無能と嘲笑した男の正体。皇女が初めて知る『本当の価値』
「……そんなはずがないわ。ただの帳簿整理。
ノアがやっていたのは、誰でもできる事務作業だったはずよ!」
カトリーヌは激昂しながらも、心の底で震えが止まらない。
これまでノアは、夜な夜な執務室に籠もり、複雑な帝国の税収を整理し、無駄な支出を削り、商工会との折衝を一身に引き受けていた。
ノアが「無能な王子」として振る舞いながら、帝国が倒産しないギリギリのラインを維持し続けていたこと。
どれほど高度な技術を要する「経営の妙」であったか。
「……計算は、もう合わない」
ノアが冷ややかに言い放つ。
「貴女たちは、私の『作業』を無能と嘲笑し、『献身』を寄生と断じた。
ならば、報いを受けるのも貴女たち自身の仕事だ」
ノアは優雅に翻したマントで、皇女のすがりつく手を振り払った。
カトリーヌを支えるために、どれほどの時間と知恵を費やしてきたか。
「待ちなさい、ノア! 帰ってきて、頼むから!」
ノアの視線にはもう、慈しむような温かさなど一欠片も残っていなかった。
かつての婚約者ではなく、倒産する企業の無能経営者に向けられる眼差しだ。
「さようなら、カトリーヌ殿下。
筋肉と根性で、破綻を乗り越えられることを祈っておりますよ」
ノアは絶望の悲鳴をBGMに、一切の未練なく、夜会の出口へと歩き出した。
第4話をお読みいただき、ありがとうございます!
「無能」と切り捨てた男が、実は帝国の生命線だったと知った時の皇女の絶望。
ノアの容赦のない突き放しに、スカッとしていただけたでしょうか?




