表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吸血鬼転生~最強なのに太陽の光で死ぬ俺は、唯一の希望”処女の血”を吸わせてもらうため、お姫様勇者のペットへと成り下がる~  作者: 兄貴
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/38

第032話 女の喧嘩


「…………」

「…………」

「…………」


 見事、人類最大の重要拠点と名高いグランド要塞――その完全防衛を果たした勇者とその家来一匹。

 まさに人類にとっての瀬戸際であり、分水嶺。歴史の転換点とも言うべき事態を乗り越え、勇者たちは激戦のロータル大谷から、堂々たる出立を果す。

 そんな英雄たちの凱旋であり、旅立ちの日でもある今日――

 魔人討伐という世界的偉業を成し遂げたはずの最強の吸血鬼は――


 気まずくなっていた!!

 

(…………空気凄いな)


 俺は馬車の床に背を預けながら、視線だけを向ける。

 落ち着かなそうにソワソワしているのは、やはり俺だけだ。

 落ち着かないと言えば、まずこの馬車自体が酷く落ち着かない。


 俺は今自分が乗せられている馬車を見渡す。

 積荷のスペースを除外しても、3人がゆとりをもって寝転べるような広さ。使われている木材もしっかりしているし、追突しても簡単には壊れないだろう。一見普通の幌馬車のように見えるが、細部まで見れば決して安物ではないと分かる。

 極めつけは、この馬車を牽引する存在。<蒸気馬(セントサイモン)>。

 通常の馬よりも体躯が大きく、筋力、走力、持久力に優れた最高位種の魔獣。その移動能力は鍛錬された軍馬10頭に匹敵すると言われるそうで、当然価格もそれに匹敵する。たった三人の人間の旅路に使われるには明らかに役不足だ。


 これでも遠慮したほうだというのが恐ろしい事実。

 機能性を追求した、6人が乗ってもまだゆとりがあるような馬鹿でかい豪華な馬車。最初に用意されたのはそれだった。しかもその馬車の前に四頭の<蒸気馬(セントサイモン)>がいた。

 一体何十トンの物を運ぶというのか。というかこんな危ない拠点に高級馬を置いとくな――と俺は思った。常軌を逸している。蒸気馬だけに。これは俺じゃないと思いたい。


 平民を字で行く俺にも分かるが、たぶんあれは王族とかが乗る奴だ。決してこんな旅の若僧共に与えていいようなものではないと思うが、そこはやはり、俺の同行者は格が違った。

 ただの親切にしては受け過ぎなほどの支援を、当然のような顔で受け取る。勇者という存在の価値を改めて俺が認識した瞬間だった。


 だがまあ、そんなものはおまけに過ぎない。この馬車内がもの凄く気まずいことに、馬車に非はないのだから。

 俺は改めて観察を終えると、満を持して視線を斜め前へ。

 同乗者であるルルワは、固い沈黙を保っている。ついでに固い雰囲気も。腕を組み顔を伏せ、今は話しかけるなという空気を全身から醸し出している。

 かっこいい座り方だ。きっと俺が真似してもここまでサマにはならない。いや言いたいのはそんなことではない。こんなに不機嫌な彼女は、未だかつて見たことが無いということだ。


「…………」


 続いて俺の視線は前方――御者の方へ。

 そこには会話などしたくもないと言わんばかりに、こちらへ完全に背を向ける赤髪の少女の姿があった。

 いや、馬を操りながらこっちを向けるはずもないのだが、その背中は課された役目以上の拒絶感を醸し出しているような気さえする。

 彼女は要塞時の兵統一の鎧一式は着用しておらず、代わりに特徴的な衣服をその身にまとっていた。

 前世の知識に近いものを敢えてあげるとすれば、ゴスロリだろうか。色合いは黒と白で半々、いや若干白の割合が多いか。スカートが雲のようにモコモコしているため動きにくそうな上に、ヒラヒラのリボンやフリルがあまりに多用され過ぎているため、引っかかりそうで怖い。

 配色からはメイド服にも見えなくもないが、本当に不思議な衣装だ。彼女がこういった少女チックな服装を好むギャップも加えて。


(…………アワン)


 そう、勇者と家来の二人旅には、三人目の仲間が加わっていたのだ。

 その名はアワン・ラーヘル。

 300年前の、ルコス時代到来以降二人目の勇者――その末裔。

 俺が森から世に出なかったことにより、勢いを増した魔王勢力に飲み込まれた最初の犠牲者の子孫だ。

 彼女について知っているのはその程度。後は14歳という年齢くらいだろうか。

 お気づきだろうが、俺はまたしても女の年齢を当ててしまった。これは俺本来の能力ではなく吸血鬼の力であると思いたい今日この頃だが、やはり言いたいのはそんなことではない。

 

 まず彼女という存在を要塞の防衛から引き抜けたことに関してだが、これは問題ないらしい。

 人類領域の防衛ライン、大陸横断線の守護者。そんな重要拠点の重役を引き抜くには、それはもう様々な条件をクリアし、複数の権利関係の網を搔い潜っていく必要があるはず。考えただけで頭が痛い。少なくとも決して、ポンと気軽に人に渡していいような人材ではないとの懸念は、社会人としては至極当然のものだろう。

