第109話 魔王の強さと、勇者の強さ
「――よーしよしよしよし」
「キィ、キィ!」
「はい、ごろん」
「キュイ!」
飼い主の指示に従い、地に転がってお腹を見せるペット。
そんな服従の姿勢に、飼い主がまたよしよしとお腹を撫で回す。
微笑ましいペットとのふれあいの時間。そんな憩いの景色を遠くから眺めるのが、本作の主人公である俺、ムメイ・ヤレーアハ――
「…………ムメイ、ちょっといいか?」
「いいよ」
――というわけではなく、絶賛お腹見せ服従ポーズを繰り出していたペットたる俺は、ようやく二本足で立ち上がった。
「……なんで急にそんな顔できんだ? さっきまでお腹撫でられてたのに……」
「こういう子なの。ちょっと頭がアレだから」
「お前もな」
さっきまで頭がアレな男のお腹を撫で回していた頭のアレな女――ルルワが小首を傾げる。
彼女はトバルの言葉に不服そうな顔をしながらも、己のペットの衣服についた土汚れなどを落としていた。そして乱れた鎖を整える。まるで髪の毛のように。
俺は不動で身を任せた。身の回りの世話は大体ルルワに任せるのが俺の基本姿勢だからだ。
これは決して自分でするのがめんどくさいとか、女の子の手でしてもらいたいとかそんな理由ではない。あくまでペットという偽りの身分を演じるためだ。それ以外に理由はないはずだ。
そんな誰のものへかも分からないような言い訳をいつも通りにしていれば、合流するのはもう一人の仲間。
遠くに投げ飛ばされたものを回収してきた、赤髪の少女――アワンが並ぶ。
「分かってもらえますか? 私も苦労しているんです」
「何に?」
その手の中には、ボールやフリスビーなどの遊び道具各種があった。
俺の目にも、苦労とやらが全く見えない姿だった。
「はぁ……もういいや。そろそろ時間だから、始めよう」
先生の指示には、流石の勇者と言えど従わざるを得ない。そう言えば、俺たちは勇者だった。
そんな勇者たる俺たちは協力して、ルルワの持つ袋におもちゃを片していく。この手際の良さと切り替えの早さが子供とは違うところだ。そう言えば、俺たちは大人だった。
「ただ指導に入る前に、ちょっとした意識の擦り合わせをしときたいんだが……」
「意識?」
少し言い難そうに話しに入ったトバルへと、俺たちは揃って向かい立つ。
彼は頭をかきながらも、相変わらずその容姿はムカツクほどのイケメンだった。30代だと思われるが、若々しい外見のためおっさん感がまるでない。どこからがおっさんであるのかは、人によって意見が分かれるところだろうが。
(俺っておっさんなのかな?)
そこに御年300歳の吸血鬼がエントリーした場合議論がどうなるかなど、想像もつかない。
外見年齢は15歳という点と前世の年齢で上手く立ち回りたいところではあるが、果たして俺の言語力でどこまで通じるか。キィで更なる幼さをアピールするか――
「んや、意識ってより認識か? ぶっちゃけ本当に勝てると思ってるのか?」
「…………」
その質問が来たのは、そんな時だった。
馬鹿げた、本当に馬鹿げたおっさん議論など、脳内からまとめて吹き飛ぶ。
まさにキィの音も出ない問い。だが俺は、即座に答えを返すことに成功した。
「そりゃもちろん。負けると思って戦う奴がいるか?」
本心とは、逆を。
「「…………」」
トバルの視線が、俺から二人へと移る。
珍しく俺を中心に横に並ぶ少女たちは、無言で同意の意志を示した。
「そうかい……なら言わせてもらうがな。絶対に勝てっこないね」
そんな俺たちに対し、トバルは用意していた答えを告げる。
彼が俺たちの答えをどう受け取ったのかは分からないが、その言葉が気まぐれや思い付きなどではないことは、俺たちにも分かった。だから――
「何か根拠があるんでしょうね?」
「ない」
ルルワの詰問にも、トバルは即座に答える。
それも、開き直りのような自信を持って。しかし質の悪いことに、そんな開き直りこそが俺たちに最も痛烈な切り返しだった。
「根拠が必要ないくらい世の常識ってことだ。お前らから見れば俺たちなんかハエみてえねもんだろうが、ハエなりに喧嘩売っちゃならねえ相手くらい弁えてる」
「…………」
