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小説・桃から生まれた桃太郎  作者: 江戸山乱理
七章 鬼ヶ島の激闘
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36 乱戦

36 乱戦

 その時、遠くの方から、何者かが近付いてくる足音が聞こえてきた。最初、桃太郎はそれを、島の中から新手の鬼が加勢に来たのかと思った。しかし、よく聞くと、その足音は鬼にしては、やけに軽快だった。

(あの足音は、もしや……)

 桃太郎は一つの可能性に思い当たった。周りを囲んでいる鬼共の頭越しに視線をやると、屋敷の物陰から、一つの塊が弾丸のように飛び出してきた。それは犬だった。

(やはり、そうか。犬の足音だったのか)

 桃太郎はパッと顔を明るくした。

 駆け寄ってくる犬のすぐ後ろには、猿もピョンピョン飛び跳ねながら、近付いていた。また、視線を上げると、空からは雉が舞い降りてきた。

 遠巻きにしていた鬼共が背後の物音に気付いて、後ろを振り返った時には、犬たちはもう眼前にまで迫っていた。

 犬は牙を剥き出しにして、一匹の鬼の足元に絡むと、そのふくらはぎにガブリと噛みついた。

 鬼は不意打ちを食らって、わっとのけ反った。そいつは片足を浮かせて、犬を振り放そうとしたが、犬のあごは万力のように食い付いて離さなかった。

「なんだ、この犬は。助けてくれ」

「俺が叩きのめしてやる」

 横にいた鬼が仲間を助けようと、金棒を振り上げた。

 しかし、その時、猿がその鬼の背中に飛び掛かって、腕を伸ばして、顔中を引っ掻いたので、そいつは堪らず、金棒を取り落した。

「こっちは、猿だ」

 鬼共は喚いた。さらに、そこへ、空中から雉が降下して、その鋭い蹴爪で鬼の目を突いた。

 小柄な動物たちの攻撃なので、決定的な打撃を与えるまでには至らなかったが、鬼共は足元と背中と空中から襲われて、包囲網の一角は混乱をきたした。

 桃太郎はその機会を逃さなかった。崩れかけた箇所を狙って、ダッと駆け出した。左右から伸びてくる鬼の金棒を太刀でいなして、包囲網を突破することに成功した。

 桃太郎は窮地を脱した。クルリと反転して、背後の動物たちに、

「犬、猿、雉よ。危ない所を助けてくれて感謝するぞ。後の始末は、私に任せておいてくれ」

 と言って、反撃の態勢に入った。

 正面からの一対一の戦いになれば、鬼は桃太郎に敵しようはずはなかった。もはや形勢は逆転したと言えた。

 しかし、それでも、やけになって、突っかかってくる諦めの悪い鬼もいた。そいつらは一か八か、無謀にも桃太郎に真っ向勝負を挑んできた。

 鬼は力任せにブンブンと金棒を振り回した。しかし、桃太郎はサッと身をかがめて、鬼の懐に飛び込んだ。

 金棒は桃太郎の頭上をかすめただけで、虚しく空を切って、地面を打った。

 桃太郎は鬼のみぞおちに当て身を食らわした。鬼は、

「うぐっ」

 と叫んで、悶絶して倒れた。

 その後は、一方的な戦いになった。桃太郎は、

(もはや無駄な殺生はすまい。峰打ちでよかろう)

 と思って、太刀を握り直した。

 桃太郎は金棒を掻い潜っては、縦横無尽に駆け回り、鬼の胴やら籠手やらをビシバシと打った。峰打ちだが、それでも骨にヒビぐらい入ったようで、鬼は悲鳴を上げて、地面をゴロゴロとのたうち回った。

 戦うかどうかを決めかねて傍観していた大多数の鬼共も、その惨状を目にして、すぐに戦意を失った。彼らは自ら金棒をガラリと投げ捨て、ヘナヘナと地にひざまずいて、降参の意を表した。

 その場に立っているのは桃太郎一人だけになった。その背後には犬、猿、雉が忠実な家臣のように控えていた。

 戦いは桃太郎の勝利に終わった。

「もはや、この桃太郎に刃向かう者は誰もおるまいな」

 桃太郎は血刀を掲げて、鬼共を見渡した。どの鬼も桃太郎と視線を合わせるのを恐れるように、一言も発せず、その大きな体を縮めて、首を垂れた。


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