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吸血鬼転生~最強なのに太陽の光で死ぬ俺は、唯一の希望”処女の血”を吸わせてもらうため、お姫様勇者のペットへと成り下がる~  作者: 兄貴
第一章

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第039話 神託聖域(2)

 

 ――12使徒。


 南領域ゴンドワナに名立たる最強の12人。

 その一角が崩されたのが、つい先日のこと。

 8人目の魔王とも称されていた最強の使徒が、激戦の末、一匹の吸血鬼によって討ち滅ぼされた。実はこの事実は、まだそれほど広まっているわけではない。

 というのも、ロータル大谷攻略に乗り出た二勢力は、一夜のうちに全滅の憂き目にあっているからだ。帰る者がいなければ、語り継ぐ者もいないのは当然の理屈。

 つまり現在南に広がっている事実は、魔人イコラオスの死を筆頭としたロータル大谷攻略の大失敗。キュオンが持ち帰った情報は彼が仕える魔王によって厳重な情報統制が敷かれたことにより、魔王に匹敵する吸血鬼の脅威は、まだ噂にもなっていないのが現状だった。


 だが、そこに勇者の存在を結びつけない者などいるはずもなく、勇者ルルワの生存に関しては、ほぼ確実なものとなっている。

 つまり南では、勇者の力が覚醒した――これが共通の認識であった。それは間違いではないが、やはりそこに吸血鬼の存在があるのとないのとでは、脅威が桁から違ってくるのもまた事実。

 皮肉にも、ルルワやムメイの意図とは裏腹に、勇者が得体の知れないペットを飼い出したという情報は、北領域――つまりは人の住む領域にこそ広まりつつあった。

 これはグランド要塞の歴史的大勝利を、エバたちが世界へと大々的に報じたが故の結果だ。だから北領域ローラシアで戦争中の南勢力の者達が、その事実を知るのはおかしなことではない。

 この12使徒と名乗る女が、ルルワ、アワン、そしてムメイの存在を知っていたこと、そしてこの大橋を通ると読み、先んじて罠を仕掛けていたこと。

 動きの早さ、情報の密度という違和感を棚に上げれば――彼女が西で戦争中の勢力の者と仮定すれば、おかしなこととまでは言えないのだ。

 ただやはり、12使徒の1人が単身乗り込んできた事実には、いかに威力偵察とは言え、首を傾げざるを得ない違和感がそこにはある。

 それも、同じ12使徒の1人が落とされたという情報を聞いたうえで。


 とにもかくにも、ルルワたち勇者一行が国へと帰るこの道中を、敵勢力が狙い撃ちしてきたのは事実。

 それも相手は、最強の吸血鬼ムメイと戦いになるほどの存在――12使徒。

 試練を超えたばかりの少女に畳みかける、さらなる試練。

 そんな中、勇者たる少女たちは――


(…………凄い)


