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吸血鬼転生~最強なのに太陽の光で死ぬ俺は、唯一の希望”処女の血”を吸わせてもらうため、お姫様勇者のペットへと成り下がる~  作者: 兄貴
第二章

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第092話 因縁の二人


(…………アガトスの)


 友達の息子に、友達の紹介なく会ってしまったという感じだろうか。

 それだけでも気まずい事態だというのに、ここにさらにその友達はもう死んでいるという重苦しい要素が加わる。終いには――


(俺が殺したし)


 居たたまれないどころではない、痛い。主に俺が。

 吸血鬼に父を殺された被害者。ここに加害者と被害者が揃ってしまった。

 もしかしてもうその辺も伝わっていたりするのだろうか。アベルとの一件を話したのであれば、切っては切り離せない部分だろう。名誉ある殉職の理由を偽るほど、ルルワも寝ぼけてはいないはず。つまり、知っている可能性は高い。


(そういうのは事前に言っといてほしいなぁ……)


 心の準備というか、顔の準備ができていない。今もどういう顔をしていいか全く分からないから、能面を繰り出すので精一杯だ。上手く乗り切れているといいのだが。


「――まずは行動制限に関して。居住制限としましては、指定区域外への無断移動は全面的に禁止となります。さらに、夜間の外出はいかなる場合においても禁止。その理由に関しては、説明するまでもございませんね?」


 そんな中、解放の条件について説明するのは、アクレミアだ。

 こちらの少女は、吸血鬼に兄を殺された被害者となる。何を隠そうアベルを殺したのも、俺であるからだ。つまりこの二人は被害者ハッピーセットというわけだ。全くハッピーではない。


(いや……よくよく考えると……)


 右にいるルルワは、吸血鬼に兄と忠臣を殺されている。そして左にいるアワンは、吸血鬼に友を殺されていた。

 アベル、アガトス、ユウキは、吸血鬼に殺されたのだ。そしてその吸血鬼とは――


(俺……殺し過ぎじゃない?)


 加害者たる俺が、被害者たちに四方を囲まれている状況。

 もしかして俺って悪い吸血鬼なのではなかろうか。この国にいていいのか今更ながら迷ってきた。


「接触制限と致しましては、這人、未立人、貴族、聖職者らを初めとした一般市民への単独接触禁止。特定区域の立ち入りに関してましては、教会、軍事施設、国家中枢機関への侵入をことごとく禁止とさせていただきます」


 メモも見ずにスラスラと言葉を並べる姿から、彼女の優秀さが伝わる。

 内容に関しても、本当に当然のことばかりだったので、俺も黙って聞に徹した。


「さらに、吸血行為の禁止。正当防衛以外での戦闘禁止。能力使用の全面的な禁止。監視官の常駐、定期報告義務などが課されます」


「吸血行為? 能力使用まで……話を聞いてたの?」


 アクレミアが続けた内容に、ルルワは即座に否を唱える。

 吸血は俺の生命線。そして吸い取ったルルワの血で<公序陵辱イリーガル・ムーブ>を行わなければ、俺はたちまち太陽に焼かれて死んでしまう。吸血するな、能力も使うなは、実質死ねと言っているに等しい。ルルワからすれば当然受け入れられないだろう。だが――


「いえ、もちろんここで言う吸血行為とは、他者全般へのものです。欲求ではなく、あくまで生命活動維持を目的としたものであれば、適用外とさせていただきます。言うまでもなく、相手に関しては限定されますが。また能力発動に関しましても、恒常的なものは含まれません」


 まあそうだろう。

 これはアクレミアの説明が足りていなかったというより、ルルワの早とちりだ。些か前のめりの姿勢は、彼女の機嫌があまりよくないからなのか。それとも姉妹仲自体があまりよくないのか。


(アベルとは結構仲良かったよな……)


 俺の目からは、かなり良好な関係のように見えた。少なくとも、前世での俺と姉の関係とは全く違う。

 ならばアクレミアともそれに近い関係なのか。それと、アベルとアクレミアはどうだったのか。気になるところだ。なんとなく、大切な気がする。


(勘だが……悪くはなさそうだな。シスコンだったし……)


