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吸血鬼転生~最強なのに太陽の光で死ぬ俺は、唯一の希望”処女の血”を吸わせてもらうため、お姫様勇者のペットへと成り下がる~  作者: 兄貴
第一章

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第021話 勇者に飼われる吸血鬼

ムメイ・ヤレーアハ:黒髪、赤瞳 165cm 15歳(外見) 

ルルワ・シェメシュ:金髪、銀瞳 166cm 17歳


「――っ!? 何事だ!!」


 キュオンは突然の衝撃に、声をあげる。

 巨人の手によって、この城塞そのものが揺らされたかのような大きな鳴動に、室内は混乱とまでは言わずとも――瞬間的な緊張へと包まれた。

 そもそも、今この場にいる者達のほとんどが、つい先日この城へと移ったばかりであり、この場所の防衛が自軍にとってどれほど重大なことかを強く認識しているのだから、警戒は当然というもの。

 キュオンをはじめ、今は亡き小国――ここ城塞都市トロイアに詰める兵たちは、最重要拠点を任されるほどの最精鋭だった。


「――報告いたします!!」


「聞かせよ」


 軍議の間へと挨拶もなく踏み込んだ不届き者を、責める者はいない。

 現場では礼儀なんかよりも優先されるものがあることを、最前線に立つ彼らは知っていた。


「突如の大規模攻撃により東区城壁の大部分が粉砕!! 東門を突破されました!!」


 報告に、揺れる室内。

 それは現実の振動が届いた先ほどよりも強く。そして――


「既に限界防衛線を超え、曲者二名が内地へと侵入!! うち一人は――かの勇者です!!」


 唐突にもたらされた更なる衝撃は――留まることを知らなかった。


(ばかな……)


 ありえない。

 それがキュオンの純然たる思いだった。なぜなら――


「かの勇者は我が主が、御自らの手で死地へと送ったはず……。まさか還らずの森から還って来たとでも言うのか……?」


 先日、大陸北側から、人間の軍による大遠征が行われた。

 軍を率いたのはかの生ける伝説――勇者。大陸北領域ローラシア、大陸南領域ゴンドワナ。どちらから見ても起点となる重大拠点、ここトロイアを本気で捕りにきたのだ。誇張なく、世界を変えるきっかけとさえなりかねないほどの進軍だった。

 しかし事前に動きを察知していたキュオンの主が、これに反抗作戦を展開。見事勇者軍に大打撃を与え、かの勇者はたまらず還らずの森へと逃げ込んだ。

 戦争の舞台となったここトロイアの防衛を引き継いだキュオンは、事の顛末をそのように聞いている。


「まさか……あり得ますまい。還れないからこその還らずの森」


「そうです。いかに勇者とはいえ、人間如きに超えられる伝説ではありません」


「かの《《ルコス》》ですら還っては来られなかったのだ。やはりありえん」


 武官たちのやり取りを、途中まで同意の元に聞いていたキュオンだったが、一人を睨みつける。それはほぼ無意識であり、反射ですらあった。


「し、失礼を」


「気を付けよ」


 魔王ルコスは、キュオンが密かに憧れる存在だった。

 それも当然。ルコスはキュオンと同種の出。同じ種族の伝説的存在を、憧れるなという方が無理からぬ話。

 そんな男すら、還ってはこれなかった。還らずの森の伝説を打ち破られたことは、彼を深く尊敬するキュオンにとっても、屈辱だった。

 

「お出になられるのですか」


「本当に勇者が戻ってきたのだというのであれば、これは好機でもある。奴がここにいると分かっている今が、確実に息の根を止められる唯一の機会」


 勇者が軍の本体を囮に還らずの森へと逃げ込んでから、時間にして約一週間。

 部下たちを取り戻しに来たのだろうが、性急な判断と言わざるを得ない。魔王の手から逃れたという事実を隠された方が、こちらとしては動きにくかった。

 そして最悪は、勇者に北へと逃げ帰られる事。それも勇者の生存にこちらが気付かぬまま。つまりこの時点で、既にキュオンは最悪を回避していると言えた。


(若いな……所詮は小娘か)


