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吸血鬼転生~最強なのに太陽の光で死ぬ俺は、唯一の希望”処女の血”を吸わせてもらうため、お姫様勇者のペットへと成り下がる~  作者: 兄貴
第一章

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第022話 レベル


「――いいのか? あいつら逃がして」


「ええ」


 俺たちは城の上から、眼下の景色を見下ろす。

 広場中央には全身を拘束されたキュオン。そしてその周囲、いや城下全体では、兵士たちによる早急な撤収作業が行われていた。


「ここで殺すよりも、情報を持ち帰って貰った方が良いわ。勇者の生存と、勇者が化け物を手懐けたという――恐るべき事実を」


「手懐けてはいませんでしたって伝えられるんじゃないか?」


「誰のせいかしら?」


 頬を引っ張られる。

 誰のせいか、よく分かる光景だった。


「敢えて吸血鬼の存在を向こうに知らせることで、膠着状態を狙う訳だな! 天才だよルルワ! 頭いい! 凄い! 偉い!」


「もうちょっと思惑隠せなかった?」


 怒りを誤魔化すためのお世辞と思われてしまったようだ。

 俺は素直な吸血鬼のはずだが、全く信頼が無い。自業自得だが。


「はぁ……まあこれで、しばらくは時間を稼げるはず」


 魔王に匹敵するほどの存在が、勇者の元にはいる。

 確かにこれを聞けば、人間領域と言われる大陸の北半分――ローラシアへの進行を、ある程度遅らせることができるだろう。

 魔王や勇者がその存在と名前だけで脅威なように、吸血鬼という存在はそれだけ二の足を踏ませる要因となるはず。

 後はキュオンの説得能力にかけるしかないが、本当に大丈夫なのだろうか。あいつ俺と喋る時は「コワイ、オウチ、カエル」くらいしか意味のある言葉を言っていなかったが。


「確かに近づきたくないだろうな……怖いもん」


「そうね。あなたの脅威がそのまま伝わってくれればいいのだけど……」


「いや、たぶん勇者の驚異の方が先に伝わるんじゃないか? 処女のくせに加虐嗜好サディストでおまけに獣姦嗜好ズーフィリアで、極めつけは死体愛好家ネクロフィリアのド変態勇者だって。俺なら二度と近づかない」


「だ、れ、の、せ、い!!」


 両手を駆使して、両頬を引っ張られる。

 誰のせいか、本当によく分かる光景だった。


「でも真面目な話、ルルワが還らずの森から還ってきたことで、あいつらが仕える魔王の面子は確実に潰れるよな? ならそのケジメをつけに来るってパターンも、無くはないんじゃないか?」


 ルルワから話を聞いたところ、今回彼女が還らずの森に逃げ込むこととなったきっかけは、この城塞都市を押さえるための戦いにあったという。

 大陸東側から南北両領域を攻めるにあたり、重要な起点となるこの場所――トロイア。約3年もの期間をかけて準備し、今回は満を持しての行軍だったとか。

 だがそれは、アベルの裏切りにより失敗。いや、そもそもその作戦自体が、ルルワを還らずの森へと連れて行くための方便だったのだから、作戦は端から破綻していたのだ。

 魔王とアベルの共謀により、勇者はまんまと人ならざる領域――南領域ゴンドワナまで引っ張り出され、この都市で魔王から奇襲。本隊を囮に勇者は還らずの森への撤退をよぎなくされた――というわけだ。


 要は勇者を完璧に出し抜き、かつ死地の罠に嵌めてやったというのに、今回それをまんまとすり抜けられてしまったわけだ。これを魔王の地位に立つ者が黙って見過ごすだろうか。必勝の策だっただけに、打ち損じた屈辱も大きいはず。魔王の威厳にも傷がつくだろう。


「そうなったらいよいよ腹を括るしかないけど……キュオンと喋ってみた感じ、彼が仕えている魔王は見栄より実利を取るタイプみたいよ。敵の言葉を鵜呑みにするのは危ないけど、私は納得したわ」


「確かに。見栄とか言ってたら今回の作戦自体成り立たないもんな」


 人間であるアベルと共謀し、勇者を罠に嵌めた。見栄とか体裁とか関係なく、勇者という驚異の早期排除に動いたわけだ。しかも犠牲やコストは最小限で、自分は全く手を下さずに。

 狡いという者もいるかもしれないが、俺はこういう奴こそが最後まで生き残ると思う。だって正々堂々、勇者を自分の手で殺すことに拘って伝説の森まで単身乗り込み、返り討ちにされてしまったマヌケな魔王を俺は知っているからだ。俺なら恥ずかしくて生きていけない。ルコス「っ!?」


(それにしても……)