 アベルは妹を森に監禁し、一人で一生可愛がりたいという禁忌の欲望を剥き出しにした、生粋のシスコンだった。おそらく妹が可愛くて可愛くて仕方がなく、一線を越えてしまったのだろう。

 だがそんなシスコンアベルが、もう一人の妹を置き去りにした理由は気になる。彼女は勇者ではないから、連れて行く巧い根拠を用意できなかったのだろうか。


(そういえば、カロスもなんで――)


「ですが、吸血時には必ず監視を立ち会わせていただきます。よろしいですね?」


 思考から浮上した俺は、ルルワと顔を見合わせる。

 ルルワが頷いたので、俺も同意するように頷いた。別に今更、俺に恥ずかしいなどという感情はない。ルルワがいいなら、俺も別に良かった。


「この国では、ムメイ様は客人ではなく特別監察対象個体となります。再拘束条項に関しましては、こちらが危険と判断した場合――この一点のみです。即時再収監の運びとなり、それら判断は現場に一任されておりますが、よろしいでしょうか?」


 俺は再び、ルルワを伺う。

 彼女が頷いたので、俺も頷いておいた。あくまで主導権はご主人様にあると、しっかりアピールしておかなくてはならない。実際俺の命と主導権はルルワに全面譲渡している。これが本来の形だ。

 

「最後に、監察期間はひとまず一か月とさせていただきます。場合によってはそれ以上となることも考えられますが、ご理解ください。そして、皆様の居住スペースは分けさせていただきます」


(…………なるほどな)


 ルルワが先ほどから不機嫌な理由が分かった。

 一か月、場合によっては数か月、俺と部屋が別々。

 そして部屋が別ということは、寝る場所も別ということ。この国では俺と添い寝ができないから、拗ねていたというわけだ。


(最近は抱き枕がないと寝てくれないもんな……)


 無いと落ち着かないとばかりに四肢で捉えて離さない。ちなみに抱き枕とは、言うまでもなく俺のことだ。彼女は今、お気に入りのぬいぐるみを取られた幼児のような心境なのだろう。それは不機嫌にもなる。

 すまし顔のルルワだが、その下はふくれっ面なのだと思うと非常に可愛く思える。彼女は表面上は大人らしいが、中身は結構子供っぽいところもあるのだ。その辺がやはり可愛らしいのだが。


「こちらとしましては、基本王城から出て頂きたくはないのですが……何かご要望などございますか?」


 コイラスでもそうだったが、俺たちが滞在するのはやはり王城のようだ。

 それもそうか。吸血鬼なんかを人間のいる街に放り込むわけにはいかない。そっちで何か事件を起こされるよりも、まだ内々で処理できる城の方がマシということだろう。王を危険にさらすリスクに目を瞑ってでも。


「まずは吸血鬼の文献に関する持ち出し許可。有識者たちとの面会許可。アベルの進めていた研究に関する現状報告……私からはそのくらいね」


 ルルワからバトンを渡すように視線が向けられる。しかしその前に、アクレミアが口を挟んだ。


「申し訳ありませんが、持ち出しは許可できません。また当然ですが、そちらに関してムメイ様が携わることも、許可することはできません」


「…………」


 非情に申し訳なさげに断られるが、こればかりは当然だろう。

 俺が仮に悪い吸血鬼だろうが、良い吸血鬼だろうが――吸血鬼に吸血鬼の貴重な情報を売り渡す人間がどこにいるというのだろうか。善意悪意に関係なく、重要な情報は慎重に扱うに限る。

 ルルワというクッションを挟むのは至極当然。むしろルルワはクッションとしては薄すぎる。おそらくは、ルルワの調べ物は難航するはずだ。


「ですがわたくしどもといたしましても、吸血鬼への理解と把握は急務。そちらに関しては全面的に協力することをお約束いたします」


 と思ったが、そうでもないらしい。

 確かにダソス側からしても、吸血鬼に関してよく分からんままでは落ち着けない。より早く吸血鬼に対して万全な状態へと移行するため、ルルワと協力する意思があるというわけか。