 人命を優先し、先走った判断。それも少数で防衛拠点へと攻め込むとは。

 大局を見る将の器ではないと、キュオンは判断する。


「奴が北領域ローラシアへと帰る前に、決着をつける」




***




「――勇者、ルルワ・シェメシュだな」


「ええ」


 それは、太陽の光のように――強烈な存在感を放つ、女だった。

 金髪に、銀の瞳、そして腰に携えた片手剣。伝え聞いていた特徴と合致している。

 唯一ダソスの国宝たる鎧を着用していないのが不思議だが、その程度の違和感は許容範囲だろう。

 そんな程度では収まらない程の違和感が、今ここにはあるからだ。


(なんだ……なんなんだ……)


 勇者の隣には、地に四つ足をつく存在がいた。

 身にまとうのは、服とも言えないようなボロ布。重厚なようであり、貧相にも見えるマントは、夜をそのまま剥ぎ取ったような真黒。

 所々が大きく裂け、ほつれ、風化したように擦り切れた外套は、服と言うより身を覆う残骸だった。

 極めつけは、全身の拘束。

 手首足首にはそれぞれ手枷と足枷が嵌められており、そこから伸びた鎖が体中に巻かれている。それら鎖は重厚な輝きを放つ首輪に集まり、そこから伸びる杭によって首元へと縫い留められていた。

