93 Side.転移者の一人 ダイチ
──何故、自分以外の他が存在するのだろう…。
何時頃からだったか…、そんな疑問が頭に浮かんだ…。
何故存在するのか…、そして何故こんなにも自分は他の存在が許容できないのか…。
思えば子供の頃から、独りでいるのは苦痛ではなかった…。
人の輪に紛れても何の情動も浮かばない…。
独りになっても何の感慨も湧かない…。
最初にそれに気づいた時は、ただ人見知りなだけだと思っていた…。
しかし時間が経つにつれて…、実は人嫌いなのではと思った…。
だがそれすらも納得するものではなく…、答えが判らぬまま時間だけが過ぎて行った…。
そしてそれを自覚するきっかけになった出来事が三つあった…。
一つ目は、喧嘩で他人を殴って負かした時…。
二つ目は、不意の事故で他人を傷つけてしまって涙ながらに謝罪した時…。
三つ目は、嗤われたことに怒って相手に怪我を負わせてしまい、それを叱られた時…。
事が起こった当時はよく解らなかった…。
喧嘩の時も…、先生に怒られて不機嫌になっただけだと思っていた…。
不意の事故で傷つけてしまった時も…、意図していなかったことだから涙ながらの謝罪だったのだと思ってた…。
嗤った相手に怪我を負わせた時も…、その後大人に叱られた時も…、自分の怒りの原因に見向きもしない奴らに腹を立てていただけだと思っていた…。
でも、違った…。
喧嘩の時の気分の悪さは…、どうでもいい奴のせいでどうでもいい存在から喧しい罵声を浴びることが不愉快だっただけだ…。
涙ながらの謝罪も…、どうでもいい相手に謝罪しなければならない理不尽さが悔しかったからだ…。
嗤った相手に怪我を負わせて叱られた時も…、不愉快な存在を害した事を別の不愉快な存在から五月蠅く喚かれたことに憤ったからだ…。
どれもこれも…、他人の存在に何ら情動が湧いていなかった…。
喧嘩で殴った相手に欠片も罪悪感は湧いていない…。
不意の事故で傷つけた相手にも何ら関心は無い…。
嗤った相手は五月蠅い羽虫を潰した程度の認識だ…、その後叱ってきた相手も同じぐらいに鬱陶しい虫けらだった…。
結局の所…、自分は他人の存在がどうでもいいのだ…。
ニュースでどれだけ死亡事故や殺人事件が騒がれようと…、露ほども感情は動かない…。
紛争地帯でのいざこざや、テロだの戦争だので騒ぎ立てる奴らも…、五月蠅い塵程度の認識だ…。
自分の邪魔しかしない他人の存在など…、今すぐ消えてくれれば清々する程度の塵芥でしかないのだ…。
逆に言えば…、自分の邪魔をしない存在ならば…、許容できるということでもある…。
そんな自分を邪魔しない存在は…、幼馴染しかいなかった…。
両親や兄弟ですら…、日々自分の邪魔をしてやまない…。
そんな自分が唯一安らげるのが…、幼馴染であるリクの隣なのだ…。
故にこれは、信じてもいない神の啓示だと思っている…。
そんなリクと二人で、この異世界に飛ばされたのだから…。
ここでなら…、誰にも邪魔されずに過ごせるのだろうか…。
「ほら、ダイチ! 行くぞ!」
「…あぁ…、分かったよ、リク…」
※時系列が乱れています。




