31 Side.ディサイエン帝国の皇帝
「…そうか…、あの馬鹿共は改める気はなしか……」
「はい。 更に多くの艦隊を組織し、向かうようです」
宰相の報告を聞きながら、あまりの愚かしさに頭を抱える…。
彼の者達は、一度目は必ず許しを与えてくれる…。
二度目と三度目も、場合によっては許してくれるだろう…。
だが四度目は絶対にない…。
彼の者達に四度目の無礼を働いて許された者達など、過去に存在しないのだ…。
「一応書簡を送っておけ…。 思い止まるように、な…。 無駄だろうが……」
「放置してもよろしいのではないでしょうか? 所詮最近まで盗賊であった者らの国です」
「あの国の王とその周りの者どもはそうだろう…。 だが民は別だ。 あの国の民は、我が帝国や諸外国で立ち行かなくなり、逃れた難民達なのだ……」
「ではすぐにでも……」
そう言って、秘書の一人が退室する。
(あの頃に比べて、帝国は随分と豊かになった……)
これも彼の者達との取引のおかげだ。
「間違いなくあの馬鹿共は滅ぼされるだろう…。だからその前にあの国の民達を…、特に技術者達を引き入れるのだ。こちらでいつでも受け入れられるように準備しておけ」
「畏まりました……」
あの国の民達には、優秀な技術者が多い。
(そのような技術者を育て上げたところだけは、あの国を褒め称えてもよいだろうな……)
その時、部屋の扉が慌ただしく開け放たれ、事務官が入室してくる。
「ほ、報告します!」
「何事ですか?」
「何かあったか…?」
「フルボルート王国の艦隊が港に集結して出発式典を行っているとの情報が! その数凡そ五千! 目的地は豊穣の大樹で間違いないと思われます!」
(思っていたよりも早いな……)
しかも何処にその数を隠していたのか…。
(まぁ今はいいか……)
「フルボルート王国へ書簡を急いで届けろ! 我が帝国は発生するであろう難民を受け入れる準備を整えるのだ!」
「畏まりました。」
「はっ! ただちに準備します!」
そういって宰相と事務官は退室する。
さて、間違いなくあの馬鹿共の艦隊は全滅するだろう…。
そしてそのまま王国が火の海に沈むはずだ…。
となると、逃れてくる難民達を誘導せねば…。
(いずれにしろ、備えねばならんか……)
「蒼炎の千手を引いた、あの馬鹿共の運が悪かったのだろうな…。」
せめて千変万化の茶猫か紅血鋭爪の金姫ならば、まだ許される可能性もあっただろうに…。
蒼炎の千手、神速の黒曜犬、死刃血涙の銀姫の三人は苛烈で有名だ…。
奴らの前で原初の覇王への暴言を吐いて、無事であった国など存在しない…。
その点では紅血鋭爪の金姫と交渉できた我が帝国は、運が良かったと言える…。
そして今の関係を維持し続けた過去の皇帝達には、惜しみない感謝と敬意を示すほかない。
彼らを危険視するものもいると言うが、それは彼らを知らぬ者らの戯言だ…。
原初の覇王からある言葉を聞き出すことが出来た我が帝国は、彼らとの友好関係を崩さないように努めている…。
原初の覇王は我らの戯れを笑って許す。
だが、世界に危機を及ぼすような真似をすれば許さないと、過去の皇帝は原初の覇王に告げられたそうだ。
「故に我らは、身の丈に合った生き方をすればよいのだ…。 それだけで原初の覇王の庇護があるこの世界で、安穏と生きられるのだから…。」




