。カロスの背は分かりやすく震えるが、隣のアクレミアにこれといった変化は見えない。
だが、二人だ。それをルルワは確信していた。
「…………何が?」
震える唇から、辛うじて絞り出された声。
多大な罪悪感を覚えながら、ルルワも口にする。震えないように、気を付けながら。
「アガトスの……」
アガトスは、ルルワのせいで死んだ。
彼を筆頭に、連れて行った兵士たちは、明確にルルワのせいだ。
ただ、謝ってもどうしようもないことは、ルルワにも分かっている。カロスもそんなどうしようもないやりとりをしたくなくて、ルルワから逃げていたに違いない。それも、分かっていた。
「殉職ならば、名誉ある死では?」
そんなルルワの態度に反し、カロスの声は、冷たく、暗さを増す。
それは怒りという感情の色が変わったようだった。これが良いのか悪いのか、察せられない者はこの場にはいない。なぜなら、ルルワもアクレミアも、言葉に出来なかった。
「力が足りなかったら死んだ。身内とはいえ、弱さの責任を問うほど八つ当たり相手に困ってはいない」
「「…………」」
強がり、いや、皮肉。
それも、誰にでも分かる事だった。
「まあ私としては、弱いなりに身の程は知ってもらいたかったがね。身の丈に合わないことをするからそういうマヌケな目に合う。守るべき主のために主と戦い、その結果通りすがりの吸血鬼にトドメを刺されたと聞いた時は、流石に笑ったよ」
「カロス!!」
アガトスを侮辱する発言に、ルルワの罪悪感も瞬く間に吹き飛ばされる。
カロスにとってアガトスは父だが、ルルワにとっても他人ではない。だが、ルルワの一過性の怒りとは、それはものが違った
「気安く、俺の名を呼ぶな」
「…………」
刃物のように鋭く、どこまでも冷ややかな拒絶。
振り返ったカロスの視線は、確かな憎しみを宿していた。それは、勇者たるルルワが心臓を掴まれるほどの――どす黒い憎悪。
「貴様だけは……絶対に許さない。いつか必ず、報いを受けるだろう」
それだけ口にすると――カロスは視線を切り、再び歩き出す。
ルルワの中に、彼を止める言葉はもうなかった。
「「…………」」
二人してその場に立ち尽くし、遠ざかっていくカロスの背を見送る。
どちらも動き出さない。動き出せない。だから――
「アクレミア……あなたは?」
「…………」
唯一動く口で、語り掛ける。
アクレミアは、カロスとは立場が異なる。
だが、大切な人を失ったという意味では、同じだった。
「アベルの死を……どう思う?」
「…………悲しいです」
知っていた。
アクレミアは本当に、アベルに懐いていたから。ルルワもアベルのことは好きだったが、一緒にいられる時間が短った分、アクレミアの悲しみは深いに違いない。
「アベルが……死んだことが?」
「それもありますが……」
カロスもアクレミアも、事情は違えど、共に置いて行かれた者達。すぐに前に進めるわけがない。
「お兄様が国を裏切り……世界を見捨ててまで――」
だがそれは、ルルワも同じだった。
「自分だけの幸せを、求めたことが」
「…………」
皮肉ではなかった。
だからこそ、ルルワの心に鈍痛をもたらす。
今のルルワと森でのアベル。
一体何が違うというのか。
少なくともアクレミアの目には、同じに映っているのかもしれない。
それは、人として間違っていることだと。
「わたくしは、時には己を押し殺す必要があると思います。自分のやりたいように、やりたいことだけをさせてくれるほど――」
アクレミアが、こちらを見上げる。
ルルワと同じ銀の瞳が、魔女の顔を映した。
「世界は、優しくないから」
誰も、悪くなかった。
悪い人間は、一人もいなかった。
誰もが、人のために、理想のために、未来のために――知恵を絞り、心を見つめ、尽力した。馬鹿は一人としていなかった。優しい心で溢れていた。だから――
仮に悪いところがあったとすれば、それは――
恋。
人は、人にしかなれないから。
ここは、真宵の森。
森に迷い込んだ勇者たちの物語は、誰も予想しない方向へと走り出す。
ただ一つだけ、伝えられることがあるとすれば――
この一週間後、ダソスは滅びる。




