65 Side.アナスタシア 4
※前回の話と同じ時間軸です。
あれから半月…。
無事に公国内に入ることはできた…。
けれど問題は…、騒ぎにならずに首都にある城まで到達しなければならないということ…。
下手に騒ぎになれば、彼奴に知られる可能性が上がる…。
そうでなくとも、足止めを食らって追っ手に追いつかれる可能性もある…。
けれど今はとりあえず…、身体を休めよう…。
正体を隠しながらの都合上、あまり高い宿に泊まることはできない…。
安い宿の硬い寝具でも…、野宿よりは余程いい…。
身を清めるための風呂も無いが…、湯を貰って布で身体を拭くことにする…。
彼は今、街で情報を集めている…らしい…。
らしい、と言うのは…、彼がそう言っただけで、実際にどうしているかは私も判らないからだ…。
だが今は彼を信用するしかない…。
今の私が頼れるのは彼だけなのだ…。
私の全てを捧げてでも…、国の皆を助け、彼奴を排除してもらわなければならない…。
「お嬢ちゃ~ん! お湯持ってきたよ~!」
扉の外から御婆さんの声がする…。
「はーい! 今開けます!」
扉を開けて御婆さんを招き入れる…。
一人で経営しているらしく、御婆さん以外に従業員は存在しないそうだ…。
御婆さんの抱える桶を貰い、部屋の中に運ぶ…。
「すまないねぇ…、本来なら私が全部やるところなのに…、手伝ってもらっちゃって…」
「いえ…、泊めてもらえるだけ…、ありがたいですから…」
宿に来たばかりの時は、元のドレスも殆ど原形を留めておらず、クロークを羽織っているだけの状態だった…。
そんないかにもな風体でも、御婆さんは事情を聞かずに受け入れてくれた…。
「気にするでないよぉ…。 老い先短い身だが…、人を見る目はあるつもりさ…」
「…ありがとうございます…」
「一人で拭けるかい?」
「大丈夫です…」
流石に御婆さんに、させなくてもいい無理をさせるのは気が咎める…。
城では殆ど女中にやってもらっていたけれど…、自分の身体を濡らしたタオルで拭うぐらいなら…。
「んじゃぁ…、何かあったら何時でも呼んでくれていいからねぇ…」
「…はい…。 重ね重ねありがとうございます…」
御婆さんは軽く会釈をすると、部屋を出て扉を閉めた…。
さて、彼が戻るまでに身体を拭いてしまわないと…。
※ ※ ※
ふぅ…。
拭き終わったし、桶を御婆さんに返さないと…。
『ちょっといいか?』
「うひゃ!?」
いきなり彼が部屋の中に現れた…。
一体どこから…。
って、それより…。
「何処まで行ってたのよ。」
『言ったろ? 情報収集だよ』
「…辺境のここでも情報って集まるものなの…?」
『いや、今は情報を集めてる段階だな…。 明日には隣接する都市の情報程度なら集まるだろ』
「貴方がここに居ても情報は集まるの?」
『現地の動物を使い魔にしたからな…。 目立つ俺らが集めるよりは迅速だし確実だろ』
動物を使い魔にって…。
「私の記憶が正しければ…、使い魔を作るのってすごく煩雑な手順や作業が必要だったと思うのだけれども…。」
『ま、普通はそうだわな…』
「貴方は違うの?」
『俺の場合、使い魔を作るのは寝ながらでも出来ることだ』
「の割には、別行動をとってから結構時間かかってたみたいだけれど…」
『そりゃあ流石に百体近く使い魔を作ってれば、これぐらい時間はかかるさ…』
「ひゃくっ……」
…まぁ彼に関して、深く考えるのはやめておいた方がいいわね…。
これ以降も似たようなことありそうだし…。
「それじゃあ、今日はもう休むの?」
『休んでていいぞ? 護衛用の使い魔は置いてくから、ゆっくり休め』
「貴方は?」
『情報収集だよ』
「使い魔に任せたんじゃ?」
『この街以外をな。 この街は俺自身がやった方が手っ取り早い…。 んじゃ、行ってくる』
そういうと、彼は次の瞬間には姿を消していた…。
「…頼りには…、なるのよねぇ…。」
頼りになる人物なのは間違いない…。
けれど…、あれ程の力を持っているのに、何故自分の力が必要だなどと言ったのだろう…。
そうでなくとも、無理矢理にでも連れて行くことだって出来るはずなのだ…。
何故、後払いの対価だけで協力してくれるのか…。
それだけは、これまでの旅の間でも分からないでいた…。




