42 桃太郎と花江
42 桃太郎と花江
次の瞬間、桃太郎はある一つの可能性に気付いて、あっと声を上げそうになった。
(もしや……。いや、きっとそうだ。それに違いない。だから、花江さんは、こんなにも照れくさそうにしているのだ)
桃太郎の方も、不覚にも、取り乱しそうになった
お爺さんは、桃太郎の表情の変化を見て取って、
「おお、さすがに察しが良いな。そうだ、その通りじゃ。お前が鬼退治に行っている間に、花江さんとの婚姻の話を決めておいたのじゃよ」
と言った。
「いや、はや……。それは、また、どうも、急な話ですな」
桃太郎はシドロモドロになった。鬼ヶ島では鬼共の心肝を寒からしめた桃太郎だが、この場では打って変わって、頭などを掻いて、周章狼狽のありさまだった。
「すでに花江さんの側からの了承は得ているが、一応は婿の側の意向も聞いておかなければな。後は桃太郎の気持ち次第じゃ。どうだ?」
「はっ……」
ここはいい加減な態度で返事をすることは許されない。桃太郎は決意を固めた。身なりを整え、座り直して、背筋をピシッと伸ばした。チラリと横を見ると、花江はすがるような目をしていた。
桃太郎はコホンと咳払いをして、口を開いて、
「私、桃太郎は、花江さんを妻として、娶りとうございます」
と言い切った。
花江とお爺さんと婆さんの顔は同時にパッと明るくなった。
桃太郎は横へ向き直って、
「花江さん。私の妻になってくれますか?」
と問うた。花江は紅潮した顔で、羞恥に身をモジモジと悶えさせながら、それでもはっきりと、
「はい」
と答えた。さらに、
「私は、桃太郎さんはきっと鬼退治を成功させて、生きて戻ってくると、ずっと信じておりました」
と健気に言った。
桃太郎は新妻への愛おしさに気が遠くなりそうだった。そっと腕を伸ばし当て、花江の嫋やかな手をギュッと握ってやった。花江もはにかみながら、桃太郎の手を握り返した。
「めでたい、実にめでたい。さっそく今夜は、婚礼の儀としよう」
「私は今まで生きてきて、これほどうれしい日を迎えたことはありません」
お爺さんとお婆さんはうれし涙に咽んで、ただでさえ皺だらけの顔をさらにクシャクシャに歪めた。




