第102話 玉を磨く(1)
「――最悪のホテルだな。こんな場所で貴様と二人きりとは」
「そう? 俺は文句ないけど。金もかかってるみたいだし」
吸血鬼の自室へと招かれたのは、アガトス1――またの名をカロス。
アガトスへの絶対の敬意から彼の血を引くこの男にその称号を与えていたのだが、言うまでもなく、カロスはアガトスではない。
もしかしたら、親友を思い出して懐かしく思う気持ちも、アガトスの面影を彼に重ねていることも、本当はこの上なく失礼なことなのかもしれない。
ルルワとの逢瀬を経て、俺はそんなふうに思いだす。だから部屋に入る前の身体検査で、鋭利な刃物として活用できそうに見えなくもない1は没収しておいた。困った、それではただのアガトスだ。今度は鈍器として使えそうだ。アガ「っ!?」
「金ではなく銀だがな」
「完全にいじめだよね、これ。人の心とかないわけ?」
銀一色の銀世界に放り込まれた、吸血鬼一匹。
銀で生成された武器などは、一部の怪物の弱点となる。最も有名なのは狼男だが、次点で名が挙がるのが吸血鬼らしい。
つまりこの部屋は、吸血鬼に対する完全なるいじめ行為だ。
「耳が痛い」
「俺は目が痛い」
とか言っている俺ではあるが、これといって影響があるわけではない。
もちろんダメージはないし、精神にプレッシャーがかかるようなこともない。強いて言えば、目がチカチカして落ち着かないくらいだ。別に狭い部屋というわけでもないので、閉じ込められている感もあまりなかった。
森に300年閉じ込められていた俺からしてみれば、割といいホテルだ。
「俺としては、この部屋の前の入居者が気になるところだけど?」
「何を言っている? 同居人ならそこにいるだろう?」
「え?」
カロスが部屋の隅を指さす。
そこには、当然誰もいない。この部屋には俺とカロスの二人だけだ。
「ずっとそこにいるぞ。貴様のことを見ている」
「…………」
カロスの顔を一度確認し、二度見する。
指し示された場所は、誰もいないスペース。
だが、何かいるような気がしてくる。先ほどまでと全く変わらない景色であるのに、一気に不気味になった。
しかし――見えない。俺には、何も見えなかった。
「「…………」」
無い唾を飲み込むような心持ちで、俺はカロスの方をもう一度見る。
カロスも、こちらを見ていた。
普段と変わらない真面目顔。それが今は、この上なく恐ろしく見える。
まるで死人――この世の者ではないものと、目を合わせているかのような。
一言で言えば、怖かった。
そしてその口元は、ゆっくりと裂けていき――
見るも恐ろしい笑みを形作ると――
「冗談だ。そんな顔をするな」
「はあ!? マジ辞めろって!! ほんと、勘弁してくれよォ!!」
涼しい笑みと共に打ち明けられたネタ晴らしに、俺は心から驚愕する。それを上回る多大な安堵も。
正直アワンクイズの時よりも、この一瞬だけは怖かった。というのも、俺はお化けとか幽霊の類が世界で二番目に嫌いなのだ。
ちなみに一番嫌いなのは虫だ。ゴキブリが部屋に出ようものなら、何もすることができない。草むらでカマキリとエンカウントしようものなら、たぶん永遠のにらめっこだ。
奴らの前では、動いたら死。それほどの大弱点だった。
「何を怖がっている? 貴様がお化けみたいなもんだろ?」
「はいまた種族差別。人間の方がよっぽど恐ろしいってことも、今証明されました」
「異論はないが、それにしても情けない反応だ。まさか眠れないのはそういう理由からではなかろうな?」
「流石にそこまで情けないとは思いたくないけど……え? 違うよね?」
「知るか」
お化けや幽霊が怖いから眠れていない――わけではないだろう。
それが影響で300年不眠とかいかにいってもビビりすぎだ。流石にそこまで生物として情けないとは思いたくない。