 その姿は、まるで彼という存在をこの世界に拘束し、固定するかのように。

 そして一つに束ねられた鎖は、まるでリードのように勇者の手に収められている。それはやはり、その存在を繋ぎ止めているようだった。


 そこまでする必要があるのかと思うほどに、全てを拘束された存在。

 それは――

 人間の、男だった。


「…………寡聞にして知らぬが、人間は同種にそんな扱いをするのか? その……なんというか……」


 キュオンをして、言葉に詰まる。

 これまでに見たことも聞いたこともないような奇怪な光景は、魔の者からも言葉を奪った。


「そんわけないでしょ。この子は吸血鬼よ」


「なにっ!? 吸血鬼だと!?」


 瞬間、場は騒然と化す。

 あまりの情報の落差に、驚愕と混乱はことさら大きなものだった。

 一定距離を保ち、ルルワとキュオンを取り囲む兵士たちのざわめきは、それこそ留まることを知らない。まるで歓声かのように、喧騒は轟く。


「馬鹿な……実在したというのか。しかし――」


 確かに、よくよく匂いを嗅いでみれば、男からは何の匂いもしない。

 瞳は赤く、肌の色も、若干ルルワとは違っているように見える。

 人間の違いや表情を見分けるのが不得意な狼男ワーウルフという種族ではあったが、キュオンは幾多の経験により、この欠点をほぼ克服していた。


 隣の勇者とは異なり、まるで影のように存在感のない平凡な男を、キュオンは睨みつける。

 数百にも及ぶ敵から一斉に注目を浴びているはずの吸血鬼は、不思議そうに小首を傾げていた。


「なるほど…………つまり貴様は、<死霊使い(ネクロマンサー)>というわけか」


「ええ! その通りよ!」


 作戦成功とばかりに、嬉しそうに胸を弾ませる女勇者を、吸血鬼が下から見上げる。

 その視線は、どこか冷ややかなものに見えた。


「吸血鬼を支配する勇者とはな。歴史の二の舞とならねばいいが」


「心配ご無用。私は歴史に学んだのだから」


 吸血鬼の実在と、勇者の生存。

 最悪ではない。むしろ最高の結果にさえ繋げられる情報だ。

 伝説の存在である吸血鬼を支配できるほどの<死霊使い(ネクロマンサー)>。かの勇者の能力を知れただけでも、こちらの成果としては十分。

 さらにここで勇者と吸血鬼を討ち取れば、キュオンは同時に三つの伝説を打ち破った英雄の中の英雄となる。

 だからこそ――


「一つ聞こう……それはなんだ?」


「それって?」


 キュオンは、困惑していた。

 困惑が、留まるところを知らなかった。


「なぜ吸血鬼に、そんなことをさせている?」


 存在そのものが、もはや伝説。

 2000年前の始祖カインの伝説にも謳われる存在、吸血鬼は――


 女の足に、しがみついていた。


「私がさせてるんじゃないわよ!! ちょっ! ムメイなにやってるの! 足から離れなさい!!」


「キュ?」


「スリスリするのをやめなさい! ムメイおすわり! メッ! メッ!」


 足にしがみつき、頬ずりする吸血鬼を、必死に止めようとする勇者。

 術によって支配されているはずの吸血鬼は、なぜか全く主人の言う事を聞く様子を見せなかった。


「もう! せっかくの初陣で何やってるのよ!? もういいから行きなさい!!」


「キュキュッ……」


「なんで寝転ぶのよ!!」


 しまいには、コロンと地面に寝転ぶ。お腹を見せるように。

 キュオンを指し示した指の指示を、何か別の指示と間違えたのだろうか。


「立ちなさい! 早く!! 勝負!! 戦う!!」


「キィ、キィ……」


「言葉分かってるでしょ!? もう! なんでいつもいつも、急に頭悪くなっちゃうのよ!!」


 これが――かの伝説の勇者。

 これが――かの伝説の吸血鬼。


 二つの伝説が同時に立ちはだかっているとは思えないほどの、威厳の無さ。

 キュオンは怒りという感情を抱く暇もなく、呆気にとられる。勇者滅殺のために集められた数百にもなる精鋭たちも、皆、その光景に言葉を出せないでいた。

 だが、そんな長いようで短すぎる時間も、ようやく終わりを告げる。

 勇者が――終わらせたのだ。


「はぁ……」


 大きな、それはもう、大きなため息。

 聞く者が、それだけで同情してしまいそうなほどに、思いが込められた嘆息の後――勇者は告げた。

 

「終わったら体拭いてあげるから」


「お任せください、ご主人様」


 瞬間、キュオンは息を飲む。

 自然な二足歩行で前へと歩み出てくる、吸血鬼の姿を見て。


(た、立てるのか……)


 ならばなぜ、先ほどまで四つ足をついていたのか。

 それに――


「喋れたのか……」


「はあ? 喋れるに決まってんだろうが!! あんま俺のご主人様を舐めんなよ!?」


「あなたに言ったのよ」


 当然、キュオンが言ったのは吸血鬼に対してだ。決して勇者にではない。


(…………子供?)


 全体像が良く見えるようになった吸血鬼の姿は、思ったよりも小さかった。

 背は、後ろにいる勇者ルルワと同じ程度だろうか。

 しかし年は、彼女より若干幼く見える。人間では、ちょうど成人したような年の頃だろうか。若い。


(まだ誕生して間もない吸血鬼だから、支配できた? ならばやはり――)


 これは、チャンスだ。

 吸血鬼が強大な存在へと育つ前に、手が付けられなくなる前に、ここでその芽を摘んでおく。


「ごめん待たせて。ここだけの話、ああいうのが好きなんだよね、あの子」


「……そうか」


「この拘束とかも、全部あの子の趣味。常に尻尾振ってご機嫌取らないと怒るんだ。ほんとここだけの話ね」


「…………そうか」


 特に知りたくもなかった情報に、キュオンは大きく顔を歪める。

 確かに<死霊使い(ネクロマンサー)>の術で支配しているというのなら、言う事を聞かないのはおかしな話だ。つまりあれは、勇者が望んで、命令してやらせていた――ということになる。

 人間の性癖は多岐に渡り、種にも富んでいると聞いたことがあるが、想像以上。我々では考えつかないようなことまで平気な顔でやるという話だったが、まさか世界一高貴な女とされる、かの勇者が――

 キュオンは吸血鬼を同情の視線で見つめ、その後汚いものでも見るように女勇者を見る。女勇者もまた、汚いものでも見るような冷たい視線で吸血鬼を見ていた。

 

「我は偉大なる御方の一部、”継接ツギハギ”の一布――狼男ワーウルフのキュオン」


「っ!?」

「?」


 キュオンが名乗りを上げた瞬間、ルルワの警戒が目に見えて跳ね上がる。これ以上に無いほどに。

 吸血鬼からは、何の感情の動きも読み取れなかった。


「気を付けて!! 魔王の直属よ!!」


「ほう……四天王って奴か……」


 背後からの警告を、鷹揚に受け止める吸血鬼。

 四天王という意味は分からなかったが、吸血鬼から強敵と見なされたことだけは、キュオンにも分かった。

 それも当然。キュオンは人類攻略の起点となるこの城塞都市の防衛を任せられるほどの存在。客観的に見ても、彼は隔絶した強者の位置に立っていた。

 そんなキュオンを前に、吸血鬼は平然たる態度を崩さない。むしろ、ここぞとばかりに胸を張る。

 

