第034話 恥ずかしくない
「――それでどうしたの? こんなところに連れ出して」
「…………」
あの後、三人で少し集まって今後の予定を詰め、そして夜となった。
後は寝るだけというような時間、俺たちは二人っきりで夜のデートへと洒落こむ。
「デートのお誘いなら嬉しいんだけど、そういうわけじゃないんでしょ?」
「うん」
人気のない夜の都市。早々の前言撤回を経て、月明かりだけが俺たちを出迎えた。
この世界は太陽や月、星々の主張が激しいような気がするのは気のせいだろうか。空気が澄んでおり、空に遮るような不純物がないからかもしれない。
この空の下では、俺は一生嘘がつけないような気がする。森を出てから、やはり俺の人生は変わった。
冷たい夜の空気の中、俺たちは宿に預けた馬車の影で静かに向かい合う。
月明かりに照らし出される美女の顔には――少し、影がかかっていた。
「アワンのことだ。どうして喧嘩したの?」
「…………」
彼女は俺が外へと連れ出した時から、何を聞かれるかを分かっていたようだった。
だが分かっていても、いざ問われるとこの反応。
俺も聞く前から分かっていた。彼女が怒るほどなのだから、よっぽどのことがあったのだと。だからこそ、知らんぷりはできない。
「……言わなきゃだめ?」
「駄目じゃない」
「え?」
甘えるような彼女の言葉に、俺は即答する。
当然目を丸くしたのはルルワだ。きっと逆の言葉を期待していたのだろう。どこか茶化したような言い方は、切り出しやすい空気感を作りろうとしたのだと思われる。
気持ちはよく分かった。重々しい空気も、重い話も、できるなら御免被りたいのが人間だ。しかし――
「駄目じゃないよ。むしろ言いたくないなら、絶対に言わないで欲しい。俺も中途半端な気持ちで聞いてるわけじゃないから」
「…………」
「大事なことだと思うから、慎重に答えて欲しいんだ。適当なことを口にするくらいなら、俺も聞きたくない」
「…………」
俺の厳しい口調に、ルルワは鼻白む。
もっと寄り添ってもらえるものだと思っていたのだろう。当然だ。俺はどんな時でも、彼女の味方なのだから。
だけど、俺はルルワを見くびるつもりはなかった。俺たちは約束したから。
もう二度と見くびらないと。彼女もそれを望んでいた。
「あなたって……実はあんまり、女の子に優しくないわよね」
「うん。嫌い?」
「好き。そういうところが、凄く好き」
「そうか」
ルルワは一度瞳を閉ざすと、長く、深く、息を吐く。
そして瞳がもう一度開かれた時、そこには怒る男に甘えてご機嫌取りをするような――情けない女の姿はなかった。
俺も今一度心に決めて、彼女と向かい合う。
「あなたに血を吸わせてあげてって頼みに行ったの。そしたら、断られた」
「うん」
俺は短く相槌を打つ。
これは前提事項に過ぎない。俺の知っているルルワは、この程度では絶対に怒らないと知っているから。
「14歳の女の子が、吸血鬼に血を差し出す。凄く恐ろしいことだということは、私だから分かるわ。拒絶されたことに文句は無かったし、彼女の選択に何かを言えるのは、この世に唯一私だけだとも思う」
「うん」
その通りだ。
吸血鬼に血を吸われる。ルルワの度胸が凄すぎて感覚が麻痺しているが、普通は恐ろしいことだ。俺なら絶対に嫌だ。
ルルワでさえ、俺のことが好きだからこそできていること。そう考えれば、どれだけ高いハードルなのかがよく分かる。
そして他ならぬ彼女だからこそ、断るというアワンの選択も尊重できるはずだ。なぜなら彼女は当事者だから。だから彼女が怒ったのは断られたことに対してではない。
「でも、私はあなたをどうしても助けたかった。今だから分かるけど、重要な時、あなたに血を差し出せない自分に強く苛立っていたわ。だから嫌がる彼女に何度も頼み込んだの。どうか今回だけお願いできないかって」
「…………」
俺が太陽の脅威に怯えていると知って、ルルワは何とかしようとしてくれていた。
あの時の俺は冗談めかしていたが、重症から目覚めたばかりのルルワに血を強請るくらいには、実は現状を恐れていた。
