第057話 大事なこと
「――キィ……」
メイド――レイラが目を伏せ、ようやく長い長い物語が終わりを迎えた時――
俺は鳴いていた。
それは――泣くことが許されない吸血鬼が、決して流れるはずのない涙を呑み、それを絞り出したような儚き声。
この一言に、一体どれだけの気持ちが、想いが、そして言葉が、どれだけの文字数が込められているのか、俺にだって分からない。
本当に分からなかった。分かったのは、ノリで行動するもんじゃねえなということと、そこには特に何も詰まってはいないということだけだ。
「なんで今鳴いたのよ」
「なんとなく。求められてる気がして」
「誰によ」
誰にだろう。
少なくとも、ルルワには求められていないことが分かる。
もしかしたらそれは、俺自身だったのかもしれない。話の内容が重すぎて、何でもいいから空気を変えたかったのだ。
それとなんとなくではあるが、アワンの物語は俺のキィから始まった様な気がするのだ。だからキィで締めくくっておいた。まさにキィを利かしたというわけだ。
今ので誰にも求められなくなった気がする。そしてやっぱり、俺は特に何も考えてはいなかった。
「いやーそれにしても長かったな。なんというか……とにかく長かった」
本当に長かった。
文字数にすると7万1081文字くらいになりそうなほどに長かった気がする。もはや別作品だ(?)。主人公交代しろという声が今もどこからともなく聞こえてくる気がする。
「ちゃんと話聞いてたんでしょうね?」
「もちろんだ。それでレイラとケインの結婚式には招待して貰えるんだよね?」
「何を聞いてたのよ!? やっぱりサボってたわね!」
「うおっ!?」
もはや当然のようにソファに押し倒され、両頬を引っ張られる。
わちゃわちゃと揉み合うが、公私ともに尻で敷かれている俺は、ルルワのマントポジションになすすべがなかった。今だって、柔らかい尻の感触に浸るくらいしかできる抵抗がない。
抵抗はオームとはよく言ったものだ。ちなみにオームはこれΩだ。お尻にしか見えない。そして小文字にするとωだ。見えないとかではなくもうお尻そのものだ。
「いつになく真面目な顔してるからおかしいと思ったのよ! 何にも喋らないし! 微動だにしないし!」
「できるか! 映画館の隣の席で号泣してる女がいた時の男の気持ち考えたことある!? 怖くて何もできないの! 冗談でもキィとか言えないの!」
「キィは言ったでしょ!?」
「キィは言った!」
ぐにぐにと顔の形が変わるほどに頬を引っ張られるが、俺は好きにさせる。
むしろ誘った節さえあった。
そして彼女は誘われるままに、自身の表情を隠すように俺の胸へと押し付ける。
「うぅっ……!」
「はぁ……」
嗚咽を漏らし、震える少女を抱きしめながら、少しだけ羨ましく思う。
誰かを想って泣けることに。この体では、もうできないことだ。
誰かのために泣けない俺は、こうして誰かのために泣く女を、抱きしめることくらいしかできなかった。
俺のキィの理由など、所詮はその程度だ。やっぱり求めていたのは、俺だった。
***
「――お見苦しいところを見せて申し訳ない」
童貞ご褒美時間――ルルワよしよしタイムが終了すると、俺たちはソファに並んで腰かける。
その間、メイド――レイラは、対面に腰掛け、静かに俺たちを見守っていた。
まあ等価交換という奴だろう。俺は彼女の長いお話を黙って聞き、彼女は吸血鬼とお姫様のイチャイチャを見せつけられた。客観的に言って等価になっているかは分からないし、彼女の生い立ちを考慮すれば傷口に塩どころの話ではないだろうが、まあなんにせよ一段落と言った感じだ。
ここからはようやく未来へと踏み出せる。ほんとさっさと未来に進まないと怒られそうだ。
「ふんっ、見せつけてやったのよ。人だろうと人でなかろうと、関係ないってことをね。別に私が泣きたかったわけじゃないし、彼はただのペットに過ぎないし、ほんと私たちはただの主従関係に過ぎないけど、勘違いしないでよね!」