 アワンは、後方から戦闘支援を飛ばしながら、ある感情に突き動かされていた。

 それは――敬意。

 元々彼女は、同じく勇者の境遇に身を委ね、人々のために戦い続ける少女ルルワに対し、親近感と共に、多大な尊敬の念を抱いていた。

 これまでの彼女の態度の全てが、その感情の裏返しであったというほどに、その情念は色濃い。

 しかし、ここにきて再度確認する。勇者という存在への強いあこがれと、それを超えるほどの敬意の念を。

 なぜなら――


「はあっ!!」


「おおっ」


 複数の馬車の間を縫うように追いかけっこをしていた両者。

 といっても、子供のそれのような朗らかさは当然そこにはない。傍から見れば、影が影を追うような速度の領域。

 どちらも、人外の身体能力。本物の人外の背を追うのは人の頂点――勇者。

 悪を追いたてる少女はとうとうその背を捉え、空間を切り裂くような一閃を放つ。

 風を切る音がここまで届くような刺突に、蛇女は大きくその場から飛びのいた。

 それは一撃の威力を警戒している証であり、勇者の脅威を恐れているようにも見える姿。

 早々に接近戦は分が悪いと判断したのか、蛇女は中距離を保とうと蛇の下半身をくねらせ、馬車の影に身を隠すようにして移動を行う。


「<試しの誘惑(ペイラスモス)>」


「<一流の精神(アレテー)>!!」


 スキル名から、アワンは即座に精神系攻撃と推測。

 歴史に秩序の名を残すスキルの数は無限に近い数なれど、それらは確かな名が残っているだけに、覚えさえすれば対策が取れるのも条理。

 天術と魔術の絶対的な法則性の一つに、発動には詠唱が必須というルールがあるからだ。もちろん物事には必ず例外があるが、それも限りなく数は少ないと言える。

 だからアワンもこの戦いになんとかついていけているのだ。移動速度が捉えられなくとも、詠唱の声が、敵の能力発動と位置、そして能力の系統までをアワンに教えてくれる。

 だがやはり、詠唱からスキルの判別を行うのは言うほど簡単な事ではなく、自系統で対策が取れる最低限のスキルを覚えるだけでも、人一人が記憶するには膨大な知識量だった。

 しかし、アワンはそれに対抗し得るスキルを――瞬間的に、狂いなく選択する。積み重ねた経験と血の滲むような努力による自負が、彼女に迷いの時間を与えなかった。


「っ!」


 蛇女が再び、鬱陶しいものでも見るように空中のアワンを睨みつける。しかしそれも一瞬、その隙に距離を詰めるルルワの対応に即座に追われた。

 <一流の精神(アレテー)>は、戦士の精神抵抗力を一時的に高めるスキルだ。橋上で怒りを誘発した敵の精神系攻撃を今なお弾いているスキルでもある。

 つまりアワンが行っているのはスキルの二重掛けであり、本来これは天力魔力をいたずらに消費するだけで、リターンはあまりない愚策とされている。

 が、アワンに迷いはなかった。天力の消費コストに目を瞑っても、ここは念には念を入れるべきだと。

 勿体ないと迷ったら即座に逆を選択する。これはアワンの確かな経験則の一つだった。


(あちらも二重掛け……精神攻撃にかなりの自信があるタイプ)


 今なお展開していると思われる儀式型の天術の上から、さらに個別の精神系スキル。

 これだけ強力な術を発動しながら行うのは、もちろん簡単なことではなく、12使徒という名の重さを痛感させられる。

 しかし向こうもアワンら二人がこの場に立っていることから、精神系対策は既に取られていると分かっているはず。その上でさらなる精神攻撃を選択したということは、効果があると判断して何よりの証明。

 正面からのただの精神系攻撃では、同レベル帯の精神抵抗力を破れないというセオリーがありながらこの攻め気は、敵の自信の表れでもあるとアワンは推察した。


(肉弾戦は、ルルワ様の方が上。しかし展開されている天術の威力を考慮すれば……)


 レベルの推測を行うアワンだったが、この時点ではやはりまだなんとも言えなかった。

 ルルワと同じく、壁を越えた達成者であることは間違いないのだろうが――。


「<貪欲なる食道アコレストス・ファリュンクス>!!」


 距離を詰めたルルワを再び引き離そうと、近距離にこそ必殺の範囲攻撃が繰り出される。 

 女の口から吐き出された大量の液体の正体をアワンが導き出せたのは、ほとんどが勘によるものだった。


(酸!!)


「<移ろう空メタバッロメノス・ウーラノス>」

 

 しかし、スキルの選択に関しては勘ではない。

 <移ろう空メタバッロメノス・ウーラノス>は、元素攻撃に守りを得る防御系スキルだ。

 本来四元素を筆頭に元素攻撃は魔術師の畑だが、種族固有の力を持つ者の中には稀に、天術師でも元素攻撃を扱う者がいることをアワンは知っていた。

 戦闘において、敵が天術師であるか、魔術師であるかを見極める工程は、一にして全とも言える必須事項。

 だからこそ、それを軸に戦闘を組み立てる戦闘熟練者は、意外にもこの穴を見落としやすい。読みと全く逆の術攻撃が唐突にやってくる――その想定を。

 しかし――


「っ!?」

「っ!!」


 移り行く空模様が、ルルワの全身を包み隠す。

 支援という後押しを受け、静かなる闘志をその両の瞳に宿した少女は――敵を睨みあげた。


「――っ!!」


 彼女が敵正面で深く沈み込んでいたのは、何も攻撃を躱すためではない。

 酸属性による近距離範囲攻撃を躱すのに、下に屈むのは素人でも滅多にやらないほどの愚策だ。なぜなら液体は、放物線を描くように落下するのだから。

 つまり今の彼女の姿は、攻撃が来ないことを予測していた者の姿。いや、襲来する攻撃を、誰かが防ぐと信じていた者の姿だ。

 背中を、いや己の体の全てを仲間へと預けた――絶対の信頼の証。


 その恐れを恐れとも思わない、誰かを信じることを恐れない真っ直ぐな覚悟が――今、攻撃へと結びつく。

 虚を突くはずの攻撃が無効化され、逆に虚を突かれた敵に対し、ルルワは満を持して――肉薄した。


「<銀の弾丸ボリース・アルギュラー>!!」


「ぐっ!?」


 勇者の必殺の一撃が、悪を穿つ。

 肉片と鮮血が宙を舞い、苦悶の声が今、戦場の様相を大きく変えた。




***




(…………いける!!)