朝日が昇るギリギリでルルワを回収して要塞まで戻れたことも関係している。少しでも戦いが長引いていたら、俺はあの日に死んでいたから。
ルルワは、そんな俺の恐れを見透かしていたのだろう。
そして、せっかく森から救い出したというのに、また暗闇に蹲る俺の姿を見ていられなかったのだと思う。
だが、戦闘による出血により血の量が心もとない。自分では助けてあげることができない。だから助けを求めた、もう一人の勇者に。
「でも、彼女は頑なに拒否し続けた。だから私こう言ったの。彼は魔人を打ち破った英雄。今回の戦いの功労者だって。ここにいる兵士たちのために血を流したんだから、それを助けるのは当然のことだって」
「…………」
これに関しては、俺はそうは思わない。
俺が戦ったのは俺のためだ。結果的に救われたからといって絶対に感謝する必要はないし、恩を返す義務もないと思う。
だがまあ、ルルワの言いたいことも理解はできるつもりだ。助けられたら助けたいと思うのが人の心情。その心は否定できない。
「そこから段々口論がヒートアップして、アワンを戦いに連れて行かなかったことについて指摘されて……怒りで話が逸れて……正直途中の会話はほとんど覚えていないけど……でも、私へのトドメになった言葉は覚えてる」
ルルワは思い返したことで怒りが再燃したのか、拳を握りしめる。
そして声を震わせながら、それを口にした。
「『私を連れて行けば、私が魔人を倒していた。あなたはあの吸血鬼に騙されている』」
「…………」
『私も一緒に連れて行きなさい!! 私も、勇者です!!』
思い返される、少女の悲痛な叫び。
やはり彼女は並々ならぬ心情であの場にいたようだ。
「そこから殴り合いになったわ。先に手を出したのは……私」
「…………そうか」
ルルワの立場になってみれば、それは怒っても無理はないと思う。
俺の気持ちも、ルルワの気持ちも、同時に否定されたのだから。
俺も逆の立場なら当然怒るだろう。ルルワが俺を好きだと言ってくれた。その心を侮辱されたら。だが――
「俺はどんな理由があっても、先に手を出した方の負けだと思う」
「…………そうね」
酷いパートナーだと、自分でも思う。 なぜもっと寄り添ってくれないのかと、嫌われても仕方がない男だ。
だが彼女のことが本当に大切だからこそ、俺は嘘はつきたくなかった。
「…………」
ルルワは何も言わなかった。
お前のために怒ってやったのに――そんな感情的反論もない。
そんなことを思うような子ではないと知っているが、そう思われても仕方がない男だとは思う。
俺は俺のために必死に奔走してくれた彼女に、説教のまねごとをしているのだから。
何を偉そうにと自分でも思うが、俺の心はやはり変わらない。
俺たちは、あの森で誓い合った。決して切れない血の契約を交わしたのだ。
それはお互いを甘やかすための契約ではない。あの契約の重さを信じているからこそ、そうであってはならないのだ。
きっと逆の立場なら、彼女は俺を叱ってくれたと信じている。それだけの信頼を、俺はあの日、彼女に預けた。
だから俺は、彼女をもう一人の自分だと思って言葉をかけなくてはならない。
彼女のことを信じて、厳しいことを言わなければならない。
だってたぶん、一番自分の行動を悔いているのはルルワだから。だからこそ、俺は彼女の言葉を代弁しているに過ぎない。
ルルワは――とても優しいから。
「私…………彼女に謝るわ」
そしてやはり、彼女は決断した。
ルルワは優しく、そして強い女性だから。
「何を?」
俺は問う。
彼女のことを、心から信じて。
「暴力を振るったことを、謝る」
「うん」
俺はそこでようやく、ルルワの手を取った。
安心するように脱力する彼女の手を引くと、抱きしめる。
本当は最初からこうしたかった。だけど、俺も自分自身を甘やかすわけにはいかない。
「…………ごめんなさい」
ルルワが謝る。
「…………ありがとう」
俺は、感謝した。
ルルワは俺のために怒ってくれたのだ。
だからそのことに、俺は心から感謝しなければならない。
こんなに優しく、素敵な女性を俺は知らない。
「怒ってる?」
胸の中から、不安に揺れる視線が――俺を見上げる。
だから俺は――答えた。
「好きだよ」