「そこまで言うならもう素直に頼めよ。ツンデレ下手か」
「ツンデレは大体下手でしょ」
「確かに」
俺の知ってるツンデレは、なぜか枕詞にデレる理由を長々と添えていた。
例えば、今から血を吸わせてあげるけど、別にあんたを助けたくてやるわけじゃないんだからね! 魔王を倒すために仕方なく連れて行くだけなんだからね! 勘違いしないでよね!――などのように。
これでは台無し――でもないか。このパターンでも結構はかどる気がする。もちろん一般受けは良くないかもしれないが、ごく一部には刺さるのでは。少なくとも俺には刺さった。
(ツンデレ……悪くないか。あとはメスガキ要素も足して……この際だ。盛れるものは全部盛っとこ……)
こういう何気ない日常からアイデアは浮かび上がるのだ。
まさに絵を描くに等しい作業。このまま行けば萌えキャラがプリントされた痛車みたいなものが出来上がりそうだが、だからこそ無敵。異世界では無類の強さを発揮できそうだ。
それに、これらはあくまで副産物に過ぎない。能力自体とはほぼ無関係のものだなのだから、ちょっとしたお遊び要素はあってもいいだろう。人間の欲に遊びは不可欠。
しかし本体に関係ないからといって、手抜き作業などできるはずがないのも人間のサガ。これこそが、日本人の血に流れるクリエイト魂。
なんでそこにそんなにこだわるの?――という呆れ声が聞こえてきてからが創作のスタートだ。
みんな、見ててくれ。俺は日本人として、きっと知識チートで異世界を無双してみせる。
「ご安心ください。決して口外は致しません」
「全く信じられないけどね。あなた凄く口が軽そうだし」
俺が誰とも分からぬ仲間たちに誓いを届けている間にも、当然現実は進む。
思ったよりも進んでいないなとすら思ったほどだ。しかしルルワの棘のある言葉には、急速に意識を引き戻された。
「ルルワ……」
割とストレートな皮肉に驚く。
まるでユウキの存在を密告した過去のレイラを責めているかのようだ。このタイミングでは、誰もがそのように受け取るだろう。当人であれば特に。
「違うわよ。彼女はメイドなんだから、どんな些細な情報だろうと主人に伝るのが職務でしょ? 黙ってる方がむしろ不自然だわ」
「ああ……」
勘違いだった。むしろそれは、彼女のプロ意識を遠回しに褒めるような内容だ。
しかしその事実は、ここでのやり取りは十中八九ケインに伝わるだろうと、ルルワが見做しているということにもなる。
ならばこれは、俺への警告でもあるのだろう。発言は慎重にしろと。
先ほどまで吸血鬼に甘えるように抱き着き、彼女の前で「頭撫でて」とか口にしていた少女がそれを言うのは、なんだが釈然とはしないが。
「信用されないのは当然のことです。私もなれ合うつもりはございませんので、そのご認識でよろしいかと」
「開き直りね、嫌いじゃないわ」
なにやらルルワとレイラは、見えない火花のようなものを飛ばし合っている。
どうやらお互いに、あんまり相手のことをよく思ってなさそうな感じだ。
俺は特にレイラという人間そのものに含むところはないが、この状況に便乗することはやぶさかではない。
というよりも、さっさと話を本題へ進めたかった。
「じゃあ俺も開き直らせてもらうけど、結局何が言いたかったのかな?」
「…………」
彼女の方こそが、何を言われたのか分からない――そんな顔だった。
眼鏡越しのレイラの瞳が、大きく見開かれる。
話を聞くに、彼女はまだルルワと同い年らしいが、年齢不相応の大人びた表情だ。しかしそんな顔が、今は年相応となる。
「…………どういう、意味でしょうか?」
想定していた答えと違った――そうハッキリと顔に書いてある。
俺は気づかないふりをして、そのまま進めた。
「ん? そのままの意味だよ? 何しに来たのかよく分からない。要は今回の結婚はやっぱり双方の合意による正式なもので、アワンもちゃんと納得してるんだよね?」
「…………まあ」
含みのある返事だが、アワンの本心がどこにあろうと、彼女の意志もちゃんと確認されているということだろう。少なくとも、無理やりではない。
