第093話 魔力鍛錬(1)
「――アワン・ラーヘルから聞いたが、術を学び始めてまだ20日程度というのは本当か?」
「うん」
「……基本系統の知識を学んだのが、それから一週間後」
「うん」
「…………そして術を初めて使用したのが、四日前か」
「うん」
「「…………」」
無言で顔を見合わせるのは、二人の男女だ。
一人は俺の親友にして盟友、アガトスの息子――カロス。
もう一人は俺の最初の敵にして永遠のライバル、アベルの妹――アクレミア。
二人は何か言いたそうな顔で、数秒視線を交わし合う。その後、ようやく視線は戻ってきた。
「どうやって12使徒に勝った? 日数的に、魔人と戦った時は術の存在自体知らなかったのだろう?」
「うん」
イコラオスと戦ったのは、確か森を出て三日後――6月27日あたりだったはず。当然その時俺は術に関して全くの無知。どころか、この世界そのものが未知だった。
自分で言うことではないかもしれないが、本当によく勝ったと思う。やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。イコラオスも筋肉だったし。
「どっちもかなりギリギリだったよ? 運が良かった」
「…………そうか」
俺の月並みな答えに、真面目に答える気がないと判断したのか、カロスはつまらなそうに顔を背ける。
俺としてはどこまでも正直に答えた結果だったのだが、どうやらお気に召さなかったようだ。ちなみに、カロスがため口で喋ってくるため、俺も敬語を使うのは早々にやめた。
俺は他人と喋る時は基本的に安牌な敬語を使うよう心掛けているが、常にそれを押し通すほど融通が利かないわけではない。
TPOとまでは言わないが、なんとなくの感覚も大事にしている。あまりに胸襟を開かないというのも、今後のことを思えば良案とは思えなかった。
あくまでコミュニケーションの目的は友好を深めることにあるのだから、時に礼儀を取り払うことも必要だろう。
「軽く引継ぎは行ったが……一般論を前提に素人として扱う。異論は?」
「ない」
むしろ話が早いくらいだ。
術を学び始めてまだ一月にも満たない俺は、この世界では完全な素人と分類される。そう言えば、基礎を覚えるだけでも数年とかアワンが言っていた。そう考えると本当に素人――どころか赤ん坊だ。
カロスの言葉は、12使徒を下した実績ではなく、実状のみを見るということだろう。頼りになりそうだ。
「時間を無駄にはできない。まずは貴様の知識がどの程度か試させてもらう」
俺は頷き、新しい先生――カロスの言葉を待った。
ちなみに現在は、出所からまだ数時間――つまりは当日となる。
早朝8時頃に帰国。それから7時間の収容を経て15時ごろに出所。許可取りや引継ぎ作業に2時間弱。そして現在17時頃。
かなり足早――というより全力疾走のようなスケジュールだが、俺にとってはありがたいことしかないので全く不満はない。
俺の門限は日没の19時までだそうだ。つまり今日俺が使える時間は、あと二時間程度というわけだ。
「天術について、貴様が知っていることを喋ってみろ」
無茶ぶりとまでは言わないが、予想よりおおざっぱな問いに言葉が詰まる――ようなこともなく、俺は答えを返す。とくに気負う必要も見栄を張る必要もない。素直に自身の現状を明かせばいいだけなのだから。
「世界がなぜ在るかに干渉する術。神への信仰を糧に、世界の意味、目的を操作する力。魔術より発動が遅く、代償、効果が社会的、集団的に傾きやすい。条件型契約はシナイ契約。魔術と大きく異なるのは、系統外がなく四大原因系のいずれかに術者が分類される点」
「天術系統の頂点と言われる資質は?」
「目的因」
「いいだろう。適性でない天術をそれだけ理解しているのなら、合格だ」
やはり知識を測る時は、その術者の適性とは逆の系統について聞くものらしい。理に適っている。自分の術適性なら誰だって必死扱いて学ぶだろう。つまり今回の場合天術について聞くことで、知識の下限ラインを測ることができるわけだ。
(アワンもやってたな……)
そのアワンは、今ここにはいない。
本来俺の先生である彼女には、ルルワの方について貰った。ルルワと俺、この国でどちらを一人にしない方がいいかと考えた時、当然俺目線では彼女になるからだ。
