3 Side.アグニル
「なんなのですか、あの者達は…!」
何もない暗闇の中で、女は言葉を漏らす。
「折角送り込んだ勇者様を…何故あのような者達に…!」
口惜しそうに、女は言葉を漏らす。
「…まぁいいでしょう…また別の者を送り込めばいいだけのことです。 既にあの者達も世界から姿を消したようですし、再び邪魔をされることもないでしょう……」
気を取り直して、女は言葉を漏らす。
その背後に、絶対的な死が迫っているとは思いもせずに…。
※ ※ ※
渦が消えると、其処は我が主の座する部屋であった。
長い黒髪を流し、目蓋を閉じて玉座に座する我が主の前に膝をつき、頭を垂れる。
「ただいま戻りました、我が主よ……」
「無事に任務を終えました、父上!」
「ただいま~!」
口々に帰還の言葉を、我らが主に告げる。
長い黒髪の女はまだしも、猫耳の女にいたっては変わらず無礼な態度だが、我が主が許している以上私が口を出すわけにもいかない。
『よく戻った…、我が眷属達よ……』
我が主の思念が、我らの脳内に直接言葉を伝える。
『転移者の魂は…、全ての記憶を消去し…、新たに元の世界の命として転生したのを確認した…。 御苦労であった…、我が眷属達よ…』
(我が主は、あのような俗物にすら、滴り足りぬほどの慈悲をお与えになられる…!)
「もったいない御言葉です、我が主よ…!」
「父上のためを思えばこの程度、苦労の内にも入りません!」
「次の仕事はなぁに~?」
我が主の次の御言葉を、頭を垂れて待つ。
『今の所…、お前たちに出てもらうほどの喫緊の問題はない…。 各々暫し休養するがよい……』
我が主の眷属は無数に存在する。
その中でも666の眷属達に名を連ねる私達が出るまでもないということは、今のところ重大な危機は差し迫っていないということか…。
「では我が主よ、暫しの休養、謹んで賜ります……」
「また後ほど、父上……」
「それならグーロ~!造物主様の膝の上を独占しないで~!
任務から帰ったら交代するって約束でしょ~!?」
我が主の膝の上に座る紫の長髪の少女に、シメールが突っかかる。
「…まだ支配者の匂いと温もりを…、堪能しきってない……」
「そんなの私だって同じなのは知ってるでしょ~!?
いいから交代~!もしくは私にも座れる場所をよこせ~!!」
「…なら、私は右側に座るから…、シメールは左側ね……」
「それならよ~し!!」
シメールとグーロが、それぞれの場所に座り、我が主に身体を預ける。
出来ることなら私もあの場所に加わりたいが、我が主の膝の上に座るなど畏れ多い…!
「……とりあえず身を清めるか」
「私もそうするとしよう」
私の言葉に、フィロンも同意するように言葉を続ける。
「では我が主よ、失礼します……」
「後程参りますね、父上」
そうして我らは我が主の部屋から退室する。
さて、風呂場に向かうとするか。
※ ※ ※
其処には、ただの暗闇があった。
誰かがいた様子も無ければ、何かが在った痕跡もない。
ただその場には、存在の痕跡はなくとも、概念の駆動音が存在した。
「…現在も異常なし…」
暗闇に言葉が響く。
それは言葉というよりも、ただの文字列とでも言うべき、無機質な声色だった。
「…現在も異常なし…」
それは女性の声色で、嘗てこの暗闇の空間で、神であったものと同じ声質であった…。
※用語解説:転移者
記憶を携えたまま異なる世界からやってきた者達の総称。
その存在は猛毒に等しく、転移者が騒動を起こす場合は世界の存続を危ぶめるものであることが多い。




