24 Side.ヘスティア
最初にあの御方の御姿を見た時に私が感じたのは…、視線を逸らせば判らなくなってしまいそうなほどの存在感の無さでした…。
目蓋を閉じ、身動ぎすらせず、まるで存在しないかのように、玉座に座っていました…。
周囲に侍る眷属の方々から滲み出る力の波動を肌で感じていましたから、余計に存在感が無いように思えました…。
それでも尚、あの御方が一番上なのだと、眷属の方々の在り様が示していました…。
「お初にお目にかかります…。 私はヘスティアと申します……」
『ようこそ…。 歓迎するよ…、ヘスティア……』
聞こえてきたのは声ではなく、頭の内に響くような思念の言葉でした。
アリスさん曰く、あの御方は魂魄全てが支配者としての力を有しているそうなのです…。
その視線、言葉、身体の動きや発する音等その全てが…、他の全てを抵抗の余地すらなく支配してしまうほどの力なのだと、アリスさんは言っていました…。
明確に対象を認識して言葉を発するだけで、あの御方にその気はなくとも、その言葉を聞いたものは即座に服従してしまうのだそうです…。
故にあの御方は、眷属以外のものと接する時は、動かず、見ず、言葉を発さないようにし、あの御方が創造したこの世界樹内部で、最も支配の力が弱い思念の言葉でのみ、他者と会話するそうです…。
事前にアリスさんに話を聞いていなければ、私も動揺していたでしょう……。
『ここに来たということは…、心は決まったということなのかな…?』
「はい…。 私を…、貴方様の眷属に加えていただけませんか…?」
『それはつまり…、私の為そうとしていることに協力する…、と言うことでいいんだね…?』
その言葉を受けて、予め決めていた言葉を伝える…。
「はい…。 貴方様の為そうとしていることに…、私も協力させてください…!」
アリスさんから聞いた、この御方の理念…。
「微力ですが…、どうか私にも…お手伝いさせてください…! 主様…!」
※ ※ ※
「やっぱりヘスティアは純粋すぎるわ……」
「へっ? い、いきなりなんですか?フィロンさん?」
主様との出会いを思い返していたところを、フィロンさんの言葉で現実に引き戻された。
(一体なんなのでしょう…?)
「いや、感化されやすすぎるというか、騙されやすそうというか……」
「えっと…?」
「割と簡単に決めちゃったけど、良かったのかってことよ」
それは勿論…。
「はい! 私も…、あの御方の助けになりたいと思いましたから…」
嘗て信仰していた神とは違い、心の底から奉仕したいと…、そう思えたのだ…。
あの御方の助けになれるのならば、身体も、心も、魂も、全てを捧げても構わないと思えるほどに…。
(例えこの想いが、変質したものだとしても……)
「安心していいよ」
「はい?」
「眷属になる前からそう思えたのなら、それは間違いなく貴女の本当の気持ちだから」
「…!はいっ!」
フィロンさんの言葉に、私は隠しきれない喜びと共に言葉を返す。
他の誰かに理解されなくとも構わない…。
この世に生まれて初めて、私は自分の心の想うがままに在ることができているのだから…。
※用語解説:支配の力
クレスが持って生まれた力。
クレスの視線や吐息、声や足音、身体の動きやそれによって起きる風圧にさえも支配の力が宿っている。
常人では姿を見るだけで服従し、クレスに対して親愛の情を抱き、一切逆らうことができなくなる。
クレス自身が力を抑えているため、今現在は目視しただけで服従することは無くなった。
今は玉座の間で力を抑制しながらならば、常人とも会話することが可能。