強く抱きしめ合う男女を、月明かりだけが見ている――そう思っていた。
最初に気が付いたのは、やはり俺だ。
その赤髪は、夜の陰りを反射して黒く映る。
反対にその黄金の瞳は、もう一つの月のように爛々と輝いた。
アワン・ラーヘル。噂の少女が、遠くから俺たちを見つめていた。
***
重たい前髪が影を作り出す。
この暗闇と特徴的な金の瞳がそう見せているのか、彼女の顔はこちらを睨みつけているようだった。それとも、俺の心がそう見せているのか。
遅れて、ルルワが彼女の気配に気が付く。
熱く抱擁を交わしていた俺たちは、どちらからともなく、ゆっくりと離れた。
バツが悪いとか思ったわけではない。ただ自然に、そうすべきだと思ったのだ。
「何をしてるんですか?」
冷ややかな声だ。感情が読み取れない平坦な声。
だからこそ空気で分かるものだ。決して良い兆候ではないと。
「話をしていたんだ」
「何をしてるんですか?」
「…………」
答えたというのに、繰り返される問い。
その理由は簡単だ。彼女の望む答えではなかったということだろう。
「私たちの関係はもう察しているでしょ? あなたに何か不都合があるの?」
ルルワは濁しながらも、答え自体ははぐらかさなかった。
ここまで見られて、今更誤魔化すのは不毛なだけだと思ったのだろう。彼女は人外の吸血鬼を愛することを恥じるような女ではない。
俺も同じだ。この関係を誰かに見られたからといって、恥ずかしいなどとは思わない。ルルワに迷惑だ、などとも。
だから俺はルルワの隣で、堂々と胸を張った。
「だから、何をしてるのかと聞いています」
「…………」
その発言は、流石に意味が分からなかった。
男女の関係ならば、こういう行為はむしろ自然なことだろう。ハグ程度で、ここまで責めるような詰問をされる意味が全く分からない。
「恥ずかしくないんですか?」
「っ!」
アワンの空気が変わる。まるでずっと被っていた仮面を取り払って、本性を見せたかのように。
これまではあったなけなしの礼節が、今は皆無だった。
アワンは俺とルルワの姿を同時に視界に収めると、まさに吐き散らすように、俺たちの前へと言葉を並べた。
「勇者の役目も果たさずに、化け物と恋人ごっこ。それも、相手は吸血鬼。そんな男に簡単に魅了されて、勇者が聞いて呆れます」
「っ!!」
反射的に口を開こうとしたルルワを、手で押しとどめる。
彼女は今にも飛び出さんとばかりに前のめりだった。たぶん俺が止めていなければ、そうなっていたことだろう。
ルルワは自分のことを侮辱されて怒るようなタイプではない。おそらく俺のことを化け物と口にしたことが、ラインだったと思われる。
「っ!?」
憤怒の面持ちで振り返るルルワを、俺は目だけで制した。
先ほどの言葉がまだ彼女の中に残っていたのか、それとも俺が彼女の行動を強く引き止めるのは初めてだったからか、ルルワは我に返ったように大人しくなる。
俺たちがそんな無言のやり取りを交わしている間にも、アワンの言葉は続いた。
「いたずらに歴史を想起させるような真似をして、世界の人々を不安にさせていることがどうして分からないんですか? 彼がもし暴れ出したら、あなたはその責任をどうやって取るつもりですか?」
「…………」
これまで聞くことができなかった、アワンの本音。
俺はこれを聞くべきだと思った。だから、ルルワを侮辱された怒りを飲み込む。
「今も苦しんでいる人々が世界に大勢いるというのに、よく男とイチャつけますね。そんな人たちを一人でも多く救うのが勇者の務めだというのに。もう一度聞きますが、恥ずかしくないんですか?」
「「…………」」
俺はルルワを押しとどめるために上げていた手を、ゆっくりと下ろす。
ルルワはもう、動かなかった。
「こんな時に、何をしているんですか? あなたに与えられた役目の重さを理解していないんですか? なぜ敵勢力の男を連れて平気な顔で歩けるんですか? 異種族に苦しめられた過去を持つ人々の前を。利用できれば何者でも構わないと? あなたに人の誇りはないのですか?」
「「…………」」