ルルワから見れば俺になるのだろうが、ここは彼氏特権を使わせてもらった。アワンは俺なんかよりよっぽどしっかりしているので、安心して任せられる。
「素晴らしいですね。まだ学び始めとは思えません」
「どうも」
お姫様の合いの手に、失礼にならない程度に応える。
ニコニコと屈託のない笑みだが、よいしょ感が凄かった。お世辞が隠せていないし、たぶん本人も隠す気がない。
別に意図が透けてもいいから褒めておこう――そういう腹なのだろう。確かに他人に褒められるという行為は、世辞に関係なく一定の効果がある。それが繰り返されれば、誰だって良い気分になるだろう。俺はあんまり褒められるのが得意ではないと自覚しているが、嬉しいのは嬉しい。
(美人自覚してるタイプか……ルルワと一緒だな)
そしてその相手が美女であれば、もはや言うことはない。彼女も男には効果があると分かっているようだった。
美人を自覚している点は同じだが、お世辞が苦手なルルワとは違う。どちらかと言えば、彼女はアベルと似ているような気がした。
「基礎知識が入っているのならば、次は順当に基礎鍛錬だな。まずは魔力の存在を感じるところからだ」
「感じる?」
隠語か何かだろうか。
字のままで解釈するのならば、自分の魔力の存在を把握するということになるだろうが、それが鍛錬に該当するとは思えない。
(他人のとか?)
俺がしっくり来ていないことに気が付いたのか、カロスが補足するように言葉を続ける。俺は表情にはあまり出ないタイプだと思うのだが、意外に察しが良い。
「己の中の魔力。その存在を把握するところからだ。素人なのだろう?」
他人の魔力を感知する鍛錬――なのかと思ったが、どうやらそのままズバリの意味のようだ。もしかして、具体的な容量の把握とかだろうか。
「魔力なら分かるよ? 大体どのくらいあるのかも」
違っていたら恥ずかしいが、このまますれ違うわけにもいかない。
そんな俺の言葉に、カロスは顔を顰める。
「…………術を初めて発動したのは、四日前なのだろう? 上手く発動できたのか?」
「いや、できなかった。けどどれくらいの魔力を消費したかとか、そういうことは分かったよ」
「「…………」」
再び、視線を交わす二人。
言いたいことがあるならはっきり言ってほしいのだが。それほど俺はトンチンカンなことを言っているのだろうか。
なんか子供が勘違いをしている時、それを正面から否定していいものか――そんな親みたいな空気が感じられる。
「つまり……魔力の存在はもう感じ取れるわけだな?」
「うん」
嘘をつく理由もないので、素直に答える。
カロスは確かに驚きつつも、取り乱すようなことはなかった。
「確かに、そういう奴も中にはいると聞く。例えば特異点により術を授けられた者などは、力を捉える感覚にも生まれながらに長けているそうだ。貴様がどうなのかは知らんが、魔力を感知できるのなら話は早い」
なるほど。カロスが微妙な顔をしていた理由が分かった。
つまりは――
「本来鍛錬しなければ、そもそも魔力を感じることすらできないってことか」
「無論だ。特に元素系の根源魔術師は、この工程に力を注ぐ。必須技能の一つだからな」
元素系とは、四大元素系統に分類される術師――ではなく、文字通り元素を操る魔術師のことを言うのだという。
つまり火、水、土、風など、俺たち日本人が真っ先に思い描く魔法を使う者達だ。こういった属性攻撃そのものに特化した魔術師たちを、元素系魔術師と言うらしい。
その辺の分類は感覚だそうだ。分かりやすいようしっかり差別化してくれよと思うが、俺も元素系魔術師に該当するかどうかは自信がないため、文句を言える立場ではなかった。
まあひとまず、火で攻撃水で攻撃、さらには雷で攻撃――そんな奴は元素系。これで間違ってないはずだ。
「ならば次は、貴様の扱う元素を教えろ。曲がりなりにも師事を仰ぐ以上、系統の開示は諦めて貰おうか」
「…………」
もちろん、言われるまでもなくそのつもりだ。
どんな元素を扱うのか、そんなことすら隠されては教えようがないのは当然。
