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さよなら、優しい狼さん。~傷だらけの不死者が捧ぐ、一夜限りの逃避行~  作者: silver fox
第2章:三百年の孤独が、君の瞳に溶けていく。――潮騒の街のニューハーフバーで、不器用な人狼が恋をした、一夜の約束。

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第14話:通りすがりの獣:正義の形は人それぞれに

 同じ頃——。


 別の倉庫街の一角で、複数のライトが一斉に点いた。


「動くぞ!」


 久我山警部の声が飛ぶ。


 黒い防弾ベストを纏った警官たちが、一斉に走り出した。盾を持った者、破壊用のツールを持った者、銃を構えた者。


「対象倉庫、突入!」


 破壊用のハンマーが、固いシャッターを叩き、鍵の周辺を歪める。


 同時に、別ルートから特殊部隊が忍び込む。


 倉庫の中では、複数の人影が動揺していた。


 白い粉の入った袋。怪しいラベルの瓶。パレットに積まれた段ボール。


 その中央で、電話を耳に押し当てている男が一人。


 賀茂玄悟。


 ふくよかな体つき。金の縁の眼鏡。笑うと歯茎が見える——はずの口は今、ひどく強張っていた。


「どういうことだ、堂前。何が——」


 その言葉が終わる前に、倉庫の扉が破られた。


「警察だ! 動くな!」


 怒号と共に、ライトの光が一斉に差し込む。


「くそっ——!」


 堂前が叫び、スタンガンを掴んで一人に飛びかかろうとする。


 だが、その前に背後から押さえつけられた。


「堂前恒一、覚醒剤取締法違反の容疑で——」


 矢代もまた、隅で震えていたところを、すぐに見つかった。


「や、やめてくれ、俺は、俺は——!」


「売人矢代恒一、覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕する!」


 叫び声と金属の音が混ざる。


 久我山警部は、その混沌の中で、ただ一人冷静に周囲を見回していた。


「薬物の押収! 帳簿と電子機器の確保急げ! 証拠はここに全部あるはずだ!」


 その目には、かつて部下を薬で失った男の、執念にも似た光が宿っていた。


 ——ほどなくして。


 サイレンの光が、別の倉庫街にも差し込んだ。


「……終わったのか」


 三門巡査部長が、静かな足取りで歩いてくる。


 そこにはもう、黒い影の狼たちの姿はなかった。


 夜の闇に溶け、最初から存在しなかったかのように霧散している。

 残っているのは、夥しい返り血と、深手を負って地面に転がっている時雨。


 そして、死線を越えてなお立ち尽くす一人の男。


「あなた……」


 三門の声が、震えそうになるのを必死で抑えていた。


「何者なんですか」


 カミヤは、一瞬だけ彼女の目を見た。


 その瞳には、恐怖だけでなく、好奇心と、職業的な興味と、そして——被害者を守ろうとする意思が、しっかりと宿っていた。


「通りすがりだよ」


 そう言って、背を向ける。


 三門は、何も言わなかった。


 ただ、一つだけ問いを投げかける。


「——リオさんを、守ってくれてありがとう」


 一瞬。


 カミヤの足が、止まった。


「礼はいらねえよ」


 振り返らずに答える。


「俺がムカついただけだ」


「そういうムカつきを持ってる人が、もっと増えればいいのに」


 三門の言葉に、久我山が少しだけ笑った。


「全員そうだったら、俺たちの仕事が減りますね」


「それでいいでしょう」


「まあな」


 久我山は、大きく息を吐いた。


「……ご苦労でした」


 その言葉が、誰に向けられたものなのか、はっきりしない。


 人間たちの光と影の中で、カミヤは静かに倉庫街を後にした。



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