もし強権や脅しを用いた結婚なのであれば、ケインの元で事情をよく知るであろうレイラが、まずその話を俺たちにしない理由がないからだ。
正当性を主張し、正義はこちらにあることを示し、勇者の力を借りてアワンを助け出す。それが一番手っ取り早いし、俺たちも手放しで協力できる。こんな長いだけの過去話をして同情を引く理由はないし、今すぐにでも喧嘩上等で乗り込めるところだ。
つまりそうではない時点で、アワンは曲がりなりにも、この結婚にちゃんと同意していることが分かる。レイラは自分じゃなんともできないと思っているからこそ、俺たちの同情を引き、勇者の権力でこの状況を何とかして貰おうと思っているのだ。
この時点で、俺はケインが悪とは思えなくなった。むしろ嫌なら嫌とはっきり言わないアワンの方が悪い。
「君は今ケインに仕えていて、これからはアワンにも仕えることになる。また家族に戻れて良かったじゃないか。お祝いの言葉でも贈ってほしいのかな?」
「…………」
機嫌が悪くなったことは、その顔を見れば一目瞭然だった。
このことから、やはり今回の結婚を彼女は望んでいない。むしろ反対派の立場にあることが分かる。
だから俺たちにアワンの過去を打ち明けにきたのだ。つい先ほど目的が分からないとは言ったが、そんなことはない。むしろ誘導があまりにあからさまだ。
「幸福自慢をしに来たのか、不幸自慢をしに来たのか知らないけど……どちらにしろあまりいい気分じゃないかな。今のままじゃ君は、ただ他人の過去を告げ口しただけの女だ。勝手に聞いた俺に責める資格はないんだろうけど、だからこそやっぱり気持ちよくはない」
「ちょっと……」
ルルワが落ち着けとでもいうように、そっと手を添えて来る。
それを俺は、軽く振り払った。
「…………アワン様の過去を聞いて、あなたは何か思うことはなかったのですか? 吸血鬼であるあなたは」
分かりやすい挑発を無視し、俺はその内容について真剣に、本気で考えた末に――答える。
嘘はつかなかった。
「特にない」
「っ!!」
瞬間、弾かれたようにレイラは立ち上がる。
俺は立ち上がった彼女を目線で追った。
「あなたたちと行動を共にしている時、アワン様がどんな気持ちだったか考えたことはないんですか!? どんな思いであなたと話していたか!? あなたたちの関係を、どれだけ心を痛めながら見ていたか!? 何とも思わないの!?」
「…………」
レイラの怒声を受けて、俺の中に浮かび上がってきたのは――記憶だ。
これまでアワンと交わしてきた、数々のやり取り。ずっと引っかかっていた、彼女という人間への疑問。
それが、彼女の過去を知ったことで、確かな理解へと繋がる。
『私も一緒に連れて行きなさい!! 私も、勇者です!!』
『いたずらに歴史を想起させるような真似をして、世界の人々を不安にさせていることがどうして分からないんですか? 彼がもし暴れ出したら、あなたはその責任をどうやって取るつもりですか?』
『あなたたちの行動の一つ一つが、勇者の名を汚している! 見ていて不愉快なのよ!!』
『馬鹿な女!! だから騙されていると教えてあげたのに!! 化け物に騙されたあなたが悪いのよ!! 私の忠告を聞かなかったあなたが!! 自業自得じゃない!!』
『あなたの良さは、こうして直接関わり合ってみないと分かりませんね。ルルワ様が選んだのも分かります』
『あなたって……本当に……』
『笑えますよね。試練の一つも……乗り越えられない女が』
俺たちへの叫びは全て、アワン自身に向けた言葉だったのだ。
俺たちの関係に、過去の自分を重ねていた。幼き日のアワンと、ユウキを。
彼女はきっと、信じたかったのだろう。ルルワは騙されていると。自分は間違ってないと。
そうでなければ、ユウキが浮かばれないから。
俺が逆の立場だったらどう思うだろうか。
なぜ自分たちだけがあんな目に。なぜ彼女たちだけが許されているのか。
なぜこんなに楽しそうにしているのか。なぜ笑っていられるのか。自分には、許されなかったのに。