いまさら情けない部分の一つや二つ増えたところで、本当に今更のような気もするが。
俺たちは入り口前の扉から、揃って進み出す。
カロスはデスクの上に自分の荷物を置き、俺はベッドの上に腰掛けた。
そんな各々のスペースを作る感じに、修学旅行のようだと思う。
「俺実は、お化けと同じくらい虫も苦手なんだけど、カロスは平気?」
「虫が苦手とはどういう意味だ? そんな男がこの世にいるのか?」
「はい男女差別。前から思ってたけど……発言が危ういって。そんなんじゃ令和で生き残れないよ?」
「どこだ」
デスクに置いた<金糸の革袋>から取り出されるのは、水や術道具各種。話を聞きながらも、手は止めない。こういったちょっとしたところからも真面目さが伺える。
「虫を怖いと思ったことはないな。無論お化けなどというものを恐れるほど、軟弱な男ではない」
「俺のこと軟弱な男って言ってる?」
「火だろうが光だろうが聖だろうが銀だろうが、私は恐れたことはない」
「俺じゃん」
カロスは明らかに俺を見ながら、グラスに注いだ水を飲み干す。
その飲みっぷりとグラスの結露具合から、キンキンに冷えたものであることはよく分かった。酒に火照った体に流し込むのは、さぞ気持ちいいことだろう。アルコールは体内の水分を飛ばすため、肉体の渇望と合わせて二重で気持ちが良い。
そんなふうに眺めていると、俺も欲していると思ったのか――カロスは別のグラスにも水を注ぐと、こちらへと差し出す。特段喉は乾いていなかったが、俺は素直にその施しを受け取った。
「まあなら安心だよ。俺虫だけはほんと無理だからさ。もしこの部屋に出たら頼むね」
「分かった。捕らえたらまず、その成果を貴様に見せに行くとしよう」
「冗談にしといてね。マジで国が滅ぶから」
「…………冗談にしておこう」
冗談とも言い切れないのが、非常に怖いところだ。
突然目の前にゴキブリなんか持ってこられた日には、俺も自分がどうなるか全く分からない。
国は流石に言い過ぎだが、冗談ではなくカロスは殺してしまうかもしれない。それほどビックリする自信がある。
俺は想像するだけで気持ち悪くなったゴキブリを、水で洗い流す。
胃の中に送られたようで、さらに気持ち悪くなった。
「貴様そんなことで、もし今後出たらどうするんだ? 普段の貴様の周りには、女性しかいないはずだ」
「え? 普通にルルワに頼むけど?」
「情けないことこの上ないな」
俺が情けないことはその通りだが、苦手なことに男も女も関係ないはずだ。
ルルワが苦手なことは当然俺がフォローするし、逆もまた然り。それが人というもの。
現状俺の足りない部分を二人に押し付け過ぎなような気もするが、まあ仲間だし問題ないだろう。虫とは絶対に戦いたくはないが、俺は魔王となら今からでも戦う覚悟がある。そこまで身勝手な男でもないつもりだ。
「まさか吸血鬼にまだ弱点があるとは思わなかったよ。それも、克服できないから余計にタチが悪い」
「だから俺を強くしてくれよ、先生」
「ふんっ……」
前置きは終わり、そんな空気をカロスと共有する。
ニヤリと笑みを浮かべれば、まるで生意気な奴だというようにカロスも笑った。
男女差別ではないが、こういった独特の空気感はやはり男ならではのものだ。人によってはイラっとするような挑発の類も、愉快に感じる。いや、やはりそこには男も女もないか。これはカロスと俺の関係なのだから。
「受け取れ」
「おっ」
唐突に放り投げられた玉を、俺は両手で受け止める。
この程度対応できないわけがないと信頼されているようだが、普通に驚いた。なぜならその玉は、思っていたよりもずっと大きかったから。
「その玉を使う。まずは火元素の制御からだ」
「ようやくカッコイイとこ見せられるね?」
「余計なお世話だ」
ボーリング玉よりもさらに大きいようなこの玉は、カロスの専門である火の修行に使うらしい。何をするのかはまだ見当もつかないが。