 俺は捨てられた子犬みたいにプルプル震えていたキュオンを思い出す。

 なんだあいつ。俺とは全然喋らないくせにルルワとは楽しそうにお喋りしてたのか。やはり冴えない男と可愛い女の子じゃ対応も違ってくるのか。


「それに、やっぱり7人全員を一度に敵に回すよりはマシ」


「なるほどな」


 この場所に駐屯していた兵士たちの総数は数千人にも及ぶ規模。これが最前線から一挙に撤退すれば、どうやってもその動きは隠せるものではない。

 隠そうとしても、絶対に噂は広まる。魔王の手勢が、重要拠点トロイアを放棄したと。これは延いては、人の領域――北領域ローラシアへの進行を諦めたということ。

 ならば諦めざるを得ないような何かが、そこであった――そう考えるのが自然だろう。

 そうなれば、まずは情報収集や現状把握に時間を使い、即座の行動はできなくなるというわけだ。もし他のルートからの進行を計画していた魔王勢力がいたとしても、一度立ち止まらざるを得ない。


「時間を稼ぐってことは、その間にやることがあるんだよな? 具体的に、俺たちはこれからどう動く?」


 薄々分かっていることだが、俺はハッキリと聞いておく。

 やることを明言しておくのは大事なことだ。


「ええ。まずは何を置いても、国に戻る必要がある。吸血鬼に関する正確な情報を得るためにも、そして本国の指示を仰ぐためにも」


「ルートは?」


「行きで使ったアルフレート大山のルートは使えない。氷を溶かした道は、もう塞がれてしまったから」


 アベルの太陽エネルギーを駆使して掘り進んだとか言ってた道のことだろう。

 氷の山を溶かして進み、また氷を溶かしてその道を塞いだ。敵にそのルートを逆に利用されるリスクもない。非常に良い策だが、アベルも本隊も壊滅してしまった今、その手はもう使えない。


「だからここから真っすぐ西に下り、大陸中央のロータル大谷を目指す。そこから人のいる北領域ローラシアへ入るわ」


「なら、出来るだけ急がないとな」


「どうして?」


「勇者追放の事実はもうあっちに広まっているんだろう? 俺なら、勇者を失った今こそが攻めるチャンスと思うね」


「…………そうね」

 

 勇者生存と吸血鬼の存在を伝え、一時的な膠着状態を狙うのは良い手だが、それが有効なのはこれから起こる動きに限る。

 もう動き出しているものは止められず、そして勇者が還らずの森に入ってから一週間、誰も動き出していないはずがない。

 その波に、俺たちが向こう側へと戻る前に巻き込まれるという可能性も十分にあった。

 俺が言いたいことは伝わったのか、ルルワは表情に影を落とす。

 だが俺は、言わなければならない。


「<反教底位パラダイス・ロスト>で隈なく探してみたけど、この都市にはもう人間は一人も残っていなかった。あいつの言う通り、全員向こう側に送られたんだろう」


「…………」


 ルルワが奇襲をしかけてきた魔王から逃げるため、攻略軍のほとんどはこの都市に残ったという。その理由は足止めであり、囮。数千人いた軍の半分はそこで死亡し、そして半分は捕虜となった。そして彼らはもう、ここにはいない。

 キュオンが言うには、食料として搬送されたらしい。もう生きてはいないだろうとも言っていた。


「どうする?」


「…………」


 俺は、あえて問う。

 やめた方がいいとも、やった方がいいとも言わなかった。これは、勇者である彼女が決断しなくてはならないことだ。

 そして彼女は――顔をあげた。


「国に戻るわ。今私たちが死んだら、彼らの犠牲が無駄になる」


「…………そうか」


 彼女はまだ、生きているかもしれない仲間たちのことを、切り捨てる選択をした。

 ここで魔王たちがいる本拠地まで乗り込むという判断をしないのは、大人から見れば当然のことかもしれない。しかし、いやだからこそ、彼女の判断を俺は立派だと思った。


「ルルワの生存が伝わったにしろ、ルルワの死亡が伝わったにしろ、南領域ゴンドワナの蠢動はもう止められない。外に出てすぐだが、ここが正念場だ」


「ええ、急がないとね」

 

 最悪は、俺という魔王に匹敵するほどのジョーカーを手にした彼女が、切り札を切るタイミングを誤ること。

 つまりは魔王複数を同時に相手にしなければならない状況に陥ってしまうことだ。これを避けるためには、上手く立ち回り、各個撃破を志す必要がある。

 俺たちのやるべきことは決まった。


 とそんな時、ルルワはふと気が付いたように言葉を溢す。


「――あなたのレベルって、今どのくらいなの?」


「ん? レベル?」


 唐突過ぎる質問に、俺は目を丸くする。

 ルルワも同じような顔で、俺を見ていた。


「ええ。あなたのレベルが分かれば、魔王の強さもおおよそ分かるでしょう? 私のレベルは50、アベルも同じだった」


「…………」


 やっぱりそうか。

 やっぱりレベル50。俺のレベルがしばらくの間そこから上がらなかったのは、たまたまではなかったようだ。


「レベルは本来絶対に他人には明かしてはいけないし、聞く行為も禁忌タブーとされてるんだけど、いまさら私達に秘密とかないでしょ? あなたのレベルは?」


「…………」


 魔王と勇者は、同程度の力を持って生まれるとされている。

 ではこの矛盾は、一体どこから来ているものなのか。

 俺は不思議に思いつつも、嘘偽りなく申告した。


「99」

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