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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
七章 鬼ヶ島の激闘
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37 勝利の狼煙

37 勝利の狼煙

 桃太郎は首領の鬼の死骸のそばにしゃがむと、太刀をもって、その首を掻き切った。そして、

「勝利の印として、村に持ち帰る」

 と言って、頭髪を鷲掴みにして持ち上げた。首だけでもズシリと重たかった。それは死んだ後でも、憤怒に満ちた無念の表情を浮かべていた。

 また、桃太郎はその血のしたたる首を片手に提げて、

「者共、聞け」

 と鬼共に呼ばわった。

 鬼共はすっかり恐懼して、「ははー」と、土下座せんばかりの態度だった。

「お前たちは長年にわたって、近隣の村々から食料や財宝を奪ってきた。それらを村人に返すのだ。今すぐ、隠し持っている分を全て集めよ。そして、浜辺の船まで運ぶのだ」

 桃太郎のその言葉を聞いて、鬼共はギョッと驚いた。そんなことをすれば、素寒貧の無一文になるではないかという顔だった。しかし、桃太郎は彼らの煮え切らない態度に対しては強硬だった。切り取ったばかりの首領の首を掲げて、

「これ以上の自儘は許さぬ。私の言葉に従わない者はこうなるぞ」

 と敢然と言い放った。もう鬼共は一言もなかった。

 ただ、桃太郎はここで少し態度を軟化させて、諭すように言った。

「私の言うことをよく聞け。この島には鹿や猪も棲んでいるし、また海に出れば魚も泳いでいる。狩りや漁をすれば、どのようにでも生きていけるのだ。また、島の中で田畑を作るという手段もある。ともかく、それぞれが自分で自分の生活が成り立つようにせよ」

 鬼共は複雑な表情で、お互いの顔を見合わせた。それは、

(ヤレヤレ、これからの暮らしは、ずいぶんと大変なことになるな。でも、それも仕方ないか……)

 と不承不承ながらも観念して、新しい運命を受け入れたようだった。

 桃太郎はさらに続けた。

「もはや、このような砦は必要あるまい。火にかけて灰にするのだ。異存はないな。よし、では、誰か火打石を」

 一匹の鬼が藁くずを用意して、火打石をカチカチと鳴らし始めた。

 桃太郎はふと思いたった。

「そうだ。鬼よ、しばし、待て。ついでに、首領の死骸も一緒に焼いてしまおう。あれを屋敷の中に運び込むのだ」

 と言って、地面に横たわっている首のない死骸をあごでしゃくった。

 数匹の鬼は首領の死骸の手足を持って、屋敷の中へ運び入れた。

 彼らは性質として軽薄なのか、それとも桃太郎への阿諛追従か、今まで首領として仰いでいたその鬼の死体を、あたかも仇敵にでも接するかのようにぞんざいに取り扱った。鬼共は首領の死骸を屋敷の中央辺りにドサッと投げ捨てるように置くと、その上から木の板などをバサバサと積み重ねた。

 そういう鬼共の態度は褒められたものではないが、首領の凶暴さを恐れて、表面的に従っていただけというのが実情だったのだろう。

「死骸を運び入れました」

 と鬼共は報告した。それはもはや、桃太郎の子分になったかのような忠実ぶりだった。

「うむ、ご苦労。では火をかけよ」

 と桃太郎は命じた。

 火のついた松明が屋敷の中へ放り込まれた。

 やがて、屋敷の窓からは火と煙がモウモウと吹き出して、すぐに建物全体が炎に包まれた。それは巨大な火柱となって、天を焦がした。

 炎上する屋敷を前にして、桃太郎たちと鬼共は横並びになって、黙って見守っていた。炎に照らされた桃太郎の整った顔は、凄艶な美しさと共に、余人を近づけ難い威があった。

(村人たちは、私の鬼退治の吉左右を一日千秋の思いで待っているはずだ。この砦が燃える炎と煙は村からでも十分見えるだろう。それはきっと、朗報として伝わったに違いない。お爺様、お婆様。私はやりましたぞ)

 桃太郎は今にしてようやく、義務を果たした達成感と共に、勝利の実感を得た。


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