 願わくばそこに俺も協力したいところだが、それは高望みだろう。効率を求めるのは当然だが、そのために信頼をすっ飛ばしていいわけではない。

 この程度は別に面倒な大人の事情とも言えない。ここはルルワを信頼して任せるのが安牌だ。


(ルルワは軍の編成に関しても意見を求められるだろうし……忙しそうだな)


 吸血鬼に関する伝承の調査、戦争の準備とうとう、勇者の役目は多岐にわたる。条件は関係なく、俺に構っているような暇はないだろう。

 

「あなたは何かある? 能力の実験をしたいとか言ってたわよね?」


「…………」


 そして西部へ進撃するまでの準備期間数か月は――俺としても有難い時間だった。

 新しい能力の鍛錬、そして魔力コントロールの師事などは急務だろう。俺は俺で、やることが溜まっているのだ。

 

(月夜見ツクヨミはどうするか……)


 混沌術カオス――<月夜見ツクヨミ>。

 俺の切り札だけに、少しでも理解を深めておきたいというのは当然の憂慮。そのためには、実際に使用するのが早いだろう。俺はまだ一回、それも緊迫した死闘の中でしか能力を使っていないのだから。精神体力ともに余裕のある時に試運転したいと考えるのは、当然のことだった。しかし――


(許可以前に、使っても大丈夫なのか……)


 ルルワが確認してきたのは、魔術の使用許可に関してだろう。やる気なら今ここで許可を取れと。当然の忠告だ。

 しかし俺の方にも懸念はある。それはそもそも、能力を発動していいのかという問題。


 俺の<月夜見ツクヨミ>は、命を懸けたゲーム。

 俺はこの能力を、是非はともかく、対戦者を巻き込むことを前提に創造した。現に実戦では、十中八九敵を巻き込んで使用するだろう。ならば実験も、そうでなくては話にならない。

 しかし、例えばルルワを巻き込んで術を発動した場合、試練に関して八百長などの行為が行えるのかは、甚だ疑問だ。

 <月夜見ツクヨミ>を発動した場合は、必ず試練をこなさなければならない。これは絶対のルール。ならば何らかの方法で手抜きなしの真剣勝負を強制されてしまった場合、俺は意味もなく命を危険にさらすことになってしまうのだ。それも敗北すれば、ルルワに殺させることになる。

 そうなる可能性を念頭に置いた場合、相手のレベルが高ければ高いほど厄介なことは間違いない。ルルワを筆頭に、アワンでも駄目だ。俺が負ける可能性が高すぎる。

 

 もちろんそれ以前に、相手と本気で戦う意志がない場合、能力が発動するのかも分からない。魔術は欲望を糧とする。試練を超えたいという欲望がなければ、術自体が機能しないということも十分に考えられる話。

 しかし、それに期待して実験に踏み切るには、やはりリスクが高すぎた。仮に上記のような条件があれば、発動した瞬間解除は出来ず、命懸けの勝負を終えるまでは帰ってこれない。

 

(試すにしても、絶対に勝てるような弱い奴か……)


 となるとレベル1の一般人に限られるが、一般人との接触は先ほど禁止されたばかりだ。許可が降りるはずもない。

 だがこれは勘になるが、弱い相手ではやはり徒労に終わる気もしていた。なぜなら、試練を超えたいという俺の欲望の具現なのだ。その試練を自ら低く見積もった場合、得られる能力にも影響しそうな気がする。つまり雑魚能力が与えられるというパターンだ。

 もちろんそれらの事実を知るだけでも大きなメリットではあるが、最悪なのは何らかのペナルティが発生する場合だ。


(なんせアレだからな……)


 <月夜見ツクヨミ>という能力そのものを操る妖精、ルルワ2――通称ルーニー。妖精というより小悪魔な彼女が、何をしてくるかが分からない。

 彼女は恋の試練と称し、己に見合う男か試すと口にしていた。ならば舐めたことをしようものなら、何らかの制裁に乗り出すことだって考えられる。


(例えば与えた能力の没収とかな)


 可能性は多岐にわたる。

 ルルワの血によって錬成された第三者の存在。まさかただの進行として生み出したはずの彼女に、ここまでかき乱されることになるとは全く考えてもいなかった。だが、初回のあの感じを見せられて、彼女の存在、そして影響力を無視できるはずもない。