 肩を貫いた大型の弾丸。

 その確かな手ごたえに、ルルワは攻勢の意志を固める。

 肩を砕いた程度では満足しない。急所は外されたが、今度こそ心臓を穿つ。

 

 ここでその判断が行えるのは、彼女が紛れもない戦闘熟練者である証だった。

 絶対的格上に一撃を入れたことに満足せず、逆に一撃を入れた今こそが最大の攻撃チャンスだと。

 しかし、その答えを導くのは敵も同じこと。

 弱点を突こうと常に画策しているのは、何も自分だけではないのだ。


「よっ!」


「っ!?」


 ルルワの一撃を受け、大きく流された肉体のバランスそのままに、蛇女は馬車をわし掴む。そして人外の腕力で、まるでボールのようにそれを投げ飛ばした。

 その先は――


「アワン!!」


 上から戦場を俯瞰的に眺め、様々な支援を行ってくれていた天術師に、初めて攻撃が飛ぶ。

 ルルワの警告が届くころには、馬車もアワンへと迫っていた。


「<最硬の盾スクレロタテー・アスピース>!!」


「おっ?」


 豪速で空を舞った馬車が、アワンの寸前で弾き飛び、大型の木片へと成り下がる。

 その影に隠れるように、空を飛ぶ少女は高度を落とした。射線の無い空中では、また馬車矢の餌食になると判断したのだろう。

 橋上では、他の馬車という障害物が邪魔であれほどの威力では飛ばせないだろうとの判断。さらに自分で場所を移動して射線を切れば、突発的な遠距離攻撃にも対応できる。

 ルルワはその状況判断速度に内心舌を巻きながら、次の攻撃に移ろうとする。しかしもう一つ馬車を繰り出そうとする蛇女の姿を見て、即座に取るべき行動を変えた。


「ぶへっ!?」


 女の腹を蹴り飛ばし、自ら距離を作る。

 意外にも、感触は普通の人間と変わらなかった。先の攻撃が通ったことも然り、物理攻撃への防御力はさほど高くない、いやむしろ弱い部類だと把握する。

 そして橋上を滑っていく女を見送りながら、ルルワも後退を選択した。


「ルルワ様!」


「ええ」


 明らかに、敵が狙いをアワンに変えたことによる緊急措置。

 それをさせないためには、やはりルルワが攻め続け、相手に何もさせないことが最善だが――あともう一つ、ルルワは決め手に欠けると感じた。

 最大の懸念である展開中の敵の能力について以前未知のままでは、どうしても思い切った戦術は難しいというのもある。

 そんな中、ルルワにとっての非常に嬉しい誤算が、アワンの戦闘技術だった。


(人数有利を取れるくらいに思っていたけど……予想以上に良い連携だわ。口だけじゃないわね)


 魔術に比べ、発動が襲いという特徴を持つ天術。

 しかしそのデメリットをものともしない思考の速度。敵のスキルの見極めから術発動までが、恐ろしく早い。

 さらに選択される天術も的確だ。それはルルワが途中から防御の全てを信頼し、預けられるほど。

 だから回避という一手を温存でき、その繰り上げで次の攻撃をルルワは一手早く撃ちだせる。先の一撃も、この有利な戦い運びも、アワン無くしてはできないことだった。

 もちろん自画自賛するわけではないが、ルルワの力も大きい。先の試練を超える戦いで、ルルワの力が大幅に強化されたことも、この戦況の外せない要因ではあった。


(今の私のレベルが65。この女は、私よりレベルが低い気がする)


 先の戦いで40試練の一人を滅ぼしたことで、ルルワのレベルは大幅にあがった。といってもこれはミサ一人の分ではなく、これまで溜まっていた余剰経験値によるもの。

 レベル50で壁に阻まれている間に積み重なった経験値も、まとめて加算される仕組みなのだろう。ムメイの時も50から一気に99になったのは、その影響によるものと思われる。