「火の性質は覚えているな?」
「もちろん」
それが知識チェックであることを、俺は間違えなかった。
すぐに教わった火の性質について思い出し、答える。
・ 火
性質:熱い・軽い・上へ昇る。熱 + 乾
象徴:変化・破壊。変化の原理
本質:形を変え、他を変える力。消費・出力が高い(燃費が悪い)
「――その通りだ。火元素は放っておけば上へ昇る基本性質がある。軽いからな」
「俺の雷は下に行ったけど……なら重いんじゃない?」
「かもな、だが同じことだ。上だろうが下だろうが、一方向に向かう性質は四元素の中で火だけだ」
「なるほど、やることは同じってわけね」
相変わらず説明が分かりやすい。
これから何の修行をするのかも見当がついてしまった。
「見てろ……」
俺の持つ玉に、カロスが手を重ねる。
瞬間――
「おお!」
玉の中に、火が灯った。
いやそれは、もはや火ではなく炎だ。
「火を自在に操れるようになれば、こんなこともできる」
玉の中で、炎は形を変える。
大きくなったり、小さくなったり、細くなったり太くなったり。
幾本にも分かれたりもすれば、台風のように巻き起こったりもする。絶えることのない変化は、まさに変幻自在。凄まじい制御、そして操作能力だ。
「火は、最も自在に形を変化させることができる元素だ。その奥行きにも高さにも、際限は無いとまで言われている。無論術者の力量によって大きく左右されるがな」
「俺にもできるってこと?」
「貴様次第だ」
できないとは否定しなかった。
リップサービスかもしれないが、やる気に繋がったことは確かだ。
「いいか? 今から私が制御を手放し、この火を解放する」
「! なるほどね。軽くて上に向かう火を、この玉の中に閉じ込めろってことか」
それが元素を制御する訓練。
俺の魔力で、火が上に向かう性質を操作する。この玉は、他人の元素魔術に干渉するための媒体というわけだ。恐らく空気中でやるようなことはできないのだろう。できるならこの玉を用意する意味がない。
どういう原理なのかは分からないが、おそらく元素魔術の修行としては一般的な機器なのだと思われる。
「流石だ……だがその理解に実力が伴うかな?」
「いいね……見せてやるよ」
いつでも来いと、俺は両手を構える。
だがカロスは少し準備があるのか、新しい道具を出したりしていた。片手で玉に触れながら、こちらを見もせずに。
その間、玉の中の炎は微塵も揺れ動かない。緻密な制御力がそこに宿っていることが、一目で分かる。
(すげえ! こういうのを待ってたんだよ! ワクワクしてきた!)
初めて、異世界っぽいのではなかろうか。胸が高鳴り、心が躍る。
ルルワではないが、やはり俺も自分の幸せは捨てがたい。目標は強くなることだとしても、やはり道中楽しめなければ意味がなかった。
むしろこれくらいの我儘は許されてしかるべきだろう。ルルワは己のそういうところを恥じているようだったが、俺からすれば彼女はちょっと真面目過ぎだし、頑張りすぎだ。
差し当たって先ほどのルルワの勇気ある告白についてだが、俺としては別に世界全てを敵に回してもあなただけを――とか言ってくれないからといって、愛が釣り合わないとは全く思わない。
ただ妥協できる部分とできない部分があるというだけの話だ。元は別世界の住人であり、根無し草の俺とはやはり立場が違う。
実際彼女は、他の男と子供を作るという王の話にはきっぱりとNOを突き付けたという。吸血鬼の彼氏を裏切れないからと。
言うまでもないことだが、これは相当の覚悟が無ければできないことだ。この国の歴史を知り、この国の王族であり、勇者の立場を重んじる彼女ならばなおさら。
だからこそ、やはりその程度のことに俺の助けは必要ないという俺の考えは間違っていなかった。ルルワはちゃんと自分の意志は伝えられる。それが例え、国への、世界への裏切りだとしても。