 できれば知性生物以外にも術は働くのか、<月夜見ツクヨミ>発動中の外界との時間差、外から見た時空間はどう見えるのかなど――知っておきたいことは山ほどあったのだが、諦めるしかないだろう。

 <月夜見ツクヨミ>に関しては、実戦使用の中で少しずつ知っていくしかない。それほど安易に踏み切るには、ルーニーの存在は脅威だった。


(想定が甘かったな。我が能力ながら……危険すぎる)


 リスクは承知だったが、思った以上に危険な能力。そして未知の能力だ。

 俺の欲望をそのまま具現化した力だけに、逆に扱いずらい。そして俺の欲望にルルワの存在は不可欠である点を、逆手に取ったルーニーの脅威。

 彼女の生成にルルワの血を使用した判断が吉と出るのか凶と出るのか。現段階では何とも言えないが、ただ分かるのは、俺は現状手詰まりだった。


 そんなリスクなどお構いなく、脳死でガンガン使うのがもしかしたら唯一の解決策なのかもしれないが、その真価を発揮する前に死ぬのでは笑い話にもならない。俺はそこまで馬鹿にはなれないし、馬鹿でもないつもりだ。

 現状<月夜見ツクヨミ>に関しては、切り札をいつでも切れる状態にあると静かに己を鼓舞することが、最適解に近いだろう。発動できるという事実が、既に強い。この能力には、おそらくどれほどの強者であろうと抗うことはできないのだから。


(<月夜見ツクヨミ>は後回しか……なら<月の狂気(ルナシー)>だな)


 その<月夜見ツクヨミ>で得た記念すべき最初の能力――<月の狂気(ルナシー)>。

 莫大なる雷の力。

 これを十全に扱うための魔力コントロール技術。この訓練に時間を当てるのが、今は最良だろう。今の俺は、魔力の扱いに関し無知すぎる。


「魔力の扱い方を教わりたいです。訓練の許可と、できれば適切な師も……」


 アクレミアに頼みながら、俺はアワンに視線を向ける。

 彼女は申し訳なさそうに、首を横に振った。


「天力と魔力の扱いは、全く異なります。ムメイさんと同じ、根源魔術師アルケイスト、それも元素魔術に特化した者でなければ……」

 

 どうやらこれまでのようにアワンから教わることはできないようだ。ならば自動的に、彼女はルルワの方を手伝うことになるのだろう。

 そのままアワンの視線は、バトンを渡すようにアクレミアへ。

 そしてアクレミアも、そのバトンを繋ぐ。


「それはちょうどよかったです。彼も根源魔術師アルケイスト。それも、この国最高の魔術師です」


 その視線の先は、カロスだった。

 確か宮廷魔術師とか言っていたか。そういう重役はもっと高齢の者が就くのかと思っていたが、やはり世界が違うせいだろうか。

 だが例え世界が違ったとしても、そんな重要役職の人物を吸血鬼に貸し出していいとは思えないのだが。

 しかしアクレミアが勧めるということは、望みはあるということだろう。


「お願いできますか?」


「…………陛下の命があればな」


 俺の言葉に、ぶっきらぼうな声が返る。

 吐き捨てるような言い方は、彼が俺のことをどう見ているかを如実に表していた。


(なんか懐かしいな……アガトスも最初はこんな感じだったっけ……)


 アガトスも最初はめっちゃ俺のことを嫌っていた。

 そう思えば、二人は刺々しい気配が似ている気がする。顔は全然似ていないが。


(いや、アガトスも若い頃はイケメンだったのか? 髭を取れば……)


 カロスの甘いマスクとアガトスの強面を重ねていると、横のアクレミアが微笑む。


「安心してください。おそらく、すぐに許可は下りるでしょう。というのも、これから長いお付き合いとなりますから」


「!」


 その意味が分からない俺ではなかった。

 俺は改めて、二人を視界に収める。この場へと立ち会った、吸血鬼と因縁深き二人を。


「はい。わたくしたちが、あなたの監視です」

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