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2/6

帝国の繁栄は、すべて莫大な『借金』で築かれていた

「な……!?」


 カトリーヌの顔から、急速に血の気が引いていく。


 喉から絞り出された声は、威厳いげんなど微塵みじんもない、ただの悲鳴に近いものだった。


 ノアの言葉が、脳内で何度も反響する。


『運用主である私が解任されれば、彼らは一斉に資金を引き揚げ、帝国との取引を停止する』


 そんなはずがない。


 帝国は、「圧倒的な武力」と「広大な領土」を持つ強国だ。


 だが、胸の奥で、言いようのない悪寒が渦巻く。


 ……ノアは、「無能なソロバン王子」ではなかったの?


 カトリーヌの脳裏に、ノアが執務室で過ごしていた光景がフラッシュバックする。


 夜遅くまでソロバンを弾き、分厚い帳簿の山をめくり、何やら奇妙な数式を書き連ねていた。


 当時は、「趣味の悪い暇つぶし」だと笑っていた。


 だが、今になって思えば、「奉仕」などではなかった。


 ノアは、帝国の帳簿を「整理」していたのではない。


 帝国という巨大な企業を、自分という「コンサルタント」がいなければ一瞬で倒産するように、徹底的に作り替えていたのだ。


 取引先の商工会への根回し。


 物流網のボトルネックの解消。


 複雑に絡み合っていた融資先の整理統合。


 ノアが完璧に構築した「システム」の上に、帝国の繁栄は成り立っていた。


 それはもはや、王国の一部ではなく、ノアという個人の「信用」が支える巨大な経済圏だった。


「……滑稽こっけいですね、皇女殿下」


 ノアは、突きつけられた扇子の先を指先で軽く弾いた。


 壊れかけた玩具をあしらうような手つきだ。


「なぜ貴女が要求する贅沢ぜいたくなドレスも、軍の増強費も、一切の不足なく支払われていたのか。

『国力』だと思っていたようだが……違う。

すべて、私が世界中の商人たちを説得し、帝国に先行投資させていた『借金』の積み重ねです」


 カトリーヌは足元が崩れ落ちそうになるのを、必死に踏ん張って耐えた。


 ノアがソロバンを弾くたび、帝国の「数字」は美しく整えられていた。


 しかし、その数字こそが、いつでも帝国を崩壊させる権利書だったのだ。


「さあ、計算のお時間です。

私を解任したので、帝国に対するすべての信用供与は停止ストップされました」


 同時に、会場の壁に設置されていた魔導通信機が、一斉にけたたましい警告音を鳴らし始めた。

 第2話をお読みいただき、ありがとうございます!


 カトリーヌが信じていた「国力」の正体が、実は「借金」だったと発覚する回でした。


 ノアの完璧な「帝国破綻計画」。


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