「あなたたちのせいで、ロータル大谷の戦いも起こったのよ!? あなたが敵に出し抜かれたせいで、世界は今荒れているの!! そんな中、どうして吸血鬼を連れて歩けるのよ!? どうして世界に再び危機が迫ろうというこの時に、男と遊べるの!?」
「「…………」」
「あなたたちの行動の一つ一つが、勇者の名を汚している! 見ていて不愉快なのよ!!」
「「…………」」
少女の叫びは、夜の街を反響する。
その言葉は、俺の耳にはやけに大きく聞こえ、そして――
叫ぶ少女の顔は、泣いているようだった。
「…………」
「…………」
「…………」
言葉が途絶え、少女が息を乱す音だけが残る。
表情に余裕が無さそうなのは、糾弾しているはずの彼女だった。
それはまるで、自分の言葉に苦しめられているかのように。
「何か……言ったらどうなんですか?」
何も言い返さない俺たちの姿を見て、アワンがようやく訝しむ。
俺が途中で反論の言葉を差し込まなかったのは、アワンの考えを最後まで聞きたかったからだ。だがルルワが今、どういう気持ちなのかは俺にも分からない。
何も言い返してくれない恋人に、呆れているかもしれない。頼りない男だと見切りをつけている頃かもしれない。
だが、俺は相手の発言の途中で感情的に言葉を被せるような人間が、世界で二番目に嫌いだった。
人の意見は最後まで聞いてから、自分の意見を伝えるべきだと思う。他人にそれ以上のことを言わせないようにした時点で、自分の負けを認めているようなものだから。
そして俺が世界で一番嫌いなのが、言うべき時に何も言えない男だ。
「恥ずかしくないよ」
「っ!!」
だから俺は、きっぱりと告げた。
全く恥ずかしくはないと。俺も、ルルワも――
「俺たちは、恥ずかしいことなんてしていない」
虚を突かれたように大きく目を見開くアワン。俺の言葉があまりにも想定外だったのだろう。
そののち、誰が見ても怒りを抱いていると分かる態度で、彼女はこちらへと背を向けた。踏み出した一歩目は、草花を踏み躙るが如く乱雑なものだった。
見えたのは、憤怒、失望、不快――そのあたりだろうか。
特に煽ったつもりもなく本心を伝えたのだが、気持ちはよく分かった。この状況、あの演説の後にこんなことを言われれば、たぶん俺だって怒る。
彼女はそのまま、宿の中へと消えて行った。
「「…………」」
取り残された俺たちは、無言でその場に立つ。
しばらくは余韻に浸るように不動だったが、やがて二人だけの時間を取り戻すように動き出した。
先に動いたのは俺だ。
馬車に寄り掛かるように、腰かける。続いて手を引かれたルルワが俺の真似をするように、隣へと腰を降ろした。
寄り添い、頭を傾けてきたルルワを自由にさせる。
俺たちは月明かりの元、再び互いに身を寄せ合った。
「言われっぱなしだったわね。女の子相手に」
「言い負かすよりマシだろ?」
俺の軽口に、ルルワの空気が軟化し、含み笑いすら漏らす。
釣られるように、俺も笑った。
「あら? 手加減してあげてたのね。あんまり何も言わないから、泣きべそかいてるのかと思ったわ」
「そうくると思ったけど……残念、涙出ないんだ」
「そうだったわね」
重ねてきた手を、握り返す。
強く、強く、握りしめた。
「ありがとう……言い返してくれて。嬉しかった」
「俺が言いたかっただけだよ。ありがとう……俺に言わせてくれて」
ルルワがアワンへの謝罪を決心した途端に起こった――今回の一件。
タイミングが悪い、そんな風には思わなかった。むしろこれは、大きな前進だと思った。
なぜなら、アワンの考えが聞けた。
彼女が何を思い、何を考えているのかが、よく分かったから。
彼女の意見の正しい間違いについては、俺には分からない。
ただ俺とルルワに恥ずべき部分はないというのは、俺の本心だ。それだけは絶対に譲れなかった。
そもそも人の考え方は自由であるし、そこに正しいも間違いもないというのが俺の信条。どうしてもその人間の発言や人格が受け入れられないのであれば、関わるのをやめればいいだけだ。
まあ大人の社会ではそういったことは驚くほど少ないのもまた事実だが。それは何も、大人が皆立派だから――というわけではない。むしろ逆だ。
なぜなら大人は、隠すから。