要は、そこが彼女の妥協できない部分というわけだ。これは言い方を変えれば、世界と俺、二つを天秤にかけた場合彼女の想いがどちらに傾くかを如実に表している。俺はそれが知れただけでも、嬉しかった。
ただ彼女は、できるならその二つを両方手に入れたいというだけの話だ。こんなの我儘でもなんでもない。むしろ二択を突き付ける方が間違っている。俺は別に世界よりも俺を愛せというほどヤンデレではないつもりだ。
だから、その彼氏である俺がはっきりとした二者択一を示したことは、やはり彼女を困らせることだと分かっていた。そのうえでなぜそんなことを言ったのかと言えば、やはりそれが話し合いだからだ。
時には相手が嫌がると分かっていても、自分の考えを素直に伝える必要がある。
言わなければ、ルルワも分からない。ルルワも、自分の考えを言えない。
人間関係には必ず必要なことだ。こういった話し合いを疎かにすれば、その道の先には破局しかない。
(とか、偉そうなこと言えるような立場じゃないんだけど……)
本当に偉そうなことは言えない。
なぜなら俺は、それができていない男だったからだ。
これは完全な言い訳になるのでルルワにはあまり言いたくないが、俺もこの国では結構考えることが多かった。
ルルワやアワンは俺を心無い冷徹ロボットのように見ているようだが(もちろん冗談だ)、俺は俺で結構繊細なつもりだ。
吸血鬼の被害者たちに囲まれたこの状況では、どうしたってその者達との付き合い方について考えざるを得ない。そして、ダソスという国が抱える歴史的問題。俺は常にこの国での立ち回りに向き合う必要があったし、繰り返すが強くなることにも必死だった。
だから、大丈夫だと思っていた。
お互いにやるべきことをやろう。気持ちは同じだから、頑張ろう。そんなふうに想いが通じ合っていると勘違いして、ルルワに信頼を預け過ぎていた。だからそこまでの大ごとだと、今の今まで気づいていなかったのだ。
たった二日余りで、そこまで状況が変わっているなど、想像だにしていなかった。
それに気づかせてくれたのが、カロスとトバルだ。
カロスはわざわざパーティ会場から俺を連れ出して、昨夜行われた会議について教えてくれた。
子供を作るなどのデリケートな話題なだけに、ルルワは俺に言い難かったのだろう。それを察してカロスが名乗りを上げてくれたわけだ。
ダソス王の方針がどうなのかは知らないが、カロスの立場からしてみれば俺に伝える必要のないことであるのは確か。むしろ俺には黙っておくほうが無難だろう。少なくとも、損な役回りであることは間違いない。それでも、話してくれた。
ルルワが今どんな状況にあるのかを、正確に俺に伝えるためだろう。話された内容に感情論はなく、ただただ事実のみを淡々と語っているようだったが、その心配りが分からない俺ではなかった。
なぜなら繰り返すが、カロスが俺に伝えるメリットがない。
どこまでも真面目で、そして、どこまでも優しい奴だ。
トバルは、もっと踏み込んでくれた。
彼は俺とルルワの関係については聞かされていないはずだが、どうやら一日足らずで関係を見抜いてしまったらしい。流石に貴族令嬢たちを何人も誑かしたというだけはある。女心には敏感なようだ。
そして、男心も分かっていた。
正直、昨日今日の付き合い、それも仕事相手にするアドバイスとしては、かなり挑戦的だった。俺が癇癪持ちの吸血鬼、もしくは見た目通りの年齢ならキレたり拗ねたりしてもおかしくはない。関係悪化のリスクを背負ってまで、教えてくれたのだ。
ルルワが、俺の助けを求めていると。
昼間の一件に関する釈明に関しては、ただの前座だ。話の本筋はやはりそこではない。
強くても、弱くなりたい時はある。男なら、時には女を弱くしてやれ。女を見下せという表現を、俺はそのように解釈した。