「ならばこちらも名乗らせてもらおう。俺は17歳処女のお姫様、世界一の美女ルルワに溺愛されし――勇者の一にして唯一のペット!!」


「…………」


「吸血鬼のムメイだ。しっかり全文覚えて広めといてくれよ?」


 その称号に、誇り以外の感情はないと言わんばかりの――堂々たる宣言と、ニヒルな笑み。

 気が抜けるような名乗り上げに、キュオンの意識が取られたその時――


 世界が――変わった。


「っ!?」


 暗く、冷たく、そしてどこまでも不吉を孕んだ凶悪な気配が――押し寄せる。

 放たれた濃密な殺意は、波動となり、空気を震わせ、放射状に一挙に拡散された。

 それは広間全体へと瞬く間に広がり、その場を圧倒的な恐怖で包み込んだのだ。


 色は、一変する。

 空間そのものが、震えたようだった。


 数秒にも満たないような時間で行われた、吸血鬼の鬼気の解放。

 戦場は、たった一人の存在によって完全に支配され――

 恐怖だけが、そこには残った。


「ま…………まってくれ…………」


 まるで散歩でもするように軽い足取りで近づいてくる、吸血鬼の気配。

 その一歩一歩の足音のたびに、キュオンの戦意は砕けて行った。


 彼の名誉を守れるものがあるとすれば、彼の降参が最も遅かったということ。周囲を見渡せば、数百にも及ぶ歴戦の勇士たちは、既に皆武器を手放しており――そしてどこまでも深く、地に頭をこすり付けている。

 大の男たちがすすり泣く声が、広場を満たす。誰もが総じて、許しを請う。

 その姿は、恐怖に蹲る――子供だった。


「降参だ……我々は、降参する……」


「…………そうか」


 頭上からキュオンを見下ろすその存在は、ただそこにいるだけで、計り知れない圧力を生み出す。

 ただ目の前に立っているだけだというのに、圧迫され、押しつぶされるのだ。吐き気と、体の震えが止まらない。止められなかった。


 それは、存在自体が恐怖であるかのように。

 二度と顔を上げることは許されない。キュオンがそう直感するほどに、その男は――格が違った。


(ばっ……化け物だ。こんな……こんなことが……!!)


 伝説は、嘘ではなかった。

 いや、伝説が負けてしまっている。こんな化け物が、存在していいはずがない。こんな存在が、この世にいていいはずがない。


(不可能だ!! 絶対!! 例え勇者であったとしても!! こんな化け物を支配できるはずがない!!)


 吸血鬼が、主人たる勇者に振り返り、指示を仰ぐ。

 あくまで上位者は女という素振りだが、それが見せかけでしかないことを、キュオンは確信した。

 いかに<死霊使い(ネクロマンサー)>の力を持った勇者であろうと、これを力で支配することは、絶対に不可能だと。


 これは人が手懐けられるレベルを超えている。獣ですらない、本物の化け物。

 魔王が人に首輪をつけられているようなものだ。それを誰が信じると言うのか。

 だから、絶対にありえない。こんな規格外の存在が人間側にいるなど、あってはならないのだ。


(なんだよ!! 何なんだよ!? 吸血鬼ってなんだよ!? なんで歩けるのに四足歩行なんだよ!? 喋れるなら最初から喋れよ!! 今までどこにいたんだよ!? なんでこんな奴が急に世界に出てくるんだよ!? ペットってなんだよ!?)


 混乱は、狂乱へ。

 キュオンは既に自意識を自ら放棄したいほどの、恐怖に苛まれていた。

 だから最後に、彼が意味のある問いを吐きだせたのは、本当に奇跡だった。


「なぜだ!? なぜ吸血鬼が、人間の味方をしているんだ!?」


 キュオンは、叫ぶ。

 己の人生に降りかかった突然の理不尽に、叫ぶことしかできなかった。

 どうしようもないほどの恐怖を前に、彼は、子供のように泣き喚いたのだ。


 そんなキュオンに、吸血鬼はこともなげに答える。

 世界中がおかしいと断じる様な事実を、さも当然のことのように――


「ん? 飼われてるから」


 


 ――吸血鬼転生・本章 開幕――




本章から朝8時10分、夜19時20分の毎日二話投稿となります。

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