普通は表面では良い顔をして無難に付き合い、裏でコソコソと、あるいは声を大にして陰口、ないしは悪口を言うのが大人だ。アワンのように真っ直ぐに考えをぶつけてくる者など、それこそほとんどいない。
だから俺個人としては、彼女の性格は嫌いではなかった。
おそらく俺たち二人の関係を見た世界の大半の人間が同じことを思い、裏でコソコソと陰口を言うであろうこれからのことを思えば、只一人はっきりと、一番最初に正面から口にしてくれた彼女には、好感すら持つほどだ。
それに彼女の発言は多角的でこそなかったが、一貫性はあった。思ったよりもしっかりとした考えを持っていることが分かって安堵したくらいだ。何の心根もない者が、一番頼りにならない。
アワンからは勇者の役目、そして人々の安寧を第一に考えていることがこれでもかと伝わってきた。おそらくあの発言は今回のために取ってつけたものではなく、本心からのものだろう。
ルルワと喧嘩になった理由も、俺を嫌っていた理由にもこれで納得がいった。
感情的になっている様子だったが、一応自分の言いたいことを言い終わったらこちらの意見を聞く時間も作っていたりと、最低限のことはできていると感じる。ひとまず意見を言い合えると分かっただけでも今夜は収穫だろう。
俺が思っていたよりも、彼女は子供ではなかった。
「アワンに関してだけど……」
「うん」
「君はどうしたい?」
「…………」
今しがた、傷つくような言葉をかけられた少女に、問う。
今だからこそ意味がある。今、聞かなければならない。
「彼女と分かり合えない、分かり合いたくないというなら、同行を拒否するべきだと思う。言うなら早い方がいい。それがお互いのためだ」
「…………」
人の考え方は人ぞれぞれ。
正しいや間違いではない。その人間とこれからも関わりたいと思うかどうかだ。
もしその根本が今の内からずれていると感じるのであれば、離れるのも一つの手だろう。俺はそれを逃げとは思わない。
だが――
「私は――」
ルルワはやはり――
強く、そして優しい女性だった。
「アワンの考えを聞いて、彼女の力は必要だと思ったわ」
断言する。
輝きを宿した瞳が、俺を真っすぐに見つめた。
「あなたは?」
だから、俺もその視線を真っ直ぐに迎え撃つ。
嘘は言わなかった。
「俺もそう思った。彼女はきっと、俺たちを助けてくれる」
俺たちは、やっぱり同じだ。
どこまでも、同じだった。
「それに……ルルワの良い友人になってくれると思う。ここで見切りをつけるのは勿体ないよ」
「ふーん……やけに彼女のことを買ってるのね」
少し拗ねたような言い方。
俺は構わず、首を縦に振る。
「うん」
「…………」
一転、冷ややかな視線。
気付けよ、気づいてるんだろ?と無言で言われているようだった。
もちろん彼女が何を懸念しているのかは分かっているが、俺にやましい気持ちは一切ないので、今回ばかりはその手は通用しない。
「大切な女性の、かけがえのない友達になるかもしれない子だ。買わないわけないよ」
「…………」
「だから……俺にとっては、とても大事な事なんだ」
「…………」
アワンとの喧嘩のことについてもそうだった。
俺はルルワだから、とても大事なことなのだ。
確かに、好きという感情に永遠はないのかもしれない。だけど俺は、彼女を好きでいる限りは、他の誰かを好きになるつもりはなかった。
他の誰かに向けられるような心は、今の俺の中にはない。なぜなら全部、彼女に奪われているから。
「…………」
俺の言葉に、ルルワは逆に申し訳なさそうに顔を伏せる。
冗談でも、浮気を疑うようなことを言った自分を恥じているのだろう。本当に優しい。
そんな彼女を、俺は再び抱きしめた。気持ちは一緒だと、体温の無い体で伝える。
「私……彼女ともう一度話してみるわ。今度は私の考えを、ちゃんと伝えてみる」
彼女は強く、優しく、そして気高い――俺のご主人様。
俺なんかにはもったいないくらいの――俺の恋人。
そして時には、弱く、迷い、どこにでもいるような――普通の少女。
「ルルワ。俺は君を好きになったことを――」
だから――
「心から、誇りに思う」
だから俺は、ルルワが好きなのだ。