トバルの後ろに並ぶ赤き月の面々を見れば、彼女らも同じ目をしていた。
つまり、リーダーと考えは同じということだろう。4対3のような構図だが、俺は敵対しているとは思わなかった。むしろ空気感としては、同じ机を皆で囲っている感覚に近い。ここに机はないが。
「竜と虎の戦いで、最終的に生き残るのがハエってのはない話じゃないだろ? 違うか?」
「いや、違いない」
だから俺は、ここで一度トバルの持論を肯首した。
それは見せかけではなく、一部には納得したものだ。そもそも戦わなければ、確かに生き残れる可能性もある。どうやったって魔王と戦えば死のリスクは付きまとうのだから。
ただ俺は、それでいい結果になるとは思っていないが。
「まあ何が言いたいかって言えば、お前らが、いやお前がどれだけ強かろうが、魔王になんか誰だって勝てるわけがねえっ、て話だ。それが今の世界の常識。覆せない絶対のルールだ」
トバルがわざわざ、話しの対象を俺に限定する。その意図に気が付かない俺ではない。
「根拠は求めないけど、せめて方便くらいは欲しいね」
「もっと簡単だ。格が違う」
それは本当に、単純明快。
そして、俺でさえ言葉を挟めない程の――絶対なる根拠だった。
「奴らは数百年に渡って世界に君臨してきた化け物どもだ。名立たる勇者や英雄たちが、これまでも蹴散らされている。そのうえで、7人のうちたった一人も未だ打ち崩せていない。それが現実だ」
「俺も、その内の一人に過ぎないってことだな」
「その通りだ。お前は確かに強いが、世界に君臨していなければ、領土を支配してもなく、また大勢力のトップですらない。ただの一匹の吸血鬼。世界的に見れば、あまりにちっぽけな力だ」
「…………」
お前は確かに強い。
この言葉にお世辞は入っていないだろう。ただ、過大評価もしていない。
もしかしたらトバルも、俺の力は魔王級と考えているのかもしれない。
だが、それだけ。
もし仮に俺の力が現時点で最強だとしても、300年ずっと最強だったわけではない。だが、7人の魔王たちはこの群雄割拠、弱肉強食たる世界で数百年不動の最強を維持している。この違いは確かに大きい。
権力は持つことより維持することの方が何倍も難しいからだ。それは前世地球での歴史も証明している。ずっと最強だった勢力はないどころか、かのローマ帝国やモンゴル帝国さえも圧倒的最強と呼べる期間は良くて数百年。
ダソスという大国は2000年以上の歴史があるらしいが、滅ぼされかけていれば、ルコス勢力に取り込まれた過去もある。
やはり大陸下半分で数百年に渡り大勢力を維持している7人の魔王たちは、格が違う存在だ。
対して俺は、この世界(森の外)での一か月余りの短い人生で、もう何度も死にかけている。まだ一ヶ月でだ。
そして彼らは、これら試練を数百年に渡って超えてきた存在。そう考えれば、絶対的経験値の差はやはり無視できなかった。
「美人勇者二人もついてくるけど」
「ハッピーセットだ。良かったな」
二人を言外におもちゃと言われるが、別に怒りはなかった。
ハッピーセットはおもちゃが本命だからだ。子供と大人の視点では何が一番大切かも違ってくる。この点も、おっさん議論で押すことにしよう。白熱するはずだ。
「峠越、吸血鬼、自称神のイカレた奴……この時代を象徴する化け物たちだが、誰一人として勢力は持っていない。個人戦力で見れば確かな脅威ではあるんだろうが、やはり格が違う」
「なるほどね……よく分かったよ」
今のままではどうやったって戦力不足。
そして個人の力ではやれることも限られてくる。そもそも魔王と戦わせてすら貰えないだろう――トバルの考えは分かった。
俺が自分を特別視しているんじゃないかと、釘を刺したのだ。いや、俺たちがか。
伝説の吸血鬼と、2000年ぶりの女勇者、そして勇者の末裔。
時代に風を吹かせる希望の集団と自覚してもおかしくはない。だが彼の考えとしては、その程度の集まりはこれまでにもごまんといたと。そんな奴らが闘いを挑んで、何度も負けてきたと。
(まるで見てきたみたいだな……素人考えとしては、含蓄がある)
別に内容自体は誰にでも言えるようなものだが、そこに聞きかじったような適当さがない。この納得感は、本当に見てきたようだ。