だから俺が黙ったのは、そんな理由からではなかった。それは教えられないと匙を投げられることを恐れてだ。
なぜなら――
「電気」
「「っ!」」
二人の顔色が、明らかに変わる。
カロスは目を見開き、逆にアクレミアは目を細めた。
「…………原属性だったか。魔力感覚に優れるわけだ」
「珍しいですね。該当する方にお会いしたのは…………二人目です」
なにやらそれぞれ納得しているが、勘違いだ。
俺は空気を読まず、すぐに訂正する。
「いや、無属性かな」
「なに?」
それは訝しむというより、間違ったものを見るような目だった。
気持ちはよく分かる。術を学んで一か月にも満たないのだ。間違って覚えていると疑うのは、至極当然のことだろう。
だが俺の顔色から、カロスはすぐに考えを改める。
「要領を得ないな……二つに適性があったのか? 四大属性ならまだしも……」
「仮にそれら二つの系統に適性があったとしても、一つに絞る方が賢いですよ?」
「…………」
天術、魔術、それぞれ複数の系統に完全な適性を持つ術師は割といるようだが、併用する人間はほとんどいない。
アクレミアが言うように、賢い選択ではないからだ。一つの系統に搾り、その系統に特化させた方が強い。範囲を狭めれば狭めるほど、一つを突き詰めれば突き詰めるほど、強力な術者になれる。これは術の鉄則。
仮に<原属性>、<無属性>という超レア系統の資質が同時にあったとしても、一つに絞るのがセオリーというわけだ。
この例外に4属性の複合属性というものがあるらしいが、ここではやはり例外となる。それ以前に、またも勘違いであるし。
(さて……どうするか)
素直に全てを語るのなら、月夜見の存在は当然欠かせないだろう。それはつまり、俺の切り札を明かすことを意味する。リスクが高い。
しかしこれらを伏せた場合、カロスの言うようにいまいち要領を得ない話となるのは必然。正しき理解がなければ、正しき教えも不可能だろう。俺が教師なら、やりにくいことこの上なかった。
数秒の逡巡の果てに、俺は結論を出す。ここでも、前に出ることを決めた。
「正確には、電気じゃなくて雷なんだ。能力の取得方法が特殊だったから、一般的な系統に該当するのか……そもそも元素魔術なのかどうかすら分からない」
「…………」
俺の語り口からきな臭さを感じ取ったのか、カロスの表情は一層険しくなる。
それはまるで、それ以上口にするなと言わんばかりの気配。面倒事は御免だと言う表情に見えた。
しかし、俺は続ける。その程度で揺らぐ覚悟なら最初から口は開かない。
そして想像通り、二人の表情はさらに強張ることとなった。
「…………なるほど。混沌術か」
「…………」
俺が全てを語ると、二人は押し黙ってしまった。
無理もない。俺が語ったのは、本来なら絶対に隠すべき情報。天術魔術の性質すら、勝敗を分ける大きな要因となるこの世界では。
それが適合者の少ない無属性であることまで明かし、さらには切り札――混沌術の存在。どころかその内容までをネタバレする。
サービスが過ぎるというより、馬鹿が過ぎる。会ってその日の他人には勿論、仲間であってもそうそう打ち明けてはならないほどの秘密。
だが当然、俺も全くの考えなしではない。
早い話、これは相手に首輪を献上する行為だ。ダソスの者達の懸念は、徹頭徹尾吸血鬼のコントロールにある。ならば自ら弱点を晒し、弱い立場となることで、その潜在的可能性を高めた。
性質、系統、切り札まで把握しているのなら、安心だと。いざという時はこちらの方が有利だと、そう思わせるため。
俺にしても、全くメリットがないこともない。まず、その程度のリスクでは揺るがない自信をアピールできる。そして手に余る情報は、相手の身動きを鈍らせる。大きな獲物を呑みこんだ蛇のイメージだ。消化し終えるまでは、下手に動けない。
情報の漏洩という面に関しても、そこまで鯱張ることはないだろう。彼らはこれから味方となる者達。そうあからさまに俺に不利になるようなことをしては、自分たちの首まで締まる。
そもそも系統である<無属性>は適合者が少なく傾向も掴まれていないため、知られるデメリットは少ない。月夜見に関しても、バレても特に問題ない能力だ。俺の死のリスクは既に極限まで突き詰められている。
