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黒字転換の門出
宮殿の扉をくぐり抜けると、夜風がノアの頬を冷たく撫でた。
重厚な扉の向こうから聞こえていた怒号や悲鳴が、遠い異国の出来事のようにかき消されていく。
ノアは立ち止まり、深く息を吸い込んだ。
三年間の重圧。
無能を演じ続け、帝国の数字のバグを修正し続けた、長く暗い時間。
張り詰めていた肩の力が、驚くほどスッと抜けていく。
ノアは懐から、使い古したソロバンを取り出した。
帝国の運命を握っていた木製の道具は、ただの計算具に戻った。
だが、不思議と、手に伝わる温もりは心地よい。
「……ふぅ。これでようやく、ブラックな職場ともおさらばだ」
空を見上げると、月が冷ややかに輝いている。
ノアは、自身の人生を改めて計算し直してみた。
帝国に奪われていた時間、精神の消耗、そして婚約者という名の足枷。
「……さて」
手の中のソロバンを軽やかに弾く。
パチリ、と硬質な音が、夜の静寂に響いた。
「今日からは、私の人生も『黒字』に転じるわけだ」
ノアは振り返ることなく、暗闇の先へと歩き出す。
第5話をお読みいただきありがとうございます!
ついに「ブラックな帝国」を退職(?)したノア。
彼自身の人生を黒字にしていくターンです。