ペテン師かそうでないか、俺は自分の目にそこまで自信は持っていないので現時点ではなんとも言えないが、だからこそ聞き流すことはできない。
「それでだ、お前の見積もりを聞いておきたい。仮に一騎討ちという形なら、どの程度の勝算があると踏んでいるんだ?」
「また確率か? 俺確率論嫌いなんだけど……」
「俺も我儘な生徒は嫌いだな。それで?」
その質問は、俺が既に答えを持っていると疑わないものだった。
そしてやはり、俺はその答えを自分の中で既に出していた。ただ――
「そのためには、まず未だ不明瞭な魔王の力量を仮定しなければ話にならない。だから仮に、俺と同等の戦力と見做すけど……いいか?」
「ああ、仮ならご自由に」
「…………」
どうやらトバルは、俺よりも魔王の方が強いと見做しているようだ。
だが、そこに具体的な根拠があるようには見えなかった。ましてや、魔王と実際に相まみえたような事実も。
やはり魔王の強さに関しては、誰もはっきりとした情報を持っていない。まあ当然だろう。相対したほとんどが死んでいるだろうから。
魔王と冠する者の真の強さを知っているのは、この世に俺と、峠越だけ。いや、もう一人――
『あんな奴らに!! 勝てるわけがないんだよ!!』
「5分5分……と言いたいとこだけど、7対3ってとこかな」
俺は初めて、具体的勝率の領域に踏み込む。
これはルルワたちにも、口にしたことはないものだった。
「…………大きく出たな。世界のトップに、勝率3割とは。一応聞いとくが、7の方じゃないよな?」
「うん」
俺の肯首に、ルルワやアワンは顔色を変えなかった。
むしろ対面のナアマたちの方が息を飲む。今の時点で、30%も勝てる可能性があると見做している事実に。
「根拠は? と言いたいところだが、その前に仮定の解釈からしてくれ」
「そうだな。それだけの自惚れの根拠を是非聞きたいね」
これまでは話に参加していなかったナアマが、ここにきて加わる。
その気配は、適当は絶対に許さないという威圧感を孕んでいた。どうやら俺の答えが相当気に入らなかったらしい。
「俺の予想では、12使徒の平均レベルが90前後……比較の対象がいないから俺の山勘だけど、そう大きくは外れてないと思う」
「お前の数値的勘の良さは馬鹿にできないとカロスから聞いてる。俺も文句は無いよ。それで?」
「ぶっちゃけるけど、俺のレベルは99。レベル10以上の差があると基本勝利は覚束ないという通説から考えても、あの二人のレベルは90以上だと思う」
「「っ!?」」
今回ばかりは、息を飲むのはナアマたちだけではなかった。
だが二人は俺を信じてくれているのか、手振りなどせずとも口を挟みはしない。流石に自分たちのレベルまで勝手に言われれば話は違うのだろうが、俺もそこまで自分勝手ではないつもりだ。
「もしかしたら、イコラオスとユウキは12使徒の中でも強い奴らだったのかもしれない。ルルワから話を聞いて、俺はそんなふうにも考えてる」
後から話を聞いてみれば、イコラオスは12使徒の一角ながら、魔王にも劣らない程の有名人らしい。8人目の魔王とも言われているとかいないとか。
だから俺は、現存する7人の魔王の戦力をイコラオスを基準に考えた。つまり奴らは7イコラオスだ。
「…………そこは難しいところだな。レベルは上に上がれば上がるほど、スペック面への影響は低くなる。レベル90に達していないという可能性も、無くはない」
「うん。だから正直そこは勘。けど何でもいいから基準を設けないと、話にならないだろ? そして基準を作るなら、死闘の果てに勝利となった12使徒しかあり得ない」
ありえないとは言いつつも、俺はもう一つ、絶対的基準を有していた。
それこそが、魔王ルコス。
なぜ同じ魔王で比較しないのかと、誰もが不思議に思うことだろう。むしろなぜ12使徒であるイコラオスを基準にするのかと。
その答えは至ってシンプル。勝てないからだ。
7ルコスと仮定するだけで、俺の人生計画が滅茶苦茶になってしまう。その場合、7ムメイに7アガトスを加えても全く勝負にならない。アガトスを足す必要は全くなかった。
