47 アグニルの誓い
あの時のことは今でもよく覚えてる…。
あの頃の私は…、本能の赴くままに力を振り翳していた…。
意識はあれども、身体の暴走を止めることはできず…、ただ自分が周りを無差別に燃やしていくのを、ただ呆然と見ていた…。
騎士のような者達が現れ、私を攻撃してきたこともあった…。
恐らくアレは討伐隊か何かだったのだろう…。
無秩序に暴れ回っていれば当然と言えた。
けれど私は…、その騎士達をも残らず燃やし尽くした…。
そうやって周りの何もかもを…、そして向かってくる者達全てを燃やし尽くし…、遂には誰も向かってこなくなった…。
人が沢山住んでいるところを襲撃したこともあったっけ…。
その街の人々も、そこにいた騎士や兵士達も、全てを灰にしても私は止まらなかった…。
精神は擦り切れ、絶望に心を閉ざしていた頃…、目の前に一人の男が現れた…。
長い黒髪を腰あたりまで伸ばし、憐みを宿した漆黒の瞳で、私を見ていた…。
私の身体は形振り構わず彼に襲い掛かった…。
今迄攻撃してきたものにしか反撃しなかった私の身体は、初めて明確な反応を持って攻撃を繰り出した…。
恐らく本能が理解したのだろう…。
目の前の男が、自分よりも強い存在であることを…。
そしてそれは正しかった…。
私の攻撃を避けることも防御することもせずにまともに受けたはずのその男は、火傷どころか塵一つ被っていない、相対した際の姿のままであった…。
私は即座に逃げ出した…。
当然と言えば当然だろう…。
誰だって勝ち目のない相手からは逃げる…。
ダメージを与えられないと解った瞬間に、私の身体は逃走を選んだ…。
そして逃げた先には、先程の男が悠然と待ち構えていた…。
追ってこなかったはずのその男は、私よりも先に私の逃げる先に立ち塞がっていた…。
再び私の身体は彼に攻撃を仕掛けた…。
少しでも隙を作って、その間に逃げる気だったのだろう…。
だがその攻撃を、何らかの力で防がれた時…、私の身体はその場に座り込んでいた…。
ただ見ているだけの自分でも理解できた…。
逃げることも抗うことも、目の前の男に対しては何ら意義がないということが…。
私の身体は、彼から逃げることも、彼に抗うことも辞めたのだ…。
決して敵わないと理解したから……。
目の前の男は、自分よりも強い存在などではなかった…。
自分など比較にすらならぬほどの圧倒的で絶対的な存在であったのだ…。
私は彼の裁定を待った…。
自分など足元にも及ばない力の持ち主である彼にならば…、どのような扱いをされても構わないと思ったから…。
例え命を取られたとしても…、耐え難い辱めを受けたとしても…、彼が相手ならば許容できると、私は受け入れられた…。
そんな私を彼は、契約で縛った…。
これからはその力を、僕のために揮ってもらう…と。
私は歓喜した。
自分を圧倒できる彼の支配下に入れることに…。
もう二度と、この力に振り回されないですむことに…。
そして彼は、私に力を制御する術を与えてくれた…。
彼から分けられた力の一部を受け取った時、私の力は容易く私の制御下になった…。
あれ程までに苦悩し、悲観し、絶望していた自身の大きすぎる力が、あっけないほどに容易く手足のように操れるようになったのだ…。
私は彼に、我が主に絶対の忠誠を誓った…。
この魂魄の全ては、燃え尽きて果てるその時まで、我が主のモノであると…。
私に希望と光を与えてくれた我が主の敵を、一つ残らず燃やし果たすと…。