そんなことを思わないと言えるだろうか。ルルワを、失ったとしたら――。
これまでのアワンの心中を思えば、それは14歳の少女にはあまりに重すぎるものだろう。
俺たちといた短い時間でさえ、いやだからこそ、絶えず様々な感情に襲われたはずだ。怒り、孤独、嫉妬、羨望、尊敬、祝福、自己嫌悪、諦観、罪悪感――本当に、想像もできない。
だからこそ、アワンはずっと、余裕がなかったのだ。
それでも彼女は、勇者になりたいから――
自分の居場所を、見つけたいから――
「何とも思わない」
だから、俺は同情しない。
可哀想などとは、口が裂けても言わない。
それが、ルルワと、レイラの望む答えではないと、分かっていたとしても。
「…………呆れて言葉も出ません。やはり人外に人の心を問うこと自体が間違いなのでしょうね」
案の定、レイラは落胆を隠しもしなかった。
期待外れとでも言いたげな表情。彼女はきっと、アワンをどうしても助けたいのだろう。自分ではどうしようもできないと分かっているから、ここにきたのだろう。その気持ちは痛いほど分かった。だが――
「殺すぞ?」
「どうぞ?」
一瞬で沸点を超えたルルワの怒気にも、物おじせずに睨み返す。
たぶん恐怖はしているのだろうが、怒りで感覚が麻痺しているのだろう。彼女は恐怖の震えで怒りを示し、なおも言葉を紡ぐ。
「では別のことを聞きますが、この国に滞在していることについてはどうお考えですか? 人外が悪夢を届け、人々を苦しませたこの国で、あなたが平然と、呑気な顔をして過ごしていることについては?」
罪悪感を引き出したいのだろうが、逆効果だった。
そちらについては、本当に全くといっていいほどなんとも思わないので、悩む必要もない。ユウキの過去と俺とは全く関係ないのだから。
「特に何も。違法入国であればまだしも、俺たちは正式な許可を取ってこの国に滞在している。そのルールに人も吸血鬼もないはずだ。抗議や嘆願なら快く吸血鬼を招き入れ、人々を今も不安にさせているこの国の王にしてくれ。それもなしに俺に文句を言うのは筋違いだ」
ルルワが許可もなく勝手に俺をこの国に引き入れたとかなら文句を言われるのも仕方がないが、俺たちはちゃんと許可を取った上でこの国にいる。
その時点で責任は招き入れた王にあるはずだ。そして反対の声があるのなら、王を説得できなかった人間たちにこそ責任がある。現時点で何も悪いことをしていない俺たちが責められるのはおかしい。
これは開き直りではなく、社会ルール的な一般常識だ。だから人間社会には法というものがあるのだから。
「責任転嫁ですか? まるで子供の言い訳ですね。恥というものがないのでしょうか?」
「ない。俺たちは、恥ずかしいことなんて何一つしていない」
だから、俺は断言する。
俺たちは俺たちなりに、ちゃんと人々への配慮も欠かしていないつもりだ。抜けているところや不注意なところを指摘されるのであれば、それは甘んじて受け入れるが、存在そのものを否定される筋合いはない。
「やっぱり、私は間違っていませんでした。化け物とは分かり合えない」
「…………」
その言葉には、俺は答えなかった。俺も答えを持っていないからだ。
過去のレイラの行動に関しては、俺は人として正しいと思う。だがそれは、ユウキの存在を大人に伝えたこと。それのみに限られる話だ。
ユウキがそのままアワンと生活を共にしていた場合、その後どうなっていたかなど俺には分からないし、何ならこの先の俺のことさえも俺には分からない。
だから化け物と人は分かり合えないという彼女の言葉を、間違いだとは言えなかった。正しいとも言えないが。
そんな答えを知らない俺ではあるが、レイラに対し、一つだけどうしても言ってやりたいことがあった。
俺にとって、本当に大事なことだから――
怒りを、抑えきれなかった。
「逆に聞かせてくれ。恥ずかしくないのか?」
「「っ!?」」
俺は、静かに立ち上がる。
レイラが明確に怯えの感情をその顔に見せ、一歩引き下がるが、関係なかった。