もし仮にそうであれば、たぶんルルワを担いで還らずの森へ全力直帰していることだろう。もちろん冗談だが、それくらいお話にならないというわけだ。
それに7ルコスだとクチャラーが7人になってしまう。これにはかの聖徳太子も耳を塞ぎ、四つん這いで蹲って井戸水に沈んでいくはずだ。これが本当のカエル化だ。
「何か異論ある?」
俺は振り返り、勇者たちに意見を仰ぐ。
彼女たちはすぐに、頷いた。
「ないわ。強いて言うなら、今の私がイコラオスやユウキと戦って、勝負になるとは思えない」
「私もです。父はユウキを、いずれ魔王にも匹敵する脅威と言っていました。12使徒は確実とも。こう言っては身贔屓かもしれませんが、あの若さで12使徒入りを果たしたことから考えても、他の12使徒より強かったんじゃないかと思います」
「…………」
壁を越えた英雄、アダ・コロノス。そして現在人類最重要拠点の一つを守るエバ・ラーヘル。この二人の意見は無視できない。
そしてこの二人の影をアワンの背中に見ない者はいない。彼女は世界的に見ても、かなり奇跡的なサラブレッドだ。
(そう言えば、子供を作るのは代々勇者の義務とか……。でもアワンは……)
昨夜カロスから聞いた話題に、アワンの出生を思い出して引っかかる。ルルワのことばかりに注目して考えもしていなかったが、そう言えばアワンは――
「あの二人が大陸最強の一角で、レベルは90以上。ならレベル99のムメイは、どちらかと言えば魔王に近い。スペック面では同等。これがあなたの予想ってことね?」
だがそんな考えも、飼い主のリードに引き戻され、どこかへ置いて行く。
俺は後ろ髪を引かれながらも、主人の引力には逆らえず、ルルワの方へと顔を向けた。
「だが辛勝だったんだろ? 魔王は確実に12使徒を超えるぞ?」
「うん。でもまあ、術の知識はほぼ皆無。ほとんど肉体能力だけで戦って勝ったって考えれば、矛盾はないんじゃない? 俺と全く同じハンデを背負った上で、あいつらに勝てる奴がそうそういるとは思えない」
むしろ、あいつらが魔王でもおかしくない。
まさか大陸最強とはいえ、魔王の部下であの強さとは、正直全く予想していなかった。ぶっちゃけ森を出る前はなんやかんやどうせ俺が一番強いと疑っていなかったほどだ。それがふたを開けてみれば――
これが井の中の蛙、大海を知らず。井戸の中に沈んだ聖徳太子もびっくりして浮き上がってくることだろう。つまりカエル化である。
「確かにね。凄い嫌がるこの人から二人がかりで話を聞き出したけど、ムメイは戦場でもかなりのハンデがあった。そもそも戦場に立つ前からいくつものハンデを背負っている状態で。そのうえで勝ってるんだから、素の力は魔王に匹敵すると考えていいと思う」
「私もそう思います。これまでの戦い、ムメイさんはかなり無茶な条件で勝っています」
本当に嫌だったが、二人から辛抱強く説得され、イコラオス戦とユウキ戦については色々と聞き出された。指先から滴る血を眼前に差し出され脅迫される様は、事情聴取というより尋問だ。拷問と言っても良い。
自身の処女の血を餌に取り調べを行う娘を見れば、きっと二人の母ちゃんの方が泣くことになるだろうが、その点を加味して拷問。
俺は特に誘惑に抗うことなく血の指に飛びついたが、泣く母はもういないので大丈夫だろう。カエル化は免れないだろうが。
「なら5分5分になるんじゃないか? 吸血鬼に慎ましさがあるとは知らなかったな」
「慎ましく奥ゆかしい俺の予想は、やっぱり7対3」
それでいて優しく格好よく、ウサギ化、ゴキブリ化、ペンギン化はあっても、カエル化なんてしたことがない完璧で究極な吸血鬼の予想としては、それでも7対3だった。
「たぶん全く歯が立たないってわけじゃないと思う。十分戦いにはなるだろうし、勝ち目がない戦いでもない。そう言う意味では、12使徒と戦うのと心づもりとしては大差ないかな。正直あいつらが魔王って言われても、俺は納得する」
「当然だ、大陸最強なんだから。今んとこスライムみたいにエンカウントしてるお前がおかしいだけ」
確かに、そう言われれば俺はちょっとおかしい。
こういうのは普通雑魚から始まり、段々と敵が強くなっていくのがセオリーだろうに、かなりルールを無視している。
