30 Side.レイア
「それで、如何いたしましょうか我が主よ……」
『そうだね…。 もし再び来るようなら…、その時はアグニルに任せるよ……』
「ありがとうございます! 我が主よ!」
蒼い髪の少女と御主人様の会話を横で聞く。
御主人様の膝の上に座る紫の髪の少女は、会話に参加せずにクレス殿にその身を預けきっている。
「アグニルにして珍しいな…。 父上に無礼を働いた者を殺さずに見逃すとは……」
「フルボルート国の者達も何故このような真似を…。 情報源である商人の方を通してこちらに交渉に来るほうが余程利益がありそうなものですが……」
「その程度すらも気づけぬ愚か者か…、自分達ならば勝てると思い上がった愚か者か…、あるいはその両方のとんでもない愚か者か…。どちらにしろ愚か者なのは変わらぬな……」
黒髪の少女と白金髪の少女の意見にワシも続く。
眷属となって以降、ワシは快適に過ごしている。
眷属となった時、ワシの持つ魔眼の力が飛躍的に上昇した。
前は相当時間のかかった読心が、今では一瞥するだけで瞬時に読み取れるほどになった…。
遠視の距離と速度も伸び、探視に至っては異なる世界にまで範囲が広がった。
元々厖大だった魔力も、更に増大した。
そしてシメール殿の言った通り、眷属となった時よりこの身を包む多幸感と安堵に、ワシは溺れている…。
あの森にいた頃はずっと不安だった…。 恐ろしかった…。
いつまた迫害され、この身を穢されるか、気が気でなかった…。
だが御主人様の物になったことによって、御主人様によって庇護されていると魂で感じることができる…。
(確かにこれは無理だ……)
自分などよりも遥かに強い者に守られているこの圧倒的多幸感と絶対的安堵に抗うことなど…、できるはずもない…。
(そしてこのような気持ちを与えてくれる者に、全てを捧げようと思わない者などいるはずもない……)
ワシも長く生きてはいるが、それは生まれ持った魔眼に付随する形で持っている厖大な魔力のせいだ…。
そのせいなのか、肉体の成長は6歳の頃から止まってしまっている…。
このような貧相な身体では、殿方が喜ぶことなどできそうにない…。
だからせめて、この魔眼の力を全て、御主人様に捧げよう…。
『レイア…、見れるかい…?』
「少々お待ちくだされ……」
御主人様に言われ、遠視でフルボルート国の城内を覗き見る。
「大体の者は起きておりますな…。 ………その者達の表情や雰囲気を視る限り、どうやらとんでもない愚か者達のようですが……」
「所詮は下賤な盗人の子孫の国というところか…。そのくせ先祖が持ち合わせていた慎重さと目端の良さは欠片も受け継いでいないときた…。 父上、もはや慈悲をかける価値もないと思われます」
「交渉もせずいきなり攻め込んでくる野卑極まる行動、一人だけとはいえ捕虜を無償で返還しにきた使者に対する無礼極まる振る舞い…。主様の御慈悲を蔑ろにして…、許せません!」
フィロン殿が御主人様に注進し、ヘスティア殿は恐らく初めてであろう怒りを露わにする…。
「…支配者…、フルボルート国…、滅ぼしてもいい…? …ちゃんと他の所に…、被害は出さないようにするから……」
静かにしていると思っていたグーロ殿は、どうやら冷静に怒り狂っているようだ…。
「待つのだグーロ。 お前の気持ちはとてもよく解る。 だが今回は私が任されたのだ。 だからグーロの分も、私に任せてはくれぬか?」
そんなグーロ殿を、憤怒しつつも諌めるアグニル殿。
「…じゃあアグニル…、私の分も…、確りお願い…、ね……」
「任されたぞ、グーロ。 用いる蒼炎の手の数を倍にするとしよう……」
どうやらアグニル殿がやることで皆は一致したようだ。
『じゃあアグニル…、彼らが攻めてきたら…、フルボルート王国を滅ぼすのは君に任せるよ…。 ただし、民には被害を出さないようにね……』
「畏まりました、我が主よ……」
こうしてフルボルート国の処遇は決定した。
(さて、では昼餉にするかのう……)
今度は何を食べようか…。
(色んなものがあって迷ってしまうのう……)
※用語解説:魔力
万物に宿る根源的な力の呼称。
霊力、氣、チャクラ等世界によって呼び名は変わる。
総量が多いほど、肉体面や精神面に影響を及ぼしやすい。
また、その者が持つ天性の力の影響を受けやすく、魔力そのものに力が宿ることもある。
因みに最も魔力が厖大なのがクレス(計測不能)、最も魔力が少ないのがグーロ(端数が辛うじて存在する程度)である。