 馬車をなぎ倒すように蹴り飛ばされた存在を、ルルワは睨みつける。

 この程度の攻撃で致命傷となるはずもなく、女はゆっくりとではあるが復帰の気配を見せ始めていた。


「……50から60くらいかしら?」

 

「私もそう思います。……本当に?」


「分からない。12使徒内でどの程度の力の差があるのか……」


 ルルワの想定する12使徒の脅威には、届かないような気がする。

 それこそ実際この目で見た一人は、こんなものではなかった。ルルワの感触としては、目の前の敵は40試練に近い実力。それでも脅威だが。

 だが確かな事実として、ルルワたちは戦いになっている。それも、押している。


「彼が戦ったイコラオスという12使徒は、単純な力は魔王に匹敵すると言っていた。私では戦いにもならないだろうと」


「それは……吸血鬼さんが?」


「ええ。あんなのが12人もいるんなら、魔王はこの世に20人だって」


 愚痴を滅多に言わない彼が、珍しくぼやいていたのを覚えている。

 それほど、敵の強さは彼の想定を遥かに超えていたようだ。謙遜や虚勢、ましてや冗談でもなく、本当に負けてもおかしくなかったと言っていた。


「展開中の天術にどれだけのリソースを割いているかにもよりますね」


「ええ、かなりの大儀式だとは思うのだけど……っ!」


「いってぇ……ゴリラかよ」


 鬱陶しそうに馬車を払いのけながら、女が這い出てくる。

 スルリと障害物を躱すような動きは、やはり蛇を連想させる。パンパンと土ぼこりを払いのけながら、肩の傷口をつまらなそうに眺めていた。


(…………男みたいね)


 なんとなく、動きというか雰囲気が、男性を連想させる。

 それこそムメイに近い。彼は気配や表情は基本静かで大人しいが、動きは割と粗雑だ。それをもっと幼くしたら、こんな感じになりそうな気がする。

 そんな蛇女は、肩口の出血を気にすることなく前へと躍り出てくる。女が動きを止めたのと、ルルワが動き出したのはほぼ同時だった。


「<太陽の寵愛(ヘリオス・カリス)>」


 選択したのは、バフ。

 これまではアワンに任せていたが、あと一押しのために能力強化を図る。敵が負傷し、かつ戦闘に余白が生れている今、絶好の機会だった。

 蛇女はそんなルルワの姿が見えていないかのように、自然と語り掛けてくる。


「これが本物の勇者かぁ……。ボク自称しか見たことなかったから、本当に驚いたよ。思ったよりもずっと強いんだね」


「そ、あなたは思ったよりずっと弱いわね」


 ルルワの挑発とも言えぬ本心にも、蛇女は楽しそうに笑う。

 劣勢の者とは思えない余裕だ。


「やっぱ他の人間とは根本からして違うのかな。特に……すんごい怪力だけど、もしかして全身筋肉でできてる? 腹筋割れてるよね?」


「割れてないわ」


 見え見えの挑発。ルルワは落ち着いて、それはもう落ち着いて毅然と否定する。


「即座に否定する感じ、すっごい怪しいな。もしかして気にしてる?」


「気にしてない」


 本当に狙いの分かりやすい挑発だ。

 こんなものに引っかかるほどお粗末だと思われているのか。


「わ、私は、割れててもいいと思います!」


「割れてないから」


 なぜか背後の仲間からも攻撃される。意図せぬ挟撃にも、ルルワは正面から堂々と立ち向かった。


 なぜならば、事実無根であるから。しっかりと思い返すが、やはりあれは割れていることにはならないはずだ。

 腹筋が割れるということは、筋肉が盛り上がって見えるということ。つまりは筋肉の隆起だ。

 ルルワはたまたま脂肪が腹回りに付きにくい体質に過ぎず、あえて肉をつける理由が無いからそのままにしているだけ。脂肪が薄いから、そのように見えてしまうのだ。

 そもそも女の腹には筋のようなラインとへこみが自然とできてしまうものなのだ。その溝に影ができるから、割れているように見えてしまうのだろう。

 思い返せば、ムメイと風呂に入った時は、彼に太っていると思われたくなくて少し腹回りに力を入れていたような気がした。そのせいで、おそらく割れているように見えてしまったのだ。つまりは、腱画が少し浮いてしまったことにより、あらぬ誤解を受ける結果となってしまった。

 これで割れているという判定になるのなら、多くの女性の腹筋が割れているということになってしまう。世の女たちの名誉のためにも、ルルワは断固としてこれを否定しなければならなかった。

 そもそも女のお腹周りのことをどうこう言うような男は大した男じゃない。ムメイのは恐らく照れ隠しか何かだろう。一緒にお風呂に入るのがきっと恥ずかしかったのだ。


「なんかすっごい長い言い訳垂れてたね。勇者って結構面白いんだなぁ」


 そんなある種能天気な思考は、しみじみと呟かれた軽口に吹き飛ぶ。


(っ!? 読心!?)