なんだ最初に戦う敵が8人目の魔王って。森から出て3日で死闘って。もっと構成考えろよ(?)。打ち切り寸前の漫画か(?)。
「5分とは言えない最大の理由が、知識面。俺には300年の経験が不足してる」
魔王が仮に300年に渡って術を学び、修めているのだとすれば、俺には300年ぶんの知識ハンデがあるということになる。
実際これまでの戦いも、その面が大きく足を引っ張っていた。俺はちょっとこの世界の知識を知らなすぎる。
イコラオスやユウキに勝てたのも、スペックでのごり押しと言われれば全く否定できない。だが、それで勝てるのは格下までだ。仮に魔王が純粋なスペック面で俺と対等だった場合、ごり押しすらできなくなる可能性は高い。
「なるほど……そこさえ補えれば、5分にできる自信があると」
「うん」
大言壮語が言えるのは、こちらも誇れる経験がないわけではないからだ。
それこそ300年、日々ひたすら肉体能力や肉弾戦を黙々と鍛えていたのは、恐らく俺だけだろう。魔王が睡眠の必要のない俺と同等の時間鍛え続けていたとは思えない。そもそも最強の座に居座っていたのなら、鍛え続けるようなことはしていないかもしれない。
さらに誰にもまねできない唯一にして絶対の経験値が、魔王に勝ったこと。魔王ルコスを殺した者は、この世に俺だけのはずだ。
「だから今、俺たちはここにいるんだ」
「上手くまとめたな……可愛くない奴」
「どうも」
実際言ってやったとかはなく、本心であり、事実だ。
俺には、俺たちには経験や知識が不足している。だからこそカロスに、トバルに、師事を乞うたのだ。それら不足を補うために。
「くどくど話したが、擦り合わせておきたかったのはそのあたりの認識。何よりこの修行の意義だな」
「何のためにパーティ戦を学ぶのか。確かに、必要なことだ」
学ぶ前に何を目標に、何をするために習うのか、はっきりさせておくことは必要な手順だ。トバルは意外に、そういったところはキチンとしているらしい。
つまりこれまでの話は、全てそこに行きつくということ。12使徒や魔王の強さを改めて確認したのも、そのためだろう。そもそも、やる意味があるのかという問題だ。
「あんたらはどう思ってる?」
そして彼が問うたのは、俺ではなかった。
その姿勢で、俺はトバルの考えをほぼ全て察する。
「今後の戦いはムメイさんだけに任せるわけにはいかない。そもそも、一騎討ちの形に持ち込めたこれまでが幸運でした。突発的な遭遇もあり得るのなら、チームの連携は当然の備えでもあります」
「パーティという形なら、主に術への知識面で、ムメイのサポートができると思う。ムメイの弱点を補ったり、逆に敵の弱点を教えたり。手数を増やすというより、ムメイの決定的不足を補うというイメージを私はしているわ」
二人の答えは、如才ないものだった。
お手本通りではあるが、決して的外れではない。彼女たちがしっかりと考え、目的を見据えてこの場に立っていることがよく分かる。
だがそれは、トバルが求めているものとは違った。そして彼は、そこを誤魔化さなかった。
「俺は今の戦力差じゃ、この二人はどうあっても完全な足手まといになると思うがな」
「「…………」」
本当に、はっきりと言う。
昨夜の懇親会でも薄っすらと感じられたが、彼はそもそも戦力のかけ離れたパーティを組むこと自体に反対のようだ。
レベル差の開いたパーティは、それがどんな形であろうと死のリスクが付きまとう。それくらいなら低くても、同レベルでパーティを組んだ方が良い。昨夜トバル達から散々聞かされたことだ。そして俺も、その考えに納得した。
本格的にチーム戦を教えるならなおのこと。教える方には教わる方にも、どちらにも覚悟がいる。
そしてこれは、俺たちのことを思っての言葉だろう。当然の忠告であり、これ以上に無い優しさだ。だから――
「ああ……今はね」
「「「!!」」」
俺は全員の覚悟に、真っ向から迎え撃つ。
信念には、信念をぶつけるしかない。
「心配しなくていいよ。すぐに追いつくから」
リスクは承知。
だが、俺だけが命懸けだと思っているのなら、それは大きな勘違いだ。
だって彼女たちは――
「ええ」
「はい」
いずれ魔王をも超える、勇者たちなのだから。