ならばそれらを自ら開示することで、敵対の意志がないことを示す方が賢い。それに、優れた術者である二人から、月夜見を筆頭に能力の助言を貰えれば万々歳だ。この世界の術者の知識は、それほど馬鹿にできない。
最後に感情的な事を言えば、中途半端が一番嫌だった。良い部分だけ抽出して恩恵を得るより、全力でぶつかって挑みたい。その方が良い結果が舞い込んできそうだと、勘が言っている。
そんな打算的考えからの情報開示だったが、予想外の返答は返る。
「私は四大元素系<火属性>だ。貴様と同じく、元素攻撃に特化した魔術師」
「わたくしは天術、<目的因>です。お姉さまと同じですね」
二人はそれぞれ、自分の術適性と系統を明かす。
この意味が理解できないほど、俺は察しが悪いわけではなかった。
「…………借りは作らないって?」
意図せず、声は低くなる。
そんな俺の態度に、カロスは鼻を鳴らした。
「いや、隠す意味がないだけだ。我々の性質は有名だからな」
「…………」
薄々周知されていようが、この場で自ら口にする理由にはならない。俺に知られるリスクは変わらないのだから。
隠す意味がないとわざわざ口にしたことからも、カロスは俺の意図を悟ったのだろう。その上で、施しを受けたようで気分がよくなかったのだ。それが見かけ倒しならなおさらだ。
「愛想がないな」
「貴様もな」
「…………男の方って」
アクレミアの呆れも、当然。
これは見方を変えれば、歩み寄ったということでもある。一方にリスクを背負わせない姿勢は、本来褒められるべきものだ。
しかし、男はこのあたり単純ではない。いや、単純なのか。正直俺は、生意気な奴だと思った。嫌いではないが。
カロスは再び鼻を鳴らすと、本題へと戻る。時間を無駄にできないと言った手前、遊びはしないようだ。
「雷は順当に考えれば<原属性>……次点で火属性と風属性の複合となるだろう。まあ今は関係あるまい。要は元素系であることが重要だ」
「どうやって測る?」
「実際に見せてみろ。いやその前に、魔力量からだな」
相手の魔力量、天力量を知る術は、珍しいとまでは言わずとも、そう多くはないらしい。
カロスが言うには、20%から30%程度だそうだ。確かに多いとは言えないが、少ないとも言えない割合。
天術師魔術師の適性を見分けるスキルとは比べるべくもない。ちなみにその力が魔力か天力のどちらであるかまでは、分からないようだ。そりゃそうだ。魔力を扱うなら魔術師に決まっている。それでは術師適性を見分けるのと変わらない。
ちなみにちなみに、ルルワ、アワン、そして俺はそれに該当するスキルを持っていない。ちょうど確率の網をすり抜けている。
「<可能態知覚>。――っっ!?」
気配の変化は、顕著だった。
まるで突然、暗闇から世にも恐ろしき化け物が飛び出してきたような、そんな反応。その後、一歩、二歩と、カロスは後ろに下がる。
自然と上に上がっていく視線は、視界に入り切らないほどの巨人を目にしたようだった。イコラオスが突然目の前に降ってきた時なんかは、たぶん俺もこんな顔をするかもしれない。
その隣でしみじみと頷くように目を伏せるのは、アクレミアだ。その姿は、「お前もようやく来たか。このステージに」そんな気配を思わせた。
「なんだ……これは。信じられん……」
「…………」
お手本のようなカロスの反応に、俺はというと、ちょっと嬉しかった。
なぜなら、ルルワとアワンがあまりにあっさりしていたからだ。相対的にカロスへの好感度がちょっと上がったくらいだ。
「魔王と比べて、どれくらいか分かる?」
調子に乗ったわけではないが、いい機会と思い質問する。
俺の強さがこの世界の魔王たちと比べてどの程度なのかは、ずっと知っておきたかったことだ。ルコスの強さ、12使徒の強さからなんとなくの予想はつくが、できるだけ正確なところを知っておきたい。
「…………見当もつかない。だが……これを超える者が早々いるとは思えん」
「わたくしも同意見です。下手なことは申せませんが……これを軽く超えるようなら、わたくしは諦めます」
「ああ……同感だ」
あまり参考にはならなかったが、素直な意見のようだった。
