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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
七章 鬼ヶ島の激闘
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38 それぞれの別れ

38 それぞれの別れ

 火炎の中で屋敷はグヮラリと倒壊し、火の粉が辺り一面に舞い上がった。

 半刻足らずで、首領の鬼の死骸もろとも、屋敷は灰塵に帰した。

 桃太郎はそれを見届けると、鬼共に向かって、

「お前たち、二組に分かれよ。一組はこの周囲の柵を取り壊すのだ。そして、もう一組は、村に返却すべき品々を海辺まで運べ。日暮れまでには終わらせるのだぞ」

 と命じた。

「承知しました」

 鬼共は従順に働いた。桃太郎たちも鬼共を指揮しながら、海辺に向かった。彼自身も担げるだけの荷を肩に乗せていたが、全体としては相当の量になりそうだった。

 全ての物品が砂浜に集積された。桃太郎の監督の下、鬼共は腰まで海に浸かって、それらを船に積みこんだ。

 その作業が済むと、船端は水面近くまでズッシリと沈んだ。

 桃太郎と動物たちは船に乗り込んだ。船内は荷物で溢れかえり、足の踏み場もないありさまだった。

「よくぞまあ、これほどたくさんの物を奪ったものだな」

 と桃太郎は皮肉ともつかない感心をしながら、帆柱に鬼の首を包んだ布袋を結わえた。

 鬼共は砂浜で勢揃いして、桃太郎たちの船出を見送った。桃太郎は彼らに最後の言葉をかけた。

「よいか、鬼共。私との約束を忘れるでないぞ。もし、また悪さをするようなことがあれば、必ずやもう一度、懲らしめに参る」

「決してそのような……」

「信じてよいのだな」

「もちろんですとも」

「では信じることにしよう」

 桃太郎は櫓で海底をグッと突いた。船は波間に浮くと、風を受けて、見る見るうちに沖へ進んだ。

 鬼共は、嵐が過ぎ去ったかのような気持ちでいた。その愚昧な頭脳では、今回の事件をどう解釈していいのか判然としなかったが、少なくとも当面の間は悪行をできないとは理解していた。彼らは、桃太郎たちを乗せた船が水平線の向こうに消えても、しばらくの間、その場に無言で佇んでいた。

 帰路は幸いにして、潮と風は本土に向かっていた。すでに陽は傾いていたが、急いで漕げば、暗くなる前に対岸に到着できそうだった。

 荷物を満載した船を桃太郎一人で操るのはなかなかの骨だったが、それでも何とか、日没までには陸地の土を踏むことができた。

 残日のかすかな明かりの中、桃太郎は船から砂浜に降りて、手近な岩に縄をつないで、船をもやった。

(ふうっ)

 桃太郎は、沖に浮かぶ鬼ヶ島を眺めながら、満腔の溜息をついた。緊張が解けて、安堵したせいで、疲労感がドッと押し寄せてきた。

 ようやく帰ってきたという実感が湧いた。ただし、すでに辺りは暗くなってしまったので、今夜は船の中でひと眠りして、村に帰るのは明朝にしようと決めた。

「お前たちはどうする?明日、私と一緒に村に帰るか?」

 と桃太郎は動物たちに訊いた。桃太郎自身はそうするつもりだった。

 しかし、動物たちは一様に首を横に振った。

「私はここらでお暇しようと思います。私が村に行ったところで、しょうがないですから」

 と犬が言った。猿も雉も特に何も言わなかったが、同じ意見のようだった。

「ふむ、そうか」

「お別れです」

「名残り惜しいな。色々と手を貸してくれて、ありがたかった。礼を言うぞ。できることなら、何か見返りをしてやりたいのだが」

「お気遣いは無用です。そのようなお言葉を頂けただけで、私は満足です。それに、いわば近所同士ですので、また会う機会はいくらでもあるでしょう」

「それもそうだな。その時にはまた黍団子をやろう」

「今日の鬼退治のことは、一生、忘れません。では」

 実に淡白な別離だった。彼らはあいさつらしいあいさつもせず、元々の棲み場所に戻るべく、森の中の茂みの方へ散って行った。

 三者の姿は木々の間に隠れて、すぐに桃太郎の視界から消えた。その足音も途絶えると、辺りは急にシーンと寂しい雰囲気になった。

(ふうっ)

 と桃太郎はもう一度、大きな溜息をついた。しばらく、ジッと物思いに耽っていたが、

「私も、寝るとするか」

 とつぶやいて、船の中に戻った。荷物を寄せて隙間を作って、そこへ身を横たえた。

 夜空を見上げれば、そこには満天の星が輝いていた。

(この星空の下で、人間、動物、そして鬼も、それぞれの生をそれぞれのやり方で送るのだな)

 と桃太郎は変に哲学的に考えた。

 今日は一日中、暴れまわったため、目を閉じるとすぐに眠気に襲われた。桃太郎は夢も見ず、ぐっすりと眠った。


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