要は、彼は俺の信条を肯定しながらも、それをパートナーに押し付けるなと叱ったのだ。俺は彼の言いたいことを、間違えなかった。
正直に言えば、トバルの恋愛観にはそこまで共感はしていない。
俺は助け合いはしたくても、甘え合いはしたくないから。一方を助けるだけの関係なんて俺は死んでも御免だ。それくらいなら別れた方がいいとまで思う。
だからたぶん俺がルルワに別れを切り出す時がくるとすれば、ルルワが俺を助けてくれなくなった時か、ルルワが俺に甘えきりになった時だろう。それくらい俺にとっては、そこだけは絶対に譲れない部分だった。
ただそれらを善意のアドバイスと受け取れないほど、ひねくれているつもりもなかった。
現に俺は、トバルに心から感謝している。たぶん女に関する考え方は違うのだろうが、同じ男としては彼を格好いいと思った。同じではないからといって、見習うべき部分がないわけではない。
総じて、ダソスへとやってきて二日目が終わろうという今日、ルルワに向き合うことができたのは、一重に彼ら二人のおかげだ。
たぶん俺だけなら、気付くのはもっと遅くなっていた。その結果最悪の事態になっていた可能性も、全く否定できない。早々に二人で話し合えたのは、本当に幸せなことだ。
(なんかこの世界……良い奴ばっかだな。悪い奴にまだ会ってない気がする……)
これだけ人と会っているのだ。もっとムカツク奴がいてもおかしくないような気がするのだが、関わる人間はむしろ良い奴の方が多い気がした。
いや、はっきり言って良い奴ら過ぎる。前世地球ではもっとムカツク奴が多かった。カロスとかトバルみたいな奴らが、早々いるとは思えない。
(これが勇者の人徳か……ありがたや……)
当然勇者とは、俺のような嘘っぱち勇者ではない。
きっとルルワが可愛いからだろう。そう言われて見れば、寄って来る男はイケメンばかりのような気もしてきた。本当に俺の立場がないので、そろそろもっと普通の男も出てきてほしいものだ。
(ひとまずは、乗り切ったか……)
最悪の状況は回避できたと思う。
ただあれで解決したとは思っていないし、思ってもならないとも思う。
変わらずこの国ではルルワは精神的に余裕がないだろう。なら俺も、少年漫画のように修行だけにかまけているわけにはいかない。
ルルワと話すべきこともまだまだある。改めて、彼女との時間を大切にしたいと思った。無論、アワンとも。
(だけど、まあ……夜は許してくれ)
ルルワと同衾することは、この国では許されない。
これはどうしようもない。守るべきルールだ。
ならば夜は、依然吸血鬼の時間。
昼は出来る限りルルワやアワンと過ごす時間を作り、夜は修行に集中する。相変わらず俺にも余裕はないが、俺が弱音を吐くわけにはいかない。
ルルワは、俺を頼りにしている。そして、アワンも。俺が折れるようなことだけは、絶対にあってはならない。
未熟だった。
だから――
俺はもっと、男を磨かなければ。
「一つ言い忘れていたが、制御を失敗すれば炎は玉を超えて飛び出す」
「!」
考え事が終わると、示し合わせたようにカロスの準備も完了する。
こちらを静かに見据える瞳を、俺も覗き込んだ。
「仮にそうなったとしても、私は動かない」
「…………」
火は、吸血鬼の最大の弱点の一つ。
それが飛び出せば、当然すぐそばにいる俺はひとたまりもない。
だが炎は、何も吸血鬼だけの弱点というわけではない。当然、人類重要戦力である吸血鬼を見殺しにしたカロスにも、二重の意味で火の手は及ぶ。
つまりは――
一蓮托生。運命共同。
カロスは、それほどの覚悟を持ってこの場に臨んでいるということだ。
だから――
「いいね……そうこなくっちゃな」
俺は、笑う。
カロスも、笑った。
「…………いい度胸だ」
合図もなく、カロスの手が玉から離れる。
そして――俺たちの修行は、ようやく始まった。




