帝国の終わり。舞踏会場に響く『信用』の崩落音
会場に鳴り響く警告音は、地獄へのカウントダウンだった。
魔導通信機から聞こえてくるのは、世界中の大商人たちからの宣告だ。
『中央銀行からの全資金引き揚げを要請する!』
『ノア様が解任されたという噂は本当か? なら、直ちに帝国との取引を停止する!』
悲鳴と怒号が、宮殿の舞踏会場を支配していく。
「な、なんだこれは……! どういうことだ!」
傍らにいた筋肉隆々の勇者が、わけもわからず怒鳴り散らす。
しかし、彼がどれほど鍛え上げた拳を振り回しても、流れる数字を止めることはできない。
「……おや、始まったようです。
世界中の商会が一斉に『帝国からの投資回収』を要求しています」
ノアは優雅に懐中時計を確認し、冷ややかな視線を投げた。
「次は貴族が、そして最後には、帝国民が預金を取り戻そうと押し寄せるでしょう。
……そう、大規模な取り付け騒ぎの始まりです」
「まだだわ……我が国の金庫には、莫大な金貨が眠っているはずよ!」
「いいですか、殿下。
子供でも分かる話ですが、金貨以上の借金が桁違いにあるんです。
当然、騎士団は給料が払われないから武器を置く。市場からは食材が消え、街には不満が溢れる。
……貴女が誇った『強大な帝国』の正体は、たった一人の敏腕コンサルタントによる『自転車操業』に過ぎなかったのですよ」
会場の貴族たちが、蒼白な顔でザワつき始めた。
「嘘よ……嘘よね? 勇者様、どうにかして!」
カトリーヌがすがるように勇者の腕を掴むが、青ざめたまま、立ちすくんでいる。
彼には、強大なモンスターを倒す力はあっても、経済の知識など欠片もなかった。
「筋肉で、金利が下がるといいのですが」
ノアの皮肉めいた呟きが、静まり返った会場に冷たく響いた。
手に入れていた繁栄のすべてが、「陰気な男」の手の中にあることに気づき、戦慄する。
第3話をお読みいただき、ありがとうございます!
ついに動き出した帝国崩壊のドミノ。
会場にいる貴族たちの焦りが、読者の皆様に伝わっていれば幸いです。