言い分からして、アクレミアも何らかの方法で俺の脅威を感知していたのだろう。そして彼らの体感では、俺の強さはやはり天井のようだ。
ただやはり、子供から見た天井と大人から見た天井では、高さが違う。それは感覚の違いでしかないのかもしれないが、あまりに異なればそれはもはや現実だ。
(やっぱり、実際に魔王を見たことがある奴の意見がいるな)
上手く行けば合流予定の峠越。彼の強さ次第で全ては明らかとなるだろう。
頼むからルコス未満であってほしいものだ。もしルコスと同等、もしくは超えるような奴がいるとしたら、俺一人では絶対に勝てない。
「その雷の力とやら……今見せてみろ」
「…………」
明らかに真剣さが変わったカロスに、俺は手振りで離れてくれと合図する。
二人が十分に距離を取ったのを確認すると、俺は体内の魔力に意識を向けた。
「<電光醒覚>」
「「₋っ!!」」
起動した瞬間、待ってましたとばかりに荒れ狂う力の奔流。
世界を壊させろと暴れるエネルギーを、何とか体内へと閉じ込める。
相変わらず発動するだけで、馬鹿みたいに魔力を消費する力だ。
能力の強大さを思えば、それも当然のことかもしれないが。
「どうかな?」
「元素魔術だ……間違いない」
喘ぐような声は、少し震えているようだった。
俺が言うことではないかもしれないが、無理もないだろう。雷を目前にリラックスできる人間などいるはずがない。俺なんか近いようで遠い落雷が見えただけでも震えあがる。いや、雷鳴が聞こえてくるだけでも怖い。
もはや雷そのものとも言える俺が言えたことでは、本当に無いが。
(なんで元素魔術って見ただけで分かるんだろ? ルールとかあるのかな?)
カロスは発動しただけで、一目で確信したようだった。
何か共通の法則などがあるのかもしれない。
「起動の瞬間、どれだけの魔力を消費したか分かるか? 全体を100%とした場合で言ってみろ」
(! …………なるほど)
己の中の魔力感知が必須技術として要求されるというのは、そういうことか。
俺はその質問だけで、これから行われるであろう鍛錬の内容を推測する。今後どのような技術が求められてくるのかも。そしてこういうのは、俺は割と好きだった。
「…………6.7%」
だからこそ、感覚だけで答える。
山勘であり、肌感。余計な思考は必要ない。真っ先に思いついたものこそが吉。こういうのは当てずっぽうでいいのだ。
「…………なら次は、何でもいいから攻撃してみろ。威力は任せる」
(いや……正解は?)
答えどころか、正解かどうかすら教えてくれないのか。
そんな当たり前の文句を抱きながらカロスの視線を辿れば、そこには訓練用の標的物が並ぶ。
藁のようなもので造られた目標に向け、俺は八つ当たりのごとく指先を突き付けると――
「<月の狂気>」
白雷が、弾ける。
空間に歪を入れるような雷の疾走。熱を感じさせるほどの音の爆発。
しかし十数メートル先の的には届くことなく、雷は放電する。遠距離にも届くように威力を調整したつもりだったが、やはりコントロールの覚束なさからか、イメージ通りにはいかない。
やはり簡単ではない。俺に天才設定はなかったようだ。
俺は内心で肩を落としながらも、範囲外にいた二人に目を向ける。未完成の技なので、ちょっと恥ずかしかった。
「……消費量は?」
「3%……いや2.9%くらいかな?」
演習場の大地を焦がすほどの威力。
遠距離への着弾を試みたせいか、雷の放電範囲も広かった。魔力が抜けていく感覚、そして起動の瞬間の枯渇具合と比較しても、その程度だと思われる。
やはり、あまりにも燃費が悪い力だ。起動と一回使っただけでもう魔力の10分の1が無くなった。月夜見は一回で魔力の半分弱がごっそり持っていかれるし、大食漢にもほどがある。
どちらも無駄遣いどころか、そうそう発動すらできない。使い手の慎重な判断力が常に要求される力だ。
「…………」
そんなことを思いながら答えを待っていたのだが、今度も正解は明かされない。それどころか、何の言葉すら戻ってこない時間に、俺はとうとう訝しむ。
どうなってんだと視線を向ければ、そこには――大きく目を見開き、固まっている教師の姿。
彼は満足に言葉すら発することができない――そんな気配で、俺のことを凝視していた。