「あれ? 気付いてなかったの? まあ今のは能力関係なしに、透けて見えたけどね。君の腹筋みたいに」


「透けてないから。<月の寵愛(セレネ・カリス)>」


 ルルワは即座に二つ目のバフをかける。

 思考を覗き見る力。それに対抗できるスキルをアワンが持っていることに期待したが、流石にそこまで巧い話はないようだ。


「だから君たちが知りたいことも分かってるよ? ボクの天術についてだろ? 時間制限にも焦ってるね。勘が良いのは経験則からかな? だけど概要は掴めても、実体までは捉えきれない。まあちょっと複雑な術だしね。ボクもどうかと思うよこれは」


 かなり饒舌に話し出してくれたことは、ルルワたちにとってもありがたいことだ。

 だからこそ、警戒心も膨らむが。少なくとも、ホイホイとは飛びつけない。


「教えてくれるの? 随分気前がいいのね」


「うん。だって隠すつもりも無かったし。君たちが有無を言わさず攻撃してくるから、喋るタイミングがなかったんだ。あ、別に責めてるわけじゃないよ? 婚期に焦ってるおばさんみたいな必死さは、正直見てられなかったけど」


「…………」

「…………」


 ルルワとアワンは、互いに目配せする。

 このまま攻めるか、話しを聞くか。敵が負傷している現在、これは攻められるのを嫌がっていると取るのが普通だろう。しかし能力の詳細についてはどうにかして引き出したいところだった。

 それもこれほど複雑な術の正体は、正攻法で炙り出すのは非常に難しい。それこそ本人の口から説明させるくらいしか。

 もちろんそれが真実とは限らないが、仮に虚偽であったとしても、見えてくるものはある。何の材料もない今よりはましだ。


「モテない女ほど男に喋らせないよね? 自分語りするおばさんが一番キツイって、なんで分からないのかなぁ?」


「自己紹介かしら?」


「あ、そうだったね」


 ルルワの痛烈な皮肉にも、コロコロとおかしそうに笑う女。

 人を喰ったような態度は演技ではなく、地のものだろう。人の性格についてとやかく言うのはあまり好きではないが、少なくとも友達になりたいタイプではなかった。あとこれだけは言えるが、絶対にモテないタイプの女だ。


「じゃあ一応確認とっとくけど……話聞く? ボクのおすすめは、聞かない方がいいかな? このまま脳死で戦ってた方が、君たちにとっては楽だろうから。人は逃げこそが救いだよね。真理ってやつ?」


「ご高説どうもありがとう。けど肝心のお喋りはあまり得意じゃないみたいね。私たちの傾聴力に感謝してほしいわ」

 

「え? 腹筋力?」


「耳も悪いのね」


「頭が悪いのでは?」


 あまり敵に対し好き嫌いという感情を抱かないルルワではあったが、彼女のことははっきりと嫌いだった。

 話が冗長だし、何より腹筋腹筋くどい。一回ウケたギャグを何度も擦り続けるタイプと見た。いや、一回もウケてはいないのだが。


「悪いか……君たちだけには言われたくないなぁ……」


 そんな能天気な思考は、やはり唐突な強風により吹き飛ばされる。

 待っていましたとでも言わんばかりの深い笑みに、罠にかかった獲物のような気分をルルワは味わった。

 そんなルルワの姿に、子供のように純粋で、悪魔のように邪悪な笑みが――一層深まる。

 それは、薄皮一枚被った女の、もう一つの顔が垣間見えたかのように。


「一人は、世界よりも男を選んだ最低の女」


 ルルワの罪の意識に語り掛けるような、妖しい声。

 しかし彼女が実際語り掛けていたのは、ルルワではなかった。

 

「そしてもう一人は――何万という人間を殺し尽くした、大量殺人鬼だ」


 勇者は、試練を超える者。

 だからこそ試練は、勇者へと襲い掛かる。

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