「可哀想な過去を打ち明ければ、俺たちの同情が引けるとでも思ってたのか? 告げ口すれば、この状況をなんとかしてくれるとでも思ってたのか? ふざけるな……ふざけるなよ!!」
俺はこの異世界に出て初めて――怒りのままに叫んだ。
***
「…………」
ルルワは初めての光景に、息を飲む。いや、正直恐れの感情さえ抱いていた。
ムメイという男は、基本的に怒らない。いや、怒りという感情はあるのだろうし、怒りもするのだろうが、それを軽はずみに表に出すような男ではなかった。
少なくとも、ルルワの前では一度だってない。おそらく、自分が怒るとルルワを怖がらせると思っているのだろう。
実際、その通りだった。ルルワは、怖かった。
初めて本気の怒りを見せたムメイの姿に、制止することさえできない。
その怒りが自分に向けられないことを、ただ心の中で祈るのみだった。
「あっ……! ご、ごめ……!」
そしてそれを正面から受ける人間は、ルルワの比ではない。
先ほどまでの威勢が嘘のように、蒼褪めた表情。体は震え、目尻には涙さえ浮かんでいる。
先ほどまでの彼女の無礼な発言を思えば、清々するような姿だったが、間違ってもルルワは喜べなかった。むしろ今だけは深く同情する。そして自分じゃないことに、心から安堵した。
だが、怯える女の姿にも、ムメイの怒りは収まらない。
むしろ意味もなく謝罪の言葉を口にしようとしたレイラに、さらなる怒りは増したようだった。
彼は理由のない謝罪を、一番嫌う。
「アワンとちゃんと話をしたのか!? それもせず、お前はここにやって来たんじゃないよな!?」
「っ!?」
ムメイの豹変に、ルルワと同じく気圧されていたレイラの瞳が、大きく見開かれた。これこそまさに、息を飲む光景だ。
抜け殻だった体に魂が入り込んでいくような、そんな姿。
そして息を尽かせぬ言葉は、続く。
「アダにユウキのことを伝える前に、ちゃんとアワンと話し合ったのか!? 彼女の前から立ち去った時は!?」
「っ!!」
「なぜ彼女に向き合わなかった!! ちゃんと話をしていれば、少しは違ったんじゃないのか!!」
「…………」
レイラの体は、絶えず震えている。
瞳も、唇も、手足も――全て。可哀想なほどに。
しかしその揺れる瞳は、確かにムメイを見ていた。その耳は、確かにムメイの言葉を聞いていた。
彼女は今、初めてムメイと向き合った。
「この国でアワンと再会した時、ちゃんと過去にケリをつけたのか!? ここに来る前に、自分はこの結婚には反対だと、そうアワンに伝えたのか!?」
「…………」
レイラへの言葉は、ルルワへの言葉でもあった。
ルルワはそう、彼の言葉を受け取った。
『だから……俺にとっては、とても大事なことなんだ』
『私……彼女ともう一度話してみるわ。今度は私の考えを、ちゃんと伝えてみる』
『ルルワ。俺は君を好きになったことを――心から、誇りに思う』
彼は、ずっとそうだった。
苦しくても、辛くても、怖くても――向き合うことこそを、ずっと大事にしていた。
だからあの夜、ルルワを怒ってくれたのだ。アワンと向き合おうと決心した、ルルワを褒めてくれたのだ。
それが、一番大事なことだから。
「アワンはずっと、君を待ってたんじゃないのか!?」
「ううっ……! う"う"う"っっ……!」
人外の吸血鬼の声は――今、人の心へ。
泣き崩れ、悲痛ながらもようやく心の内を吐きだせたように、安心して感情を振りまくレイラの姿に――ルルワは思う。
もしかしたら彼女は、ずっと誰かに怒って欲しかったのかもしれない。
その言葉を、ずっと待っていたのかもしれない。
彼はいつも、その人が求めている言葉を、その人が心の奥底で欲している言葉を――
選び、届ける。
「怖くても、君が向き合うんだ。苦しくても、君が助けるんだ」
普段は中々言葉を語らない、私の吸血鬼。
だからこそ彼の言葉は、これほどの重みを持ち、そして――
「家族なんだろ?」
どこまでも、人の心へ届くのだろう。