 ここの防衛に関しては、複数の国家が絡んだ問題だということは、吸血鬼にも分かること。

 現にここにいる兵士たちは、周辺国家からエリート中のエリートが集っているという話だし、そんな中彼女を連れ出すのは容易ではないはず。


 そんなことを思っていた俺だったが、結果的にこの心配は杞憂に終わった。

 エバの言い訳のような説明を聞いたところ、アワンは彼女直属の特別部隊の部隊長であり、拠点防衛の経験を積ませるために、その役職は便宜上与えたものに過ぎなかったそうだ。

 だからそこに国家間の意志や権利は介入しておらず、アワンはエバの一存で、すぐにでもこの立場から降ろすことができる――ということらしい。

 やはりコネ採用という単語が頭をよぎった俺だったが、まあひとまずはそれで納得した。


 なぜなら、それどころではないほどの事態が同時に展開されていたからだ。

 話が散乱してしまったが、ようやく本題に入るとしよう。


(処女の血か)


 それこそが、この馬車内の空気を作り出した要因であり、俺が気まずい最大にして唯一の理由でもあった。

 というのも、俺が戦いでルルワの血を全て使い切り、太陽の下に出れなくなってしまったことで、出立の予定が遅れそうになるという事態が発生した。

 俺も太陽が怖くて仕方なかったので、ご主人様に血をおねだりしたのだが、ルルワはこれを拒否。

 これは当然、急に俺のことを嫌いになったから――とかではなく、彼女も今回の戦いで多くの血を流していたからだ。初回の吸血からたった数日では、さらなる血を吸い出されるのは怖かったのだとか。


 その気持ちは、前世の知識を持つ俺にはよく分かった。

 致死量は論外にしても、人が健康的に過ごしていく上で抜いていい血の量は決まっているという話を聞いたことがある。その具体的な数値などは当然の如く覚えてはいないが、そんな気軽にチュウチュウ吸い出していいものではないことくらいは俺にも分かった。

 能天気な俺は「俺の血でルルワを回復させて、そのルルワの血を俺が吸う。永久機関完成!」とか本当に頭の悪いことを考えていたのだが、実際はやはりそう単純な話ではないらしい。

 そこでルルワが思いついた策が、もう一人の勇者の血だった。


 さてようやく結論だが、彼女は自分と同じく勇者の血を引く彼女に、己のペットへの献血を要求した。それを14歳処女アワンがキッパリと拒否。

 そこからロータル大谷を揺らす程の大喧嘩が発生したらしい。俺はその頃真っ暗な部屋に膝を抱えて閉じこもっていたので実際には見ていないのだが、話しに聞いたところ本当に凄かったのだとか。

 なぜかルルワの不在を狙って俺にこっそりサインや握手を求めにきた男兵士たちの話によると、「オンナノコ、コワイ」だそうだ。みんな口を揃えてそれしか言わなかった。俺は本当に立ち会わなくて良かったと思った。

 

 そんなわけで、不意に要塞内で発生した少女たちの大喧嘩により、魔人イコラオスvs吸血鬼ムメイの壮絶なる戦いは一夜にして霞んでしまったわけだ。

 俺はもっと城塞内の兵士たちからキャーキャー言われるんじゃないかと密かに期待していたのだが、本当にそんな余裕はないほどの大惨事だったらしい。

 何が起こったのか怖くて聞けない。なんか二人の髪型がちょっと変わっている気もするが、急に気分が変わって散髪したのだと思いたい。


 さて、じゃあなぜ今俺が外に出れているのかと言えば、結果的に俺はアワンの血を吸うことに成功したからだ。

 魔女アワラオスと吸血女ルルワの壮絶なる戦いを仲裁したのは、要塞最高司令官であるエバ。年若い彼女たちも流石に母かつ年長者であり、勇者としても先輩の彼女の言葉には耳を傾けざるを得なかった。

 そして提案された妥協案は、採血したアワンの血を俺が飲む――というまさに献血方式。

 正直それアリなのと思ったが、結果はアリだった。なぜなら今の俺は、太陽に焼かれていない。結果だけが全てだ。

 

(ルルワじゃなくても、良かったんだな……)


 俺は自分の中にある、ルルワではない別の少女の血の力に、感じ入る。

 俺はてっきり、世界に唯一、彼女だけが俺を太陽の下に連れ出せる存在だと思っていた。ルルワだけが、俺の救いだと。しかし、違った。

 吸血鬼が昼の世界で生きるのに必要なのは、勇者の血と処女の血。この二つの要素だけだったのだ。

 俺の運命は、一つじゃなかった。


(…………)


 この事実を知った時、俺は少しだけ、何とも言えない気分になった。

 俺の生存確率が二倍、はたまたそれ以上に上昇した喜ばしい情報だというのに、素直に喜ぶことができなかったのだ。

 俺はもしかたら、彼女だけであってほしかったのかもしれない。その方が運命だと思えそうだから。


(…………馬鹿か)


 俺はすぐに、本当に馬鹿げた考えを振り払う。軽い自己嫌悪を覚えながら。

 森に迎えに来てくれたのはルルワで、俺を森から連れ出してくれたのもルルワ。勇者とか処女とか関係ない。俺にとっては、彼女だから特別なのだ。

 ルルワだから、俺は今ここにいる。


「…………」


 そこから馬車内には、完全なる沈黙の帳が落ちた。

 意図せず感傷的になってしまった俺を含めて、出立の日はこれ以上に無いほど重々しいものとなる。

 北領域ローラシア帰還への旅路は、こうして誰にも予想できないような、波乱のスタートを切ったのだった。

タイトル戻しました! 振り回してごめんなさい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